ぱろっ
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昔々あるところに、魔物に襲われた村がありました。
その村は国からの兵と、村の勇敢な人々によって退治されました。
しかし、村の誰もがその事を喜ぶことをしなかったといいます。
「ごめんくださーい…」
夜中に大きな扉をゆっくりと開ける少女、ナナがいました。
暗く、人がいそうな気配もない中は不気味で、普通なら入ろうとは思いません。
しかしナナは怯えながらも中に足を踏みいれたのです。
「誰も、いませんよねー?」
彼女の願いにも近い言葉をつぶやいて、静かに中を躓かないように歩きました。手探りで壁を伝いながら見えない世界を必死に首を回します。
しばらく歩くと、パタンと軽い物が落ちる音がしました。
「ヒッ」
何も見えない場所では、何が起きたのか把握することはできません。歩みを止めて息をひそめました。
しかし何も動く様子はなく、ナナは小さく息を吐きます。そしてまた歩を進めると、顔に柔らかい毛布のようなものにぶつかりました。
「え…なにこれ」
ふわふわのそれを手で撫でると少し硬い、しかし癖になりそうな手触りでした。少し夢中になりそうなところに、青い二つの大きな鋭い目がこちらを睨んできたのです。
「きゃーーーー!!」
ナナは叫び、後ろに尻もちをついてしまいました。
二つの目はその生き物の大きさを表すように高く、高く持ち上がります。じっとナナから視線を外しません。
「や、やめて、助けて…」
恐怖で動けない彼女の声がむなしく響きます。
ナナの目の前が急に明るくなりました。
「おい、早く出ていけ」
「ひぃっ!」
目が慣れてくるとナナの足元に火のともった燭台がありました。青い目の何かは彼女を襲うということもなく、振り返ったのか目が見えなくなり、重い足音を鳴らしていきました。
「…」
息を整え、足に力を取り戻した彼女は燭台を握ります。
「…だ、だめ…帰れない…」
あろうことか、また中を探索しはじめたのです。
その動きと声を聴いていたのか、青い目の何かがまた振り向いて近づいてきました。
「帰れ」
「ひっ」
「帰れ!」
蝋燭の明かりの外から吠えるような声にナナは腰を抜かしそうになりますが、震えながらも引き返そうとはしませんでした。
「あ、あの、邪魔はしませんっ!探し物が見つかれば帰ります!だ、だから、少しだけ…」
「駄目だ。これ以上踏み入るなら食いちぎるぞ」
「…お願いです、ほんの少しでいいので」
「いいから出ていけ!」
「私の!私の腕や足でいいなら差し上げます!探し物が見つかった後なら命だっていりません!お願いします!」
唸る声に負けぬ声で叫びました。
彼女はそこまでして何かを見つけたいようです。そのナナの声と言葉に、すぐにでも襲い掛かりそうな青い目は、獣のような喉の鳴りを止めました。
「…なら、監視させてもらう」
「え…」
「不審な動きをしたら、すぐにでも食い殺す」
「…」
「嫌なら帰れ」
「い、いえ、それでいいです!」
青い二つの目ににらまれながら、ナナは返事をしました。
何者かの許しを得た彼女は、蝋燭の明かりを頼りに、中を探索し始めました。
彼女が入った建物は、大きな屋敷でした。
そのため広く、部屋が多く、一晩で全てを見るのは不可能です。それでもナナは一つ一つ丁寧に見ていきます。
後ろの大きな足音と圧迫に手汗が止まりません。
「あ、あの、この部屋は」
「そこは駄目だ」
「は、はいっ!」
鍵がかかった部屋は入れてもらえず、開いている場所だけを探します。時間が経ったのか、屋敷がうっすらと明るくなってきました。
「…もう終わりだ」
「え?」
「朝がくる、帰れ」
