東雲 歩
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
津軽編⑤カレ目線とエピ読んで…
※歩さんが全然出てこない話、笑
逆ハーを描きたかったはずなのにごちゃる
(津軽さんって、メンヘラ…なのかな…)
黒澤「ちょもちゃん、お疲れさまです。どーしたんですか?考え込んで…」
給湯室で、一息入れようと来たのはいいものの、津軽さんのことを思い出してコーヒーを入れる手が止まっていた。
桃山「あっ黒澤さん、お疲れさまです。全然、仕事は順調です!ちょっと気になることがあって、でも大したことじゃないので、お気になさらず…」
(津軽さんがメンヘラだからって、なにをどう聞くって話だし…。だからって歩さんに相談してもって話だし…)
黒澤「………ちょもちゃん」
桃山「え?」
不意に名前を呼ばれて黒澤さんを見ると、マグカップを置いて、ずんずんこちらに近寄ってくる。
思わず持っていたコップを置いて後ずさるが…
(か、壁際まで追い込まれてしまった…)
黒澤「……最近、誰のこと考えてますか?」
桃山「だ、誰って?なんのはな…」
言葉は、重なった唇でかき消された。
(………いやいやいやいや!!!なんだこの展開!?はい!?!?!)
唇が離れた感触を受けて、思わず閉じていた目をそっと開けると、黒澤さんの顔が近い。
腕を壁に当てて体を預けたまま、目を細めてこちらを見つめている。
桃山「ど…どう…いや、なんで…」
黒澤「ねぇ、」
耳元に寄せられる声。
くすぐったくて、思わず身じろぎする。
黒澤「……俺じゃ、ダメですか」
桃山「!!!」
囁き声に反応して、耳が熱くなる。
たぶんいま、顔も真っ赤になっている。
事態が飲み込めないまま、やっとの思いで声を振り絞る。
桃山「そうやって…からかうのは…ダメです…!」
黒澤さんの両肩に手を当てて、少し後ろに押して距離をとる。
やっと正面から顔を見ることができた。
一瞬、目を細めて不服そうな顔が見えたものの、一瞬でいつもの笑顔に変わる。
黒澤「…なーんちゃって。ちょもちゃん、段々とハニトラ耐性ついてきましたね〜。透も先輩として、うれしいな〜」
コーヒーを淹れながら、いつもの黒澤さん。
…のはずなのに、なんだか引っ掛かる。
(いま、ハニトラかけられてたってこと…?身内なのに…!こわすぎる…!!!)
黒澤さん、やはり恐るべしと気を引き締める。
桃山「私だって2年目ですからね!いつまでも子供じゃないですし…」
ね?っと言おうとしたら、さっきまで笑ってた黒澤さんの表情が、コーヒーカップを持ち上げながら、また不服そうな顔に変わっていた。
黒澤「…ほんと、誰に、大人にされちゃったんですか…」
それは私に向けたものではなく、手元のカップに向けて、小さく呟かれる。
桃山「………えっと、黒澤さん?」
黒澤「……透って、」
桃山「……え?」
黒澤「俺のこと、透って呼んでもらえますか」
桃山「……な、なんで?」
黒澤「津軽さんは、ちょもちゃんのことウサって呼んでますよね。東雲さんからは、元補佐官とかあの子とか…。難波さんはひよっこって…。」
(いや、それ全部私が呼んでるわけじゃなくて、呼ばれてるんですけど…)
黒澤「……」
桃山「……えーっと、とおる、さん?」
黒澤「!……もう一度お願いします」
桃山「え!……透さん…?」
不意に、ふわっと身体が抱きしめられた。
一瞬、黒澤さんに抱きつかれたのかと思ったが、目の前の景色は変わっていない。
誰かに、後ろから抱きしめられている。
(背後あっさり取られて、公安失格じゃん…)
?「はい、そこまで」
肩越しに顔を見上げると、目を細めた津軽さんのキラキラな瞳が飛び込んでくる。
桃山「津軽さん!びっくりした…」
津軽「ウサは、すぐオオカミに食べられそうになるんだから…」
黒澤「津軽さん、お疲れ様です。ここの職場は肉食獣が多いですからね〜。ちょもちゃん、それじゃまた」
黒澤さんは、何事もなかったかのように、一礼し、ニコニコ笑顔で給湯室から出て行った。
津軽「ウサ、ねぇこっち向いて」
そういえば、後ろから津軽さんにハグされたままである。
するっと手が解けて、津軽さんに向き直る。
桃山「はい?」
津軽「…………」
じっと目を細めて腕を組み、何か考えている素振りだが、何も言わない。
桃山「あのー…なにか?」
(……津軽さんこと、考えてたはずなのに、何も言えないな…)
津軽さんは小さくため息をついて、私のコーヒーカップに冷蔵庫から取り出したレモンを入れ始める。
桃山「あ!レモン!い、いいです!いまは足りてます!」
津軽「だーめ、津軽さんスペシャルを飲みなさい」
津軽さんは、コーヒーを淹れてから何も言わずにポンポンと頭を撫でたきり、どこかへ行ってしまった。
結局、津軽さんスペシャルを持って、座席に戻った。
津軽さんスペシャルは、苦くて酸っぱくてまず…いや、大人の味がする。
(津軽さん、さっきの黒澤さんとの会話、どこまで聞いていたんだろ…)
別に聞かれても問題ないと思うが、いつもの小言もなく去っていた姿が気になる。
…あと、黒澤さんにハニトラ仕掛けられたことが、引っかかる。
(なんでそこまで…、隙がありすぎるのかな。もうちょっと強靭な身体にならねば…)
桃山「……」
考え込んでもダメだ。
気を取り直して、仕事しよ…。
ーーー定時。
ぞろぞろと周りが帰り支度をはじめる。
新人2人を帰して、自分の残り作業を整理する。
(まだ、かかりそう…)
百瀬「お疲れさまです。津軽さん、あと何かありますか」
津軽「ん。今日は帰りな。帰れるときに帰ろうが津軽班のモットーだからねぇ」
百瀬「………。わかりました。お先に失礼します。」
珍しく、先に百瀬さんが帰る。他の班員たちも帰り、津軽班は私と津軽さんだけが残る。周りをチラッとみると、石神さん、後藤さん…のデスクの山から後藤さんの肩、黒澤さん、歩さん、加賀さんもまだいるみたいだ。
