幸
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「オマエそんな金もってどうすんだ?」
「ん?あぁ、あの店のお代」
「げぇ!アイツいらねえって言ってたじゃねえか!」
「何もなしは流石にまずいだろ!」
おおかみさんの店から出て数日経った頃であった。あの後店と呼べる建物はどこにもなく、外に出た途端獣に戻ってしまったのだ。リンクは混乱したし、ミドナは苦虫をつぶしたような顔をしていた。
困惑するままに影の領域を消し去ってみたが、やはり飲食店と呼べそうなものはどこにもなかった。
幻覚だったのかとも考えたが、ミドナが本当に嫌そうな顔をしているためそうでもないようだ。
「つか、何でお前そんな嫌そうな顔すんだよ」
「嫌に決まってるだろあんな所!」
「何がそんなに嫌なんだよ」
「オマエが知る必要ない!」
「はぁ?」
ミドナはリンクの質問に答えることはなかった。
「あぁそうかよ。じゃあ俺が何しようと文句言うな」
「ちゃーんとやることやってくれりゃワタシは何も言わねえよ」
利害が一致しているだけの関係のため、ギスギスした空気間である。
「ふん、ふん、ふふん」
赤い提灯と電球がよく照らす店内は不思議と暖かい。その中、客のいない店の中でおおかみさんは自分の尻尾を櫛で梳いていた。
髪と同じように濁りのない真っ白な毛並みと先っぽだけ墨のように滲む黒い毛先は、櫛を素直に通していく。
「うむ、今日も良い感じだぞ!」
毛づくろいに満足し、下ごしらえをした食材の様子を見に行こうと席を立った時だった。
「あ」
「む、おぉリンクじゃな」
「いたーー!!」
扉が力なく開いた。
入ってきたのはビーフシチューを食べたリンクだった。そしておおかみさんを認識するや否や大声で叫んだのだ。
「おおかみさん!店どこに構えてんだよ教えろよ!」
「以前より元気なのは良いことだがおおかみさんの耳が…」
「いやどうなってんだよこの店!精霊みたいな力使ってんのか!?」
「もう五月蠅いぞ!」
べしゃりとリンクに尻尾をぶつけて、全身を真っ黒に染めた。
「へぶっ…な、見えねぇ!?」
「落ち着きのなさは相変わらずだな」
「なんか水っぽいけど、影?違うなんか…」
「墨だぞ」
「すみ?」
「そのうち消えるから安心するといい。この店のことだったか?」
「嘘だろ、俺この状態で話進められんの?」
何も見えていない真っ黒なリンクに向かって何事もなかったように質問に答える。
「このタカマガハラは辛かったり、疲れたりしている民の前に現れる食事処だぞ」
「は?」
「要はおおかみさんの不思議ぱわーで扉をくぐった人のところに現れるのだ!」
「わからんわからん」
「まぁ難しく考えるな。タカマガハラに来れないということは、その間は元気ということだ。良いことだぞ!」
「そのたま、た、たか…」
「タカマガハラだ」
「たかまがら?」
タカマガハラが言いにくいようでなかなか口が回らない。
不意にリンクの視界が開けた。
「うお」
「タカマガハラはこの店の名前だぞ。しかしリンク、今度はどうしたのだ?」
「あれ、何にもない…なんだったんださっきのは」
「ほれ座れ」
「あ、いやっ飯の前に俺おおかみさんに渡したいものがあんだよ!」
いろいろ情報がごちゃごちゃではあるが、この店に行きたい理由の一つをポーチの中から取り出した。
「この前の代金!」
「む、いらないと言ったろう」
「そういうわけにはいかねえよ!」
「リンクから料理に見合わない報酬をもらったからいらない!」
「何も渡してねえよ!」
「感謝の気持ちをもらったぞ!」
にっこり笑うおおかみさんにリンクはまた混乱した。
「いや、感謝って…」
「おおかみさんはその感謝の気持ちと喜びがお金よりほしいもの。だからお金よりご飯を食べて喜べばいい」
「店…だよな?」
「店だぞ。お代はお気持ち!」
慈悲活動にも程がある、とそこでリンクは考えるのをやめた。
「どうしたリンク」
「おおかみさんって、すごい人なんだなって…」
「ふふん!おおかみさんはすごいんだぞ!」
誉め言葉に素直に喜んでまたたぷんと揺らした。
彼の視線がそこに行くが、今度はすぐに顔をそらした。
「さぁ座って待つといいぞ。ちょうど下拵えが終わったんだ」
