幸
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リンクは倒れていた。
子供たちがさらわれ、自分が獣となり、知らぬ影の生き物にいい様に使われていた。
それをすべて受け止めて行動を起こせるほど、彼は大人ではないし経験もなかった。
「おぉこれはいかん!」
最後に聞こえたのは知らぬ女の声であった。
「青年、青年。聞こえるか?」
また知らぬ女の声が聞こえてきた。重い瞼をゆっくりあければ、やはり知らぬ天井と知らぬ白い女がいた。
「…」
「うむ、目が覚めたな!怪我もしていて驚いたぞ!一応手当はしたが苦しいところはないか?」
「…」
「もしや言葉が通じないのか?それは困ったぞ…絵でなんとかならないかな」
「…だいじょうぶ」
「むお!よかったちゃんと言葉がわかるぞ!よしよしまだ眠っているといい。其方ちょっとおかしな呪いにかかっているようだしな」
「のろ…っあれ!?」
ぼんやりとする中でリンクは返事をしたが、思考を回して体を起こした。手足が人のものである。決して獣ではない。
「あれ!?俺、え!?」
「落ち着き給え。ここならそんな呪いは通用しない」
「呪い!?さっきから何言って、っていうかあんた誰だ!?ここは!?」
「だから落ち着けと言っている!」
女は混乱する彼の肩を一つ叩いた。
痛みで少し冷静になれた。おかげで女の容姿を改めて確認してしまった。
純白で汚れのない長い髪。顔はとても美しく黒い瞳がリンクを優しく見つめている。額と目元に赤い模様があった。見たことのない白と赤の服と幅の太い紐でお腹あたりを縛っているため何が、とは言わないが豊満な体がよくわかってしまう。
しかしそれよりなにより、人間にはありえないものが目に入った。
「頭に耳!!」
「うむ」
「なんで!?」
「おおかみさんは、おおかみなので!」
「わかんねぇよ!ほんとお前なんだよ!」
「だから落ち着け!」
今度は強くリンクの耳を引っ張った。
「まずここはおおかみさんがやっている飯屋だ」
「めしや?」
「うむ。ごはんを食べるお店だぞ!其方が倒れていたから運んできたのだ」
「倒れて…あぁっくそ!助けてくれてありがと!」
「お礼を言えるのはよいこだ!」
「でも俺もう行くわ!」
「なぬっ」
「あとでちゃんとお礼しにくるから!じゃっぐえ!」
リンクは目的を思い出し、すぐに寝ていたベッドから飛び出した。だが、女が首根っこを素早く掴みそれを止めた。
「またぬか青年!」
「何すんだよ!早くいかなきゃいけねえんだよ!」
「そう急くな!今の其方めちゃくちゃ体も心もひどい有様なのだぞ!」
「だからなんだよ!」
「そんなことではまた倒れるのが関の山だ!目的すら果たせなくなるぞ!」
「うるせえな!あんたに関係ないだろ!」
「ある!!」
女の声が凛と響いた。
焦って苛立ちを現していたリンクが黙るほどに、女の姿が凛々しく、美しかった。
「気持ちだけで旅はできないぞ」
「…」
「一度冷静になるのが青年には必要だろう。ほれ、ついてきなさい」
首根っこを離して女は扉を開けて歩いていく。
リンクはぐちゃぐちゃな気持ちの中、女の言う通りにしてしまう。
「しっぽ!?」
「早くこんかい」
扉の先は少し急な階段があり、降りていくとやはり見たことのない内装が広がっていた。
いくつかのテーブルとカウンター席。石畳でできた床は新しいのか色がはっきりと見える。壁には赤いカンテラと花が少々色を添えていた。
簡素ではあるが、温かみのある不思議な空間であった。
「ほれ席に座れ」
「…なんだこれ」
「ふふん、良いだろう!おおかみさんがこだわったんだからな!」
そうではないのだが、リンクは不思議とこの空間が落ち着くと感じた。カウンターの席に座って、女を見る。
「その、あんたは何者なんだ?」
「おおかみさんはおおかみだぞ」
「いやだから耳と尻尾の説明を」
「おおかみなんだから耳も尻尾もあって当然ではないか」
駄目だ話にならないとリンクは諦めた。
自分も先ほどまで獣になってたのだ、きっとこういう人もいるだろうと今は無理やり納得した。
「では青年」
「リンク」
「む」
「俺はリンクっていうの」
「そうか。リンク、おおかみさんのことはおおかみさんと呼ぶといい」
「おおかみさんね」
「うむ!」
名前を呼んだだけなのに、おおかみさんは嬉しそうに顔をふやかせて笑い、耳も尻尾も左右に揺れた。
美しい見た目も相まって、リンクにはそれがとても愛らしく見えてしまった。
「では何が食べたいか言ってみるといい」
「え?」
「ここはお食事処、故にごはんを食べていくといいぞ」
「急に言われてもな…それに金がない」
「金はいらないぞ」
「はぁ?店なんだろここ」
「うむ、飯屋だぞ。だが金はいらない。だから安心して食べていけ!」
「安心って」
「食べたいものがわからないのだったな?ならばおおかみさんが勝手に作る!少しまっていろ!」
