幸
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「おおかみさん、店に自由に来る方法教えてくれよ」
「む、約束だったな。いいぞ!」
「でも難しい呪文とか魔法はできないから…なるべく簡単な方法で頼むわ…」
「なぁに構えることないぞ!扉をくぐる前にちょいと両手を合わせてお天道様に祈ってくれ!」
「…え?」
「空に向かって祈ってくれればいいんだぞ!」
「まってまって、違う。そんなことでいいのか?」
「それが大事なんだ。感謝して祈ることこそタカマガハラへの道。故におおかみさんは祈る者を歓迎しよう」
「…」
「信じてない者は歓迎しないぞ!」
「あーいや違う信じる信じる!」
来店で伝えられた言葉を、リンクは半信半疑で聞いていた。己の世界にも妖精がいて、ミドナという影の相棒がいるため神秘を信じていないわけではない。
だが、店への道が空に感謝をするだけという誰にでもできる行為なことが信じられなかったのだ。
「…材料買っちまったし…行くしかないけど…」
「なぁんだオマエ、信じてないのか」
「普段いない奴が何言ってんだよ」
「ワタシはあそこが苦手だからな。だが、犬っころの言葉は本当だぞ?」
ミドナは嫌な奴ではあるが、嘘をつかない奴だとリンクはわかってきていた。だからこそ、ミドナの言葉には信ぴょう性があった。
「いぬっころって誰だよ。おおかみさんのことか?」
「犬以外のなんだって言うんだ?」
「ミドナ…耳と尻尾があるだけで犬扱いとか…」
「…まぁオマエはわからねえだろうな」
「あ?」
「ほら行くならサッサと行けよ。その方がオマエのやる気が出てこっちも助かるんだ」
言いたいことを言うとミドナは影に戻ってしまった。
ミドナの言動は最初から理解できないため、彼はため息をついて、おおかみさんの言う祈りを始める。
扉をくぐる前に、両手を合わせて、空に祈る。
普段やったことがない彼はいつ辞めていいのかわからず、とりあえず、と顔を上げて扉を開ける。
向こう側は、取った宿の中である。
「…いけねえじゃねえか!!」
一方、おおかみさんはお米の炊き具合を見ていた。
「うむ、そろそろ良い感じだな」
釜の蓋を開ければ白い湯気とつやつやのお米が顔を出し、おおかみさんに挨拶をした。
「よしよし次はそーすを」
フライパンを火にかけようと手を伸ばすと、入り口の扉が強い音を出して開いた。
「むおっ!」
「ハァ…ハァ…」
「おぉ…其方扉の開け方間違えてい」
「やっとつながったーー!!んだよ何が悪かったんだよ!!」
「大声は迷惑だぞ!」
「ぶへっ!!」
おおかみさんの注意をかき消したリンクはまた墨で真っ黒にされた。
「もう少し静かにこんか!」
「だ、だっておおかみさんの言う通りやったのに全然つながらないし…」
「むぅ?もしや…まぁ今は座れ」
「いやなにも見えないんだって…」
墨でびしゃびしゃのリンクは暫くそこに棒立ちになった。視界が自由になれば、いつもの店内のおおかみさん。
それと、見たことのないフードを被った別の客。
「…別の人いたのか」
「これ、じろじろ見るな」
「いてっ」
いつの間にか近くまで来ていたおおかみさんに頬を軽くつままれた。相変わらずの美貌とたぷんたぷんに目が奪われ、頬を染めてしまう。
「ほれ座れ」
「お、おう!あぁそうだおおかみさんこれ」
「む?」
戻ろうとするおおかみさんを止めてリンクは袋を差し出した。
「なんだこれ」
「食材」
「食材?」
「ほら、好きに来たら材料足りないんだろ?だから、俺が食う分もってきた」
「なっ!そんなことしなくてよい!」
「いいんだよ、俺がやりたい!」
袋を返そうとするがリンクは負けじとおおかみさんに押し付ける。彼女も負けじと返そうとしたが、耳をひょこと動かし、大人しくなった。
「…今回だけだぞ」
「ん?うん…」
「次からは要らない。ちゃんと食材を揃えられるように準備したからな」
「ええ…」
「座っていろ」
やっと店への恩返しができると思ったが、今回だけのようだ。おおかみさんは袋を受け取り、急いで調理台へと戻った。
リンクもやっと席に座り、代わりにフードの客が立ち上がった。
「帰るか?」
