ぱろっ
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昔々あるところに一人の王と娘の姫が治める平和な国がありました。
「ナナ、今日は海辺の調査です。あなたも共にきてください」
一国の姫であるゼルダ様は、姫というには少しだけお転婆でした。
そして彼女に声をかけられたのは、黒髪を御団子にまとめたメイドでした。
ナナと呼ばれたメイドは、笑顔で頷いて返事をします。
「では行きましょう!……リンク」
「…」
元気よくゼルダ様は自室の扉を開けました。
すると目の前に無表情の綺麗な顔の男性が立っていました。
彼の名はリンク。姫専属の騎士です。
「今日は、洞窟に入りません!」
「…そう言って昨日も入りましたね」
「あ、あれは何かナナの記憶に関係するかと思って…」
「古代の遺物をもって帰ってきましたね」
無表情なのにとても呆れたように聞き取れました。
ゼルダ様は根っからの科学者思考だったのです。じっとしてお淑やかに暮らすというのが苦手でした。
「同行させていただきます」
「いいです!彼女もいるのです!見えるところだけです!」
「いけません。国王からの命令です」
「お父様…!」
父親でもある国王も、彼女に手を焼いているようです。傍に控えているナナはそのやりとりを笑顔で見つめています。
そのメイドをリンクはじっと見ていました。
「…」
「見すぎですよ」
「すみません…」
何故見られたのかナナにはわかりませんでした。
三人は城から離れた海辺を歩きます。
砂浜には嵐でうちあがった船の破片や残骸が所々にありましたが、それを片付ける人々の姿もありました。
リンクが先頭を歩き、ゼルダ様は後ろに、ナナはカゴを持ち、日傘をゼルダ様に当てて少し後ろを歩きます。
「この辺りもずいぶん片付きましたね」
ゼルダ様がつぶやきます。
従者である二人は返事を返しませんが、彼女は気にしませんでした。
それはいつものことなのです。
「でも、ナナに繋がりそうな物が出てきたという報告は受けていません…何か思い出したことはありませんか?」
ゼルダ様はナナに尋ねます。
彼女は首を横に振るだけでした。
「そう、ですよね。すぐに思い出せるものではありません。私、何か新しい物が見つかってないか聞いてきます!」
「それなら私が」
「いいえ!私が行きます!リンクもナナもここで待機です!」
そういうわけにはいきません。
一国の姫を守るのが彼の役目なのです。素直に頷けるはずがありません。
しかしゼルダ様はリンクに何かひそひそと耳打ちをしました。二人が離れるとリンクは頬を赤くして、小さく頷きます。
ゼルダ様は笑顔で走っていきました。
「…」
「…」
結局従者二人はその場に残されてしまいました。
頬が赤いリンクを見たナナは、そっと日傘を掲げます。
「…いえ、大丈夫です」
日傘をそっとナナの傘を持つ手に触れて戻しました。ナナも頬を少し赤らめて小さくおじぎをしました。
「…あの……いえ、その…」
二人の間に流れる沈黙をリンクが破ります。
でも、なんだか言葉がでないようです。
「記憶と、声が戻るといいですね」
彼の言葉を聞いたナナは小さく頷きました。
ナナは記憶も声もなかったのです。
彼女はある日、海辺で倒れているのをリンクとゼルダ様が見つけました。
声も出せず、何もわからない彼女の唯一の手掛かりは、首に下がった装飾が細かくされた金のペンダントだけでした。
その見事な出来にゼルダ様は、彼女はどこかの国のお姫様なのではないだろうかと考えました。
すぐにお城に迎え入れ、国王と相談をして、ナナはゼルダ様の専属のメイドとしてお城に仕えることになったのです。
「…傘を持ちましょう」
あれからしばらくたちますが、彼女のことは全くわかりません。それでも懸命に二人は手掛かりを探しているのです。
「ならばそちらのカゴを」
先ほどからリンクはナナの荷物を持とうとしています。
しかし彼女は首を横に振りました。
騎士が手を塞いでどうするのでしょうか。彼は少しだけ肩を落としました。
「ナナ!リンク!進展しましたか⁉」
「…」
「リンクあなたって人は…」
ゼルダ様が戻ってきました。何やら二人だけがわかる会話をしています。