(教官たちも忙しいのかな…。そういえば最近、難波さん見かけないな…なにしてるんだろ…)
津軽「ウサ」
桃山「?はい?いま呼びました?」
デスク越しに、津軽さんから名前を呼ばれる。
津軽「お肉食べたい?」
桃山「え?」
津軽「ウサは、ウサギさんなのにお野菜よりも肉が好きだもんね」
勝手に話し始めて、勝手にうんうん頷いている。
(いつもの津軽さんではある…)
平常運転に見えるが、自分が何か食べたいなら百瀬さんを誘うはずだから、何か意図がありそうだ。
桃山「……えーっと、連れて行ってくれるってことでしょうか?」
津軽「ウサが可愛くお願いするなら」
桃山「……」
(……可愛くお願いはしないけど、なんかあるみたいだしそう言うことにしておこう…)
桃山「分かりました。急いで片付けます。」
津軽「可愛く、お願いは?」
桃山「……いっつも可愛くないねって言われますもん!だからやりません!その代わり、はやく片付けますから、待っててください!」
津軽「………」
黒澤「やっぱり、津軽さんの奢りですか?いいですね〜!何食べます?歩さん」
東雲「和牛、懐石…海鮮もいいかもね」
津軽「キミたち地獄耳なの?ほらほら、石神君も忙しそうなんだから、手伝ってあげなよ〜」
黒澤「もう今日はあがっていいって言われましたから、大丈夫ですよ!津軽さんについていきますから!」
津軽「頼んでないんだよな〜」
ハハハと笑い返す津軽さんの声は、明らかに笑っていない。
気になるが、ひたすら片付けに集中する。
(もう今日終わらせるのは無理だから、明日に回すとして…)
…なんとか片付け終わり、立ち上がる。
桃山「……津軽さん、終わりました」
津軽「ん。じゃあ行こうか。透くん、歩くん、またね〜」
黒澤「またまた〜、ちょもちゃんもみんなでワイワイご飯食べたいですよね?こんな機会あまりないですし…」
桃山「えっ…。し、東雲さんはどうですか」
東雲「別に、どっちでもいいんじゃない」
津軽「歩くんは別にいきたくないみたいだしさぁ。それに津軽班の付き合いだから…」
津軽さんは、私の肩を抱いて出てこうとする。
思わず、帰ろうとする後藤さんの姿が見え、この状況を助けてほしい一心で声をかけた。
桃山「ご、後藤さんもご飯いきませんか!!!」
ーーーそうして、居酒屋。
黒澤「それじゃみなさんグラスを持ちましたか?じゃあかんぱーい!お疲れさまでした〜!!!」
後藤「ああ、お疲れさまです」
東雲「……お疲れさまです」
桃山「お疲れさまでした」
津軽「………ん」
かちゃんと軽くグラスがぶつかる音がする。
個室居酒屋にきたはいいものの、黒澤さんしかほとんど喋っていない。
目の前にいる黒澤さんの問いかけに、後藤さんが「ああ」とか「そうだな」とか相槌を打っている。
私の両隣にいる2人は、お互いのグラスを傾けて、目の前の2人を黙って見ている。
津軽「………」
東雲「………」
(真ん中に座ってるんだし、私が話を振らないとだよね…!?なんでこんな接待みたいな気持ちになるんだって感じだけど、やるしかない…!)
桃山「………な、なんか新鮮ですね!津軽班と、石神班と、加賀班と飲み会なんて…」
合同捜査も一息ついて、束の間の休息。
…そのはずなのに、心なしか両隣の空気が重い。
黒澤「ほんとですね〜。後藤さんや石神さんにも断られ続けてたんで、ほんと嬉しいです!」
黒澤さんはニコニコと嬉しそうに話し、ささっどうぞと後藤さんにビールを継ぎ足す。
後藤「……最近は、特に忙しかったからな」
黒澤「歩さんも合コン来てくれないですし〜」
東雲「………」
(合コン…?めっちゃ気になる…)
歩さんをチラッとみると、何見てんのって目を細められた。ひぇぇ…。
津軽「キミたち、合コンとかしてるの?」
後藤「透が、ですね」
津軽「ふーん…」
黒澤「あ!津軽さんも興味あります?どんなタイプでも連れてきますよ〜」
津軽「んー…ウサみたいなウサもいる?」
桃山「……ん!?」
黒澤「津軽さん、それはどういう…」
後藤「………」
東雲「………」
失礼しまーすと沈黙を破るように扉が開き、料理が運ばれてくる。
扉が閉まり、また静かになった。
桃山「た、食べましょう!みなさんに取り分けます!」
黒澤「美味しそうですね〜。誠二さん、俺が取り分けますから、座っててください」
2人で運ばれてきた料理を分ける。
上司から渡さねばと思い、津軽さんの皿から渡す。
津軽「お野菜、ウサも食べなね」
口の前に、人参スティックを差し出され、思わずはむっと頬張った。
いつも何かしら口に放り込まれる癖で食べてしまったけど…。
(な、なんか見られててめっちゃ恥ずかしい…)
黒澤「ちょもちゃん、ほんとにウサギさんみたいですね」
後藤「……アンタ、いつもこうなのか?」
人参スティックを飲み込んで、切り返す。
桃山「つ、津軽さんがいつも…!もう、津軽さん!いきなり目の前に…んぐっ」
喋っている口に、2本目の人参スティックを放り込まれる。
仕方なく人参スティックをポリポリ噛み締める。
(ちょっとマヨついてる…。マヨつける謎の優しさ…美味しい…)
楽しそうにニコニコしている津軽さんを睨み付けて、歩さんにも盛り付けて皿を渡した。
東雲「………キミも食べなよ」
お礼でも言われるかと期待していたら、無理やり、3本目の人参スティックが差し出される。
桃山「!!ふぁーむーむーさーんー!」
東雲「!?」
津軽「え?」
後藤「………」
黒澤「いま、歩さんって言いました?」
桃山「………ち、ちが!!か、活火山って言ったんです!その、怒りを表すボルケーノ何ちゃらと一緒で…」
黒澤「あ〜カムチャッカファイアーとかなんとか、でしたっけ〜」
懐かしいですね、と数年前の流行語の話題にうつり、ホッとした。
(思わずいつもの癖で、歩さんって言ってしまった…!言ってもうた…!!!やば…!!)