「そ、そんなこと一言もっ」
「さっさと帰れ!二度と来るな!」
まだ探し切れていない場所が山ほどありましたが、青い目は彼女の言葉等構わず、乱暴に掴み、ナナが入ってきた扉から放り投げるように追い出しました。
「いたっ!」
ナナの悲鳴も無視して扉は固く閉まってしまいました。
「…まだよ!」
そんなことをされても、ナナは諦めていないのか汚れを掃って立ち上がり、一度家へと戻りました。
その日の夜の事です。
ナナは屋敷の扉を強く叩きました。
「…おじゃまします!」
今度は自分で蝋燭を持ち込み、返事のない屋敷へと入ります。
すると昨日とは違い、青い目がすぐにナナを睨みつけていました。
「来るなと言ったはずだぞ」
「まだ全部探せてません」
「駄目だ帰れ」
「お願いします!どうしてもこの中を全部探したいんです!」
「…」
恐怖に怯えますが、ナナは昨日と変わって青い目と会話をしました。おそらく背の高い相手は低く唸ります。
「これを見ても、ここで探すのか?」
青い目の何かが、蝋燭の明かりに近づきます。先に見えたのは人ではない足と、簡単に引き裂いてしまいそうな大きな爪を持った手。
そして青い目をした巨大な獣の顔が姿を現したのです。その口でナナを飲み込めそうなほど大きく、するどい牙をもっていました。
ナナは驚き、足を数歩後ずさります。
「…それでいい、二度と来るな」
「…っいいえ探します!」
「何?」
「あなたの屋敷に勝手に入ったのは私、あなたの言葉を無視したのも私!どんなことをされても文句は言いません!」
「お前」
「私は何をされてもいい!でも、この中に見つけたい物があるんです!それがわかるまでどうか見逃してください!」
「何を言ってるのかわかってんのか?!」
「わかってます!都合のいい事だって!でも私にはもうここしかないんです!」
誰もが逃げ出すような、恐ろしい獣を目の前にしても、彼女には譲れない何かがありました。
どれだけ獣が脅そうが、爪や牙を強調しようが、ナナは逃げも隠れもしませんでした。ただまっすぐに青い目を見ていたのです。
「…」
「…」
「…なら、気が済むまで探せ」
「ありがとうございます!」
「ただし、条件がある」
「な、なんでしょうか」
「見つかるまでこの屋敷から出るな。探し終わったらすぐに出て行って二度とここに来るな。それだけだ」
「そ、でも、」
「守れないなら今すぐに追い出す。お前の村を襲ってもいいんだぞ」
村の関係のない人たちを人質に取られてしまいました。
こうなってはナナも頷かざるを得ません。
「わ、わかりましたっ居ます!だから村を襲うのは」
「それでいい」
「ま、まって!あのっ」
獣は彼女の承認を得て、すぐに立ち去ってしまいました。
彼女の静止も聞かずに暗闇に消えてしまったのです。ナナは恐ろしいと同時に、獣の存在が気になりました。
しかし、彼女の目的はそこではありません。気を取り直して、再び屋敷の中を探索しはじめたのです。
探しているうちに、再び朝がやってきました。
蝋燭のいらない屋敷を見るのは初めてです。ナナは火を消して見渡しました。
中はとても綺麗に整理されています。生活感がない、とも受け取れます。
「綺麗なとこだったんだ…」
朝日に照らされた屋敷の中を見て、安心感が襲ってきました。
ナナはいくつかの部屋の中にソファがあったことを思い出し、そこに向かいます。
少しだけ埃っぽいソファにたどり着くと、そこに座り、ゆっくりと目をつぶってしまいました。
次に目が覚めた場所は、先ほどとは別の場所でした。
「…えっ!?どこ⁉」
柔らかい広いベッドに寝かされていたのです。
普段使うベッドとは違う、装飾されたものは、あきらかに高いものだとわかりました。
