幸
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それは少しだけ前の話。
おおかみさんはいつも通り、手に入った食材の料理の下処理をしている最中だった。
「少し多いか?まぁいいか!あの子たちはたくさん食べるからな!」
あっけらかんと笑って二種類の白い粉をふるって大きなボウルに入れていく。その時扉が少々乱暴に空いた。
「あなたはいつも…えっ!?」
「!」
「むおっお客か!」
扉から髪の長い少女と髪を結った少年が入ってきた。少女は中を見ると驚き、少年はすぐに少女の前に出て手を背中に回した。
「落ち着きなさい。初めての子だな?」
「こ、ここは」
「そのまま後ろに」
「これこれ、飲食店で暴力沙汰はよくないぞ!」
「動くな」
「む、話を聞いてくれそうにない…」
少年の睨みや言葉に臆することなく、おおかみさんは作業を止めて二人の前まで堂々と歩いてきた。
「混乱するのはわかるがいきなり武器はいかんぞ」
「…!?」
少年の背中に回った手、背負っていた剣の柄に手を置いていた。その手にまっすぐおおかみさんは手を伸ばして抜くことを遮ったのだ。
応戦しようと少年が鞘から抜こうとするがビクともしない。
「護衛がいるならばそちらの方は大層な身分と見受ける」
「わ、私はハイラル王が娘ゼルダです!リンク!警戒を解いてください!」
「むぅ?」
少女、ゼルダの言葉におおかみさんは首を傾げた。
はて、そんな名前の青年と少女を何人か見たんだが…これは何の因果であろうか。
ゼルダの言葉に、リンクは柄から手を離した。しかし警戒を解くことはしない。
「先ほど飲食店と言いましたが、ここは私の部屋のはずで…」
「おぉそうだったのか!それは混乱して仕方ないな!説明するから中に入りなさい」
「はぁ…」
「…」
二人は恐る恐る中に入った。
店内は見たことのない赤い明かりと木製の机と椅子がいくつも置いてある。家具や置物は埃がなく、床も新品のように色が強く明かりに照らされている。清潔が保たれたこの空間は、初めてみる光景なのに不思議と暖かさを感じ、肩の緊張が緩む。
「座ってくれ、立ち話は大変だろうからな」
「ありがとうございます…リンク、いりません自分で座ります」
「…」
「ほれ、水だ。そこのリンクが先に飲め」
「え?」
「毒があってはいかんだろ?」
「そっそんなことは!」
ゼルダはリンクの手を断り、椅子を引いて座った。それから座る様子のない彼にゼルダは座れと命令して、やっと座った。
その後、おおかみさんの言葉にゼルダは慌てたが、リンクは水を受け取ってごくりと飲む。
「…おいし」
「リンク?」
「いえ、大丈夫です」
「うむ!では遠慮なく飲むといいぞ!」
おおかみさんは水の入ったピッチャーをまたカラになったリンクのコップに入れて、そのままゼルダに差し出すコップにも水も入れる。
「改めて、ここはおおかみさんが営む飯屋、タカマガハラだ」
「たか、ま、がはら?」
「そうだ!悩み苦しむ人々の前だけに現れる飯屋だ。おおかみさんのぱわーでそういうふうになっている」
「そういう魔法なんですか?」
「まほー?いやおおかみさんのぱわーだからまほーではないぞ?」
「な、ならばどうやってこんな広い店内を移動させているのですか!?まさか私たちの知らない技術が使われているのですか⁉」
「おぉこのゼルダはなんとも食いつきがすごい!」
食いつく部分が少々変わっているように感じるが、とりあえず落ち着かせてまた座ってもらう。
「技術と言われてもおおかみさんの力だから真似ができるものではないぞ」
「そ、そうですか…すみません急に」
