幸
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「ふーんふーん♪ふん」
この日もおおかみさんはご機嫌でパンの生地をこねていた。手の平で思い切り押し出すように大きな生地をこねる。なかなか力のいる作業だが、おおかみさんの手にかかればクッションを押すようなものだった。
調理場で生地を丁寧にこねていると、扉が開く音がした。
おおかみさんはすぐに手を止めて生地が乾燥しないよう濡れ付近をかぶせて表に戻る。
「いらっしゃい!」
「…え?」
「おぉ!リンクじゃないか久しぶりだな!最近来ないからちょっと心配だったぞ!」
「え?」
「しかしなんだそなた!下着一枚とはどこかで滝にでも打たれていたのか?」
「え?」
「ん?」
扉を通ってきたのは髪を結んだ騎士のリンクだった。
しかし何か様子がおかしいようだ。以前のような無表情でもなければフードもつけていない。なんならパンツ一枚である。
「あのぉ…俺のこと、知ってる人ですか?っていうか人?」
「…ふむ、まずそなたのことを聞かねばならんようだな。どれ、こっちに座りなさい」
「はぁ…」
おおかみさんはパンイチのリンクを座らせ、彼の背中にタオルをかぶせた。
「あ、どうも」
「して、そなたに一体なにがあったのかを聞いていこう、おおかみさんの話はそれからだ」
「実はですね」
聞けば、彼は知らぬ洞窟で起きたらしい。何故そこで寝ていたのか、そもそも自分が何者なのかすらわからないようだ。
「知らない声が聞こえて、困ったら扉を開けてねーって言われたから古い家の扉開けたんですよね」
「ほう」
「そしたらここでした」
「なるほどな」
リンクの今の状態を理解したおおかみさんは深くうなづいた。
「さぞ困惑しただろう。よしよし」
「えっえっ」
「大丈夫だ!おおかみさんはそなたの味方!安心しなさい!」
「はぁ…」
おおかみさんは彼の頭を撫でた。若干リンクの髪が乱れたが、彼は特に気にした様子もなく、おおかみさんに対して曖昧な反応をしてみせた。
「さて、おおかみさんの話だったな。リンク、そなたは記憶をなくす前はこの店のお客だったんだ」
「店?ここ店なんです?」
「うむ。タカマガハラという飯屋だぞ」
「飯屋!」
飯屋という響きに、先ほどまでの曖昧な表情はなくなり、顔を年相応に輝かせた。以前ならあり得ない顔である。
おおかみさんは少しだけ驚いたが、すぐに笑顔になって話をつづけた。
「顔があまりうごかなかったが、よく食べる子だったな!」
「うーん顔が動かないってのはなんかあんまり…食べるのは好きかも」
「おおかみさんは、今のそなたのほうが可愛いとおもうがな」
「…男に可愛いってどうなんですか」
「おおかみさんから見れば皆可愛い子供だぞ」
ふんすと手を腰にあてて、何がとは言わないが豊満なたぷんたぷんがたぷんとした。
リンクはそこに視線がいってしまい、しばらく見てから首を左右に振った。
「さて、飯屋なので何かご飯を食べていくといい。何か思い出すひんとになるやもしれんぞ」
「飯!何がある!?俺ずっと焦げたやつとか固いやつ食べてたから何でもいいんだけど!」
「んっ!?そなたの飯事情はどうなってるんだ!?おおかみさん心配だぞ!」
「やー、なんかうまくいかなくて…」
「…今回はおおかみさんが勝手に決めて作っていいか?」
「うん!」
リンクの元気のよい返事を聞いて、おおかみさんは裏に戻ってパンを仕上げていく。形を整えたり型にいれたりと様々である。
パンたちを火がついた釜に入れてからおおかみさんは戻ってきて、別の料理の準備を始める。
黄色く身がぎっしり詰まったとうもろこしを複数取り出して身を包丁で綺麗にそぎ落としていく。
「…えーと、おおかみさん?」
「なんだ?」
「それなに?」
「とうもろこしだぞ。甘くてしゃきしゃきしている」