会話に混ざれないナナはとても悲しそうな顔をしていましたが、誰も気づくことはありませんでした。
「そうです!今あなたの手掛かりになりそうな物が見つかりました!」
そうゼルダ様は言うと掌から、ナナのペンダントと同じ形のものを見せてくれました。
「もしかしたらあの嵐に巻きこまれた可能性がありますね」
「嵐?」
「ほら、リンクが魔物に海に落とされた時です。その時は海に魔物が出ていると報告を受けて、貴方を筆頭に調査と討伐を行いました。運悪く嵐に見舞われて、貴方が海に落とされたと…」
「あの時の…」
「ナナも、その時別の船に乗っていたのかもしれません」
二人はナナを見ました。
彼女は驚いたような、おびえたような表情でゼルダの掌にある物を見ていました。
「ナナ?」
名前を呼ばれて、すぐに首を横に振り、笑って頷きました。
明らかに彼女は何かを思い出している。
二人はそう考えましたが、本人の表情を見て深く掘り下げることはやめたのです。
思わぬ収穫が出来たことにゼルダ様は大喜びです。
彼女はこの装飾の施された物を頼りに、書庫で国を特定しようと息巻いています。
「明日からは書庫で調べます。手伝ってくださいね!」
「はい」
彼女の言葉にリンクは返事を、ナナはお辞儀をしました。
「では明日、おやすみなさい」
ゼルダ様は自室の扉を閉めました。
本当ならメイドのナナも中に入って彼女の就寝までの手伝いをするはずなのですが、今回は何故か追い出されてしまいました。
「…送ります」
一言ナナに伝えます。彼女は小さく笑ってお辞儀をしました。ナナの歩幅に合わせるように歩いていきます。
「嵐の日、私は海に落ちました」
外の音しか聞こえない道の中で、リンクが話を始めました。
「荒れた海では流石にうまく泳げず、息もできません。でも私は誰かに助けられた」
「…」
「朧げだったので顔は覚えていませんが…あなたも、その人に助けられたのかもしれません」
励ましなのか、慰めなのかわからない言葉でしたが、リンクがナナを心配していることはわかりました。
二人はナナの部屋にたどり着きました。
「…それではまた明日」
彼女は笑顔でお辞儀をし、部屋の中に入っていきます。
ナナが部屋に入るのを見送って、リンクは深く息を吐いて道を引き返します。
その歩みは自分の宿舎ではなく、仕えるゼルダ姫の元でした。
「…うまくいきましたか?」
「…」
「もう!」
リンクの無表情だけど読み取れる落胆の感情に、ゼルダ様はぽこぽことお怒りでした。
「いい加減にしてください!」
ゆっくりと、誰かが歩いていました。
しかし声が聞こえ、その歩みを止めました。
「何度も私は言っていますよ!」
「申し訳ありません…」
ゼルダ様はリンクにお怒りです。
「貴方は昔からそうです。立場もありますが、それはそれです!」
「いえ、そういうわけには」
「またそうやって!私がなんとかすると言っているではありませんか!」
「しかし…」
「別の殿方と一緒になってもいいんですね⁉」
「そ、それは困ります!」
「ならばすぐに好きだと言ってください!今すぐ!」
「いや…」
言葉をつづけようとして、誰かの気配を感じました。
すぐに臨戦態勢になったリンクを見て、ゼルダ様もすぐに身構えます。
「…誰が」
「見てきます。中へ」
彼の言う通りゼルダ様は部屋の中へ戻り、リンクはなるべく気配を殺しながら近寄りました。
しかし、どれだけ歩いても誰も見当たりません。
見逃したのか、それとも気のせいだったのか。今は危険性はないと判断し、ゼルダ様の部屋まで戻っていきました。
「ナナ!どうしたのですか⁉」
翌日、ゼルダ様の支度の手伝いに来たナナを見て驚きの声をあげました。
彼女の目は赤く、瞼も腫れていたのです。
「昨夜何かあったのですか?!まさか、リンクが…!」
ゼルダ様の言葉に必死に首を横に振ります。
なんでもないよ、と笑っていますが、どう見ても泣きはらした顔です。
「…今日は休んでください。そんな状態のナナを私は無理に連れたくありません」
「…」
戸惑い、悩んだ後にナナは深くお辞儀をしました。
ゼルダ様の言葉に了承したようです。扉に向かって歩を進め、扉を開けました。
目の前に、いつものようにリンクが立っていました。