ナナは急いでベッドから降りて、部屋の中を一見します。
どれもこれも綺麗な装飾と上品な作りであり、触れることもはばかられるものばかりでした。
「…と、とりあえずここから出なきゃ」
またしても上品な扉の取っ手を掴み、扉を開けました。
外は廊下になっており、上品な装飾と調度品が並べられています。ナナは部屋を出て、廊下を歩きます。
「あれ…ここ二階だったんだ…」
廊下の端につくと、彼女がやってきた屋敷の二階であることがわかりました。下の広い空間は自分が必死に探し物をしていた場所だったのです。
そもそも暗闇の中でしか探していなかったので、二階があったことすらナナは気づいていませんでした。
「でも、誰が運んだんだろ…まさかあの化け物が…?!」
そう思いましたが、首を振って否定しました。あんなやつが私によくしてくれるわけがないと考えていたのです。
ナナはすぐに一階への階段を降りてすぐさま探索の続きを始めます。明るい屋敷は、夜と違って輝き、豪華な場所であることがわかります。
「えっと、次はここかな…」
がらりと変わった景色は、探した場所も別の物に見えてしまいます。
記憶を頼りにまだ知らない部屋に入り探し始めます。
すると重く激しい足音が近づいてきました。
「おい!!どこだ!」
「ひゃあ!!」
「あ…」
吠えるような声と乱暴に開かれた扉の音に、ナナは驚いて転んでしまいました。音の主は青い目を持つ獣です。
「なっなっ…あなた!」
「…ここにいたのか」
「お、大きい…」
ナナを見た獣は落ち着いた声に戻ります。ナナは昼間に見る相手に驚いて呆然としてしまいました。
二足歩行の獣は固そうな柔らかそうな黒と白の毛並みを持ち、三角の耳がピンと頭に二つ立っています。
「勝手にいなくなるな」
「勝手…?まさかあなたが私を運んだんですか…?」
「ほかに誰がいる」
「そ、そう、ですね」
なんと、この獣がナナを運んでくれていたのです。
何故そんなことをしたのかは全くわかりません。
「でも、なんで私を探して…」
「…朝食、まだだろ」
「え」
「さっきの部屋にある、気が向いたら食え」
「え、え、ちょっと!」
獣はそれだけ言うとナナの前からいなくなってしまいました。彼女は相手の言葉を不思議に思いながらも、一度部屋に戻ります。
部屋の中のテーブルに、言う通り料理が準備してありました。簡単なスープとパン、それから水がありました。
「…も、もったいないもんね!」
確かにご飯を食べていなかったナナはお腹の虫を気にして、誰に言うわけでもない言い訳を述べて、その朝食に手をつけました。
「…あれ、美味しい」
少しだけ冷めたスープは意外と美味しく、なにより丁寧に調理されていることに驚きました。
まさかあの大きな獣が作ったのか?いやいや、でもここには私とあの化け物しかいない。
ナナは悩みながらも食べる手を止めません。
「これ、どこかで食べた味…」
食べれば食べるほど、どこかで食べたような味だと思いました。
それがどこだったのかまではわかりません。
あっという間に食べ終えた彼女は、食器を片付けようとそれをもって扉から出ます。
「しまった。キッチンなんて知らない…探そう!」
まだ見つけたことがないキッチンを探しはじめました。
二階から一階に降り、まだ行ったことがない場所を探し始めます。着飾られた廊下や部屋を探し、やっとキッチンを見つけることができました。
中にはまた大きな獣が立っていました。
ナナは深呼吸を一つします。
「あのっ!」
「…」
「あのー!」
「…」
「聞こえてますか⁉」
「聞こえてる、叫ぶな五月蠅い」
「な、あなたが返事をしないからでしょう!」
