私はただの戮する道具です
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※必読事項※
⇒この話に出てくる主人公は擬人化出来る凛刀です。
⇒擬人化に嫌悪感を抱く方は御戻りになって下さい。
⇒それでも構わない方は御待たせしました。どうぞ、次に進んで下さい。
私の手にある一枚の紙。一見すれば、ただの紙切れであろうものには『贈』と書かれている。それだけで、この紙には非常に値打ちがあるのだ。
「はははははは半兵衛さん!!!!や、やりましたよ!見て下さい!!」
歓喜に打ち震える私とは対照的に半兵衛さんはうんざりとした冷めた眼で私を見ていた。
「やれやれ、やっとかい?まったく、君は本当に愚図だね。日が暮れるくれるかと思ったよ」
流石は半兵衛さん。見事に私の漲る喜悦を不快へと化して下さいました。沸き上がる情熱もあなたの眼と同じ位、冷めきりましたよ。
無駄に溜まった百枚のくじ引き券を持参して買い物へとやって来た半兵衛さんと私。半兵衛さんはくじ引き券を全て私に渡し、「全額割引の大当たりを出すんだ。さもなくば君を錆まみれにする」と言って自分はくじを引かず、私に引かせました。私が錆まみれになったら困るのはあなただろ、と思いつつ、この人ならやり兼ねないし、錆塗れになるのは嫌だったのでくじを一枚、一枚祈る様に引いていきました。外れを十回連続で引いてしまった時、半兵衛さんは静かに笑っておられました。あの笑顔の訳は今となってはわかりません。ただただ恐ろしかったです。笑顔の裏の思惑を考えただけでただただ恐ろしかったです。
途中で数回、全額割引ではなかったが、半額の大当たりと一万両の大当たりを出して、とりあえず浮わつきながら報告したら、「君は言葉が理解出来ないのかな?僕は全額割引を出せと言ったのだよ。こんな端金やらを出せとは言っていない」と他人の気持ちを理解出来ない半兵衛さんに言われました。因みにくじ引きで出した半兵衛さん曰く端金は私の懐に詰め込まれています。有り余る富があるのに半兵衛さんはしみったれてます。そんな事を言ったら錆まみれにされるので黙っています。
そして、奇跡的に最後の一枚で全額割引の大当たりを出した事により、私は錆塗れになる危機から免れたのです。さてさて、半兵衛さんは私の努力の結晶で一体何を買うのか。やはり、この店で一番高価なものだろうか。半兵衛さんを見ると、顎に手を添えて何かをじっと見ていた。気になった私は半兵衛さんの視線を辿り、先にあるものを見る。そこには他の商品と一緒に「お楽しみ武器 七万両 買ってからのお楽しみ!」と売り文句が書かれた小さな立て札が台の上に陳列されていた。いやいや、まさかまさか。あれだ、あれ、見てるだけなんですよね。うん。そうに決まってる。だって、うん、だって、そうじゃないか。買う必要がないじゃないか。買う理由がない。うん。ないない。誤解を招く言い方になってしまうが、私と言うものがありながら、買うはずがない。それに店の人には悪いがそんなありふれた売り文句が天才軍師様の心を惹き付けるはずがない。
「ふむ、これは気になるね」
「異議あり!!!!」
気になるって!気になるって何ですか!天才軍師と名高き、竹中半兵衛ともあろう者が敵の謀略に落ちるとは何事ですか!って言うか、錆まみれにするって脅迫したくせにそれを買ったら私は埃まみれになって最終的に錆まみれになるじゃないですか!
「何だい?そんな血相を変えて」
「誰のせいだと思ってるんですか!?そりゃあ、血相も変わりますよ!今まさに、お役御免にされちゃうかもしれないのに黙ってられませんよ!」
「聞くところによると、お楽しみ武器と言うのは高確率で致命的命中が生じるらしいのだけれど…名前、君はどう思う?」
「こ、この野郎!話を聞いていたんですか!?何、真剣に私に意見を求めちゃってるんですか!?」
あなたの発言がいちいち致命的命中だと思いながら、私はかなり気が急きまくっていた。何がお楽しみ武器だ!何がお楽しみなんだ!私の役目を剥ぎ取ろうとする事がそんなに楽しいのか!楽しくもなんともないわ!お楽しくない!
「大体、買ってからのお楽しみってどんなものかわからないんですよ!?買ってから後悔するかもしれないんですよ!?
