幸
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「おおかみさんまたなー!」
「気を付けるんだぞー!」
緑の青年を見送ったおおかみさんは材料を確認していた。
「ふむ、きっしゅは売り切れだな。別の料理の下準備をしないと…あと何があったか」
綺麗に料理がなくなるのは嬉しいことだが、何もないと料理提供に時間がかかってしまうため、なるべくなら下処理は早めに済ませておきたいのだ。
「おおかみさんの文字、読めないのか…」
メニューがないわけではないのだが、壁にかかった文字はどうやら読めないようだ。
少し残念がりながら先ほどまで座っていた客のテーブルを拭いた。
「え」
「む」
カウンターに戻ろうとしたときに扉が開いた。
そこにいたのは数時間前にいた護衛のリンクであった。
「早すぎる!なんだどうした!?」
「いや、俺の部屋だったはず…」
「そなたもしかしてめちゃくちゃ悩みがあるのか!?」
来た本人はあまり気にしてなさそうだが、店の来店理由が理由なだけにおおかみさんは大慌てである。
「二人して何をそんな抱えているんだ!もー!」
「えちょっ」
おおかみさんはリンクを無理やり中に入れて豊満なたぷんたぷんを惜しげもなくリンクに押し付けて抱きしめながら頭を撫でた。
「よしよし大人の重圧か?こんな子供なのに大変な世の中なんだなぁ…いっぱい泣いてご飯食べていくんだぞ!」
「…!」
身長的にリンクの顔はたぷんたぷんに埋まってしまう。彼は必死に抜け出そうとするが、包まれているという安心感が強すぎて無理に剥がすこともできず、うまく動けないようだ。
「何か食べていくだろう!?おおかみさんなんでも作るからな!」
「っぷはぁ!…ハァ…」
「む、顔が赤いな。大丈夫か?」
「だ、だい、じょぶ」
真っ赤になった彼は必死に頭を振って、その場から離れてカウンターに少し荒っぽく座った。
「そうか!ところで何が食べたいんだ?何か注文はあるか?」
「いえ、その前に料金の支払いを」
「お金はいらない。おおかみさんは感謝してもらえればいいんだ」
「…何をふざけたことを言っているんですか」
「本心だぞ。お金をもらってもおおかみさんは使えない。それよりもお気持ちがいいんだ」
「…」
彼女の言葉に、リンクは訝し気な顔で見ていた。そんなお人よしな事があるわけがないのだ。店を営む以上、対価が必須である。それをお気持ちと言われればそういう反応にもなるだろう。
「ご飯を食べて、美味しい、幸せと思ってもらうだけでいい」
「…」
「まぁ、人魚の古銭とか、小判ならまだ使いようがあるが…」
「なんですそれ」
「気にするな。で、何を食べる!?」
「…じゃあ、昼間のキッシュを一つ」
「あっすまん売り切れてしまったんだ!」
「…」
「うぅー!何でも作ると言っておきながらこの体たらく!おおかみさんは駄目なおおかみさんだ!」
おおかみさんは落ち込んで自慢の耳と尻尾をだらんと下げてしまった。リンクはキッシュがないことも残念だが、それよりも気になることを言葉にする。
「あなたはどこの種族ですか」
「む?」
「頭に獣の耳と尻尾なんて、俺は見たことがありません」
「おおかみさんはおおかみだから、あるのは当然だぞ…」
「それだけじゃない、その耳は本当に見える物なんですか」
リンクの言葉に、垂れていたおおかみさんの耳が立ち上がる。
「ハイラルの種族全てを見てきましたが、狼はいても獣の耳と尻尾があるハイリア人に近い種族なんて知りません。ゼルダ様がそこに反応しないわけがない。なのに何もなかった。あなたは一体誰ですか?」
「…そうか、そうだな…リンク、飯はたくさん食べるほうか?」
「話をそらさないでください」
「話すぞ。だが、作りながらでいいか?」
「…」
無言を肯定をとらえ、おおかみさんは料理に取り掛かった。
人参、玉ねぎ、にんにくを取り出し、フライパンを火にかける。
「おおかみさんの隈取も、耳も尻尾も、信じる者にしか見えない」
「信じる者?」
玉ねぎと人参をみじん切りにし、熱したフライパンに油をしいて炒めはじめる。裏手からひき肉をもってきて、野菜にある程度火が通ったら肉も入れていく。
「神や、精霊の類を信じる心、あるいは特別な力のある者のことだ。見えるお客ばかりで、すっかり忘れていたな」
「…」
「ゼルダは、力がないばかりにおおかみさんを見ることができなかったのだろう」
「…」
ある程度火が通ると、ケチャップ、ソース、にんにくをすりおろして入れてさらに混ぜ炒めていく。
「何故、ゼルダ様にあんなことを言ったんですか」
「む?質問のことか?悪い事をしたな。だが、あの子に自分の意志がないように見えたのだ」
「意志?あの方は自ら決めたはずですが」
「そう見えるか」
さらに調味料で味を調整し、火を止める。
そしてキッシュに使った型を取り出して、また生地を敷き詰めて穴をあけていく。