彼女の方を見ずに、獣は返事をしました。ナナは少し腹立ち、言い返します。しかしこんなことをしたらと、口を押えました。
「…何の用だ。さっさと探し物をしていろ」
「え、えっと…食器を…」
「…」
「その、片付けようと…思って…」
「置いておけ」
「えっ」
「そこに置いておけ。それで早く探しに行け」
口ごたえとして怒られるかと思いましたが、獣は特に何もするでもなく食器を置けと言いました。
ナナは襲われないことに安堵しながらも、獣の行動に対して恐怖を薄れさせていきます。確かに大きくて恐ろしい見た目をしていますが、行動が悪人には見えなかったのです。
「…いえ、私が食器を洗います」
「あ?」
「ヒッ」
「黙って探し物を終わらせろ」
「そ、それは、そうですけど…でも、あなたにも感謝はしないと!」
「はぁ?」
獣はやっとナナに視線を向けました。
「だってご飯作ってくれて、寝る場所まで運んでくれて」
「その辺で野垂れ死にされたら片付けが面倒だろ」
「で、でもあなたには関係ないことじゃないですか!」
「…」
「わざわざそんなことするなんて…だから、ありがとうございます!これも洗います!」
「…好きにしろ」
ナナの言葉と姿勢に諦めたのでしょうか。獣は離れて代わりにキッチンから出ようとします。
「あ、あの!」
「…」
「あなたの名前を聞いてもいいですか!」
「知ってどうする」
「まだ探し物は見つからないし、暫くお世話になるのに、名前を知らないのは、その、不便でしょ?」
「…ミドナ」
「え?」
「ミドナだ」
「ミドナ、ミドナさん!私はナナです!」
獣、ミドナは返事をせずにそのまま出て行ってしまいました。それでもナナはよかったのです。彼女は食器を洗い終えると、すぐに探索に戻りました。
お昼になれば、また知らぬ間に部屋に昼食が置かれていました。ナナは感謝をしながら食べて、またキッチンに洗いにいき、ミドナとすれ違います。彼女の声に返事をしませんでした。
食器を洗い終え、再び探索へと戻ります。そのような日々を数日続け、やっと一階の探索が終わったのです。
しかしナナは全く喜びませんでした。むしろ悲しみが強くなったのです。
「…まだ二階が残ってる!しっかりしなきゃ」
夜に気合を入れて、二階の探索を始めます。蝋燭に火をつけて扉を開けると、目の前にミドナが立っていました。
「こっこんばんは!」
「…」
「あの、何か御用ですか?」
「…これ」
ミドナは彼女の目の前に鍵のついた輪を差し出します。
「えっと…」
「屋敷の鍵だ。入れないところに入れる」
「え!?」
「じゃあな」
「まっまってください!」
用事が済んだミドナをナナは引き留めます。
「あの、その、私と話をしませんか!」
「はぁ?」
ミドナは振り向きました。探し物が目的なはずなのに、何故自分と話すのか。ミドナは不思議ではりませんでした。
「私、ミドナさんを勘違いしてた気がしてて。こうやって私の探しものに協力してくれるし…」
「早く出て行ってほしいだけだ」
「そうだとしても、私はミドナさんのこと、ちゃんと理解したいんです!」
「…理解してどうする?俺の為に何かするのか?哀れみで慰めるのか?」
「いえっそんなことは、ただ、」
「俺に構う暇があるならさっさと探して帰れ」
「ミドナさん!」
彼女の声を無視してミドナは暗闇の中に消えていきました。ナナは無理に受け取った鍵を握りしめ、深呼吸をしました。
「ミドナさん!話してください!」
「しつこいな!」
「話をしてくれるまで私追いかけます!」
「はあ⁉探し物はどうした!」
「それもします!でもミドナさんも追いかけます!」
「時間の無駄だ!早くどっかいけのろま女!」
「はー⁉あったまきた!意地でもミドナさんと会話してやる!」
