エリザベスについて銀時に相談する桂


「銀時、聞いてくれるか」
「いや、帰ってくれる?」
「エリザベスの事なんだが」
「おい、なに話はじめてんの。帰れって云ったんだよ」

昼下がり、万事屋に桂がやって来た。
いつものように茶菓子を持参しているが、エリザベスは連れていない。
茶菓子はちゃっかり受け取って、しかし面倒なので追い返したい銀時は茶も出さずソファーに寝そべっている。
今は新八も神楽もいないので、他に構う相手はいないのだが、それでも桂は話し出した。

「知っての通りエリザベスと俺はペットと主人を越えて相棒、もはや家族同然だ」
「お前の家族、あれでいいわけ?」
「当然だ、賢いし可愛いし頼りになる。ところで・・・定春くんは夜どこで寝るのだ?」

銀時は寝そべったまま菓子を食べつつ、自分の飼い犬の名前に眉をあげる。

「定春?そんなの居間とか炬燵とかだけど」
「うむ、布団に入ってきたりはしないのか」
「添い寝くらいはあってもあのデカさだ、布団に入りきらねーよ。あいつもわかってる」
「なるほどな。しかし、ペットの中には布団に入って主人と眠るモノもいると聞く」
「なんの話?一人寝が寂しいからって定春は貸さねーぞ」
「違う、論点はそこではない。あのな・・・・・・最近布団に入ってくるのだ」

そう言ってため息をつく桂。
銀時は白いペンギンお化けを思い出す。
優に自分たちを越える体長、どこを見て、何を考えているのかわからない瞳。
たまに怪しげな者が覗く黄色い嘴。
それと桂が同じ布団に寝ている様子を想像する。
シュールだ。

「え?何、ペンギンお化けと一緒に寝てんの。そりゃ、仲良しでなによりな」
「うむ、最初は驚いたが俺もそう感じていた。寒い時期だし、同じ布団で寝るのも悪くないと。しかし・・・・・・」

桂はまたため息をひとつして、脚をもぞりと動かした。

「どうも変なのだ」

変も何も存在が変だ、と銀時は思う。

「始めは普通に布団を並べて寝ていたんだが、ある日俺の布団に入ってくるようになってな。俺は寒いのかなーと思っていたんだ。それから暫くした頃に、俺の脚に足をくっつけてきてな。不思議なことにあの短い足が妙に長く絡まる感じでジョリジョリとした感触でな」

なんだか話はおかしな方向だ。
銀時は体を起こすと眉をひそめる。
桂は認めないが、エリザベスの裾からはオッサンの足が見えるし十中八九、中はアヤシイオッサンだろう。

「エリザベスの息遣いも荒くなって、俺は布団が息苦しいのかと思って布団を退けてやったこともある。だが違うようだし、鼾よりはいいと思い、俺も馴れてしまったんだ。熟睡型だし」
「目開けて寝てんのにな」
「昨日の事だ、耳元で苦しそうな声がして目覚めたんだ。いつものように足が絡みついていたが、その力が強くてな。悪夢でも見てるのかと思ったんだ」
「もはやその光景が悪夢だけどね」
「手を少し動かしたら・・・・・・触ったんだ」

桂は自分の左手を注視する。
銀時も自然と桂の手に注目した。

「とても熱く硬い物で、ぬるっとしていたので何かの汁が出ていたんだと思う」
「え」
「エリザベスの様子もおかしかったんだが、その後急に静かになったもので、声をかけにくくてな、俺もまた寝てしまったのだ」
「それ」
「起きたら寝間着にその汁がついていたんだ。エリザベスの朝の様子は変わらなかったが・・・銀時、エリザベスはもしや何かの病気「ち○こだろ」

桂の言葉に被せるように銀時は発した。

「何かの腫瘍「ち○こだろ」
「なんなのだ、おまえは!!!さっきから下品な言葉を被せおって!」
「うるせーな、なんなのはお前だよ。訳分かんないペンギンお化けとの猥談聞かせやがって」
「猥談ではない!これは相談だ!病気かもしれんと俺は」
「またまた嘘こいちゃって。お前も表だって言えない内容と思うから動物病院じゃなくて俺んとこ来たんだろーが!」

言い放つと桂は浮かせた腰を戻して頭を垂れた。

「やっぱり・・・アレはそういうことなのか・・・・・・信じたくなくて自分を騙していたが」
「まあ気持ちはわかるよ」
「エリザベスにも発情期と云うものがあるとはな・・・」
「はつじょうきぃ?」

確かにエリザベスは未知の生物だ。
動物と同じように発情期というものがある可能性もゼロではない。
しかし、ボードに言葉を書いて意思を伝えたり、剛力で戦闘能力が高い所を考えると、そういった本能に抗えない生物にはとても思えない。
加えて垣間見るオッサンに、銀時はエリザベスという皮を被ったオッサンが桂をオカズに自慰行為をしていたとしか思えなかった。