あははーと愛想笑いをつきながら、チラッと歩さんをみる。
上から目線のいつもどおりの表情。
平然としている。
(うーん、私だけだった、動揺してるの…)
その後も、石神さんの話や、加賀さんの話、同期の話と話題は転々として、なんやかんや楽しくお酒がすすんでいる。
このときまでは。
黒澤「じゃあ次は、ちょもちゃんの理想のタイプを教えてください!」
いえーいぱちぱちと津軽さんも手を叩く。
後藤さんは、モグモグと焼き鳥を食べている。
歩さんの顔は、恥ずかしくて見れない。
桃山「り、理想ですか?そんな畏れ多い…」
黒澤「ん?てことは、いま畏れ多いような人が…好きってことですか〜?」
桃山「は、はぁぁ!?!だ、誰も好きな人なんかいません。恋愛と仕事の両立、苦手ですし…。じゃ、じゃあ黒澤さんの好みのタイプを教えてください!」
黒澤「いいですよ。ちょもちゃんが教えてくれたら、俺も言います!ね、後藤さんも言いますよね!」
後藤「ん?ああ…」
津軽「ウサの王子様は、どんな人なの?」
桃山「津軽さんまで…」
東雲さん助けてくださいと横を向いたら、上から目線のドヤ顔を向けられる。
(い、言ってもいいってこと!?どうなっても知らんぞ…)
ええいと腹を括って、言うことにした。
桃山「わ、私のタイプは…その…、私とは違って、どんな時でも、冷静に物事の判断ができて…かっこよくて。普段は、何を考えてるか分かりづらい人なんですけど、たくさん、彼なりの励ましの言葉や勇気をくれて、時には行動で示してくれて。…一緒にいるとホッとするんです。私ばっかり助けられていて…、いつかその…私が力になってあげれたら嬉しいなって…、まぁその、自分の実力じゃ、全然及ばないんですけど…」
黒澤「なんか…まるで誰かのような、めっちゃ具体的ですね」
津軽「ねぇそれって…俺…」
後藤「アンタ…」
東雲「………っ」
各々のリアクションを受け、更に恥ずかしくなる。
歩さんは若干顔を背けているような気がする。
(ん?津軽さんだけいま…)
桃山「津軽さん、俺っていいまふぃふああ」
津軽さんの呟きに突っ込もうと思ったら、また口に食べ物を突っ込まれる。
もぐもぐすることしかできない。
黒澤「それで、誰なんですか?その人は!」
桃山「!!!」
(絶対聞かれると思ったけど、絶対言わん!)
身体を反応させないようにグッと力を入れて、モグモグと口は動かしながら息を整える。
後藤「………」
後藤さんなら話を止めてくれないかなと思って見つめるが、見つめ返されて何も言わない。
というかなんか照れ始めたような…。
(あ…!ちが!完全に勘違いさせてる…!)
誤魔化すために歩さんを見つめると、若干照れているのがわかる。
ほんのうっすらだか、耳元が赤い。
東雲「………っ」
(照れてる歩さん、激写したい…)
そんなことはできないので、黒澤さん、津軽さんの順に視線をうつす。
黒澤さんは、ニコニコと返事を待っている.
津軽さんは、なんか口元を押さえて照れてる。
(………か、可愛すぎる)
黒澤「そーれーで、俺、じゃないですもんね?その特徴だと…」
むうっと膨れながら、黒澤さんが言う。
黒澤「誰なのかいっちゃいましょーよ!この際、ここだけの話ってことで…」
桃山「い、言いません!!」
黒澤「…そうですか。まぁ、いるってことは分かりましたね、後藤さん!」
後藤「……あ、ああ」
津軽「あのさ」
一同、話を切り出した津軽さんをみる。
津軽「ウサは、どこにもやらないから」
(えっ、それってどういう意味…)
また、部屋に静寂が訪れる。
津軽「…津軽班だからね?秀樹くんにも兵吾くんのところにも、渡さないから」
後藤「…桃山にも選ぶ権利がある、そうだろ?」
桃山「……えっ、…う、は、はい…将来的には、そうかもしれません」
チラッと津軽さんをみると、腕を組んで何か考えている。
ひとまず、自分の正直に気持ちを伝えてみる。
桃山「…でも、いまは津軽さんの元で、まだまだ未熟ながら学ばせていただき、いろんな経験を積ませていただきたいです」
後藤「ふっ……アンタらしいな」
後藤さんが立ち上がり、くしゃくしゃとテーブル越しに頭を撫でられる。
後藤「行くぞ透、会計はここに置いていく」
黒澤「誠二さん待ってください〜!ちょもちゃん、今度は2人でご飯いきましょうね!」
2人がバタバタと部屋を出て行った。
残される、3人。
桃山「あ、あのう…私たちもそろそろ…」
津軽「ウサ、こっち向いて」
桃山「?」
津軽さんの方を向くと、横からムギュッと抱きしめられた。
(な、なんで…嬉しいけど、歩さんが見てるんじゃ…)
東雲「…津軽さん、俺もハグしましょうか?」
津軽「んーん。歩くんは、多分同類だから」
東雲「………」
(それってどういう意味…2回目…)
津軽「ウサ、いい匂いするね…ちょっとお酒くさいけど…」
がぶっと耳を食べられる。
身体がびくっと反応し、変な声が漏れる。
桃山「ん!?な、何してるんですか津軽さん!」
離れようとしても、力がこもっているのか抵抗できない強さで、ホールドされてしまっている。
(これはピンチ…!津軽さん、どうしちゃったんだ。嫉妬?班長として、だよね…?)
