幸
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「おおかみさーん!」
「おぉリンク!まっていたぞ!」
元気よく扉から入ってきたのは影と戦うリンクだった。店に入るだけで幸玉がぽんぽん飛ぶ様子は、本当にここに来るのが楽しみなのだろうと感じる。
「なんかもう作ってる!揚げ物の肉の匂いだ!」
「狼になるだけあって目ざといな!」
「あー、鼻が良く利くようになったのそういうことなのか…?」
彼の言うとおり、おおかみさんはすでに料理をしている最中だった。パチパチと油の跳ねる音と匂いがすでに店内に漂っていたのだ。
「同じ狼として、おおかみさんは嬉しいぞ!」
「…おおかみさんは耳と尻尾があるだけだろ!」
彼は少し頬を赤らめてふいと顔を逸らしていう。だが幸玉がまた出るため、嫌ではないのだろう。
「おおかみさんだって狼になれるんだぞ!」
「えっ!?」
「ふふん!後で見せてやろう!」
自慢気に胸を張って、何がとは言わないが豊満なたぷんたぷんを揺らした。やはり揺れてしまうと視線がそこに行ってしまうが、リンクはすぐに視線を戻した。
「それより今日は何が食べたいんだ?」
「今作ってるやつ!」
「…そなたもう何度も来ているんだからそろそろ注文をしてもいいんだぞ?」
「おおかみさんの飯って俺の世界では知らないやつばっかりなんだよ。同じのも食べたくなるけど、知らないやつのほうが興味ある!」
「その挑戦的な若さは良し!」
「おおかみさんの飯は全部美味いってわかってるからな!」
屈託のない笑顔と誉め言葉に、おおかみさんは遠慮なく尻尾を激しく振った。彼女の顔に、嬉しい、とでかでかと書かれているような喜びを見せる。
「そ、そんなに褒められてもご飯を出すことしかできないぞ!リンクは褒め上手だ!」
「そうか?本当のこと言ってるだけなんだけど…」
「うわー!おおかみさんが幸せになってしまうぞ!うんと美味しく作ってやるからな!おまけもつける!さーびすってやつだ!」
厨房なので回りに気を付けてはいるが、目いっぱい喜んでいる。リンクはやはり撫でたい欲求にかられた。
「楽しみに待っているといいぞ!」
「おう!」
やる気になったおおかみさんは、今揚げている物の具合を見る。丁度良いかと油から上げて、余計な油を落とす。
次に玉ねぎを少し厚めの半月切りにし、音符のような形のフライパンを火にかけて、その中にお酒や醤油といった調味料を入れ混ぜた。そこに先ほどの玉ねぎをいくつか入れて煮込んでいく。
「知らない匂いだ…でも美味そう…」
甘い、しかし塩気もあるような不思議な香りは、リンクの知らないものだった。だが香りだけで唾を飲み込むほどに食欲をそそるものであった。彼を後目に、おおかみさんは小さめのお椀に卵を割り入れて溶く。
いつ完成になるのかもわからない料理をリンクは乗り出しそうな勢いで見つめていた。
「うむ、もうよいかな」
煮詰められた玉ねぎの具合を見て、先ほど揚げたものを包丁でいくつかに切りわけ、フライパンの中に入れた。その上から溶いた卵を全体的に回し入れて、蓋をした。
煮ている間に底の深い大き目のお椀を取り出して、炊き立てのお米をふんわりとよそう。お米の真っ白でつややかな出来に、リンクはまた喉を鳴らした。
煮詰めていたフライパンの蓋を外せば、白い湯気と香りが解放の喜びで部店内中を走った。
おおかみさんはフライパンの取っ手をもってお米の上に丁寧に乗せ、最後にネギを少し盛る。
「またせたなリンク!かつ丼だぞ!」
「かつどん…なんだこれ…!」
まったくもって知らぬ料理に彼は釘付けになった。
揚げ物と玉ねぎが卵によって包まれたその料理を、何の迷いもなく出されたフォークで一口サイズに掬い取って口に放り込んだ。
「うっまー!なんだこれめちゃくちゃうめえ!おおかみさんおかわり!」
「まだ一口しか食っていないだろう!」
「いや食べる!絶対あと二つは食える!」