「よいよい!元気なことはいいことだ!だが…ここに来たということは何か悩みがあるということ」
「悩み…」
「まぁここは飯屋、考えるのは一度止めて何かを食べるといいぞ!何がいい?」
「…そういわれても」
悩みという言葉で顔が暗くなったゼルダに、リンクは視線を移していた。おおかみさんはその状況に気まずくすることもなく、話をつづける。
「ならばこちらで作ろう!リンク」
「?」
「おおかみさんの手元が見えるように中にはいっていいぞ」
「えっ!」
「…わかりました」
「り、リンク!」
普段入れない厨房側にリンクを迎え入れ、慌てるゼルダをよそにおおかみさんは止めていた作業を再開する。
白い粉をふるい終われば、黄色いバターを取り出して包丁で小さく四角に切っていく。
その間もじっとリンクは視線をそらさない。
「あ、あの、私そんな疑ってなどいません!」
「よいよい。国の姫君ならばこのくらいしないと、見知らぬ店の飯等食わせられないだろう」
「そんなことは!」
「そなたは大切にされている。よいことだ」
おおかみさんの言葉にゼルダはまた顔を伏せた。
小さいバターを粉の入ったボウルに入れてバターをつぶすように混ぜる。ある程度つぶして水を入れながら粉をまとめていく。
手にまとわりつく溶けた粉はやがて塊になり、きれいな生地になった。
「では次」
水の入った鍋とフライパンを火にかけ、緑のほうれん草を一口サイズに切って湯だった鍋に入れて茹でる。その間に玉ねぎ、ベーコン、キノコをそれぞれ切って、油を垂らしたフライパンに残りの材料を入れて炒めていく。
「はい次」
炒めた具とほうれん草を取り出して粗熱を取っている間に、別のボウルに卵、ミルク、粉のチーズ、調味料を入れて混ぜる。
それが終われば壁のある丸い型に生地を敷いて、小さな穴をあける。
まだ少し暖かいが、具材を卵液の中に入れて軽く混ぜて、型の生地の上に流しこんだ。
「あとは焼くだけだ。こちらだ」
焼く場所は裏手にあり、リンクについてこいと手招きをした。
彼は素直についていき、ゼルダだけがぽつんと残された。ゼルダは少し気になるのかそわそわと奥を見ようと背筋を伸ばしたり、体を横にしたりとしている。
リンクは見たことのない釜で焼かれる料理をじっと見ていた。
その横顔はなんとなく好奇心のある少年に見えた。
「リンクよ」
「…」
「そんなに見ても早くは焼けないぞ!」
「…見てません」
「そうか!」
ハッとして顔を離した。
暫くリンクもゼルダもそれぞれそわそわしていれば、高い細い音が役目を終えた合図をした。
おおかみさんはすぐに入れたものを取り出して、表に戻る。熱々を型から取り出して、一切れずつ分けた。
「うむ!良い感じだ!待たせたなゼルダよ!きっしゅだ!」
「キッシュですか?」
「うむ!焼きたてで熱いから気を付けるんだぞ!」
キッシュはふつふつと焼き目を鳴らし、白い湯気が熱いことを証明する。
「こ、これキッシュですか?本当に!?」
「そうだぞ!」
「すごい…こんなに具がたくさん…!」
「遠慮するな!リンクもお食べ!」
食べる前に興奮するゼルダと戻ったリンクの前に同じものを差し出した。彼も視線を料理から目を離さない。
「何も、問題はありませんでした」
「で、では、早速…!」
リンクからの言葉を合図に、ゼルダはフォークで一口に切り分けて熱い湯気を息で飛ばしながら口に含んだ。ゼルダは熱さにはふはふと息を吐きながらもキッシュをかみしめた。
「なっなんて美味しいキッシュですか!?」
「口に合ってなによりだ!」
「塩気と甘みが強いのに野菜とキノコの味がしっかりあるから気にならない!生地もサクサクで美味しい!」
「うむうむ!もっと食べてくれ!」
「…」