東雲「彼女、嫌がってるんじゃないですか?」
津軽「そう?嫌がってたらもっと抵抗するよね…?ウサ」
引き寄せられて顔を覗かれると、めちゃくちゃ距離が近い。津軽さんのまつ毛も瞳も、居酒屋の優しいライトに照らされて、いつも以上にキラキラしてるように見える。
(す、吸い込まれてしまう…!!!)
桃山「つ、津軽さん…離してください…」
津軽「………」
東雲「………はぁぁ」
ため息をつく歩さんに身体を引っ張られて、なんとか元の位置に戻ることができた。
津軽さんは、不満そうに腕を組んでいる。
津軽「歩くんさぁ、元補佐官ちゃんにしては、甘いんじゃないの」
東雲「かわいい元補佐官がセクハラされていたら、まぁ助けますね。俺もケーサツなんで」
津軽「かわいい、ねぇ…」
この2人の間にいると、めちゃくちゃ緊張する。
緊張しすぎてお手洗いに行きたくなってきた。
桃山「ちょっと、お手洗い行ってきます!」
さっと立ち上がり、個室から出た。
桃山「………ふーーー」
お手洗いに向かいながら、なんだから生き返ったような気がする。
(ヘビとマングース?なんだっけそう言うの…)
津軽さんと歩さんは、どこか似ている。
良い例えも思い当たらず、お手洗いを済ませて、個室に戻ろうとしたとき、先に扉が空いた。
津軽「あっ、おかえり。ウサ、先帰ってていいよ」
桃山「?」
津軽「この後ちょっと用事があってね…。ごめんね、家まで一緒に帰れなくて」
桃山「そうなんですね、お疲れ様です。分かりました」
津軽「ん」
そう言って津軽さんは、扉を閉めてから、私の頭をポンポンして引き寄せ、髪にキスをして出て行った。
(………髪にキスをして出て行ったぁぁあ!?!?!?)
バクバクいってる心臓を落ち着かせ、扉をそっと開ける。
後に残された歩さんは、スマホをいじっている。
お会計は当然済まされているようだ。
東雲「………」
桃山「………」
(な、なんだったんださっきの…)
歩さんのスマホ操作が終わるのを待ちながら、悶々と津軽さんの行動を考える。
歩さんは、ほどなくして、スマホをポケットにしまった。
東雲「……で、キミはどうなの?」
桃山「え?」
東雲「………一応、確認」
(ん……確認?なんの?さっきの津軽さんの…え?なにどれ…)
確認、といっても何のことかとわからず、考えを巡らせる。
津軽さんたちと別れて気が抜けたのか、酔いと眠気で、頭が全然働かない。
東雲「………キミは、自覚ないの?」
バカなの?と言いたげな顔で、さらに質問をされる。
桃山「えっと…なんこと…でしょう…」
歩さんは、大きなため息をついて、口に手を当てて何か考えている。
東雲「……まぁいいや」
一瞬、少し寂しげな表情に変わり、またすぐいつもの顔に戻る。
そう言って立ち上がり、店を出ようとする。
その背中を追いかけながら、歩さんの言いたかったことを考えるが…。
(別に、津軽さんと別に浮気してるわけではないし、そりゃちょっと可愛いと思った瞬間はあるけど、あんなの歩さんの照れ顔に比べたら太陽と月ぐらいの違いがあるし。太陽と月って例えもなんか違うな…)
駅までの道のり、歩さんの顔をチラチラ見ながら隣を歩く。
こうして隣を歩くことが、だんだんと当たり前になってきて、ちょっと嬉しい。
(…って甘々な気持ちじゃないよね、歩さんの顔が無表情…)
桃山「……お、怒ってます…?」
東雲「…へぇ、怒られるようなことしたの?」
声をかけると、いつもの上から目線な顔だ。
(怒ってるわけじゃないのかな…)
桃山「し、してませんよ!!ただなんか小骨が喉に引っかかるような、こう、なんともちえない気持ちが…」
東雲「………」
桃山「ほ、ほんとに骨刺さってるわけじゃないですよ!?いや、そんなことわかってるか…」
(歩さんは、私の気持ちをガンガン見抜いてくるのに、私は全然わからないな…。なんか悔しい…)
東雲「………なんでキミが悔しがってるの。どう考えても…今日悔しいのはオレじゃん…」
桃山「え?」
どう考えても〜のあと、繁華街の騒音にかき消されて、聞き取れなかった。
桃山「すみません、聞き取れなくてもう一回いいですか」
東雲「………なんでもない」
そんな帰り道でした。続きはまた…
※歩さんが全然出てこない話、笑
逆ハーを描きたかったはずなのにごちゃる
(津軽さんって、メンヘラ…なのかな…)
黒澤「ちょもちゃん、お疲れさまです。どーしたんですか?考え込んで…」
給湯室で、一息入れようと来たのはいいものの、津軽さんのことを思い出してコーヒーを入れる手が止まっていた。
桃山「あっ黒澤さん、お疲れさまです。全然、仕事は順調です!ちょっと気になることがあって、でも大したことじゃないので、お気になさらず…」
(津軽さんがメンヘラだからって、なにをどう聞くって話だし…。だからって歩さんに相談してもって話だし…)
黒澤「………ちょもちゃん」
桃山「え?」
不意に名前を呼ばれて黒澤さんを見ると、マグカップを置いて、ずんずんこちらに近寄ってくる。
思わず持っていたコップを置いて後ずさるが…
(か、壁際まで追い込まれてしまった…)
黒澤「……最近、誰のこと考えてますか?」
桃山「だ、誰って?なんのはな…」
言葉は、重なった唇でかき消された。
(………いやいやいやいや!!!なんだこの展開!?はい!?!?!)