ミドナの暴言と態度に、とうとうプツンと切れたナナは、ミドナと会話をするという目的が追加されたのです。
夜の中ではミドナのほうが動けるようで逃げられてしまいました。
しかし昼なら話は別です。
「いた!ミドナさん!」
「また来たっ」
「ミドナさんって植物育てるんですね!」
「…」
「ちょっと!」
屋敷を探索し、暮らし始めたナナは屋敷のどこになにがあるのかを把握するようになりました。
おかげで昼間ならミドナを見つけることは容易です。
「ミドナさん昼食作るなら私も手伝います!」
「いらん」
「お礼にはならないけど一緒に作れば終わるのも早いですよ!」
「じゃあ勝手に作ってろ」
「ミドナさん!」
彼女に見つかればミドナはそそくさと逃げる。そういった構図が出来上がっていました。しつこいナナもそうですが、それを振り切るミドナもなかなかのものです。
「ミドナさん!」
「はぁー…お前さぁ」
「話します?」
「なんの目的でここにいるのか覚えてんのか?」
「はい!探し物をしにきました!」
「見つからないなら出ていけ」
「まだ探してない部屋はあります!それにミドナさんともちゃんと話せてません」
ミドナは、本当にどうしてここまで話したがるのか不思議でした。
なので、一つ質問をしたのです。
「どうして俺を理解しようとする」
「…」
「俺と友達にでもなる気か?化け物の俺と人間が?」
「…あなたが、ミドナさんがどうしても探している人に似てたから」
「…は」
ナナの言葉にミドナは固まりました。
「私の探し物は、人なんです。もう何年も前にいなくなりました。村のみんなも私も諦めてたけど、あの人の持ち物がこの屋敷の近くにあったから…」
「…」
「もしかしたらって、この中に何かあるんじゃないかって…ミドナさん、お聞きします。リンクという男性をご存じありませんか!」
「…」
ナナの探し物とは、一人の男性でした。
切実な彼女の願う声は小さく震え、瞳も揺れています。ミドナは青い目を大きくさせてナナを見つめました。
「どんなことでもいいんです。ちょっとくすんだ金髪で、あなたと同じ青い目をしてて、同じ青いピアスをつけてて…つけて…」
「知らない」
「えっ」
「そんな奴は知らない。見たこともない。何年も前に居なくなったならもう死んでるだろ」
「そんな…」
リンクという男性の耳にも、ミドナの三角の耳にも青い輪っかのピアスがついていました。そんな偶然はあるのでしょうか。ミドナは彼女の言葉を遮って否定しました。
もう死んでいる。
その言葉が希望をもっていたナナの胸に突き刺さります。
「お前の言うリンクとやらはここにいない。これではっきりしたな?もうこの屋敷に居る理由はない。さっさと帰れ」
「ま、まだ探してない部屋が」
「いいから帰れ!二度とここに来るな!次こそはその頭かみ砕くぞ!」
唸る低い声でそう言いました。
呆然と立ち尽くすナナを睨み、ミドナはその場を去っていきます。彼女は涙が一つこぼれました。
その日ナナは屋敷を出ようとはせず、借りた部屋に引きこもりました。
「…そんなこと、あるのかな」
暗い夜の部屋の中で、ナナは考えていました。
そして覚悟を決めたのか部屋を出ました。暗い室内を歩きまわります。部屋を一つ一つあけていきます。
「…ミドナさん」
「まだいたのか」
探していた部屋を見つけたのか、ナナは中に入ります。
「早く出ていけ」
「あなたは、リンクじゃないの?」
ミドナはまた固まりました。
「同じピアスを付けてるなんて、そんなのあり得ないもの」
「気のせいだ」
「気のせいじゃない、青い目だってそんな多くいるわけじゃない」
「偶然だ」
「ご飯の味だって、あなたが作る味だって思い出した。誤魔化す時もそうやって突っ返してた!村に魔物が来た時だって、私を、置いて…」