食べれば甘じょっぱい、塩とは別の味が広がった。揚げた肉はしっかりと火が通り歯ごたえがある。揚げた衣が煮詰めた汁を吸って濃い味を出す。柔らかい衣と、カリカリの衣が同居し、何とも言えぬ触感がたまらない。
味がとても濃いが、玉ねぎと卵の甘さと米の中和がすさまじく、丁度よい塩梅になっていた。
「だがおかわりは大歓迎だ!すぐに作ってやろう!」
「流石おおかみさん!」
「お客の注文にはきちんと答えねばおおかみさんは大神さんに申し訳ない!食べて待つといいぞ!」
「わかった!」
おおかみさんはすぐにパン粉に包まれた肉を油に放り込んで同じようにタレと玉ねぎを煮詰める。
油の跳ねる音、タレと玉ねぎが煮詰まる匂いは、あの味をまだ堪能できるという期待と食欲を増進させ、リンクの一杯目のお椀をカラにした。
「おかわりおまちどう!」
「やった!」
出来立てのおかわりもすぐに手を付けて、変わらぬ勢いで食べ始めた。
食べごたえのある肉と量にも関わらず、リンクは美味しそうに食べていく。
「おかわり!」
「ふふふ、リンク。おおかみさんのさーびすを忘れていないか?」
「ん?」
「おおかみさんの特製おやつ、食べたくはな」
「食う」
「返事が早い!」
3杯目のおかわりを要望したが、おおかみさん特製のおやつと聞いて気が変わったリンクはすぐにそちらに乗り換えた。
彼の返事におおかみさんは綺麗にカラになったお椀を流し台の水に漬け込み、裏手から小皿をもってきた。
「なんだこれ」
「さくら餅というおやつだ」
それは小皿に乗った小さな桃色のまあるい物だった。
かつ丼よりも食欲が沸くものでも、興奮するようなものでもない。素朴な見た目である。
「さくらもち?」
「うむ、もちもちして甘くて少し塩気がある。喉に詰まらせないように気を付けるんだぞ」
「まぁ、美味いんだろ!」
新しいフォークでぷすりと刺すと、すでにもっちりとした弾力があった。持ち上げれば結構な重さがある。それならこの小ささにも納得だった。
またしても何の迷いもなくさくらもちの半分以上を一口食べる。
「…」
とても柔らかいもちもち加減と甘く、ほんのりしょっぱい味。たったそれだけだ。それだけであるはずの味と触感。
なのに、リンクは何も言えなくなった。
「リンク?大丈夫か?の、喉につまったか⁉」
「…」
無言でもちもち咀嚼する彼に、おおかみさんは水を差し出す。しかし彼は手を出して平気と合図した。とりあえず喉に詰まったわけではないらしい。
ひとまず安心はしたが、今度は今まで美味いと言ってくれたリンクが無言なことに冷や冷やし始める。
「もしや美味しくないか…?お、おおかみさんはまたやってしまったのか?」
「…いや、なんていうか…なんていえばいいんだろう」
やっと話したリンクは言葉につまっていた。
「美味しい、めちゃくちゃ」
「よ、よかった!」
「でも、何か、なんていえばいいんだこれ…」
美味しいには変わりないようだが、他にもっと何かを感じているらしく、それを言葉にしようとするがうまい表現が思いつかないようだ。
それをおおかみさんは黙ってみている。
「美味いうえに、安心するっていうか、暖かいっていうか…本当に、なんか、泣きそうになってくる…」
「…そうかそうか」
「今までの飯は食べたいってなるんだけど、このさくらもちは食べるのが勿体ないって思う」
「それは食べてくれ!」
「あぁーもうなんだよこのおやつ!」
食べたいが終わりたくないという葛藤に残りの小さなさくらもちを睨んでいた。これが特製ということだろうか。
「お、おおかみさんもう一個…」
「すまんな!おおかみさんもこれが好きだからもう譲れないぞ!」
「ちくしょー!!ますますこれ食いづれえ!!」
「あと時間が経つと固くなって美味しくなくなるぞ」
「早く言えよ!!」
美味しくなくなるくらいならと、リンクは最後の一口を食べた。先ほど感じた味と感覚がまた広がり、悩んでいた顔がすぐに柔らかくなった。
「これからもおおかみさんを褒めたらこれ食えるか?」
