新八とイチャイチャしたいし、オバケは怖い男たち
暖簾をくぐれば、そこは真っ暗世界。
足許には霧が漂い、冷気が袴の裾から這い上る。
♪ひゅ~どろどろどろ~~
おどろおどろしいBGMが、先に待つ
そう、背筋が寒くなるような・・・・・・。
「ちょ!
「オイ!押すな!!こっちもギリギリなんだよ!後ろ行け、後ろ」
「馬鹿云ってんじゃないよ。俺ァ新八を護るために隣を歩いてんだよ」
「勝手ぬかせ。新八は俺が護る。お前は後方支援でもしてろ」
「は?お前こそ、しんがりやれよ。新八の隣は俺のモンだ。ねっ、新ちゃん?」
「こんな頼りねーちゃらんぽらんより俺の方がいいに決まってんだろ。ねっ、新八?」
新八の肩を抱く銀時が、ぐいぐいっと引き寄せる。
新八の腰を抱く土方が、ぎゅうぎゅうっと引き寄せる。
「そもそもよぉ、真選組のお前がなんでいるわけ?馴れ馴れしく触んじゃねーよ。新八がヤニ臭くなるだろーが。離れろ、今すぐに!そして消えろ!!」
「てめーこそ万事屋主って立場を利用して、なにかっちゃベタベタしやがって。日頃から目に余んだよセクハラ上司が!とっとと手ェどけろ!!」
新八は背筋が寒くなるどころか、暑苦しくてウザくてたまらない。
「あの・・・、アンタらふたりで入ってもらっていいですか」
「「イヤだ!!!!」」
銀時と土方が叫ぶ。
いい年してお化けが怖い男二人は、それでもお化け屋敷で新八にかっこいいところを見せて、イチャイチャしたいのだ。
はじまりは、今朝のこと。
銀時と新八は、お化け屋敷に迷いこんだ猫を探す依頼を受けた。
しかも本物の心霊現象が起こるとウワサされているお化け屋敷だ。
そこへたまたま、非番の度に万事屋を訪れる土方が居合わせた。
――新八と、オバケの出るお化け屋敷????
夢のような悪夢のようなシチュエーションに、男二人の脳内ボルテージは一気に上がり。
恐怖と期待に息巻いて、お化け屋敷へ足を踏み入れたのだった。
「銀さんが護ってやるから安心しろよ、新八」
「何が出ようが俺といれば大丈夫だからな、新八」
かっこいい台詞を吐いた二人だが、いざ歩き始めると新八の半歩後ろに張り付いている。
さらに、それぞれが新八の手を握りしめている。
耳元にかかる、ハァーハァーと荒い息遣いは生暖かくて気持ち悪いし、繋いだ手も汗びっちゃりで気持ち悪い。
無口になった二人の多弁な生理現象に、新八は思わず「うるせーよ、二人とも」とキレずにはいられなかった。
本物の霊現象が起こると聞いて、新八だってそれなりに怖いと感じている。
それでも、より怖がっている者を連れていると、冷静になるというものだ。
「あんまり騒ぐと猫が逃げちゃいますから、ほどほどにしてくださいよ。土方さんも銀さんも!」
古典的なお化け屋敷なので、墓石と卒塔婆の上を火の玉が舞い、破れ提灯のお化けが赤い舌を垂らし、唐傘お化けが一本足で笑ってみせる。
怖がり二人は「ひっ」「ぎゃっ」と小さな声を洩らしつつも、「ふ~ん、子供騙しじゃねーか」と強がる余裕があった。
新八は、猫が潜みそうな暗がりを注意深く見ながら進んでいた。
「うらめしやぁ~ぁぁあ~~」
突然、井戸の中から女が現れる。
額に三角の天冠をつけて死装束を着る両手は、だらりと前に垂れ、苦悶に満ちた表情は、この世の総てを呪ってやらんばかりだ。
さすがの新八もゾッとした。
つかの間、耳元で爆音の悲鳴が上がる。
「「ひ・・・、ひぎゃぁああ゛ぁ゛あ゛ぁ゛っ!!!!」」
「ごはぁっ!?」
肩と腰に巻き付く四本の腕が締め付けてきて、新八が痛みに呻いてもがけば、何を勘違いしたのかふたりは更にきつく抱き締めてくる。
「ししし新八!落ち着けェェエッ!!」
「そそそうだァ!俺達がついてる!!」
「うぐっ!あ、あんたらっ・・・ちょっと・・・っ!」
ジタバタと、ひっつきもっつきしている三人に、パフォーマンスを続けていた幽霊は「う~ら~め~し・・・うるせーな、お前ら」と呟くと、井戸へ帰ってしまった。
