大江戸歌舞伎町名物
俺の名は土方 十四郎。
泣く子も黙る真選組、鬼の副長だ。
物騒な歌舞伎町の通りに気を引き締めて、今日も眼光炯々と巡回する。
「ひっじかったクーンッ!」
この声は!
振り向いた目に飛び込む人物に息を飲む。
軽やかに揺れる銀髪の煌めき。
遠目からでもわかる、きめの細かい陶器のようにつややかな肌。
眉目秀麗、色気のある目元に紅緋色の瞳が宝石のように輝く。
その顔を子供のように破顔させ駈けてくる姿はキラキラと輝いている。
なにかキラキラしたものを振りまいてやがる!
俺の恋人、銀時っ!!!
「愛してるぜっ♡」
「あぁ、俺もだ♡」
広げた腕に飛び込んできたしなやかな身体!
銀糸からは香ばしいバターの香り、吐息からは苺と独特な甘い香りがする。
胸一杯にその香りを吸い込む。
またイチゴ牛乳を飲んだんだな?
あとこれはメープルシロップの匂い?
ああ、ホットケーキを焼いて食ったんだな。
幾度と抱き締めるうち、匂いだけで何を食べたかわかるようになった。
この可愛い菓子の妖精がごとき銀時を力いっぱい抱きしめて愛しさに震える。
ぐあああ!俺の・・・エンジェルゥウウ!
》》真っ昼間の往来で抱き合う男二人。
しかし毎日のことなので人々は気にしない。
会うたびに熱い抱擁を交わし、飯屋に行けばあんことマヨを食べさせあい、どこに行くにも必ず手を繋いで、楽しそうに囁き、笑うとキスをして―――互いしか見えていない。
万事屋の坂田銀時と真選組副長、見目の良い二人の男がアッチでイチャイチャ♡コッチでイチャイチャ♡しているのは有名で、あまりの熱々ぶりに冷やかすのも馬鹿馬鹿しい。
そして桁外れに強く腕の立つ二人をからかう命知らずもいない。
大江戸歌舞伎町名物カッポーなのだ!
「会いたいな~て思ってたらよ、目の前にいんだもん、テレパシーかなにか?」
「俺もだ。九時間十二分ぶりに会えてすげえ嬉しい」
》》そういって、ひっしと抱き合う姿はもはやバカッポイ。
今でこそ包み隠さない愛をさらけ出す二人だが、似た者同士で犬猿の仲、喧嘩相手が高じて恋人同士になった。
いや待て。
きっと俺は初対面からすでに銀時の魅力に惹かれていたに違いねぇ。
刀を合わせれば、気だるげに垂れた瞼の奥で静かに熱を帯びる紅緋色の瞳。
形のいい唇から零れる、乱暴でぶっきらぼうな声音は色気をはらんで、俺の脳を痺れさせると、襟から覗く鎖骨が官能的に誘いかける。
甘味狂いの何事にもいい加減な男に見せて、自分の信念を持っていて人情厚い男だった。
付き合いを重ねる度に見せる新しい一面に夢中になって気が付けば、とんでもなく惚れていた。
そう、これは運命の出会い。
なのになかなか素直になれず、会えば小競り合いをして別れる、そんな日々が焦れったかった。
いつものように侃々諤々と言い合いをする中で、導火線を燃え走る火花のような焦れったさが理性を爆発させて、捲し立てる唇にキスしてしまった。
その時の、銀時の驚いた顔は忘れられない。
『あ・・・あっ、悪い・・・』
『・・・は?・・・え?何今の・・・』
『いや、あ、その、お・・・お、お前が好きだァア!』
もう云うしかなかったのだが、肝が冷えた。
気持ち悪りーなんて罵られたら確実に再起不能。
だがその時の銀時といったら!
『わ・・・悪くなんか、ねーよ・・・つか・・・歓迎、みたいな・・・』
人生で最高の瞬間だった。
宝くじ一等なんかよりマヨネーズ一生分当たるより幸せだろう!