「へぇ…」
興味津々におおかみさんの作業を覗きこんで見つめる。
おおかみさんは鍋に火をつけ、バターを入れる。鍋が温まる間にとうもろこしの身と芯を全て別け、身を全部鍋に入れた。次に玉ねぎを取り出して半分を使う。これもなるべく小さくしてから同じく鍋にいれた。
じゅわじゅわとバターで炒められる音と香りが店内を漂いはじめる。
「…もう食える」
「まだ駄目だぞ」
小さな子供のようにそわそわと落ち着かない様子のリンクを、おおかみさんは母親の如くたしなめる。
とうもろこしと玉ねぎに火が通ったところで水と牛乳を入れて、鉄のような棒を取り出した。
そしてそのまま聞いたことのない音を出しながら鍋の中をかき混ぜるように動かしていく。
「うわなに⁉」
「これで具材を細かくしているんだ」
「その鉄で?」
「そうこの鉄で」
固形物がなくなったのを確認し、鉄を取り出して調味料をいくつか入れていく。そしてそのまま弱火で温める。
次に彼女は裏に入ってパンの様子を見た。
「うむうむ、よい感じだな」
表面の綺麗な焦げ目と弾力を確認し、篭に多めに何種類か入れて表に戻った。
「リンク!ぱんが焼けたから食べていけ!」
「パン!うわすっごいいっぱいある!」
「こっちのスープももうできるからな!」
「やったー!あっつ!あちっ」
焼きたてのパンは熱く、両手でお手玉をするように冷まして口にほおばった。
「うっまー!パンってこんなうまかったっけ!?」
「焼きたてのぱんは美味しいんだぞ!ほれ、こーんぽたーじゅも召し上がれ」
「こーんぽたーじゅ?スープって言ってたよね?」
「うむ!さきほどのとおもろこしのスープだぞ!ぱんと相性がいいから食べてみてくれ」
「わかった!」
彼は出された匙を手にとってスープを掬うと、少し息を吹いて冷まして口に入れた。
「っまぁ!なにこのスープ!」
「むふふ」
ほのかに甘いクリーミーなスープは、口の中でとろりと広がる。
パンと相性がいいと聞き、スープを飲み込んだあとにパンを口に入れた。
「…えっなにこれ」
「ぱんをな、すーぷにひたして食べたらもっとうまいぞ」
「…!」
リンクはゴクリと喉を鳴らして、焼きたてのパンをスープに浸してから食べる。
「…」
「リンク?」
「…うますぎて、何も言えない…!」
パンをスープに浸して食べたり、パンだけを食べたりといろんな食べ方を始めた。おおかみさんはにっこり笑ってスープのおかわりを注いでリンクの前に出す。
「えっあのっ…まだ何も」
「わかるぞ!リンクは必ずおかわりをする子だったからな!」
「…」
なんとなくそれが恥ずかしくて、彼は視線を少しずらして食事に集中した。その間もおおかみさんはタイミングよくスープのおかわりを出していった。
多めにあったパンもスープもほとんど空っぽになったところでリンクは満足したのか来店時よりもゆるい笑顔で匙を置いた。
「すっごい美味しかったー!」
「うむ!変わらず良い食べっぷりでおおかみさんは嬉しいぞ!」
「ねえねえ!他にはどんな料理があるの!?」
「そうだなぁ…ぱんを使ったものも、スープを利用したものもたくさんあるぞ!」
「本当⁉うわー次何食べてみようかな…肉は絶対食べたいしパンもまた食べたいし…」
「次に来る時は何が食べたいか考えておいてくれ」
「そうする!…ここに来れてよかった。元気でた」
「なによりだ」
気合が入ったのかリンクは椅子から降りて体を伸ばした。
「よぉーし!俺頑張って思い出してくるね!」
「無理はするなよ」
「平気平気!俺なんか無駄に頑丈だし!」
「うーむ、おおかみさん心配」
「じゃあまた来るね!」
「うむ!また来るといい!」
リンクは明るく元気よくまたパンイチで店を飛び出していった。
おおかみさんは笑顔でそれを見送り、すぐに耳と尻尾をぶわっと広げた。
「しまった!あの子タマへの道を知らん!」