彼はナナの顔を見て、いつもの無表情を少し崩してしまいました。
「ナナっその顔は」
彼の言葉を最後まで聞かずに足早に去っていきました。
思わず後を追いかけようとしましたが、それをゼルダ様が止めました。
「今は一人に」
「しかしっ」
「もしかしたら、昨日記憶を思い出して、泣いてしまったのかもしれません」
その言葉にリンクは落ち着きを取り戻して、彼女が居なくなった先を見つめます。
「家族を、あの嵐で失ったのかもしれません。だとしたら、今はそっとしておいたほうが、良いかと…」
「…」
「今日は、調べるのを中止しましょう。ナナから何か話してくれるかもしれません」
「…わかりました」
リンクは手を強く握っていました。
苦い空気が残るまま、夜になりました。
静かなお城の中をリンクは足早に歩いていました。とても焦ったような、覚悟を決めたような顔です。
向かった先はナナの部屋でした。
「…ナナ、いますか」
扉を開けずに中に問いかけます。
でも返事はありません。
「ナナ」
先ほどより大きな声で呼びます。
それでも返事は聞こえません。
「…ナナ?」
いくら待っても、何度呼びかけても、返事が返ってこないのです。
扉を開けてくることも、ノックで返事をしてくれることもありません。他の兵やメイドに尋ねた所、外で見かけたという話は聞きませんでした。ナナは部屋にいるはずなのです。
おかしいとリンクは思いました。いくらなんでも反応がなさすぎると。
「ナナ、もし近くにいたら離れていてください!」
彼は距離を取り、勢いよく扉に向かって体当たりをしました。
それを2,3度繰り返し、ようやく扉が開きます。
中を見渡してもナナの姿はありません。しかし窓が開いていました。
急いで窓の下を見ましたが、彼女の姿はありません。
彼女の部屋は飛び降りても死ぬことはありませんが、怪我をしないというのは難しい高さです。
リンクは急いで同じく窓から飛び降り、ナナの行く場所を目指して走ります。
ナナは海辺に立っていました。手に短い何かを握っています。
月明りが海を照らし、静かに輝いています。
「ナナ!」
走ってきたリンクが叫びます。
彼はわかっていました。彼女がここに行くことを。
つい先ほど知ったのです。
ナナは驚いて、手にしていた何か、短剣をリンクに向けました。
来るなと、拒絶をするように震えながら向けています。
「ナナ…私の話を聞いてください」
首を横に振り答えます。
リンクはゆっくりと慎重に近づいていきます。
「とりあえず、今は戻って。短剣を構えたままでいい…それ以上海に入らないでください」
この言葉でナナは涙を流してしまいました。
すべてを知ってしまったのです。
彼はナナが何者であるのかを、知ってしまったのです。
彼女は手にしていた短剣を、落としてしまいました。
「ナナ!」
彼女はまっすぐ海に入りました。リンクは必死で追いかけ、海に入っていきます。
ある程度の深さまでナナは泳ぎ、とうとう頭も沈めてしまいました。
追いかけたリンクも一緒に潜ってナナを探します。浮かぶことなく、彼女はどんどん沈んでいきました。
彼はナナの手を掴み、急いで浮上します。
「ナナ!ナナ!」
彼女は気を失っていて返事をしません。
それだけならよかったのですが、彼女の肌が透けてきていたのです。
「駄目だ、駄目だ駄目だ!いなくなるな!」
まるで海に溶けるようにナナはどんどんなくなっていきます。
リンクはなくさぬよう、必死に抱き留めます。
「お願いだから行かないで、まだ言えてないことがあるのに」
抱きしめていたはずの体が、ありませんでした。
もうナナのほとんどは透けて形しかわかりません。
「ナナが好きだよ。好きなんだ。君が、別の人を想っていたとしても…」
ばしゃりと、最後のナナが溶けました。
もう彼の腕の中には彼女が着ていた服しかありません。
「いくな、いくなよ…」
溶けた彼女を追いかけて、もう一度深く潜ります。
けれど、どれだけ潜ってもナナはいません。光のない海がどこまでも広がっていました。
深く潜った彼は、息が続かず、とうとう意識を失いました。
あぁ、彼女が溶けた海の中なら悪くない。
海が満ちて引いていく音がします。
鳥が鳴く声が聞こえます。
体がゆらゆらと動く感覚があります。