「でもね、名前。致命的命中の確率が高いのだよ」
「もしかしたら、関節剣なんかじゃなくて国際派がこよなく愛した万国旗かもしれないですよ!?どうします!?万国旗ですよ!?既に関節剣でもなければ武器でもないんですよ!?」
「万国旗か…」
「そうですよ!もしかしたら万国旗かもしれないんですよ!」
「万国旗なのに高確率で致命的命中が発生するのは凄くないかい?」
「そんなに大事か!?あなたにとって致命的命中はそんなに大事なのか!?そして、二度も私に意見を求めるな!」
こんな時に半兵衛さんはいつものあの妖しい笑みを一切浮かべたりしない。さっきから真顔で話している。何だ。本気なのか。本気で私を現職から退けようとしているのか。所詮、私はただの伸縮自在な関節剣と言う事か。お楽しみ武器なんてふざけた名前の武器にすら攻撃力は著しく劣るのだから。あ、なんか眼と鼻から汁が出そうな気がする。
私は完全に意気消沈した。半兵衛さんの致命的命中な言動に完全に意気消沈した。下を向いて発せられた声は自分でも聞き取りづらい程、か細いものだった。
「………半兵衛さんがそんなに気になるなら…買えば良いんじゃないでしょうか」
「…良いのかい?」
胸が痛む。「だから、聞かないで下さい」と声が出なかった。黙って一度だけ頷く。私は半兵衛さんの所有物なのだ。所有者の意志は所有物の意味。それに反する行為などたかが物のくせに甚だ以て浅ましい。そう理解しているはずなのにどうにも悲しくなるのは何故だろう。
その時、俯く私の顔を半兵衛さんが覗き込んできた。吃驚する私にただ一言こう言った。
「はは、不細工な顔だね」
たった一言だった。その一言で私の中で何かが切れた。
「うわあああああ!!!!!!半兵衛さんなんかっ、半兵衛さんなんか戦に出る度に落馬して夥しい程に吐血すればいいんだあああああああ!!!!!!!!」
感情のままに私は半兵衛さんを攻撃するが頭上から笑い声が聞こえるあたり、全く通用していない様だ。それが恨めしくて私は更に攻撃する力を強める。
「うわあああああ!!!!!!半兵衛さんの馬鹿野郎!!!!!!」
「名前、少し落ち着くんだ」
「この冷淡無慈悲の鬼軍師めえええ!」
「止めるんだ、名前」
「阿呆!呆け!人でなし!禿げ!」
「止めろと言っているだろう!」
「へぶしぃっ!!!!」
均衡型とは思えない半兵衛さんの命の限りの鉄拳を左頬に抉り込まれた私はその勢いで半回転して地面に倒れた。もう疲れました。もう満身創痍です。もうこのまま私を放って置いて下さい。一人にさせて下さい。一人で泣かせて下さい。
「まず僕は、阿呆でもなければ呆けでも人でなしでもない。ましてや禿げてなどいない」
私が感情的に吐いたただの悪口を態々、正面から否定する半兵衛さん。いいですよ、一々そんな事しなくても、わかってますから。それよりも私の殴られた左頬に風穴はあいてませんか。
「それに僕は君以外の武器で戦うつもりなんて端からないよ」
地面に密着させていた頭を勢いよく上げた。土で汚れ、左頬に損傷を受け、多分、素っ頓狂な顔をしている私をいつもの様に侮り薄笑いながら半兵衛さんは見ていた。
「まさか、本気にしてたんじゃないだろうね?」
「えっ…あの…」
「僕は夢を果たすよ。その障害となるもの全てを切り裂き、断絶する。それが君の役目、そうだろう?」
「は、はい!」
そもそもの発端はこの人の何かと意味もなく揶揄する悪癖のせいなのだが、その事を忘れ、絡まっていた糸があっさりと解けていく様に私は安堵していた。壊れる事よりも棄てられる事を何よりも恐れる。やはり、私は物象であるのだ。
「さて、可愛い僕の名前が焼き餅を焼くから武器は止めるとして」
「いや、決して焼き餅じゃないですから」
「そうだね……仕方ないから、ごますり棒でも買うか」
「止めて!仕方なく私の努力を無駄にしないで!」
私はただの戮する道具です
(結果は仕方なく潰えた。)
MANA3*090705