幽霊からも呆れられ、ポカンとする三人。
もはや定番BGMが間抜けに感じられる。
「お、おお。なんだ、その、幽霊も俺たちの気迫にビビったってトコだな」
「だ、だな。口ほどにもねェ。なにが怨めしや~だ。現世にいるうちに晴らしとくもんだ、見苦しい」
こんな時ばかり意見の合うふたり。
新八はゼェゼェと喘ぎ、ツッコむ余裕もない。
締め上げられた胸にようやく吸えた空気に夢中だった。
「もう、引き返したい・・・」
お化け屋敷を出る頃には自分はどうなってしまうのか不安で、これ以上進みたくない新八だが、猫も見つかっていないので進むしかない。
例のフォーメーションに戻った三人の前に、今度は白髪を乱した老婆が現れる。
シャーコラ、シャーコラ包丁を研いでいたが、振り向くとニタリと笑う。
「美味そうなボウズじゃ。喰ろうてやるヒッヒッヒィッ」
額に角が二本生えている。
包丁を手に鬼婆が迫ってくると、銀時と土方は「こっちだ新八!!」と彼の両腕を左右にひっぱりだした。
動転しているふたりの馬鹿力で腕が抜けそうな新八は、真正面に迫るシワシワの般若顔に向かって違う意味で悲鳴をあげる。
口を極大Oの字にして目を剥く新八の必死な表情に鬼婆は「そ、そんなに・・・?」と戸惑ってみせた。
目前の鬼婆と、動かない新八に、ふたりは更に躍起になって引っ張る。
ビリビリビリィィッ!
布が裂ける音と共に新八の前面が露になる。
「ギャアアアァァアッ!!」
叫ぶ新八の、腕を広げて上裸を晒す姿に鬼婆は「いやぁぁあっ!」と乙女な悲鳴を上げて何処かへ走り去ってしまった。
まるで露出魔に出くわした女子大生だ。
犯罪者扱いされたことにも、鬼婆相手に裸を晒したことにも、服が裂けたことにもショックを受けた新八は呆然とする。
新八の前面が見えない銀時と土方は、急にいなくなった鬼婆に「な、なんで?」と辺りを見回していた。
「あっ!オイ、なんか光ったぞ!」
銀時が声をあげると、新八の肩を叩く。
「光が2つ・・・猫の目かもしれねェ。この先に消えていったな。行こうぜ」
土方も見たと云い、それから新八の頭をグリグリと撫でた。
「はい・・・・・・」
気力を失った新八は服もそのままに歩き出した。
すぐに後頭部が異様に長い老人、ぬらりひょんが現れる。
しかめ面をしていたのに、裸の新八を見て、「あっ・・・♡」と声を出して妙に喜んで見せた。
そのせいか、銀時も土方もビビらずにいて「なんかスケベな顔してねぇか?」「ただのエイリアン頭のスケベジジイだな」などと言って新八を護るように腕を回していた。
なぜかふたりは素肌を触っているのに裸の新八に気付かないでいる。
猫を探して暗がりに目を凝らしながらも、回された手の親指が僅かに動いて脇腹を撫でたり、鎖骨を擦ったりするので新八はかなり居心地が悪い。
しかもふたりは無意識らしいのが余計にたちが悪かった。
「・・・早く、出たい・・・」
新八の頬を銀時の掌が撫でる。
「泣いてない?新ちゃん」
新八の耳元に唇を寄せた土方が囁く。
「まだ頑張れるか?新八」
新八はどちらにも首を振ると、「・・・ねこ早く見つからないかな」と祈るように呟いた。
いよいよお化け屋敷のトリが近づき、BGMが変わり、
半分ほどが再現された荒屋が、薄暗い灯りの中にある。
その前に黒猫がいた。
「ニャー」
黄色の瞳で新八たちを見ると、真っ赤な口を開けて一声鳴く。
「「「いた・・・っ!」」」
目的の猫に三人揃って声をあげたが、一番喜んでいたのは新八だった。
「全く手間とらせやがって」
「銀さんっ。餌だしてください」
「はいはい」
銀時が袂から猫のおやつを出して封を切る。
直ぐに黒猫は駆け寄ってきて、おやつを持って屈む新八の腕に収まった。
ニャァアァアアァ
ウニャァアアァァア
荒屋から無数の猫の鳴き声が響く。
迷いこんだ猫は一匹のはずなのにと、三人は荒屋に目をやった。
カンカンッ!