「…」
ナナは震える手を押えます。
ミドナはゆっくりと近寄り、初めて彼女と視線を合わせるように体をかがませます。
「…」
「ナナ、頼む、黙ってここから出ていくんだ。俺の事は気にするな」
「…」
初めてミドナから、リンクから名前を呼ばれました。
ナナから小さな光が落ちていきます。それからすぐにリンクの体を抱きしめました。
「リンク…リンク…!よかった、生きてくれてた…!」
「悪い」
「ううん、もういいよ…いいよ」
「でも、俺はまだやることがあるから」
リンクは両腕を持ち上げましたが、彼女の背中に回すことはしませんでした。彼女の肩に片手を置いて離そうとします。
ナナは首を横に振ってそれを拒否しました。
「頼むナナ」
「嫌、嫌よ…」
「悪いな、最後まで」
離れないナナを無理やり離します。
「ミドナ、ナナを頼むよ」
「え?」
「はー、ったく仕方ねえな」
彼がミドナと呼ぶと、リンクの影から小さな黒い小人が現れました。
どうやらこの小人こそが本物のミドナのようです。
「最後までオマエには仕事してもらわないといけないし…」
「えっあのっえ⁉」
「よう、コイツにはやってもらわないといけないことがある。悪いけどオマエは帰ってもらうぜ」
「待ってください!話がよくわかりません!リンク!」
リンクは窓を開けて、そこから飛び出しました。
ミドナはオレンジの髪のような手を使い、ナナを握ります。
「きゃっ!」
「行くぞ」
「ちょっと!」
屋敷の扉の外まで運ばれました。
しかし目の前には異様な光景が広がっていたのです。
「なっシャドウがきてるじゃねーか!」
「魔物⁉」
「あのいぬっころ!あとで仕置きだ!おい屋敷に戻るぞ!」
「えっ!」
連れてこられたかと思えば、すぐに引き返すことになりました。
ミドナはシャドウと呼んだ魔物をはじき返します。ナナはわからないまま、屋敷に戻り扉を閉めました。
「あのっ今のは!」
「無事か!」
「おせーぞ!何やってんだ!」
「量が多い!光の雫の場所がバレたんじゃねーか⁉」
「なっ!まだ最後の一個が見つかってねえのに!」
外に飛び出していたリンクが先ほどの魔物を退治したようです。扉を開けてナナにはわからない会話をミドナとします。
「俺が止める!ミドナはナナと雫もって逃げろ!」
「…オイナナいくぞ!」
「まって!リンクが」
「今は無理だ!早くこい!」
留まるナナを無理やり連れて、ミドナは屋敷の上へと昇りはじめます。リンクは液体がこぼれるような黒い魔物たちを相手にしはじめました。
屋敷の上へと昇ります。探索したと思っていた彼女ですが、まだ見ていない場所があったことに驚きました。
「ハァッ…ハァッ…」
「はやくしろ!」
「まって、わたし…もう…」
「あぁもうこれだから人間ってやつは嫌なんだ!!」
階段の途中で息切れをしてナナは立ち止まってしまいました。
ミドナは腹立たしそうに見つめます。
「オイ急げ!もう来たぞ!」
階段の下から、先ほどの魔物が這ってきました。それを見ればナナも体に鞭を打って駆け上がります。
やっと頂上の扉を見つけ、ミドナは乱暴に入りました。
「あれだ!あれ持て!」
「…っは…ぇ、なに…」
「いいから持て!アタシじゃ持てないんだよ!」
酸素が足りないナナは言われるがまま、その光る物を手に取ります。
すると、光は激しくなりました。
「えっ」
「なんだ急に!うわっ無理だ!」
光の球体が何個も嵌ったそれは一つ一つが強く輝きます。ミドナは耐えられないのか、ナナの影の中に入ってしまいました。
彼女の胸から、一つの光が飛び出ました。
「っあ、まってそれは!」