「国の姫や男児は、その国と家を継ぐため、周りからこうせねばならぬと言われ続けるもの。それが悪いとは言わない」
「…」
「だがな、リンク。言われ続けたことを行う事が、自分の意志であるのだろうか」
「…どういうことですか」
生地に炒めた具を入れて、なるべく満遍なく平らに、隅々まで具を敷き詰める。その上からさらに薄く伸ばした生地をかぶせて蓋をし、余った生地を切り取っていく。
「周りの言葉をうのみにしているだけでは、自分の意志はないように思うのだ。周りの言葉から自分の気持ちと折り合いをつけ、初めて自分の意志と言えると思う」
「…」
「あの子は他人の言葉で動いているだけに見える。だから、本当に本心なのか知りたかった」
「…」
おおかみさんは裏手に行き、焼き上げの作業に入った。だが、すぐに表に戻り、リンクの質問に答えようとしている。
「国の責務は重々承知だ。自分の意志がないも同然の時もある。だが、あの子の力が目覚めないのは、そこにあるんだ」
「…」
「リンク、これはそなたにも言えることだぞ」
「…え」
急な飛び火に彼は驚いた。
「そなたも国に仕える者。であれば己の意志等ほぼないに等しい」
「…」
「だが、そなたとあの子の違いは、そなたは期待以上の結果を出してしまうことだ」
「それの何が悪いんですか」
「言ったはずだ。期待に応えられる人は稀である。故にそなたは期待を裏切らぬよう、己を殺してしまっている」
リンクは、一瞬だけ目をそらした。
「…見たこともないでしょう。あなたは。俺のことなんて」
「見なくてもわかる。おおかみさんはわかるぞ」
「…」
「そもそも、その年で感情が動かないほうが変な話だ。他の者たちのほうがよっぽど子供みたいだぞ」
「知りませんよ」
「それはそうだ。だがリンクよ。期待に応え続けるにも限界はある。己を殺して、己の限界を見誤ってはいけないよ」
「…」
「リンク。その剣を背負った覚悟は、そなたの本心か?」
細い、高い音が響いた。
「うむ!出来たようだな」
「…」
先ほどの空気等なかったようにおおかみさんは裏手に回って、焼きたての物をもってきた。
型から取り出して、ザクザクと音を出しながら一切れお皿にのせた。
「ほれ、みーとぱいができたぞ!」
「…」
焼きたて特有の焦げの匂いと、肉と野菜の甘い香りが白い湯気と共に彼の鼻孔をくすぐった。自然と目が釘付けになり、喉が鳴る。
「さぁ話は一度忘れて、みーとぱいを楽しむといいぞ!おかわりもあるからな!」
「…」
あんな会話の後に切り替えることなんかできるものか、と思うが、リンクは切り替わって、出されたフォークを突き刺して一口サイズにする。
フォークに乗せたミートパイは、火の通った肉と野菜がトマトソースで色づいている。持ち上げれば少しこぼれるが、みっちりと詰まった中身は食べ応えがありそうだ。
息をふきかけて、少しだけ冷まし、口に含む。
「…うま」
昼間口にしなかった言葉を言って、夢中で食べはじめた。
肉の重厚な味と、トマトソースの甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。たまにある野菜の甘みと触感で噛めば噛むほどに味が広がり、味がほぼない生地が濃い味を拭うように緩和する。
「ほれおかわりだぞ!」
「…何もいってませんけど…」
「見てればわかるぞ!そんなに美味しそうに食べてもらえておおかみさんは嬉しい!」
「…」
恥ずかしいのか、頬を染めて少し咳払いをした。
だが、ミートパイを断ることなく、次々に口に含んでいく。食べても食べても飽きぬ味は麻薬かなにかと思うほどだ。
彼の食欲からなのか、ミートパイは1ホールリンクのお腹の中に納まってしまった。
「…」
「うむうむ!綺麗に食べてもらえて嬉しいぞ!」
「…その、昼間のキッシュもとても美味しかったです」
「そうか!」
おおかみさんは嬉しさで尻尾を遠慮なく振った。
「素直に言える子はよい子だぞ!リンクは良い子だな!」
「ちょっ」
遠慮なくリンクの頭を撫でる。彼は抵抗しようとするが、おおかみさんの眼差しと手の暖かさが心地よく安心できてしまい、またうまく動けずになすがままになっていた。
しばらく撫でられ、おおかみさんは満足したのか手を離した。リンクは少しそれが残念だと思った。
「…あの」
「なんだ?」
「剣を抜いたのも、騎士になったのも俺の意志です」
「…」
「目指すきっかけは周りの言葉だったけれど。それでもその道を選んだのは俺自身です。だから、大丈夫です」
「…そうか」
リンクの言葉におおかみさんは何も言わずにそれだけ言った。
その顔が少しだけ寂しそうだったのは、今の彼にはわからなかっただろう。
「では、これで失礼します」
「うむ!また来るといいぞ!」
「はい」
リンクはお辞儀をして扉から出て行った。
顔に似合わず、多くの感謝と幸せを感じたようで、おおかみさんにたくさんの幸玉が贈られた。
「うぉぉ…良い子すぎるぞ…」