「…あれ」
日の光が重い体と目を照らしました。
リンクは砂浜に倒れていたのです。波に流されてうちあがったのでしょうか。
「…どうして」
手を動かし、感覚があることを確認します。
しかし起き上がろうとは思いませんでした。
今の彼は、すべてがどうでもよかったのです。だってもう彼女はいないのですから。
「ナナ…ごめん、助けてあげられなくて…」
「へいき」
小さな、聞いたことがない声をリンクは聞きました。
「なかないで」
間違いありません。幻聴ではなく、はっきりと聞こえます。
リンクは声が聞こえたほうに顔を向けました。信じられない光景でした。
ナナが隣で一緒に倒れていたのです。しっかりとリンクを見て、声をかけていたのです。
「ナナ…?なん、で…」
「まにあったみたい」
彼は勢いよく起き上がり、ナナを急いで抱き起しました。
顔に張り付いた長い髪を丁寧に払います。その髪は、以前のような真っ黒ではなく真っ白に変わっていました。
「生きてる…?」
「いるよ、わたし、いきてる」
「…あぁ、そっか…よかった」
ナナの重さを、体温を、形を確かめるようにリンクは抱きしめます。
あの時溶けた彼女が嘘のようでした。
「本当によかった…!」
「ありがとう、りんく」
初めて聞く彼女の声がとても心地よいと感じました。
「わたしのこと、にんぎょだってしったの、いつ?」
「君が休んだ時だよ。ゼルダ姫はどうしてもそのペンダントを知りたくて調べたら、一冊だけ載ってる本があったんだ」
「にっき、だったかな」
「うん、誰かの騎士だった人の日記だったみたい。その人は相手を泡にしてしまったみたいだったよ。知ってた?」
「きいたこと、あったの」
「そっか…」
ナナは人魚だったのです。
そんな彼女が何故陸にいるのか。それはとても単純で、素敵なものでした。
「ナナも、好きな人を追いかけてきたの?」
「うん、わたしのこい。どうしてもあいたかったの」
「会えた?」
「あえたよ、はなしもたくさんして、やさしくしてもらったの」
ずっと抱きしめているため、お互いの顔は見えません。
でもリンクは顔を少し曇らせていました。
「…好きな人が居るナナに言うのは、ひどいことだと思うけど。俺はナナが好き。ずっと好きだったんだ」
「うん」
「わかってても諦めれないんだ」
「…ねえ、もしかして、にっきのさいごまで、しらない?」
「最後?」
ナナの言葉に、リンクはゆっくりと離れて視線を合わせます。
くったりと力の入っていないナナはリンクの体に寄りかかってしまいます。
「こいがかなうと、あわにならないの」
「うん…ん?」
そこでリンクは首をかしげます。
彼女はあの時確かに泡、というより溶けていなくなっていました。それが恋が叶うと泡にならないとはどういうことでしょうか。
あの時、彼はなんと言ったでしょうか。
「……え、あの」
思い出して、つじつまを合わせていくと、リンクは顔を赤くしてナナを見つめました。
彼女はくすくすと、同じように頬を染めて笑っています。
「それ、本当?」
「ほんとう、だからわたし、いきてるのよ」
「…ナナ、大好き、好き。愛してる。結婚を前提に付き合って」
「ふふ、へへ…わたしもりんくのことだいすき」
きっとナナにとってこれ以上幸せなことはないでしょう。それくらいふやけた笑顔でリンクの言葉を受け入れていました。
彼も同じく、笑って彼女の言葉を受け止めていました。
「ゼルダ様に報告しないとね」
「はなしかた、だいぶくずれてるよ」
「ちゃんと戻すよ。立てそう?」
「ごめんなさい、ちからはいらないの、あわになっちゃったからかな」
「いいよ。俺が運ぶから…あとしばらく泡の話はしないで…」
しっかりとナナを横抱きにして自分に寄りかからせます。
「あのさ」
「うん」
「キスしていい?」
「…わたしがうごけるように、なってからがいい」
「なんで?」
「そしたら、ぎゅって、できるから」
「……わかった」
その後二人は城に戻り、ゼルダ様に報告をしました。
ナナは歩けるようになり、無事に結婚をしたそうです。
めでたしめでたし。
泡にならなかった人魚
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