拍子木の音が鳴ると、荒屋の障子が開く。
無数の猫が座っていた。
みな口を開き、鼻にシワを寄せて、シャーッ!と威嚇する。
その真ん中に鎮座する、着物を着た大きな白猫が、耳まで裂けた真っ赤な口を開けて牙を見せていた。
に゛ゃあぁあ゛ぁあ゛ぁ゛あ゛ッ!!!
轟くような怨嗟の鳴き声に、新八もビクッと肩を震わせて腕の中の猫を抱き締めた。
揺れる尻尾が二又に割れている――化け猫だ。
そう思った時には、体が浮き上がっていた。
「悪霊ウウウゥゥ!!!」
「退散ンンンンン!!!」
「はっ?えっ?!ちょっ、なになになに!?」
血相を変えて雄叫びをあげる銀時と土方に、上半身と下半身を抱えられ、まるで丸太のように運ばれる新八は訳もわからず激しく揺さぶられる。
ドゴオオオオッ!!!
凄まじい音がして、荒屋が崩れていく。
新八の目の前を、化け猫の首が飛んでいく。
「ニ゛ャ・・・ァ゛ア゛ッ・・・ァア・・・ッ!」
死に際の叫びに似た声を出し、顔半分の毛が抜けて作り物の目玉が飛び出す化け猫と目が合って、新八は肝が冷えきった。
そのまま出口を飛び出した銀時と土方が我にかえると、新八が猫を抱き締めてすすり泣いており、しかも上半身にボロ布を纏っていたので驚いた。
「ど、どうした新八ィィイイイッ!?なにがあった!?」
「その格好、誰にやられた!?あの鬼婆か!?チクショウ!」
しゃがみこみ首をふるばかりの新八に、ふたりはあたふたする。
「あ、これ、これ着とけ?な?」
「あー、猫。よく猫放さなかったな、うん」
銀時が流水紋の着流しを脱いで新八にかけると、土方が新八のボサボサの髪を手ですく。
それから二人してしゃがむと、新八の背に手を添えて労った。
「よしよし、お化け怖かったな。今夜は厠について行ってやるし、添い寝してやるからな」
「男だろ、メソメソすんな。まぁ、無理もねぇ。今は俺の胸で泣け」
全く的外れな二人の言葉は耳に入れず、新八は腕に抱く猫の温もりだけに集中した。
依頼人には感謝されたが、お化け屋敷のオーナーからは化け猫エリアの修繕費を請求された。
飛び蹴りをしたのは銀時で、回し蹴りをしたのは土方だったので、半額ずつ支払いをする事にした二人の背中を新八は眺めていた。
年上の男二人へ、軽蔑の眼差しを向ける。
トボトボ戻ってきた二人は、その目を、"怖い目にあって元気がない"と思い、励ましてやろうと新八を行きつけの店へ連れていく。
そうしてやっぱり、的外れな宇治銀時丼と土方スペシャル丼を注文して与える。
「糖分サイコーだから。糖分取ってりゃ、大体うまくいくから。食って元気出せよ」
イチゴ牛乳を啜り、銀時が勧める。
「まあ、気兼ねせず食べなさいよ。マヨネーズは力がつくし、おいしい万能食だからね」
煙草を喫み、土方が勧める。
デッドオアデッド。
ウキウキニコニコする二人に挟まれ、欲しくもないどんぶりに表情が死んでいる新八はどちらも拒否した。
「こんなにウマイのに断られた・・・」と、解せない顔で二人が丼を食べる横で、新八はカツ丼を食べて少し元気になった。
新八の右腕を抱く銀時が、小首を傾げて唇を尖らせる。
「ネェ、しんぱちぃ~♡あの人こっちチョー睨んでくるんだけどぉー。怖くなぁーい?」
新八の左腕を抱く土方が、首を揺らして眉をひそめる。
「え?まってまって?しんぱち後ろに何かついてなぁい?ヤダ、ビンボー神ついてるぅー。お祓いしたげよっかぁ♡」
気付けば飲酒している二人は酔ったのか、ぶりっ子な話し方でベタベタ甘えてくる。
イチゴ牛乳と煙草の臭いがする吐息をかけられて、ガタイのいい体を擦り付けられる新八は、店の蛍光灯を見上げて「これは夢だ・・・これは夢だ・・・」と言い聞かせる。
録画でもしておいて後で見せれば、灸を据えることができるだろうか。
それも手立てがなく、他のメンバーもいないので誰も止めてくれない。
「え?目つきワルぅ~マジこわーい♡しんぱち守ってぇ~。つーかさぁーあ、今日はぁ、ウチら頑張ったよねっ?ごほうびが欲し~い~ぃ♡」
