ぱろっ
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それは人魚が恋を叶えた後の話です。
待っていたゼルダ様が濡れた二人を見て安堵し涙を流してしまいます。
「なかないで、ひめさま」
聞いたことがない彼女の声で、余計に涙が落ちてしまいました。
部屋で濡れた二人を乾かしながら、ゼルダ様はリンクの話を聞きました。ナナはしばらく休暇と言い渡されました。
「ごめんなさい、すぐうごけなくて」
「今は自分のことを大事にしてください」
「ゆっくりでいいから、無理しないで」
ゼルダ様はリンクの態度の変化に気づいて、小さく笑いました。
それ以来、リンクとゼルダ様は毎日ナナのお見舞いに、お世話をしに来るようになりました。
そんなある日のことです。
「ナナ、今日の調子はどう?」
リンクが彼女の部屋に入った時の事です。
体が少しだけ動くようになったナナは軽い物なら掴めるようになっていました。
しかし、ベッドから体を起こしていたナナの服は濡れていたのです。床にはコップが転がっていました。
「あ、あのね、リンク、だいじょ」
すぐに理解をしたリンクは己の身体能力を存分に活かし、すぐにナナを抱きしめました。
「リンク、だいじょうぶ、だいじょうぶ」
強く抱擁してくるリンクの背中を、ナナは声をかけながら小さく撫でました。
どうしてナナはリンクを安心させるような言葉を使うのでしょうか。それはこの抱擁が、喜びや愛を伝えるものではないからでした。
「ハァ…はぁ…っはぁ…」
「だいじょうぶ、わたしここにいるよ」
彼は呼吸が荒く、汗が流れていました。必死な顔でナナを抱きしめていたのです。それをナナはわかっていました。
「リンク、リンク」
「…っは…ぁ……ごめん…」
「ごめんなさい、わたししっぱいしちゃったから」
「ううん。ナナは悪くないよ。冷たくない?」
「へいき」
やっとお互いの顔を見れるほどに離れました。
「はぁー…いい加減慣れていかないとな…」
「きゅうには、むずかしいってひめさまもいってたよ」
「でも、これじゃナナに迷惑かけたままになる」
「ちょっとずつ、なれていこう?だいじょうぶ。まえより、おちつくのがはやいよ」
「うん…」
不安そうなリンクをナナ笑って頭を撫でてあげました。
彼女が水にぬれることを、リンクは極端に怖がりました。彼女が泡になって消えてしまうことを恐れていたのです。
ナナはもう人魚ではありませんし、濡れても消えることはありません。
リンクもそれを理解しています。それでも、彼は怖かったのです。
「リンクが、こわくなくなるまで、わたしいっぱいだいじょうぶって、いからね」
「うん、ありがとう」
「いいの、リンクにも、ひめさまにも、みんなにおれいがしたいの」
「お礼されることしてないよ」
「いっぱいしてくれたよ」
たくさん笑うナナの顔と、優しい言葉でリンクはやっと表情が和らぎました。普段は表情が乏しいように見える彼ですが、実際はとても豊かな年相応な騎士です。
ゼルダさまからそのことを言われて、彼は初めて気づいたのでした。
「着替える?」
「こぼれただけだから、だいじょうぶ」
「水飲もうとしたの?」
「うん、もてるっておもったの、だめだった…」
「そっか。…ちなみに水どれくらいいれたの?」
「いっぱい」
表情が和らいだリンクはまた少し険しい顔になりました。
「ナナ、コップ一杯に、いっぱい注いだんだね?」
「うん」
「コップ持てるようになったの最近なんだから、水をたくさん入れて持てるわけないだろう」
「…ごめんなさい」
今度はナナがしょんぼりと落ち込んでしまいました。
まだまだ体をうまく動かせない彼女には水の入ったコップは重かったようです。
リンクは落ちたコップを拾って、水差しを確認しました。中にはまだ入っているようです。
「新しいのもってくるから」
「ありがとう」
「ほかに欲しいのある?」
「だいじょうぶ」
ナナがうなづいたのを確認して、リンクはコップをもって一度部屋を出ていきました。
新しいコップ、先ほどよりも小さめのコップとついでにもらってしまったクッキーを持って帰ってきました。
「ナナ、もってきたよ」
「ありがとう!」
リンクが扉を開ける前に、扉が開きました。
ナナが開けて迎えてくれたのです。
「…ナナ!?」
「えへ、せいこうした」
「成功!?なにが!?いやっまず中に!」
毎日お見舞いに来ているリンクは、ナナが立って扉を開けている姿を見たことがありませんでした。その彼女が今自らの手で行っていたのです。
大変驚いたリンクは持っていたものを落としそうになりました。
「ひめさまとひみつにしてたの」
「ゼルダ姫と?」
「うん」
ゆっくりと、おぼつかない足取りが心配になり、彼はナナの体に腕を回して支えました。それから彼女の進み具合に合わせてゆっくりとベッドに向かいます。
たどりついて、またナナをそっとベッドに座らせました。
「リンクがいないときに、ひめさまとれんしゅうしてた」