「…美味しかったです」
「うむ!また来るとよいぞ!おおかみさんはいつでも大歓迎だ!」
フードの客は小さく会釈をして店から出ていった。
客人のテーブルは食べたであろう食器が多く積まれている。
「めっちゃ食う人なんだな」
「うむ!あの客はたくさん美味しそうに食べてくれるからおおかみさんも作り甲斐があるぞ!…あぁまたこんなに幸玉がっ」
「…ふーん」
にこにこと笑顔で尻尾を振るおおかみさんに対し、少し不満そうなリンク。おおかみさんは気にせず、言葉をつづける。
「リンク、材料たくさんくれてありがとう」
「…おう」
元気な笑顔ではない、慈しむような柔らかい笑顔で先ほどの不満は吹き飛んだ。
「さて、こんなにもらってしまってはおおかみさんは大神さんの面を汚してしまう!故に今回はより一層力を入れてごはんを作るぞ!」
「えっ」
「まぁ少し時間はかかるが、その間の通しも出すから待っていろ!」
「いや、大丈夫だけど…」
とは言え、おおかみさんの料理を多く食べられると考えれば自然と腹が減るのだった。リンクは大人しく料理工程を見ながら待つ選択をした。
彼女は鍋を火にかけ油をしき、暖かくなったところでみじん切りの玉ねぎを投入して炒める。ある程度火が通ればトマトを自分の畑で用意した分と、彼からもらった中から多めに用意して流水で表面を洗った後、ある程度細かく切りながら鍋に入れる。
さらに水を加え、トマトを軽くつぶしながら混ぜていく。
その間に裏手からにひき肉を多めにもってきて、ボウルの中にひき肉、卵、パン粉、調味料を入れて力いっぱい捏ねる。
「…初めて見た。こんな細かい肉」
「そうか。細かいといろんなことができて便利だぞ」
「へえ」
手早く捏ねながら、鍋の中身を混ぜる。良い感じに混ぜ終えたタネを置いて一度手を洗い、トレーを用意して手に油を塗った。次にタネをちぎってやや大きめに丸めてから両手でキャッチボールをするようにぺたんぺたんと空気を抜きながら形を作る。
楕円の形をいくつも作ると、一度それを裏手にもっていき、戻ってまた手を洗って鍋の様子を見た。
「リンク、これを食べていろ」
「これは?」
「ぽてとさらだだ!じゃがいもで作ったやつだぞ」
「ふーん?」
小皿に入ったポテトサラダを匙で崩して口にする。
「ん、ビーフシチューのじゃがいもみたいだ」
「味が違うだけだからな!」
「これ単品で美味いな!」
滑らかなじゃがいもに、シャキシャキと混ざる野菜と少し塩気のあるハムが意外と合う。リンクは知らぬ触感と味に魅せられ、黙々と食べた。
おおかみさんは鍋の様子を見ながら調味料を入れて味を調え、水分を飛ばすため火を強くした。
焦げないように定期的に混ぜ、フライパンを用意し、油をひいて温め始める。
「おおかみさん、これおかわり」
「む、構わないが別の料理があることを忘れるなよ!」
「わかってるよ」
「うむ!ではもってくるぞ!」
小皿を取り下げてまた裏手に入り、新しいポテトサラダをもってリンクの前に差し出す。
おおかみさんはポテトサラダと一緒に休ませていたタネをもってきて、熱々のフライパンに一つ、二つと居れて焼いていく。
肉専用の焼ける音をリンクは聞くと、すぐに顔を上げた。
「もうできるのか!?」
「まだだぞ!」
鍋の火を止めて、炊けたお米に手を伸ばす。別のボウルにお米をよそって、調味料とコンソメ、バターを入れて混ぜる。それを底が深い楕円の皿に入れた。
次に焼いているタネをひっくり返して水を流して蓋をした。先ほどよりも強い音がするが、リンクはそわそわと落ち着かない。
「落ち着け。飯は逃げないぞ」
「お、落ち着いてるよ!」
「そうかそうか!」
言われてすぐに否定した。
おおかみさんは笑って、お米を入れたさらに作ったトマトソースをたっぷりかける。フライパンの蓋を開けて肉の焼き目と火の通りを確認した。大丈夫と判断し、トマトソースの上に焼きたての肉を優しく乗せる。さらに上から細かいチーズをかけ、皿をもって裏手に入っていった。
「もう少しの辛抱だぞ!」
「だから待てるって!」
「うむ!リンクはよいこだからな!」
