幸
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誰が見ても快晴と言うであろう天気の中、おおかみさんは畑の様子を見ていた。
「うむうむ、順調に育っているな。もう少しで採れそうだ」
青々とよく茂る草木を眺め、土の湿り気具合を確認した。
「む、この畑には水をやらねば」
自慢の筆のような尻尾でちょいちょいと点を描く。すると快晴にも関わらず、その畑にだけしとしとと雨が降ってきた。
「うむ、これでよし」
強くもない雨はゆっくりと止み始めた。しかし雨音とは違う別の音をおおかみさんは耳で拾ったのだ。無言で上空を見つめ、背中に火が燃える銅鏡を背負う。
「……ぁぁぁあああぶっ!!」
上空から人が落ち、そのまま地面へと全身をぶつけた。
おおかみさんはその人物に素早く近づいて銅鏡を構える。
「っぶぇ…なに今の…」
「貴様何者だ!」
「へ、えっ!あの僕怪しいものじゃ!」
「…む」
土から顔をあげた人の容姿をみて、おおかみさんは警戒を解いてしまった。
「其方、旅の人か?」
「えっ?いや…違うと思う…たぶん」
「そうなのか?其方と同じ服を着た青年を見たんだが、違うのか」
「僕と同じ?変だな…緑の騎士の服は僕ぐらいなものだけど」
落ちてきた青年はリンクと同じ緑の衣と剣を背負っていた。おおかみさんは彼の知り合いか兄弟かと思ったがどうも違うらしい。
「あの、とりあえず僕怪しい物じゃないので…火を近づけるのやめてもらっても…?」
「む、失礼した。おおかみさんの畑に落ちてきたから驚いたぞ」
「おおかみさんの畑…えっ畑!?」
畑と聞いて青年は飛び起きて地面を見た。
彼の下敷きになった作物があり、青年は顔を青ざめさせた。
「うわああー!ごめんなさい!つぶしちゃった!」
「む」
「ば、バイトして弁償します…!」
「落ち着け青年」
泣きそうな顔の青年の肩を優しく叩いて潰れた作物たちをおおかみさんは眺めた。
「まぁ、少し早いが収穫して問題ないだろう」
「えっ」
「元々収穫が近かったものだ。気にするな。事故でもあるしな」
「いやいやいやそういうわけにはいかないよ!」
「む…ならばここで飯を食べていけ」
「飯?」
引き下がらない青年に彼女は良い提案だと思い、笑顔でそう言った。
「ここタカマガハラという飯屋だぞ!」
「たま…か?」
「うむ、タマでいい」
「いいの!?」
「ここに来たのも何かの縁。収穫した作物を食べていくといいぞ!」
「いや、それでいいの?」
「おおかみさんが良いよいうんだから良い!ほれついてこい」
青年がつぶしてしまった作物を収穫して、おおかみさんは戻ろうと踵を返したが、また青年に向き直った。
「そういえば泥だらけだったな」
「え、あ」
「流石にその姿を中に入れるわけにはいかない。故に今洗ってやろう」
「え」
濡れた土を全身で受け止めた青年は泥で酷い有様であった。
畑には専用の井戸が存在する。そこから尻尾で水を導き、青年にばしゃんとかぶせた。
「これでよし!」
「えぇ…あ、すごい綺麗になってる…」
「中に入ればすぐに乾くぞ!さぁ入れ!」
おおかみさんが扉を開き、青年は濡れたまま中に入った。中は飯屋というだけあって、食材と食器がたくさん置いてあり。裏手の部屋であることがわかる。
そのまま案内で進むとテーブル席とカウンター席がある場所が見えた。赤い紙のカンテラに見たことのない透明な明かりが暖かく照らしている。
「わぁ!なにここ!」
「おおかみさんの自慢の飯屋だぞ!」
「初めて見た!大地ってこんな店があるの!?」
「ほかは知らないが、おおかみさんのお店はいつもこうだぞ」
「そうなんだ…!」
青年はあちこちを見て落ち着かなそうである。おおかみさんはそんな彼を笑顔で眺めながら、料理の準備を始めた。
鍋の中に水を入れて火をつける。その間に玉ねぎと鶏肉を一口サイズに切り分けていく。収穫が早まってしまった作物、紫色の茄子は縦に切っていく。
沸騰したお湯にマカロニを入れて軽く塩を入れて数分また置いておく。
次にフライパンにバターを入れて茄子以外を入れて炒めていく。
「すごい、もうおいしそう…」
料理の音で青年がカウンターに戻ってきていた。
「まだ早いぞ。ゆっくり待つといい」
「何作ってるの?」
「うむ、ぐらたんと南瓜のぱいだぞ!」
「ぐらたん…?カボチャのパイはわかるよ!」
「そうかぐらたんは知らないのか。ならば楽しみにまっているといいぞ!」
炒めた具材にある程度火が通ったら一度取り出して茄子を少しだけ炒めた。それも終わると別のフライパンを取り出し、ミルクと小麦粉をダマにならないように混ぜていく。
茹でていたマカロニをお湯から取り出して、温めていたミルクに入れる。さらに具材も混ぜて焦げないように弱火でじっくり煮詰めていく。
「ぐらたんってスープなの?」
「すーぷではないぞ」