ふっくらした頬を紅梅色に染めて、もじもじと云う姿は尊さが過ぎてある意味、死にそうだった。
》》そんな馴れ初めを経て、ラブラブ道まっしぐらな二人。
「今日は何時に来るよ?」
首に腕を絡める銀時が訊ねて触れる腰をスリ、と揺らす。
銀色の長い睫毛に縁取られた瞳が物欲しげに見てくる。
これ、わざとか?その可愛さはわざとなのか?
実は触れ合った下半身が元気になるからやめてほしい。
でも幸せだァアッ!
興奮を抑えるために公務中である事を頭に刻み付ける。
「あ、20時くらい・・・だな」
ポーカーフェイスで余裕を気取り、さりげなく銀時の腰を横にずらし引き寄せると瞼、鼻、頬へキスを落とす。
擽ったそうに笑う顔に俺まで破顔してしまう。
頬をすり寄せてごまかす。
ああ、男のくせになんて柔らかい頬。
例えるならマシュマロ・・・甘いやつだ、とびっきり。
もうたまらねえだろうがっ!
俺の理性、頑張れや!
「オッケー。なら、晩飯作って待っててやるよ。今日は肉じゃがでーす」
銀時の肉じゃが。
想像して口に溜まる唾を飲み込む。
これを食える男は俺だけだ。
もう俺の嫁じゃねーか、お帰りなさいアナタ状態じゃね?
ああっくそっ!結婚してェエッ!
》》心で叫んで涼しい顔をする。
ムッツリ慣れしている。
「ありがとな、楽しみにしてる」
「うん、待ってっから。んーちゅっ♡」
銀時からのフレンチキッス!
ものすごく、もっとこの柔らかい唇に吸い付きたい。
激しいキスをして、なんならこのまま銀時と過ごしたい。
しかし今は制服を着て、公務中で、往来の真ん中にいることも忘れていないのでぐっと我慢だ。
頑張れ、俺!
総悟や近藤さんと違って私情を仕事に持ち込まない、偉い俺!
》》大き過ぎる欲望に目が眩み、すでに持ち込んでいる自覚のない鬼の副長。
暫くイチャイチャしていたが手を振ってお互い別れる。
あぁ、見えなくなっちまった・・・・・・。
これから20時まで耐えなくてはならない、辛い。
そんな頭の中では銀時のエプロン姿が浮かぶ。
フリフリのピンクエプロンをつけた銀時がお玉片手にお帰りなさいと出迎えて。
『風呂にする?飯にする?それとも・・・俺にする?』
エプロンの下は真っ裸。
裸エプロンで台所に立つ銀時の縦結びな蝶々が腰の位置で白いふくらみへ俺を誘う。
『そりゃ・・・エプロン姿のお前を食べてぇよ・・・』
『あっ土方、はあ・・・ん』
そして、夜な夜な万事屋銀ちゃんはピンクな色に染まるのだ・・・・・・。
》》典型的な妄想をして、フッと笑う。
なんてな、子供らがいるからそうはいかねぇよな教育上・・・でもいつか・・・!!
》》万事屋に出向く際は新八と神楽に手土産も忘れないフォロ方十四フォロー。
「・・・・・・よし、気張ってくか」
》》一人気合いを入れ直し、鋭い眼差しで見廻りを再開する土方は。
少し前屈みだった。
******
屯所に戻ると、ポケットの携帯電話が震える。
「はい?」
『土方くん?』
「どうした、銀時」
『言い忘れたケド、』
「?」
『今日さ・・・、俺んち一人だから、ね?』
「オッ・・・アッ・・・!!!!」
ぶしゃっ!
「え、副長ォ!?鼻血スゴい事になってますけど!?」
なるほど銀時、今夜はR18だな・・・・・・。
》》揺さぶられる土方はそっと目を閉じた。
了
1/1ページ