唇が離れた感触を受けて、思わず閉じていた目をそっと開けると、黒澤さんの顔が近い。
腕を壁に当てて体を預けたまま、目を細めてこちらを見つめている。
桃山「ど…どう…いや、なんで…」
黒澤「ねぇ、」
耳元に寄せられる声。
くすぐったくて、思わず身じろぎする。
黒澤「……俺じゃ、ダメですか」
桃山「!!!」
囁き声に反応して、耳が熱くなる。
たぶんいま、顔も真っ赤になっている。
事態が飲み込めないまま、やっとの思いで声を振り絞る。
桃山「そうやって…からかうのは…ダメです…!」
黒澤さんの両肩に手を当てて、少し後ろに押して距離をとる。
やっと正面から顔を見ることができた。
一瞬、目を細めて不服そうな顔が見えたものの、一瞬でいつもの笑顔に変わる。
黒澤「…なーんちゃって。ちょもちゃん、段々とハニトラ耐性ついてきましたね〜。透も先輩として、うれしいな〜」
コーヒーを淹れながら、いつもの黒澤さん。
…のはずなのに、なんだか引っ掛かる。
(いま、ハニトラかけられてたってこと…?身内なのに…!こわすぎる…!!!)
黒澤さん、やはり恐るべしと気を引き締める。
桃山「私だって2年目ですからね!いつまでも子供じゃないですし…」
ね?っと言おうとしたら、さっきまで笑ってた黒澤さんの表情が、コーヒーカップを持ち上げながら、また不服そうな顔に変わっていた。
黒澤「…ほんと、誰に、大人にされちゃったんですか…」
それは私に向けたものではなく、手元のカップに向けて、小さく呟かれる。
桃山「………えっと、黒澤さん?」
黒澤「……透って、」
桃山「……え?」
黒澤「俺のこと、透って呼んでもらえますか」
桃山「……な、なんで?」
黒澤「津軽さんは、ちょもちゃんのことウサって呼んでますよね。東雲さんからは、元補佐官とかあの子とか…。難波さんはひよっこって…。」
(いや、それ全部私が呼んでるわけじゃなくて、呼ばれてるんですけど…)
黒澤「……」
桃山「……えーっと、とおる、さん?」
黒澤「!……もう一度お願いします」
桃山「え!……透さん…?」
不意に、ふわっと身体が抱きしめられた。
一瞬、黒澤さんに抱きつかれたのかと思ったが、目の前の景色は変わっていない。
誰かに、後ろから抱きしめられている。
(背後あっさり取られて、公安失格じゃん…)
?「はい、そこまで」
肩越しに顔を見上げると、目を細めた津軽さんのキラキラな瞳が飛び込んでくる。
桃山「津軽さん!びっくりした…」
津軽「ウサは、すぐオオカミに食べられそうになるんだから…」
黒澤「津軽さん、お疲れ様です。ここの職場は肉食獣が多いですからね〜。ちょもちゃん、それじゃまた」
黒澤さんは、何事もなかったかのように、一礼し、ニコニコ笑顔で給湯室から出て行った。
津軽「ウサ、ねぇこっち向いて」
そういえば、後ろから津軽さんにハグされたままである。
するっと手が解けて、津軽さんに向き直る。
桃山「はい?」
津軽「…………」
じっと目を細めて腕を組み、何か考えている素振りだが、何も言わない。
桃山「あのー…なにか?」
(……津軽さんこと、考えてたはずなのに、何も言えないな…)
津軽さんは小さくため息をついて、私のコーヒーカップに冷蔵庫から取り出したレモンを入れ始める。
桃山「あ!レモン!い、いいです!いまは足りてます!」
津軽「だーめ、津軽さんスペシャルを飲みなさい」
津軽さんは、コーヒーを淹れてから何も言わずにポンポンと頭を撫でたきり、どこかへ行ってしまった。
結局、津軽さんスペシャルを持って、座席に戻った。
津軽さんスペシャルは、苦くて酸っぱくてまず…いや、大人の味がする。
(津軽さん、さっきの黒澤さんとの会話、どこまで聞いていたんだろ…)
別に聞かれても問題ないと思うが、いつもの小言もなく去っていた姿が気になる。
…あと、黒澤さんにハニトラ仕掛けられたことが、引っかかる。
(なんでそこまで…、隙がありすぎるのかな。もうちょっと強靭な身体にならねば…)
桃山「……」
考え込んでもダメだ。
気を取り直して、仕事しよ…。
ーーー定時。
ぞろぞろと周りが帰り支度をはじめる。
新人2人を帰して、自分の残り作業を整理する。
(まだ、かかりそう…)
百瀬「お疲れさまです。津軽さん、あと何かありますか」
津軽「ん。今日は帰りな。帰れるときに帰ろうが津軽班のモットーだからねぇ」
百瀬「………。わかりました。お先に失礼します。」
珍しく、先に百瀬さんが帰る。他の班員たちも帰り、津軽班は私と津軽さんだけが残る。周りをチラッとみると、石神さん、後藤さん…のデスクの山から後藤さんの肩、黒澤さん、歩さん、加賀さんもまだいるみたいだ。
(教官たちも忙しいのかな…。そういえば最近、難波さん見かけないな…なにしてるんだろ…)
津軽「ウサ」
桃山「?はい?いま呼びました?」
デスク越しに、津軽さんから名前を呼ばれる。
津軽「お肉食べたい?」
桃山「え?」
津軽「ウサは、ウサギさんなのにお野菜よりも肉が好きだもんね」
勝手に話し始めて、勝手にうんうん頷いている。
(いつもの津軽さんではある…)
平常運転に見えるが、自分が何か食べたいなら百瀬さんを誘うはずだから、何か意図がありそうだ。
桃山「……えーっと、連れて行ってくれるってことでしょうか?」