ゼルダが興奮しながらキッシュを解析している横で、リンクもやっと手をつけた。無言ではあるが、顔をみればおおかみさんはわかった。
「塩気はベーコンのものでもあるのですね!素材一つ一つも良質な物ですね…!こんなにおいしいキッシュは初めてです!」
「おかわりはあるからな!食べられそうなら食べていくといいぞ!」
「おかわり…」
「美味しいものを食べてはいけない決まりなんてないぞ!例えどんな立場であっても、ここでは文句を言う人はいない」
「…じゃ、じゃあ!」
おおかみさんの言葉で、ゼルダは普段なら絶対に言わない言葉を口にした。
「おかわりお願いします!」
「よしきた!」
因みにリンクには尋ねることもなくおかわりを出した。
彼は少し変な顔をしたが、文句を言うこともなくおかわりに手を付けて食べ始める。
二人とも二切れ目を食べ終え、ほっと美味しさの余韻に浸っていた。出された水を飲んでお腹も心も温かくなっていた。
「食事でこんなに暖かい気持ちになったのは初めてです…」
「そうかそうか」
「あの、あなたは名のある料理人なのでしょうか?!」
「おおかみさんはおおかみさんだ!料理人ではないぞ!む?飯を作っているから料理人なのか?」
「その、あなたの料理を私の城でふるまっていただけないでしょうか!」
「むお!?」
その言葉におおかみさん、リンクまでも驚いていた。
「こんな美味しい料理を食べれば、きっと皆が喜んでくれると思うのです。不安を少しでもかき消せるはず…」
「…すまんが、おおかみさんはお城に行くほどの者ではない。諦めてくれないか」
「そう、ですか…すみません」
「…ゼルダ。民が心配か?」
「えっ」
「答えてくれ、民が心配か?」
彼女の言葉と視線からゼルダは逃げられなかった。優しいはずなのに、奥底から心を握られるような感覚だった。
「心配です。当然です!」
「ならば、問おう。そなたは本当に民を守ることが目的なのか?」
リンクが立ち上がって剣を構えようとした。しかし鞘から剣が抜けない。
「リンク、無礼は百も承知。だがこれはゼルダにとっても、そなたにとっても大事なことだ」
「…」
「なにを、何を言っているのですか!私は民を守るためにやっているのです!でなければこの世界は終わってしまう!」
「ほう、ではその守る手段とはなんだ」
「そ、それは…」
「もう一度問う。そなたは、民を守ろうと本心で願っているのか?」
立ち上がって抗議したゼルダの体が震える。
剣から手を離したリンクが構えるが、おおかみさんの威圧に近い存在感に足がすくみ、一歩も動けなかった。
「む、いかんな。おおかみさんらしくないことをしてしまった!」
しかしおおかみさんはふと気づいて首を横に振った。
その瞬間、張り詰めた重圧の空気はなくなり、ゼルダもリンクも足の力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「ぬあ!すまん!!お客にこんなことをしてしまうなど!おおかみさんは大神さんの恥だ!!」
彼女は急いで座り込んだゼルダにかけより、腕に抱えてよしよしと背中を撫でた。
「よーしよーし!おおかみさんが悪かったな!何もこわくないぞー!リンクもよく頑張ったなぁ!」
ゼルダの背中を撫でたり、リンクの頭を撫でたりとおおかみさんは忙しなく手を動かして空気を戻していく。
先に動いたのは流石というかリンクであった。驚きと、初めての経験に彼は戸惑い、混乱したように己の体を見る。
「…今のは」
「言い方が悪かったな!すまんなゼルダ!」
「いえっあぷっ」
足の力が戻らずとも、ゼルダは抱きしめられたおおかみさんのたぷんたぷんに顔を埋めながら返事をした。
たぷんたぷんからやっと離れたゼルダの顔は何故か真っ赤であった。
