幸
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜、鍛錬を終えお腹が空いたリンクは部屋にあるフードを深くかぶり、窓から見える月に向かって手を合わせる。
祈りは夜間でも問題はないようで、度々彼は夜に祈った。
手を離し、扉に向かって手を伸ばす。しかし、扉の前に知らぬ紙札が張ってあった。見たことのない、力強い黒い文字はハイリア文字であった。いつの間に彼女はハイリア文字を習得したのだろうか。
その疑問よりなにより、リンクは書かれた文字の内容に驚いたのだ。彼は文字を無視して扉を力強く開けた。
「おおかみさん!無事ですか⁉」
「うお!?」
扉の先ではおおかみさんが机と毛布に入っていた。
「やはり何か病気になって…!」
「え、え?おおかみさん元気だぞ?」
「しかし張り紙に休養しますと!」
「だ、だから少しタマを休んでお酒を…」
「病人なのにお酒って何考えてるんですか!」
「まてまてリンクそなたなにか勘違いをしているぞ!落ち着け!」
張り紙には休養します。という文字が書かれていたようだ。リンクは大慌てでおおかみさんの額や首に手を置いて熱やら何やらを確認する始末である。
だが、おおかみさんは誤解だとわかり、リンクに墨をぶちまけた。
「ぶっ!」
「ただ英気を養うだけだ!おおかみさんだって少しくらいお休みは欲しい!」
「じゃあ…休養というのは」
「おおかみさんのやる気を出すためのお休みだ!」
真っ黒になったリンクはおおかみさんの言葉を聞いて息をながーく吐いた。
「紛らわしいこと書かないでください…」
「む…すまん…」
「俺も、女性に対してむやみに触れてしまい申し訳ありません」
「おおかみさんはおおかみだから撫でてもらうのは好きだぞ!」
「そうではなく」
墨は弾けるように消え、リンクの視界は明るくなった。
「では、失礼いたします」
「む?」
「休暇中に入店は迷惑ですから」
「あぁ!気にするな!心配かけてしまったお詫びをしたい!」
「お気になさらず」
「だめだ!おおかみさんがだめだ!それに腹を空かせた者を追い返すなぞ大神さん的にもよろしくない!」
「はぁ…」
「まぁここに座れ。あ、靴は脱いだほうがいいぞ」
出ていくのを止められたリンクは、腹が減っていたのも事実であるためおおかみさんの言葉に甘えることにした。
見たことない藁で強く編まれた床に、四角の布と机に挟まれた毛布。見たことのない器具に戸惑いながらも布に座り、毛布に足を入れた。
「…暖かい」
「うむ、こたつという暖房器具だ」
「こたつ」
「おおかみさんの国では冬にこれを付けるのが日常だぞ」
「これは…なんとも…」
優しい暖かさが足を温め、柔らかい毛布が気持ち良い。自然とこたつの中に体を入れていってしまう。リンクは少しだけ頬を緩めた。
「さて、おおかみさんは料理を作ってこよう」
「…はっ!な、何か手伝えることはありませんか!」
「お客に手伝わせるわけにはいかない。そこで溶けていていいぞ!」
「と、けてません!」
しかし感じたことのない暖かさに逆らうことは難しいらしい。それは騎士として己を律するリンクでさえ勝てぬ誘惑であった。
「いいかリンク。タマでは誰もが皆平等だ。誰も咎める者はいないし、咎める権利もない」
「…」
「だから安心していけ。おおかみさんは味方だぞ!」
彼は無言で、こたつに深く潜った。いわゆるこたつむり状態である。おおかみさんは笑みを深めてカウンターキッチンで土鍋に昆布と水を入れ、いろんな食材を下処理し始めた。
こたつのぬくぬくを感じているリンクの鼻に、空腹を深める香りが漂ってきた。
「リンク、起きてくれ」
「…はい」
こたつむりからゆっくりと体を出した彼の目の前には、これまた見たことのない器具に置かれた蓋をされた大きな鍋があった。
「これは…」
「火がつくからあぶないぞ」
おおかみさんがつまむ部分を握りねじると火がついた。
リンクは驚いて少し体を跳ねさせた。
「もう少し待てばできるからな」
「あの、これはなんですか?」
「火起こし器だぞ。便利でおおかみさんも大助かりだ」
「おおかみさんは本当に一体どこに住んでいるんですか…!」
リンクの言葉を特に気にすることもなく、おおかみさんは小さな入れ物からさらに小さな陶器の器に水を注いだ。
「…そういえばお酒がどうとか言ってましたね」
「うむ、おおかみさんはお酒が好きなので!」
「水では?」
「お酒だぞ?」