津軽「ウサが可愛くお願いするなら」
桃山「……」
(……可愛くお願いはしないけど、なんかあるみたいだしそう言うことにしておこう…)
桃山「分かりました。急いで片付けます。」
津軽「可愛く、お願いは?」
桃山「……いっつも可愛くないねって言われますもん!だからやりません!その代わり、はやく片付けますから、待っててください!」
津軽「………」
黒澤「やっぱり、津軽さんの奢りですか?いいですね〜!何食べます?歩さん」
東雲「和牛、懐石…海鮮もいいかもね」
津軽「キミたち地獄耳なの?ほらほら、石神君も忙しそうなんだから、手伝ってあげなよ〜」
黒澤「もう今日はあがっていいって言われましたから、大丈夫ですよ!津軽さんについていきますから!」
津軽「頼んでないんだよな〜」
ハハハと笑い返す津軽さんの声は、明らかに笑っていない。
気になるが、ひたすら片付けに集中する。
(もう今日終わらせるのは無理だから、明日に回すとして…)
…なんとか片付け終わり、立ち上がる。
桃山「……津軽さん、終わりました」
津軽「ん。じゃあ行こうか。透くん、歩くん、またね〜」
黒澤「またまた〜、ちょもちゃんもみんなでワイワイご飯食べたいですよね?こんな機会あまりないですし…」
桃山「えっ…。し、東雲さんはどうですか」
東雲「別に、どっちでもいいんじゃない」
津軽「歩くんは別にいきたくないみたいだしさぁ。それに津軽班の付き合いだから…」
津軽さんは、私の肩を抱いて出てこうとする。
思わず、帰ろうとする後藤さんの姿が見え、この状況を助けてほしい一心で声をかけた。
桃山「ご、後藤さんもご飯いきませんか!!!」
ーーーそうして、居酒屋。
黒澤「それじゃみなさんグラスを持ちましたか?じゃあかんぱーい!お疲れさまでした〜!!!」
後藤「ああ、お疲れさまです」
東雲「……お疲れさまです」
桃山「お疲れさまでした」
津軽「………ん」
かちゃんと軽くグラスがぶつかる音がする。
個室居酒屋にきたはいいものの、黒澤さんしかほとんど喋っていない。
目の前にいる黒澤さんの問いかけに、後藤さんが「ああ」とか「そうだな」とか相槌を打っている。
私の両隣にいる2人は、お互いのグラスを傾けて、目の前の2人を黙って見ている。
津軽「………」
東雲「………」
(真ん中に座ってるんだし、私が話を振らないとだよね…!?なんでこんな接待みたいな気持ちになるんだって感じだけど、やるしかない…!)
桃山「………な、なんか新鮮ですね!津軽班と、石神班と、加賀班と飲み会なんて…」
合同捜査も一息ついて、束の間の休息。
…そのはずなのに、心なしか両隣の空気が重い。
黒澤「ほんとですね〜。後藤さんや石神さんにも断られ続けてたんで、ほんと嬉しいです!」
黒澤さんはニコニコと嬉しそうに話し、ささっどうぞと後藤さんにビールを継ぎ足す。
後藤「……最近は、特に忙しかったからな」
黒澤「歩さんも合コン来てくれないですし〜」
東雲「………」
(合コン…?めっちゃ気になる…)
歩さんをチラッとみると、何見てんのって目を細められた。ひぇぇ…。
津軽「キミたち、合コンとかしてるの?」
後藤「透が、ですね」
津軽「ふーん…」
黒澤「あ!津軽さんも興味あります?どんなタイプでも連れてきますよ〜」
津軽「んー…ウサみたいなウサもいる?」
桃山「……ん!?」
黒澤「津軽さん、それはどういう…」
後藤「………」
東雲「………」
失礼しまーすと沈黙を破るように扉が開き、料理が運ばれてくる。
扉が閉まり、また静かになった。
桃山「た、食べましょう!みなさんに取り分けます!」
黒澤「美味しそうですね〜。誠二さん、俺が取り分けますから、座っててください」
2人で運ばれてきた料理を分ける。
上司から渡さねばと思い、津軽さんの皿から渡す。
津軽「お野菜、ウサも食べなね」
口の前に、人参スティックを差し出され、思わずはむっと頬張った。
いつも何かしら口に放り込まれる癖で食べてしまったけど…。
(な、なんか見られててめっちゃ恥ずかしい…)
黒澤「ちょもちゃん、ほんとにウサギさんみたいですね」
後藤「……アンタ、いつもこうなのか?」
人参スティックを飲み込んで、切り返す。
桃山「つ、津軽さんがいつも…!もう、津軽さん!いきなり目の前に…んぐっ」
喋っている口に、2本目の人参スティックを放り込まれる。
仕方なく人参スティックをポリポリ噛み締める。
(ちょっとマヨついてる…。マヨつける謎の優しさ…美味しい…)
楽しそうにニコニコしている津軽さんを睨み付けて、歩さんにも盛り付けて皿を渡した。
東雲「………キミも食べなよ」
お礼でも言われるかと期待していたら、無理やり、3本目の人参スティックが差し出される。
桃山「!!ふぁーむーむーさーんー!」
東雲「!?」
津軽「え?」
後藤「………」
黒澤「いま、歩さんって言いました?」
桃山「………ち、ちが!!か、活火山って言ったんです!その、怒りを表すボルケーノ何ちゃらと一緒で…」
黒澤「あ〜カムチャッカファイアーとかなんとか、でしたっけ〜」
懐かしいですね、と数年前の流行語の話題にうつり、ホッとした。
(思わずいつもの癖で、歩さんって言ってしまった…!言ってもうた…!!!やば…!!)