「その、続きで申し訳ないんだが…ゼルダは目的が変わっているのではないか?」
「も、目的…?」
「そなたはきっと選ばれた巫女であろう。おおかみさんはわかるぞ。だが、その力がまだできていないと見える」
「…」
「民を守るためという目的が、すり替わってはいないだろうか」
「いえ、変わってないはずです…私が力を発現しないと…」
「それだそれだ」
「え」
ゼルダは、おおかみさんの目を見た。
「民を守るために力を目覚めさせる。それは良い。だが、今のゼルダは力を目覚めさせることだけを目的にしていないか?」
「…」
「おおかみさんは事情を知らない、だから余計なことしか言えない。それでもおおかみさんは言うぞ」
「でも、私に巫女の力がないと…世界が、みんなが」
「そなたは気負いすぎたのだな。その小さな背中に、たくさんの期待を背負わされたのだな」
「私は…私…うぅっ」
小さな雫が落ちる。
おおかみさんは再びゼルダを抱きしめて背中を撫でた。
「周りから強要されて応えられる人が稀だ。ゼルダは何も悪くないんだ」
「うぅ…ふぅっ…」
「よしよし頑張ったなぁこんなに頑張って、誰からも認めらないのは嫌だなぁ」
泣くゼルダを慰めるおおかみさんを、リンクはただ黙ってみていた。
ぐすぐすに泣いたゼルダは、おおかみさんから離れて、涙を無理やり拭う。
「ごめんなさい、私、あなたにこんなこと」
「よいよい。ここは悩める者が来る所。泣いたっていいんだぞ」
「は、恥ずかしい…」
「ふふ、立てるか?」
「は、はい!」
支えられながら、ゼルダは立ち上がった。
「ゼルダ。巫女の力はきっと、そなたのまっすぐな気持ちが必要なんだ」
「私の…?」
「うむ。周りからの言葉ではない、そなたの心が真になった時。必ず力は現れる。今はわからずとも、いずれそなたは立派な巫女になれる」
「…」
「不安に思うことはない。焦る気持ちは周りも本心も見失ってしまう。それはそなたの力を濁してしまう」
「私の力の事をどうしてそんなに…あなたは…一体…」
「おおかみさんだぞ!」
立派なたぷんたぷんを揺らしながら胸を張っておおかみさんは言った。
そこにゼルダもリンクも視線が向かってしまう。
「…不思議な方です。なんだか、本当に大丈夫な気がします」
「おおかみさんなので!」
「いろいろご迷惑をおかけしました」
「気にするな!おおかみさんのお店はいつでも誰でもうえるかむだ!」
目が赤いゼルダの顔は、店に来たときよりも明るく見えた。
「えっと、そろそろ帰ろうと思うのですが、私たちはどうやって自分の部屋に戻ればいいでしょうか…?」
「む、お店から出ればすぐに戻るぞ!」
「そうですか…では、私たちはこれで失礼いたします」
「また困ったら来るといい」
ゼルダが丁寧にお辞儀をして、扉に向かい、リンクは変わっておおかみさんに近づいた。
「代金は?」
「む?」
「料理の代金はいくらですか?」
「いらない」
「は?」
「それよりおおかみさん、そなたも心配だぞ」
「は?」
料金を払おうとしたらしいリンクを突っ返した。それどころか心配までし始めた。
「まぁまた来たらいいぞ!」
「いや、お金が」
「ほーらゼルダについていかないとだめだぞ!」
「リンク?どうしました?」
「いえ、あの、まだ」
「また来ますって言ってただけだぞ!」
「おい!」
お金を払っていないことを伝えようとしたが、おおかみさんが大声でかきけした。ゼルダは笑って返事をして扉を開けて出て行った。流石に護衛対象から離れるわけにはいかず、リンクも外に出て行った。
「…本当に流行ってないのか?あの名前」
幸玉を受け取りながらおおかみさんは扉の前で首を傾げたのだった。