そう言うとおおかみさんはカウンターの下から大きな鍋を取り出した。
さらに色とりどりの野菜や肉をもってきた。
おおかみさんは手早く野菜と肉を下処理していく。
「本当は時間をかけたいが、今日はおおかみさんの力で美味しくしてやるぞ!」
鍋に下処理をした具材と水を入れて火にかけて蓋をする。蓋に手を置いたまま何かを念じるように手に力をぐっと入れた。数分してから蓋をあけると、きれいな白い湯気が立ち上がる。
「うむ!良い火の通りだ!」
鍋から肉と野菜を取り出して鍋に調味料を入れてまた蓋をした。次にジャガイモの皮を綺麗にむいて、別の鍋に水とジャガイモを入れて蓋をし、また手に力を入れてジャガイモをとりだした。
最初の鍋の蓋をあけて取り出した肉と、一部の野菜を戻してまた煮込みはじめた。ジャガイモはボウルにいれて崩していく。そこにミルクとバターを入れて混ぜると滑らかになっていく。
「さて、こちらももう少しだな。リンク!付け合わせはパンでいいか?」
「えっ!うん」
「よぉし!焼けたパンがあるからもってくるぞ!」
湯気が蓋の隙間から勢いよく吹き出す。料理の匂いが部屋に漂いはじめ、リンクは自然と喉を鳴らした。
「さぁ焼きたてのパンだ!好きなだけ食べていけ!」
「多いな!」
「たくさん食べるといいぞ!」
おおかみさんはまた篭の中に大量のパンを詰めて帰ってきた。
彼の言うとおり、かなりの量の、それも様々なパンが詰められていたのだ。
おおかみさんは篭をカウンターに置いて鍋の様子を見に行ってしまった。リンクはパンを一つ手にとる。焼きたてというだけあってまだ熱く、ちぎれば白いふわふわの中身と湯気がふんわりと現れる。
一口食べれば、焼きたて特有の柔らかさとしっとり感が広まった。
「うっま」
「どんどん食べていいぞ!こっちももうできるからな」
ただのパンではあるが、ジャムもバターも必要なかった。これ一つでいくらでも食べられそうであると彼は思った。
「ほれリンク!びーふしちゅーとぽてとだぞ!」
「ん!」
パンに夢中になっているリンクの前に黒く輝くシチューと、白くでまるいものがついてきた。
湯気と香りがさらに胃袋を刺激して、リンクは一緒についてきた匙に手を伸ばしてまた一口食べる。
「…うっま!」
「おかわりもあるぞ!」
自分の故郷でも食べたことがない味と肉に夢中になっていた。白いものはつぶしていたジャガイモだったようで、なかなか濃い味のビーフシチューを中和してくれる。
「おかわり!」
「よしきた!どんどん食べろ!」
先ほどまでの不安そうな顔とは打って変わり、子供のように輝いた顔だった。おおかみさんはそれが嬉しいのか耳をピコピコ揺らして笑顔でおかわりに応えた。
しばらくおかわりを繰り返すと、リンクは満足そうに匙を置いた。
「本当に美味かった…」
「お粗末様!良い食べっぷりだったぞ!おおかみさんは嬉しい!」
「腹減ってたわけじゃないのに、すごい食べちゃったな…こんな美味いの初めて食べた!」
「ふふん!おおかみさんのご飯は特別だからな!」
リンクの誉め言葉におおかみさんは素直に喜び、胸を張った。何がとは言わないが、豊満なものがたぷんと揺れてリンクは視線をそこにもっていかれる。
「好きなだけここで休むと良いぞ。食事は終わってからの余韻も大切なものだからな!」
「だっ…いや、そーなのか!」
彼女の言葉でリンクは視線をずらして返事をした。
「うむ!良い顔になった!」
「…顔?」
「ここに来る前より今のほうが男前だぞ!」
「ここに来る前…そうだ俺!」
「こら、慌てるな」
今度はおおかみさんの声に反応して止まった。
「訳あって旅人になったのだろう?」
「えっなんで」
「おおかみさんにはお見通しだぞ!」
「いや理由になってねえよ…」
「何を急いているのかは聞かない。だが気持ちばかりが先ではいけない。しっかりと持ち物の準備とリンクの健康がなければ旅は成功しないぞ」
「…」
「初めてのことで戸惑うことのほうが多いだろう。だが、それを全部まとめて解決するのではなく、一つ一つ丁寧に解決していくんだ」
お皿を洗う音が穏やかな空間によく響いた。
「リンク。もしまた迷ったり、悲しくなったらこの店にくるといい。おおかみさんはいつでも其方を歓迎しよう」
「…ありがとう。おおかみさんて不思議だな」
「ん?そうか?」
「うん、なんか、あったかいっていうか。安心できる存在」
「うむ!おおかみさんはあったかいぞ!」
「それは意味がわかんねえ」
リンクの顔は、晴れやかだ。
「じゃ、俺行くよ」
「うむ」
「また来る!」
「待っているぞ!」
彼は扉の取っ手に手をかけて外に出て行った。
扉が閉まる。
「…幸玉の量がすごいぞ!これでは料理が見合ってない!」
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