あははーと愛想笑いをつきながら、チラッと歩さんをみる。
上から目線のいつもどおりの表情。
平然としている。
(うーん、私だけだった、動揺してるの…)
その後も、石神さんの話や、加賀さんの話、同期の話と話題は転々として、なんやかんや楽しくお酒がすすんでいる。
このときまでは。
黒澤「じゃあ次は、ちょもちゃんの理想のタイプを教えてください!」
いえーいぱちぱちと津軽さんも手を叩く。
後藤さんは、モグモグと焼き鳥を食べている。
歩さんの顔は、恥ずかしくて見れない。
桃山「り、理想ですか?そんな畏れ多い…」
黒澤「ん?てことは、いま畏れ多いような人が…好きってことですか〜?」
桃山「は、はぁぁ!?!だ、誰も好きな人なんかいません。恋愛と仕事の両立、苦手ですし…。じゃ、じゃあ黒澤さんの好みのタイプを教えてください!」
黒澤「いいですよ。ちょもちゃんが教えてくれたら、俺も言います!ね、後藤さんも言いますよね!」
後藤「ん?ああ…」
津軽「ウサの王子様は、どんな人なの?」
桃山「津軽さんまで…」
東雲さん助けてくださいと横を向いたら、上から目線のドヤ顔を向けられる。
(い、言ってもいいってこと!?どうなっても知らんぞ…)
ええいと腹を括って、言うことにした。
桃山「わ、私のタイプは…その…、私とは違って、どんな時でも、冷静に物事の判断ができて…かっこよくて。普段は、何を考えてるか分かりづらい人なんですけど、たくさん、彼なりの励ましの言葉や勇気をくれて、時には行動で示してくれて。…一緒にいるとホッとするんです。私ばっかり助けられていて…、いつかその…私が力になってあげれたら嬉しいなって…、まぁその、自分の実力じゃ、全然及ばないんですけど…」
黒澤「なんか…まるで誰かのような、めっちゃ具体的ですね」
津軽「ねぇそれって…俺…」
後藤「アンタ…」
東雲「………っ」
各々のリアクションを受け、更に恥ずかしくなる。
歩さんは若干顔を背けているような気がする。
(ん?津軽さんだけいま…)
桃山「津軽さん、俺っていいまふぃふああ」
津軽さんの呟きに突っ込もうと思ったら、また口に食べ物を突っ込まれる。
もぐもぐすることしかできない。
黒澤「それで、誰なんですか?その人は!」
桃山「!!!」
(絶対聞かれると思ったけど、絶対言わん!)
身体を反応させないようにグッと力を入れて、モグモグと口は動かしながら息を整える。
後藤「………」
後藤さんなら話を止めてくれないかなと思って見つめるが、見つめ返されて何も言わない。
というかなんか照れ始めたような…。
(あ…!ちが!完全に勘違いさせてる…!)
誤魔化すために歩さんを見つめると、若干照れているのがわかる。
ほんのうっすらだか、耳元が赤い。
東雲「………っ」
(照れてる歩さん、激写したい…)
そんなことはできないので、黒澤さん、津軽さんの順に視線をうつす。
黒澤さんは、ニコニコと返事を待っている.
津軽さんは、なんか口元を押さえて照れてる。
(………か、可愛すぎる)
黒澤「そーれーで、俺、じゃないですもんね?その特徴だと…」
むうっと膨れながら、黒澤さんが言う。
黒澤「誰なのかいっちゃいましょーよ!この際、ここだけの話ってことで…」
桃山「い、言いません!!」
黒澤「…そうですか。まぁ、いるってことは分かりましたね、後藤さん!」
後藤「……あ、ああ」
津軽「あのさ」
一同、話を切り出した津軽さんをみる。
津軽「ウサは、どこにもやらないから」
(えっ、それってどういう意味…)
また、部屋に静寂が訪れる。
津軽「…津軽班だからね?秀樹くんにも兵吾くんのところにも、渡さないから」
後藤「…桃山にも選ぶ権利がある、そうだろ?」
桃山「……えっ、…う、は、はい…将来的には、そうかもしれません」
チラッと津軽さんをみると、腕を組んで何か考えている。
ひとまず、自分の正直に気持ちを伝えてみる。
桃山「…でも、いまは津軽さんの元で、まだまだ未熟ながら学ばせていただき、いろんな経験を積ませていただきたいです」
後藤「ふっ……アンタらしいな」
後藤さんが立ち上がり、くしゃくしゃとテーブル越しに頭を撫でられる。
後藤「行くぞ透、会計はここに置いていく」
黒澤「誠二さん待ってください〜!ちょもちゃん、今度は2人でご飯いきましょうね!」
2人がバタバタと部屋を出て行った。
残される、3人。
桃山「あ、あのう…私たちもそろそろ…」
津軽「ウサ、こっち向いて」
桃山「?」
津軽さんの方を向くと、横からムギュッと抱きしめられた。
(な、なんで…嬉しいけど、歩さんが見てるんじゃ…)
東雲「…津軽さん、俺もハグしましょうか?」
津軽「んーん。歩くんは、多分同類だから」
東雲「………」
(それってどういう意味…2回目…)
津軽「ウサ、いい匂いするね…ちょっとお酒くさいけど…」
がぶっと耳を食べられる。
身体がびくっと反応し、変な声が漏れる。
桃山「ん!?な、何してるんですか津軽さん!」
離れようとしても、力がこもっているのか抵抗できない強さで、ホールドされてしまっている。
(これはピンチ…!津軽さん、どうしちゃったんだ。嫉妬?班長として、だよね…?)