「そういう誉め言葉は嬉しくないぞ!」
「だよなぁ」
「だが美味しかったなら何よりだ!さくらもちはもう出せないが、代わりのことをしてやろう」
「ん?」
おおかみさんは光りだした。眩しくて目を閉じて、開ければそこにおおかみさんの姿はなかった。
「え?なんだ?」
「わんっ」
「え?」
座る彼の横から聞きなれた声がした。見ればおおかみさんの髪のような真っ白で顔に隈取をした犬が姿勢よく座っていた。
「え?犬?」
「おおかみさんだぞ!」
「うおっ⁉」
「どうだ!すごいだろう!」
白い犬からおおかみさんの声が聞こえて驚いた。だがおおかみさんの不思議パワーと説明不足はいつものことなので、リンクは何も言わずにまじまじとおおかみさんを見た。
何の汚れもない真っ白な毛に黒いつぶらな瞳。赤い隈取が化粧のように美しく獣というにはあまりにも神々しい姿だった。
しかし近寄らせない雰囲気はなく、どこにでもいる犬のように息をし、尻尾をたくさん振っていた。なにより顔がぽあっとして愛らしい。
「…すっげ」
見れば見るほどに彼の前々からあった撫でたいという欲求が膨れ上がる。だが相手は女性であることを思い出して手は出さない。
「…撫でないのか?」
「え!?」
「おおかみさん撫でられるの好きだぞ!それにお客も撫でれば笑ってくれて一石二鳥!いわゆるうぃんうぃんというやつだな!」
「…ほかの客に撫でさせたのか?」
おおかみさんの発言で、リンクは急激に不機嫌な顔になった。
「うむ、撫でたそうだったからな!」
「ふーん」
「なんだどうした?」
「別に。俺も撫でる」
「よしきた!」
彼は不機嫌な顔のまま、おおかみさんのあごに手を伸ばしてゆっくり撫でた。すると、すぐに不機嫌な顔は吹っ飛び、その感触に心を奪われた。
見た目を裏切らないふわふわもふもふ加減と絡まらない毛並みはいつまでも撫でていたい、埋まりたいと思うほどであった。
「すげえやわらけえ…!」
「むふふ!もっと撫でていいんだぞ!」
毛並みのすばらしさに負けて、頭、首、背中を撫でていく。おおかみさんは嬉しそうに尻尾を大きく振ってリンクの手にすり寄った。
「リンクはてくにしゃんだな!こんな気持ちいい撫で方は初めてだ!」
「そ、そうか?」
「うむ!もっとなでてくれー!」
「わ、まておおかみさん!」
喜びのあまり興奮する大型犬の如く、おおかみさんはリンクの顔に頭を突っ込んで擦り付け、顔を舐める。
柔らかいもふもふが襲い掛かってきたのだ。
「ぶふっ!…いい匂い」
「もっと撫でろ撫でろ!」
「まっおおかみさんやめろって!ちょ!ははっ」
毛並みのくすぐったさと舐められてじゃれつかれる。まさに犬と人との和やかな光景である。リンクも懐かれて悪い気はしない。おおかみさんの要望に応えるようにたくさん撫でている。
「おおかみさんストップストップ!待て!」
「むっ!」
「はぁ…興奮しすぎだぞ…」
「むぉ!それはすまん!」
勢いが強すぎるため、リンクはおおかみさんの両前足を拘束して離れさせた。理性を取り戻したのか、おおかみさんは大人しくなった。
「まぁ、俺も調子にのってたからそんな強く言えないんだけど…」
「楽しくなってしまった!リンクは本当に撫でるのがうまいなぁ!」
「ん…まぁ、うん…ありがと」
「またいつでも撫でてくれ!」
褒められて素直に嬉しい彼は、おおかみさんにお礼を言った。
そして涎でべとべとになった顔を袖で荒っぽく拭いた。
「んじゃ俺行くわ」
「うむ!またいつでも来るといいぞ!」
「おー、またなおおかみさん!」
「またなー!」
狼のままリンクを見送った彼女は、大量の幸玉をその身に受けながら再び人型に戻り、裏手の桜餅を一口食べる。
「うーん…やっぱりミカン婆のような味にならないな」
一方店を出て取った宿屋の一室に戻ったリンク。
「…俺、おおかみさんに舐められた?」
顔から煙がでるのではないかと思うほど顔を真っ赤にさせていた。
リクエストありがとうございました。