光は空いていた最後の球体部分になり、さらに輝きを増します。ナナも目が開けていられず、目をつむりました。
どれくらいたったでしょうか。眩しくなくなったと思い、目を開けます。
「…?なにが…あの、ミドナさん?」
魔物の足音はしません。
変わらない静かな夜の音だけです。
ナナは恐る恐る階段を降りていきます。どこにも魔物はいません。一体どうしてしまったのでしょうか。
「…リンク!」
二階まで降りました。そして下に倒れこむリンクを見つけ、走り出します。
ナナが頭を抱えて起こします。
「リンク!起きて!!ねぇ起きて!」
魔物との戦いで、彼の体は傷と血液で汚れ酷い状態でした。
「お願い起きて!ねぇ!嫌よ、また会えたのに、嫌…」
それでもリンクは起きません。
耳元でどれだけ叫ぼうとも、顔を撫でようとも、リンクは目を覚ましません。
「いや、いや…」
汚れた毛並みに、透明な涙が混ざります。
ぽたりぽたりと彼の頭や頬に落ちて弾いていきました。
「…ぅ」
「リンク!?」
「…」
返事をしなかったリンクが、ゆっくりと目を開けました。
「…ナナ…ぶじか」
「私よりリンクのことよ!こんな、こんなに怪我してっ…」
「おれは、いーんだよ」
「よくないよぉ…もう、あなたは、いつもそうやって」
「ナナ、もう、むらにもどれ」
「…何言ってるのよ、リンクも帰るの!」
「もうひとじゃないから、いいんだ」
「なら、なら私もここにいる!リンクが帰らないなら…私」
獣の姿のリンクは、とても人に受け入れてもらえません。彼はそれをわかっているのでしょう。
「ばかいってない、でっ…かえれって」
「いや!あなたの傍がいい…好きな人の、傍がいいの…」
「ナナ…」
「イイところ悪いんだけど。オマエ人に戻れるぞ」
「え!?」
ナナの影に隠れたミドナが、少しだけ申し訳なさそうに顔を出しました。
「ナナ、さっきの光の雫もってるか?」
「え、こ、これですか?」
「それ。コイツに持たせてみろ」
それだけ言って、再び影に戻ります。
ナナは言われた通り、リンクに光の雫を握らせました。
するとまた激しく輝き、リンクを包みます。
「…リンク?」
「まぶし…なんだよこれ」
光が段々なくなると、そこにいたのは獣の姿ではなく、数年前にナナが見送った人の姿でした。
「ナナ?どうし…ん?あれ、俺」
「り、リンク…うぅ…!」
「うおっ!」
またナナは涙をこぼしました。そして勢いよく、リンクを抱きしめたのです。もちろん彼女を支える力がまだないリンクは倒れてしまいました。
「よかったっ!本当に…」
「な、なんで俺…」
「ワタシの言葉忘れただろう?」
「ミドナ!いって…」
「や、やだごめんリンク!」
人に戻っても怪我はそのままです。ナナは慌ててリンクを起こします。現れたミドナは笑って続けます。
「最初に契約したとき、雫が戻れば戻るって言ったのになぁ。かっこつけて帰れなんて言ってさぁ…」
「ば、おまっ…それは!」
「帰らせようと必死で化け物のフリをするコイツは滑稽だったぜ?一人になった途端落ち込んでよ!」
「やめろ!言うな!っいて!」
「えと、あの、どういうことですか?一体なにが…」
状況を理解できないナナに、ミドナが簡単に説明を始めました。
ミドナは影の世界の姫君で、謀反を起こした臣下を捕らえたはいいものの、影の魔物がこの世界に溢れ出してしまったようです。
その魔物とは彼らの村を襲ったやつらでした。
リンクは魔物を討伐し、一人おとりになってほかの村人を逃がしました。その時に自体を治めようとしたミドナと出会ったそうです。
「影の魔物を完全に倒すには影の力を使うしかない。ちょうどよさそうなコイツにその力を貸したってわけだ」
「じゃああの姿は、その力のせい…」