「ああ」
リンクは前回と同じようにカウンター席に座っておおかみさんの様子を眺める。おおかみさんは底のあるお皿を裏手から取り出してきた。
「すぐには揚がらないな…そうだ、これも作ってやろう!」
おおかみさんの耳がみょんと動き、すぐに四角いフライパンを取り出して火をつけた。
彼女は卵を複数取り出してボウルに割り入れる。二本の長い棒を独特の掴み方で握り、卵を混ぜていく。ある程度混ぜると茶色の汁を少しずつ混ぜた。最後に調味料で味を調えたら、フライパンに油を薄く塗って卵を流し込んだ。
「何作ってんだ?」
「だし巻き卵だ!」
「だしまきたまご?」
フライパンから卵の焼けるじゅわじゅわという音が響く。同時にまた優しい何とも言えない匂いが漂ってきた。
薄く焼いた卵を器用に丸めて、開いた隙間にまた卵を流し込む。そしてまた巻く。それを何度か繰り返し、フライパンを振って卵を返しながら少しずつ焼き目をつけていく。
「リンク、油を使うから乗り出したら駄目だぞ」
「え、おう」
焼いた卵をフライパンから取り出していったんまな板の上に置く。それからもう一つの下拵えをした皿に手をつけた。中には液体に浸かった鶏肉が大量に入っていた。皿の中にまた解いた卵を流し込んでもにもにと揉んで混ぜる。
次にバットに小麦粉と薄力粉を入れて混ぜた。
大きな鍋の油の温度計を見て、鶏肉をバットの粉で満遍なくまぶし、余計な粉を落としてから鍋の中に放り込んだ。
「えっなに!?」
「危ないから覗いちゃだめだぞ。これを食べていろ」
ある程度肉を放り込んで、手を洗い。まな板に置いた卵を包丁で切り分けて皿に盛り、ガラスのコップに水をそそいで皿と一緒にリンクの前に出した。
「卵焼きだ」
「見たことない…」
「そうなのか」
「…」
見たことない形の卵焼きに驚いたが、匂いは食欲を強く刺激する。フォークを握って一切れ口にほおばった。
「…っうま」
「口に合ってなによりだ!もう少し待っていてくれ」
「初めて食べる味なのに、すごい安心する…」
「そうか」
程よく暖かい卵焼きは卵の味も残しつつ、しょっぱいような甘いような不思議な味だった。焼いているのにぷるぷるとして柔らかい触感も癖になる。
感動しながら食べるリンクを見ながら、鍋の鶏肉を取り出しながら次々にまた入れていく。揚がった鶏肉はじゅわじゅわと音を鳴らす。
そしてフライパンを温め、また卵焼きを追加で作っていく。
「おかわりなら今作っているからな!」
「まだ俺何も言ってないぞ!」
「言わずともわかる、リンクはよく食べるよいこだからな!」
彼女の言葉にリンクは少々恥ずかしいのか続きの文句を言わずに卵焼きを口に入れた。変わらずにじみ出る美味さに少しだけ頬が緩む。
やっと揚げ終えた唐揚げを、さらに高温にした油の中に揚げた鶏肉を再び入れていく。
先ほどよりも激しい音が鳴る。
「ほれおかわりだぞ」
「だから何も言って…あーもう食うよ!」
「うむうむ!」
激しい音の中でおおかみさんはおかわりのだし巻き卵と水を置き、リンクは青年らしい心情で答えた。
揚げていた鶏肉を取り出して、余計な油を網から落としていく。皿に紙を敷き、その上にからりと揚がった鶏肉を結構な量を乗せていった。
「リンク、待たせたな」
「ん?」
「今回の主食だぞ!」
こげ茶に上がったそれを彼の目の前に置いた。
「なにこれ…」
「唐揚げだ、鶏肉を油で揚げたものだ!たんと食べていけ!」
肉と聞いて大体の育ちざかりの男の子は反応しないわけはない。リンクはフォークで唐揚げを一つ刺す。カリッと音をあげて表面が割れ、中から遠慮なく肉汁がこぼれる。
ゆっくりと唐揚げにかぶりつけば、揚げたての熱い肉と肉汁が口いっぱいに広がった。
「あっつぁ!」
「揚げたてだからな!」
はふはふと息をしながら何度も噛み、味を確かめて飲み込んだ。
「なんだこれー!めちゃくちゃ美味い!」
「そうだろうそうだろう!」
だし巻き卵の優しい味と柔らかさとは反対に、濃い強い味と衣のカリカリ加減が癖になるものだった。中の鶏肉も適度な油分でたまらない。
熱いが食べる手を止められそうになさそうだ。
「やはり良い食べっぷりだ!おおかみさんは嬉しいぞ!」
「おおかみさんの飯が美味いんだよ!」