「歩くのを?」
「うん、わたしがあるきたいっていったの」
「…じゃあ足にも力が戻ってきたんだね」
「うん!いたくなくてふしぎ!」
「痛くない?」
足に問題があったのかと思い、リンクは尋ねました。
すると彼女はまたとんでもないことを言うのです。
「いままで、あるいてるとき、いたくてしかたなかったの」
「まって、まって」
「りくのひとは、こんなにたいへんなんだって」
「ちが、まってナナ」
「なあに?」
「今までって、人間になってからずっと痛かったってこと?」
「うん」
リンクは両手で顔を覆ってしまいました。本当に彼はナナと関わることで感情を表に出すようになったようです。
「それ、ゼルダ姫にも言った?」
「いった」
「そしたら?」
「ないてた」
「だろうね」
まさかずっと足が痛いなんて思ってもなかったのです。だって彼女は常に笑顔で、ゼルダ様の世話を、リンクの手伝いをしていました。
その中で足の痛みに耐えていたなどと、考えられないのです。
「なんで早く言ってくれなかったんだ!」
「こえ、なかった」
「態度で示すとか、あっただろ!」
「みんないたいっておもってた」
「そんなわけないだろぉー!」
人間への理解度の差でしょうか。ナナは足が痛いのが当たり前だと思っていたようです。
リンクは泣きそうになりました。
「あぁもう…察せなかった過去の俺が憎い…」
「ひめさまも、おなじこといってた」
「だろうねあの人はそういう人だからっ」
「だいじょうぶだよ、いまいたくないから」
「そうじゃないんだよ…!」
ナナの前に片膝をついて悔しそうな顔を隠さずに彼女に言います。
「好きな人の変化に気づけないのが嫌なんだ」
「リンクもひめさまも、わるくない」
「悪いの話じゃないよ。俺が嫌なだけ」
「でも…」
「それと同時に、ナナがもっと好きになった」
片膝から隣に座り、ナナの体を支えるように抱きしめました。
強く、優しい暖かさと言葉に彼女はぽっぽと頬を赤くします。
「人魚が恋のために陸にくるって、それだけ大変で本気なんでしょ?」
「そうなのかな」
「俺はそう思うよ」
自分の故郷を置いて、体も変えて、新しい足の痛みに耐えて恋をした人の元に行くこと。なんてひどく強い覚悟でしょうか。
その恋が必ず叶う保証なんてどこにもありません。日記にあったように泡になって消えることだってあるのです。
それでも、それでもなお、彼女は恋を選んだのです。
「俺に、会いにきてくれてありがとう」
「…あのね、ほんとうは、あえただけでよかったの」
「恋を叶えたかったんじゃないの?」
「さいしょはね、リンクとおはなしして、わたしをみてくれただけで、しあわせだった」
「そのためだけに、泡になってもいいって?」
「うん、あわになっても、あなたがみてくれるうみなら、かまわなかった」
「かまう。ダメ。ほんっとにもうそんなこと思わないで」
強い抱擁がさらに強くなりました。
「でも、リンクとすごしてたら、こいがかなってほしくなったの。わたしをすきになってくれたらって」
「うん」
「わたし、わがままになっちゃった」
「…わがままじゃないよ。それはきっと当たり前のことだ」
ナナに恋をしていたリンクにはわかりました。
彼女が自分を選んでほしいと、何度も何度も願っていたのですから。
「俺が告白したとき言ったの覚えてる?」
「…あんまり」
「それはそれでちょっと…わかったもう一回言うね」
腕の力をすこしだけゆるめて、ナナと視線を合わせます。
「俺はナナが好きだよ。ほかの誰かを想っていたとしても、俺はあなたが好きなんだ」
「…」
「だから、俺を選んで。他の誰よりもナナを好きな自信があるよ」
鼻先が触れそうなほどの距離で、じっと彼女を見つめました。ナナの赤い頬が、ゆるむ瞳がよく見えます。
「わたしがこいをしたひとは、リンクだけ。リンクしかいないの」
「…」
「すきなひとは、リンクだけなの」
「…ふふっ」
彼女の言葉に、リンクは笑い、額をくっつけました。彼女の温度が暖かく心地よいと感じました。おそらく彼も彼女と同じように顔が熱いのでしょう。
「ナナ、もうキスしてもいい?」
「え」
「ナナが言ったんだよ?キスは自分の体が動くようになってからがいいって」
「…いっ…てない」
「言った。ぎゅっとできるからそっちがいいって」
彼女はもごもごと言葉を濁して視線をずらしました。これは覚えているようです。その様子がいじらしく、リンクはすぐにキスしたい衝動をぐっと我慢します。
「ねぇ、もういいんじゃない?」
「うぅ…き、きんちょう、で、むねがいたい」
「俺も」
ゆっくりと唇が合わさりました。重ねるだけの優しいものでしたが、今はそれだけで幸せでした。
数分にも満たない口づけはそっと離れて、また視線を交わらせます。
「大丈夫?」
「わかん、ないっ」
「ちょっとずつ、慣れていこうか」
慣れてもらわないと、この先もきっと大変だろうし。
という言葉をリンクは飲み込んで、ナナをまた優しく抱きしめました。
もう消えない人魚