東雲「彼女、嫌がってるんじゃないですか?」
津軽「そう?嫌がってたらもっと抵抗するよね…?ウサ」
引き寄せられて顔を覗かれると、めちゃくちゃ距離が近い。津軽さんのまつ毛も瞳も、居酒屋の優しいライトに照らされて、いつも以上にキラキラしてるように見える。
(す、吸い込まれてしまう…!!!)
桃山「つ、津軽さん…離してください…」
津軽「………」
東雲「………はぁぁ」
ため息をつく歩さんに身体を引っ張られて、なんとか元の位置に戻ることができた。
津軽さんは、不満そうに腕を組んでいる。
津軽「歩くんさぁ、元補佐官ちゃんにしては、甘いんじゃないの」
東雲「かわいい元補佐官がセクハラされていたら、まぁ助けますね。俺もケーサツなんで」
津軽「かわいい、ねぇ…」
この2人の間にいると、めちゃくちゃ緊張する。
緊張しすぎてお手洗いに行きたくなってきた。
桃山「ちょっと、お手洗い行ってきます!」
さっと立ち上がり、個室から出た。
桃山「………ふーーー」
お手洗いに向かいながら、なんだから生き返ったような気がする。
(ヘビとマングース?なんだっけそう言うの…)
津軽さんと歩さんは、どこか似ている。
良い例えも思い当たらず、お手洗いを済ませて、個室に戻ろうとしたとき、先に扉が空いた。
津軽「あっ、おかえり。ウサ、先帰ってていいよ」
桃山「?」
津軽「この後ちょっと用事があってね…。ごめんね、家まで一緒に帰れなくて」
桃山「そうなんですね、お疲れ様です。分かりました」
津軽「ん」
そう言って津軽さんは、扉を閉めてから、私の頭をポンポンして引き寄せ、髪にキスをして出て行った。
(………髪にキスをして出て行ったぁぁあ!?!?!?)
バクバクいってる心臓を落ち着かせ、扉をそっと開ける。
後に残された歩さんは、スマホをいじっている。
お会計は当然済まされているようだ。
東雲「………」
桃山「………」
(な、なんだったんださっきの…)
歩さんのスマホ操作が終わるのを待ちながら、悶々と津軽さんの行動を考える。
歩さんは、ほどなくして、スマホをポケットにしまった。
東雲「……で、キミはどうなの?」
桃山「え?」
東雲「………一応、確認」
(ん……確認?なんの?さっきの津軽さんの…え?なにどれ…)
確認、といっても何のことかとわからず、考えを巡らせる。
津軽さんたちと別れて気が抜けたのか、酔いと眠気で、頭が全然働かない。
東雲「………キミは、自覚ないの?」
バカなの?と言いたげな顔で、さらに質問をされる。
桃山「えっと…なんこと…でしょう…」
歩さんは、大きなため息をついて、口に手を当てて何か考えている。
東雲「……まぁいいや」
一瞬、少し寂しげな表情に変わり、またすぐいつもの顔に戻る。
そう言って立ち上がり、店を出ようとする。
その背中を追いかけながら、歩さんの言いたかったことを考えるが…。
(別に、津軽さんと別に浮気してるわけではないし、そりゃちょっと可愛いと思った瞬間はあるけど、あんなの歩さんの照れ顔に比べたら太陽と月ぐらいの違いがあるし。太陽と月って例えもなんか違うな…)
駅までの道のり、歩さんの顔をチラチラ見ながら隣を歩く。
こうして隣を歩くことが、だんだんと当たり前になってきて、ちょっと嬉しい。
(…って甘々な気持ちじゃないよね、歩さんの顔が無表情…)
桃山「……お、怒ってます…?」
東雲「…へぇ、怒られるようなことしたの?」
声をかけると、いつもの上から目線な顔だ。
(怒ってるわけじゃないのかな…)
桃山「し、してませんよ!!ただなんか小骨が喉に引っかかるような、こう、なんともちえない気持ちが…」
東雲「………」
桃山「ほ、ほんとに骨刺さってるわけじゃないですよ!?いや、そんなことわかってるか…」
(歩さんは、私の気持ちをガンガン見抜いてくるのに、私は全然わからないな…。なんか悔しい…)
東雲「………なんでキミが悔しがってるの。どう考えても…今日悔しいのはオレじゃん…」
桃山「え?」
どう考えても〜のあと、繁華街の騒音にかき消されて、聞き取れなかった。
桃山「すみません、聞き取れなくてもう一回いいですか」
東雲「………なんでもない」
そんな帰り道でした。続きはまた…