戻ってきたおおかみさんの子供のような扱いが納得できず、不機嫌に水を飲んだ。おおかみさんはフードの客人の食器を持ち、水が溜まった流し台に漬け込み、最後にテーブルを丁寧に拭いた。
「なぁ、さっきの客っていつから来てるんだ?」
「お客の個人情報は言わないぞ」
「いつからいるのかぐらいいいだろ」
「駄目だ。これは秘密だ。おおかみさんは絶対言わないぞ!」
ふんすと腰に手を当てて、たぷんと大きなものが揺れる。彼は一瞬そこに目が行くが、すぐにおおかみさんの顔に視線を戻した。
話していれば裏手から高い細い音が鳴った。
「む!できたか」
おおかみさんはすぐに裏手に入り、鍋敷きの上に皿を乗せてリンクの前に出した。
「ほれ!はんばーぐどりあだぞ!」
「ハンバーグドリア…?」
焼きたてのチーズが端々でふつふつと空気を出していた。ちょうどよい焦げ目とトマトソースの香が湯気と一緒に舞い上がる。
絶対美味いと見た目で確信したリンクは唾を飲み込んで、匙をチーズの海に差し込んだ。
一口ぶん掬いあげれば、チーズは伸びて、トマトソースがとろりと流れる。なるべく冷まそうと息を吹きかけ、口に放り込んだ。
「熱っ…うまっ!」
濃厚なチーズと、濃いトマトソースが口いっぱいに広がり、バターが混ざったお米がまろやかにして丁度よくしていく。
次に上にのったハンバーグと、下の層を一緒に取り上げ一口食べた。
柔らかい肉と肉汁が合わさったことで、さらに食べている感が増す。
「すっげえ!!なんだこれ!」
「うむうむ!美味しそうでなによりだ!」
「うっま!おおかみさんこれすっげえ美味い!」
「いいぞいいぞどんどん食べろ!」
顔を輝かせながら食べるリンクを、おおかみさんは尻尾を振りながら笑顔で見ていた。美味しさに食べる手が止まらず、皿はあっという間にカラになった。
「今回もうまかったぁ!」
「うむ!よい食べっぷりだ!おおかみさんも嬉しいぞ!」
彼女は満足げに笑いながらカラになった皿は取り下げ、コップに水を注いだ。水に浸した食器を洗い始め、まったりと余韻に浸るリンクに話をつづける。
「リンク、其方ここに来る時の方法がうまくいっていなかったな」
「ん?あぁっ何回やってもつながらないから嘘つかれたのかと思ったんだからな!」
「ふむ、其方、祈るのは初めてか?」
「え、なんで」
「おおかみさんだからな!」
「あぁもうそれでいいよ…で?」
「うむ、祈り慣れていないリンクに簡単というのは無理な話だったな。すまん」
「なんか馬鹿にしてねえか?」
おおかみさんは普通に謝ったつもりだったが、リンクにはそう聞こえなかったらしい。
「祈りとは感謝の気持ち、太陽が有ること、自然が生きることに感謝すればいい」
「…?」
「要は、ごはん食べれて嬉しいありがとうとでも祈ればよい!」
「急にざっくりだな!」
「リンクは難しく考えすぎだ。もっと楽に受け止めろ」
「そう言われてもな…祈るなんて神聖な儀式みたいなイメージで、俺にはどうも固く思えるんだよ」
「ふむ、間違っていないがなぁ」
おおかみさんは洗う手を止めて顎に手を置いた。
「そうだな、リンクはここに来る前におおかみさんに感謝をすればいい」
「おおかみさんに?」
「うむ、それなら祈るのも簡単だろう?」
「…まあ」
「ならば、これからはそうするといい。悩んだりすると祈りは届かずにタマへの道は開かない」
「そうだったのか」
「まっすぐに、ただ一つ、ちょっとだけありがとうと思ってくれるだけでいいんだ」
彼女の言葉をリンクは静かに聞いた。
「それだけで、おおかみさんは嬉しいんだ」
「…」
「語ってしまったな。すまない」
「いいよ。今度からすぐに来れそうだし。教えてくれてありがとう」
「気にするな。おおかみさんは味方だからな」
食器洗いの続きが始まった。
しばらくその音を聞いて、リンクは立ち上がった。
「もう行くか」
「あぁ、おおかみさんありがとう」
「うむ、また来るといいぞ!」
「また来るよ!」
笑顔で彼は店を出て行った。残されたおおかみさんは、気持ちよさそうに目を閉じる。
「…心地よい幸せだ」
「…えっここどこ?」
「む、お客か!いらっしゃい!」
「おきゃく…?うわ、すっごい綺麗な人…えっ頭に耳がある!」
「おおかみさんだからな!しかし、ずいぶん小さなお客がきたものだ」