「ヅラぁ、ポジティブバカも大概にしとけよ。そのカチコチおつむじゃ発情期止まりかもしれないけどな」
「ヅラでもバカでもない!ポジティブな桂だァ!カチコチなのはエリザベスだし」
「うるさっ!アレに発情期なんてあると思うか?確信犯だよ。期じゃなくて只、雄の本能のオカズにされてんだよお前」

銀時の言葉に桂は困った顔をする。

「な、何を言ってるんだ。俺は男だし第一種族が違うぞ」
「全ての雄の前では、種族が違うかなんてのは些細な問題だろ」
「些細か?大事じゃないか」
「要は勃つか勃たないかだろ。それより一緒に寝るの、やめたほうがいんじゃねえの」

桂は顎に手を添え、唸る。

「いや、そうなのだが・・・・・・しかし、発情期だろうとなかろうとああいった事をするのは同種が居らず淋しいからだと思うんだ」
「淋しい??」
「発散させる当てもなく、淋しさから俺にすがったのだとしたらそれを邪険に布団から追い出すのも酷ではないだろうか」

飼い主というものはこうまで寛容になってしまうのだろうか。
盲目と言ってもいい。

「俺は彼の地球での家族だぞ。突き放すような事はとても出来んのだ」
「何、甘い事いってんだ。お前のお粗末な貞操の危機だぞ。自分の身は自分で守れ」
「貞操ってなんだ。ちょっと引っかけられた位で何を大袈裟な」
「どうだかな。今日の夜には掘られちゃうかも」

銀時は立ち上がると傍らのポットでお茶を淹れる。
親切で言っているのに、桂は不満げだ。

「どうすればいい」
「知らねーよ、俺から言えるのは布団に来ても蹴っ飛ばして追い出せって事くらいだな」
「そんな酷いこと出来るか。エリザベスが傷付いたらどうする?」
「・・・つかよぉ、犬が飼い主の脚にヘコヘコカクカクすんのとは訳が違うぞヅラ。もっと危機感持て。中身はオッサンだし、ここらで手を切った方がいんじゃね?」
「オッサンじゃないエリザベスだ!!!」

桂は勢い良く立ち上がると叫んだ。
その振動に啜ろうとした熱々の茶が股間に零れ、銀時は声をあげる。

「あじじッ!銀さんの銀さんが大火傷だよ!バカヤロー!」
「バカはお前だ!もういい、俺は友として家族としてエリザベスを支えて見せるぞ。勿論お前の言ったような事は無しでな!」
「だーも!勝手にしろよ!」
「邪魔したな!」

足音荒く桂は玄関へ向かう。
銀時は、勝手にやって来て勝手に帰る桂の背中に、二度とくんなと叫んだ。
引き戸の閉まる音を聞いた後、舌打ちをして頭を掻く。

「ったくよ、人の親切を・・・・・・あの馬鹿しらねーぞ」

その日の夜。
桂は昼間のやり取りを思い出しながら床についた。
あの可愛らしいエリザベスが、ナニをしごいていたなど嘘だと思いたい。
その反面、自分も同じ性別故に気持ちはわからなくもない。
ただ、どうすればいいのか。
たまたまその日だけだった可能性もある。
今日は何もしないかもしれない、来ないかもしれない。
そんな事を思いドキドキしながら目を閉じた。

「ん・・・」

目をしばたたく。
目を開けて寝る癖があるため、いつも目覚めると同時に目の乾きを感じるが今もそうだった。
疲れていたのかエリザベスを待たずに寝てしまった。
隣を見るとエリザベスの姿はない。
今夜は来なかったのかと安堵と同時に寂しさも感じる。

「・・・・・・ん、??」

息苦しさに気づいた。
体勢が変だ。
視線を足元に移すと、白く浮くエリザベスの姿があった。
暗いなりに、いつもの可愛らしい顔がこちらを見ているのがわかる。

「エ、エリザベス?どうした・・・・・・」

体を起こそうと思ったが起こせない。
下半身を固定されていた。
桂は開かれた脚の間にいるエリザベスに困った顔をする。
どうしたことか。

「あ~あ、起きちゃった。まあ、当たり前かあ」
「???」

何処からか低い男の声がした。
しかし、部屋には二人きり。
目を丸くする桂の前で、エリザベスの裾が捲り上がる。
良くは見えない。
頭も追い付かない。

「えっ?エリ、エリザベス・・・・・・?!」
「桂さん、一人ぼっちは寂しいなあ。慰めてほしいなあ」
「そ、そうか。やっぱり寂しいのだな。で、でも、あ!?あ、エリ、あっ」

賢くて頼りになる可愛いエリザベス。
寂しいと云うエリザベス。
家族も同然のエリザベス。
力になって支えたい。
でも。
それは。
でもでもでもでも。

「アッー!」 





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