具材の多いミルクスープのような見た目だが、時間をかければとろみがついていった。調味料で味付けをし、そこで火を止めて別の皿に移す。その上を蓋をするように炒めた茄子を乗せて、さらにチーズをかぶせていく。
「もう少しまっていろ」
それをもって、裏手に回ってしまった。
しばらく戻ってこなかったが、その間にダンッと固い物を割るような音やベルが鳴るような音がたくさん聞こえてきた。
「青年できたぞ!これがぐらたんだ!」
次に帰ってきたのは手袋をはめたおおかみさんが先ほどの皿をもって青年の前に出したときだった。
焦げ目のついた焼きたての音が小さく鳴っている。
「なにこれ!」
「出来立てであつあつだから気を付けるんだぞ!」
水と匙を共に出され、青年は匙をとって表面に割り入れる。思っているより柔らかいそれを一口分だけすくった。
「うわっチーズすっごい!」
とろりと溶けたチーズが自慢そうに伸びていた。
切らないまま息を吹きかけて口に入れた。
「あっつぅ!」
出来立てのそれはチーズとソースが口いっぱいにひろがり、具材が触感を埋め合わせる優しい味であった。
「おいしー!すごーい!」
「そうかそうか!」
「これすっごく美味しいよ!」
「喜んでもらえてなによりだぞ!」
熱そうにしながらも手を止めることなく次々に口に運んでいく。それを見るおおかみさんは耳と尻尾を振って喜びを表した。
「んーっ本当においしいー…」
「うむうむ!ぱいもできるからまっていろ!」
「うん!」
暖かいぐらたんをゆっくり味わいながらおおかみさんの言葉に元気よく返事をした。彼女はまた裏手に戻り、何か作業をする音を鳴らす。
順調に減っていくグラタンは最後の一口を収めた。
「おいしかったー…もう少し食べれそうだけど、パイがあるっていうし」
「うむ!ぱいができたぞ!」
食べ終わりを見計らったようにおおかみさんが一切れ乗った皿をもって帰ってきた。
美味しいとわかっている青年は遠慮なくそれに匙を入れて食べる。慣れたカボチャの味と、故郷で感じたことがない触感に驚いた。
「え、え、すごい全然違う!」
「む?」
「僕が食べたことあるパイと全然違う!これっ高級品とかじゃないよね!?」
「おおかみさんが作ったものだぞ」
「もしかして、このお店すっごい高い…?」
「?」
知らぬ料理に違うパイ。青年は自分の財布を気にしてしまった。
「ぱいは美味しくないか?」
「ちがう!すっごく美味しい!」
「そうか!たくさん食べるといいぞ!」
おかわりあるぞ!という甘い言葉に青年は首を横にふった。
一切れはあっという間に食べ終えて、青年は恐る恐る声を出した。
「あの…お値段っていくらですか…?」
「お値段?お金のことか?」
「うん、その、やっぱりバイトして返すから…」
「お金はいらないぞ!」
「え」
笑顔でお金はいらないという言葉に青年は耳を疑った。
「喜んで感謝してくれればよい!」
「ちょっちょっとまって!それ本当なの!?」
「おおかみさんは嘘をつかないぞ!喜ぶ姿がお代だ!」
「えええ!?」
商売にお金は必須であるが、それをいらないと言われれば誰だって驚く事である。
「そ、それっていいの!?」
「おおかみさんがいいと言えばいい!だから青年!遠慮せずぱいを食べていけ!」
そんな夢のようなことがあっていいんだろうか。好きなだけ食べていいなんていう店があるのだろうか。これは後で大金を要求される悪い店なのではないか。彼はもごもごと考えてしまい、何かがぷつんと切れた。
「じゃあ!パイのおかわりもらいます!」
「よしきた!」
思考が切れる音だったようだ。
結局おいしさで1ホール食べきった青年は幸せそうにまったりとくつろいでいた。おおかみさんは食器を洗っている。
「青年、其方は探し物でもしているのか?」
「えっどうしてそれを」
「おおかみさんはなんでもわかるぞ!」
「はぁ…」
「とても大事なものなら不安で仕方ないだろう。だが、その不安で先急いではいけないぞ」
水の音がとまった。
「心を落ち着けて、冷静に状況を見ることも必要だ」
「…うん」
「だが、不安を消すことは不可能だ。だから、また不安になったらこの店にくるといいぞ!おおかみさんはいつでも迎え入れよう!」
おおかみさんは任せろと言わんばかりに胸を張った。何がとは言わないがたぷんと豊満なものが揺れた。青年は思わずそこに目がいってしまう。
「気が済むまでここにいるといい!食後の余韻も大事なものだ!」
「えっあっ!えぇっと!ぼ、僕そろそろ行くね!」
「そうなのか。では青年、またな」
「うん!あ、僕の名前リンクっていうんだ」
「む?」
おおかみさんは首を傾げた。
はて、同じ名前の青年を最近見かけたが、なんとも変なめぐりあわせがあるものだ。
「おおかみさんのことはおおかみさんと呼べばいいぞ」
「わかった、おおかみさん」
「ところで、其方のことは次郎と呼んでいいか?」
「なんで!?」