「うー!もっと褒めていいぞ!」
尻尾も耳もバタバタと揺れ動き、嬉しいと顔に書かれた表情でおおかみさんは唐揚げをどんどん作っていく。
「まだいるか?」
「いいのか!?」
「食べれるなら食べていけ!」
「いる!」
量があった唐揚げがどんどん消えていくのを見て、おおかみさんがおかわりを聞いてきた。リンクはまたしてもおかわりを要求した。
聞き届けた彼女は先ほどよりも少ない量のおかわりを並べた。
「リンク、もしよければレモンを使うといいぞ」
「レモン?なんで?」
「唐揚げを食べやすくする秘訣だ!」
むふふと笑って小皿に切り分けたレモンを一切れ置いた。
リンクは彼女の言葉を信じて一つにレモンを絞りかけ、一口食べる。
「んっ食べやすい!」
「うむ、さっぱりするだろう」
「これもいいな…でも俺はそのまま食べるよ!」
「そうか、それも良い!」
レモンの酸味が濃い味と肉汁を中和して、こってりしない味になった。これはこれで問題なく美味しいものだが、リンクは特に何もせずそのまま食べるほうが良いようだ。
おかわりもすべて平らげたあと、水を一口飲んでやっと落ち着いた。
「今回も美味かった…」
「うむうむ、満足してもらえてよかったぞ!」
「このたまがら?にいつも来れないのが残念だけど…」
「タカマガハラだぞ」
「言いにくいんだよ。もう少し別の店名なかったのか?」
「うーむ、じゃあタマでいい」
「そこまでしろとは言ってねえよ!?」
食べ終わった食器を取り下げてカチャカチャと洗いながら返事をした。
リンクは店に常にいけない状況が少し、いやだいぶ不満そうだ。
「おおかみさん、店にいつも来れる方法とかないのか?」
「ないわけじゃないぞ…」
「じゃあそれ教えてくれよ!」
「だがなぁ」
「何がダメなんだ?やっぱり金が必要なんじゃ」
「違う、金は要らない」
「じゃあなんだよ」
リンクのこの質問にはおおかみさんはうまく返事をしない。耳も尻尾もしょんぼりと下がっている。
「食材が足りんのだ」
「食材?」
「食材はおおかみさんが育ててるものだ。無理なものはもらってくるんだが…採れる量もそこまで多くはない」
「おおかみさん畑もってるのか!?」
「うむ、裏手で育てている!」
村で牧童をしていたリンクは収穫や育てる大変さを知っている。彼はバツが悪そうな顔をした。
「ごめん」
「あーっそんな顔をさせたいんじゃない!もっと幸せになってもらいたいんだ!」
「店の運用とかよくわかんないけど、大変だろ?無理言っちゃったし」
「うーっうーっ!おおかみさんはお客さんを幸せにしたいのに…!」
彼の少しだけ落ち込んだ顔におおかみさんはそれ以上に落ち込んで泣きそうであった。耳がぺったりと頭の形に垂れ下がって必死に考えている。
「えっと、えっと、リンク!」
「何?」
「もしまた、タマに来ることがあったら」
「その名前でいくのか」
「行きたい時に来れるおまじないを教える!」
「えっ…でもそれじゃおおかみさんが大変だろ?」
「いいや!おおかみさんはみんなを幸せにしてお気持ちをもらうのが大事だ!なんとかするぞ!」
「悪いよ」
「なんとかする!でないとおおかみさんは大神さんの顔に泥を塗ってしまう!」
自分で自分の顔に泥を塗ると言っているのだろうか?
リンクはまた不可解な顔をした。
「だからリンク!おおかみさんのことは気にするな!」
「でもさ…」
「いーから気にするな!」
本当の犬のようにきゃんきゃんと必死に訴える。彼はなんだか頭を撫でてあげたくなったが、女性にそのようなことはできるはずもなかった。
「わ、わかったよ!もうこの話は終わり!な?」
「うむ!」
「はぁ…なぁ、本当に金いらないのか?」
「しつこいぞ!本当にいらない!もらってもおおかみさんには扱えない」
「うーん…なんか納得できない…」
「リンクが喜んで、感謝の気持ちをもってくれたらそれでいい」
食後も落ち着いて、退出しようと扉に手をかける。
やはり金は突っ返されてしまい、リンクはもやもやとした気持ちが渦巻いた。
「また来たら歓迎するぞ!」
「おう、ありがとう!」
「お粗末様でしたー!」
扉をしっかり閉じて、姿がなくなった。
「うぅー!幸玉をまたたくさんもらってしまった…!なのに悲しい顔に…!おおかみさんは不出来だぁ!」