「コラッ、ビンボー神離れろぉ。りんっぴょう、とうしゃっ・・・違うじゃんっ、頑張ったのしんぱちじゃんねぇ♡うーん♡いい子いい子したげるぅ」
銀時が二の腕に頬擦りしてしがみつけば、土方は頭を胸に抱いて撫で回す。
いつからこんな悪酔いをするようになったのか。
全然可愛くない男二人がぶりっ子して、競うように、かまい、可愛がってくる。
「お化け屋敷なんかより、アンタらの方がよっぽどこえーよ!・・・・・・しくしく」
この長い夜を思うと、背筋が冷える新八だった。
*****
後日、散々絡み酒の被害にあった苦情を新八が訴えると、銀時も土方も怪訝な顔をした。
ふたりとも酒を一杯飲んだ記憶はあるが、ぶりっ子ウザ絡みをした覚えはまったくなかった。
そればかりか、気付けば私室で朝を迎えていたので不思議に思っていたのだ。
酔って正体を失くしたと云えばそうかもしれないが、二人揃って一杯の酒で、記憶を失うなど、果たしてあるのだろうか。
「で、でも本当に二人ともおかしかったんですって!あっ、土方さんの携帯電話に写真が残ってるはずです!」
「写真?そんなもん俺が撮るわけねーだろ」
「いやマジで!アンタが『記念写真撮ろぉ♡』って云って、三人で撮ったんですよ」
「いやそれ、俺とキャラが違いすぎんだろ。仮にあってもツーショットならともかくスリーショットはない」
「そうだな、それはない」
仕方なく土方は携帯電話の画像フォルダを開く。
「「・・・ひぇ・・・・・・」」
「ほら!!!」
たしかに、うんざり顔の新八を挟んで、土方と銀時が楽しそうに笑っていた。
土方はウインク、銀時はピースまでしている。
二人とも、己だとにわかには信じがたく、固まってしまった。
画面を見つめていた新八が「あれ?」と声をあげる。
「これ、なんでしょうね?」
画像の中、銀時と土方の頭に、丸い黄色の光が写っている。
店の照明にしては妙な光り方をしていて、新八の頭にはなかった。
更に良く見れば、銀時と土方の服にそれぞれ変な影が浮いている事に気付いた。
「ねぇ、これ・・・なんかさぁ・・・」
先まで云わない銀時だが、かなり顔っぽい形だった。
土方が黙ったまま携帯電話を新八に渡すと、静かに煙草をふかし始める。
ひきつった顔で再び銀時が「オイ、これ、まさか・・・」と呼びかければ土方は「いや。汚れか煙かなんかだろ」と同じひきつった顔で返す。
「だ、だよねー。わかってんだよ俺だってそんなこと」
「そうですよ。人は丸が3つ並べば顔に見えるんですから。携帯返しますね」
返された携帯電話を受け取った土方は、暫く眺めてから二人へ困った顔を向けた。
「・・・この画像どうすりゃいいんだ?」
「どうって、消せよ。どのみちスリーショットはキツイし色んな意味で気味悪ーだろ」
「いや、ただ消すだけで大丈夫かなーみたいな・・・お祓いとかするかなーみたいな・・・」
いよいよ、シン・・・となった。
周りの温度が下がった感覚、ゾッ・・・・・・
弾かれたように銀時が叫ぶ。
「いやいやいや!お祓いとか、そんな、お前なにいってんの!それじゃ、アレだよ、まるでアレみてーじゃねーか!!バカヤロー!!!」
「万が一があるかもってんだ!この画像を消して俺が呪われたらどうすんだ!!」
「呪物だとしてもお前の携帯電話だろ!俺達を巻き込むんじゃねェェ!」
「バカか!お前にもアレが写りこんでるんだから当事者だろが!」
「あぁもう、なんで、俺ピースなんかしてんだ!!チクショーー!!」
がなり合う二人は下唇を噛み締めると、青ざめた顔を新八へ向けた。
「「・・・一緒にお祓い行ってください」」
『しんぱち可愛かったぁ♡肌柔らかいしぃ、なんかいい匂いしたくなぁーい?』
『したぁ♡髪サラサラでぇ、あの泣き顔が最高カワイソーでカワイイ♡』
『わかる♡またあの二人使ってしんぱちと遊びたぁ~い♡』
『それ~♡しんぱちへの執着強くて乗っ取りやすいのウケる♡拗らせすぎ!』
キャハハハハハハハハ・・・
了
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