「その時にちゃーんと戻るって言ったのにコイツ」
「だから!それはもういいだろ!」
影の魔物があふれたのは、この光の雫が失われたことにありました。そのため、リンクは魔物を討伐しつつ、光の雫を集めることになったのです。
「じゃあ、もう魔物が襲ってくることはないんですね?」
「あぁ。その雫が直ったからな」
「よかった…」
「その最後の雫、どこにあったんだ?」
「…」
リンクの質問を聞いたミドナが急に不機嫌な顔になりました。
一体どうしたのでしょうか。
ミドナはオレンジの手をナナの服に入れます。
「んなっ!」
「これだよ!」
「え…リンクに渡したお守り…」
手にあったのはナナがリンクと別れた時に渡したお守りのペンダントでした。
「これが!!最後だったんだよ!!」
「え!」
「オマエがなくしたりしなきゃこんな大変な目に合わなかったのに…!」
「いや、そんなんわかるわけねえだろ!」
「うるさい!ナナに感謝しろこのバカ犬!」
「いってええー!」
そのあと、怪我をしたリンクを、ナナがなんとか村へと連れて帰り、村人たちは行方不明になっていた二人を見て、驚きと喜びでにぎわいました。
リンクは療養生活になりました。ナナは小さな怪我の手当をされ、すぐにリンクのお世話を始めました。
「もう俺一人で食えるって!」
「何言ってんのよ!最近骨がくっついたばかりじゃない!」
「スプーンくらいは持てるわ!」
「そういってこの前ペン落としたでしょ!」
怪我も治りかけてきたリンクは、甲斐甲斐しくお世話をするナナから抜け出そうとしていました。
改めて女性から食べさせてもらうという行為に恥ずかしさを覚えたのです。
「ほら口あけて」
「いいって」
「口ごたえするのはちゃんとペンを持てるようになってからにして!」
「もご」
彼の抗議もむなしく、口にご飯が詰め込まれます。
もぐもぐと大人しく口を動かして飲み込みました。
「ナナにも悪いから…」
「好きでやってるの、だからいいのよ!」
「だからってな」
「言ったじゃない、私好きな人の傍がいいの」
「…その、好きって言うのは…れ、恋愛の意味でか?」
「…」
「…」
リンクはナナにあえてそう聞きました。
彼女は言葉にされたことで、顔を赤くしてしまいました。
「そ、そうって言ったら…?」
「…う、嬉しいなって…思う」
「…」
「…あぁもう!俺も好きだよ!結婚したいくらいに!」
「けっけっこん⁉」
「なんだよ!悪いか⁉」
「わる、そんな急にっ」
「急に言ったのはそっちだろ!」
何とも言えない空気に耐えられなかったようです。
リンクはヤケになりながらナナに本音をうちあけました。彼女はそんな先まで考えていなかったのか顔をさらに真っ赤にしてしまいました。
「で!どうなんだ!?結婚前提に付き合ってくれんのか!?」
「や、あの、そ、うぅ…」
「…え、あ、いや、泣くなよ…」
彼女の目から涙が落ちました。
「ごめん、怖かったか?」
「ちが…うぅー…う、うれしいの…」
「…じゃあ」
「こ、これからっよろしくお願いします…」
「こっちこそ」
泣いているナナの頭を抱き寄せて、肩の服に涙を拭わせました。
「ナナ、元気になったらミドナに会いにいこう」
「うん…」
「それから、俺の家に引っ越してこいよ」
「うん…」
「…ナナ、キスしていい?」
「うん……え!?」
驚いて顔を上げたナナを逃がさないように、すぐにキスをしました。
「…ずるい」
「いいだろ、これからたくさんするんだし」
「もうちょっと、ロマンチックな時がよかった…」
「わがままだな」
リンクは笑いながら、またナナにキスをしました。
それから二人は無事に怪我も治り、幸せに暮らしたそうです。
めでたしめでたし。
野獣と愛を