私はただの人殺しの道具です
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※必読事項※
⇒この話に出てくる主人公は擬人化出来る凛刀です。
⇒擬人化に嫌悪感を抱く方は御戻りになって下さい。
⇒それでも構わない方は御待たせしました。どうぞ、次に進んで下さい。
大阪冬の陣。
灰色の雲が澱み、空から射す光など一つもなかった。
遠くから微かに響き渡ってくる合戦の最中の叫哭を聞きながら、私と半兵衛さんは、橋が架かった門の前で待機していた。
「半兵衛さん。敵に出会した時に、私を地面に叩き付けるの止めてくれませんか。癖なのか何なのか知りませんけど、私が損害を受けるだけですので」
「何を言うんだ、名前。あれをしないと何も始まらないじゃないか」
「意味が解りません。あれをする事によって何が始まると言うんですか?損害を受ける私には意味が解りません。兎に角、もうしないで下さいよ!」
「はいはい、わかったよ。次からは少し手加減してやる事にするよ」
「あなたは一体何を理解したんですか」
半兵衛さんはわかったと言ったが、きっと何もわかっちゃいない。あの時の私の不必要な痛み、そして苦しみを。
これ以上言っても無意味なだけだろうから、ただ次が無い様にと祈るばかりだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「名前」
「何ですか」
「僕達も戦線へ出ようか」
「駄目ですよ。何言ってるんですか?何言っちゃてるんですか?自ら考えた布陣を自ら崩すつもりですか?」
「こうして敵を待つ時間さえも僕には惜しい。全く、書物を何冊読めるやら」
「趣味?趣味ですか?策を練るんじゃなく」
軍師としてあるまじき発言をする半兵衛さん。いや、この人に時間がないのは解っている。一刻一秒も無駄にしてはならないのだ。
「じゃあ、何か新しい技でも考えましょうか?」
「…………例えば?」
意外にも半兵衛さんは私の提案に対し、軽くあしらったりはせず、食い付いてくれた様だ。
てっきり、この人の事だから「下らない」の一言で終わると思っていたのだが。
「そうですね、例えば…半兵衛さんが人型の状態の私を敵に向かって投げて、敵が怯んだ所で私が武器に戻って敵を突く技なんてどうでしょうか?」
「下らない」
結局、下らないと言われてしまった。
そりゃあ、相手を翻弄する華麗な技の数々を繰り出す半兵衛さんにとっては、華麗の『か』の字も有りもしない技でしょうけども。
「他に何かないのかい?」
「他…他、えーじゃあ、下から上に私を振り上げて、敵を空中に飛ばす技はどうでしょう?これだと連続攻撃も狙えますし」
「却下」
理由は解らないが、却下されてしまった。
さっきよりはまともだし、良い技だと思ったのだが。
「じゃあ、伸縮した私で敵を巻き付けて、」
「却下」
「一回転して、敵を薙ぎ払」
「却下」
「棘を」
「却下」
「あれも却下!それも却下!そして、これも却下!最後に至っては聞く気すら窺えない!そう言う半兵衛さんは何か良い新技を思い付くんですか!?」
遂に憤怒した私に半兵衛さんは無表情な顔を向け、その冷めたい眼差しを注いだ。
「僕に新しい技は必要ない」
じ ゃ あ 何 故 こ の 話 題 に 食 い 付 い た 。
次の瞬間、視界に青い稲光が入った。雨でも降るのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
「見付けたぜ、竹中半兵衛。俺に喧嘩売った覚悟は出来てるか?」
あれは奥州の伊達さんではないか。何やら大分、怒っていらっしゃるみたいなのだが。
そう言えば、以前、真田さんとの勝負に水を差した事があった記憶が…。出来れば、間違いであってほしいのだが、伊達さんの様子からして残念ながら間違いではないみたいだ。
だから私はあの時、止めておいた方がって言ったのに!この鬼畜軍師ときたら!
「名前、行くよ」
「…はい」
私は素早く凛刀に姿を変え、半兵衛さんの手に収まる。
相手はあの独眼竜。容易く勝たせてはくれなさそうだ。
「待つのは嫌いなんだ。早く決めてくれないか。豊臣に従うか、それとも…―」
ビシィ!!!!
「痛い!!」
「ここで朽ち果てるか!」
「ちょっ、おま、この野郎!!止めてって言ったのに!わかったって言ったのに!解ってない!解ってないあなたがここに居る!」
思わず人型に戻り、背中を擦りながら抗議する。しかし、半兵衛さんは罪悪感など微塵も感じられない涼しい顔をしている。
「何を言ってるんだい。ちゃんと手加減してやっただろう?」
「私は止めてって言ったんですよ!?てか手加減したって言ってますけど心なしかいつもの三倍くらいの痛さだったんですけど!」
「Ha!来ねぇんなら、こっちから行くぜ!」
こちらに向かって伊達さんが物凄い勢いで走って来る。いけない、早く武器に戻らなければ。
「やれやれ、これだから嫌なんだ」
がしっ
ぐい
ドゴォ
「痛!!!!」
何を思ったのか半兵衛さんは私の足首を掴み、持ち上げた。必然的に私の頭は地べたに強打する。
私の両膝を両脇に抱え、そのまま半兵衛さんは勢い良く回り始める。
「ちょちょちょちょちょちょちょ!!!!!!!!!!何これ、何ですかこれ!出そう!口から何か出そうですよおおおおええええ!?!?!?」
木霊す絶叫を無視した半兵衛さんは回す勢いを利用して私を伊達さんに向かって投げ飛ばした。
「今だよ、名前!僕達の新しい技を見せる時だ!」
ああ、成る程、そう言う事か。そう言う事なのだろうか?
再び、私は姿を凛刀に変える。
「What!?」
ガツンッ
金属と金属がぶつかり合う音。
投げ飛ばされた私は伊達さんの兜に直撃した。伊達さんはその場に倒れ、人型に戻った私はその場でもがき苦しんでいた。
そこへ、半兵衛さんがやって来て、顎に手を添え、考える仕草を見せた。
「ふむ…名前。やはりこの技は却下だ。実に下らない。それに、君は僕の手の中に収まっていなければならない。まぁ予想していたよりは少し面白かったけどね」
「な…んですか、…面白い…て……」
「さぁ、名前。早く武器に戻りたまえ。竜に止めを刺す」
「ちょ、…すいません……休憩を……」
「……ふぅ、仕方がないね…」
「へぶっ!!!!」
半兵衛さんは無慈悲にも倒れている私を踏み越えて、気絶している伊達さんの所へ歩み寄る。
そして、伊達さんの腰にある刀を一本手にした。
それで、止めを刺すのか思ったのだが、半兵衛さんはその刀で足下の地面を掘り始めた。
私はただの人殺しの道具です
(あの人、まさか埋める気なのか!?)
MANA3*080911
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