お酒というが、彼はそんな透明度の高いお酒を見たこととがない。少なくとも色がついているのが当たり前である。
「そんなお酒があるんですか?」
「あるぞ、リンクは…うむ飲ませられないな!」
「…」
「飲める年齢になったら付き合ってくれ。ほら鍋ができるぞ!」
火にかけられた鍋の蓋から蒸気と泡があふれてきていた。おおかみさんは蓋を掴んで鍋から取り外す。すると白い綺麗な湯気と香りが一気にあふれた。
「こ、これは…!」
「こたつといえば鍋であろう!器に好きな具をよそって食べていけ!味が薄いならこのタレにつけて食べるといいぞ!」
鍋の中には野菜、魚、キノコ等々の具材が綺麗に並べられて詰まっていた。くつくつと煮えた具は味が染みているのか少しだけくたくたに柔らかくなっている。
リンクは喉を鳴らした。
「ほれ、これを使え」
「ありがとうございます」
出されたおたまを手にし、いざ食べる具を選ぶ。気になった物を一通り選んで、リンクはフォークを使ってそのまま食べ始めた。
「…っはふ…おいしい」
「うむうむ!ではおおかみさんも一緒に食べよう!」
熱々の具を冷ましながら食べて顔を明るくしたリンク。おおかみさんはそれを見て、己も鍋から具をよそう。普段ならおおかみさんが共に食べることは消してない。
だが今は休暇中である。
「これとお酒が合うんだ!」
鍋の具を黒っぽいタレにすこし付けて食べる。よく噛んで飲み込んだあと、透明な酒を飲んだ。
「ぷはー!うまい!」
「…」
それを見たリンクは黒いタレに具を付けて口に入れる。
「んっ!ごほっ!すっぱ…!」
「む!たくさんつけたら濃いぞ?」
「さ、さきにいってください!」
見た目とは裏腹に酸っぱい味にむせてしまった。落ち着かせ、今度は少しだけつけて食べる。
「…さっぱりして美味い…」
「そのままでもいいがな。これをつけるとたくさん食べれそうだろう?」
「はい」
こたつの暖かさと鍋の優しい味に、リンクは頬をどんどん緩めていく。食べ進めれば鍋の中はあっという間にカラになった。
「…」
「綺麗に食べてくれてうれしいぞ!」
「…はい」
リンクは少し悲しそうである。しかしおおかみさんは笑顔でこたつから抜け出し、カウンターから何かをもってきた。
「リンク、お鍋はここからさらに楽しむんだ!」
「え?」
具がほとんどなくなった出汁のみの鍋の中に白い米を入れた。そして一度止めていた火を再び付けて蓋をする。
「あの、何を?」
「お鍋の〆だ」
「しめ?」
「うむ。お鍋の最後にはお米かうどんを入れて最後に食べるんだ」
「うどん?」
「白くてもちもちした麺だ。機会があれば今度作ってやろう」
「是非お願いします」
煮詰めている間に、おおかみさんはフォークから匙を差し出して、小さな器の中に卵を割り入れて溶いていく。蓋から白い湯気が噴出した頃に蓋を外す。
その上から溶いた卵を回しかけ、ネギを散らせた。
「〆のおじやだ!」
「おじや…」
「これも好きなだけ掬って食べてくれ!」
煮詰めたことによってつややかに光る米と、熱によって段々と固まる卵。自分の器に取り寄せて、受け取った匙で掬う。とろりとした見た目は先ほどまでの具とはまた別の魅力をみせた。
「…うっま」
「先ほど煮た具の出汁が染み出ているからな!味が意外と強いんだ」
「すごい…なんだこれ」
出来立て熱々にもかかわらず、リンクは遠慮なく食べ進める。おおかみさんも掬って一口食べてはお酒を飲む。単純な塩や砂糖では作れない味に、リンクは夢中になった。
〆のおじやも彼の胃の中にほとんど入ってしまった。
「…」
「綺麗に食べてくれるのを見るのは、やはり気持ちがいいな!」
「…」
「お茶を飲んで余韻に浸るといい。おおかみさん片付けてるから」
美味しさゆえか、それとも別の要因か、リンクは言葉を発さずに出されたお茶を飲んで一息ついた。鍋と使った食器を流し台へ、火がつく器具は別のところへ仕舞われる。
「…暖かい」
彼は小さく、そう言った。
おおかみさんの耳にはその小さな声が聞こえるが、何も言うこともなく洗い物に専念した。
それも終われば、おおかみさんはこたつとリンクに近寄る。
「む…寝てしまったか」
体中がぽかぽかした彼はこたつに寄り掛かるように眠っていた。おおかみさんは起こさないようにリンクを横に倒し、風邪を引かぬよう二階からかけ布団と枕をもってリンクに使う。
それからこたつに入ってまたお酒とおつまみを嗜み始めた。
「ふふ、良いなぁ」
眠る彼の顔は年相応にかわいげのあるものだった。