輝かしき青春の日々よ
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※歌詞を一部引用しています。
本日の授業を全て終えた放課後。
卑猥眼帯こと政宗に誘われて、政宗と元親と就さんと佐助と半兵衛さんと私と、まぁいつものメンバーでカラオケに行く事になった。薄暗い密閉された空間に騒がしい音が飛び交い反響する。実は私は皆とカラオケに行くのは初めてだったりする。だから、皆の歌声を聞くのも初めてなのだ。
「♪Maybe there are some reasons to any body 」
今、歌ってる政宗は予想通り上手い。めちゃくちゃ上手いと思う。うん。でも、こっち見ながら歌うのを止めてほしい。卑猥な笑みでこっちを見ながら歌うのを止めてほしい。
「ねぇねぇ、名前ちゃん!これ知ってる?」
自分は何を歌おうかと思いながら本を捲っていたら、もう一冊の本を手にした佐助が愛想の良い笑いをしながらある曲を指差して私に尋ねてきた。部屋が薄暗い為に文字が見えにくい。指差す箇所に顔を近付けてみると、指し示すそれを私は知っていた。
「あ、うん、知ってる」
「本当に!?じゃあ、一緒に歌おうよ!」
「うん、いいよ」
佐助は余程、それを歌いたかったのかガッツポーズを決め、曲を予約するのに手にしたリモコンを操作し出した。再び、私は本を捲って曲を探し始める。
部屋に流れていた音楽がピタリと止む。どうやら、政宗の歌が終わったみたいだ。
「どうだった名前。俺のcool voiceは?」
「やっぱり政宗って歌上手いね」
「俺と二人っきりなったらお前だけの為にこの声を聞かせてやるぜ。勿論、名前のcuteな鳴き声も聞かせてもらうけどな」
「うん、その卑猥な声と台詞が吐き出る口は二度と開口出来なくなれば良いと思うよ」
既視現象が起きる。果たして、このイントロを聞くのは何度目だっただろうか。
「ほれ、始まったぞ」
「何でお前、自分で歌わないんだよ!」
「喧しい。さっさと歌わぬか、明日も無事に日輪を拝みたければな」
あのやり取りを見るのも果たして何度目だろうか。泣く泣くマイクを握り締め、元親は歌い出す。
さて、手のひらを太陽にはいつから哀歌になっただろうか。こんなに悲しい手のひらを太陽にを私は嘗て聴いた事がない。これだけ歌われたらやなせたかしさんもさぞやお喜びになるだろう。歌っている当人の姿はあまりにも惨めだが。
「♪みんなみんな~生きているんだ友だちなんだ~」
これ以上見てられません。これ以上の皮肉もありません。
「就さん。就さんは歌わないの?」
「我はこの様な戯れ事は好かぬ」
「えぇ~、私、今日まさか就さんが来てくれるだなんて思ってなかったんで、来てくれて歌聞くのちょっと楽しみにしてたのに」
「それは…」
「それは?」
冷やかに元親に向けられていた視線が私に向けられる。言葉を濁し暫しの沈黙の後に一瞬伏し目がちになった就さんだが、直ぐにまたあの切れ長の目に私を写す。
「…いや、なんでもない。歌ならば、またこやつらが居ない時にでも好きなだけ歌ってやる」
「本当ですか!?」
「ああ」
あぁ、就さんの微笑みなんて久々な気がする。元親には悪いがやはり就さんは私の癒しです。あまり笑って下さらないこの人が微笑んで下さった日にはもう、日常で溜まる疲れやストレスも一気に吹き飛びますよ。
そんな就さんからこの空間に居る限り続く呪縛を課せられた元親が歌い終えて、私の隣にどかっと座った。口を半開きに、いつもの生き生きとした眼からは光が消え失せ虚ろに天井を仰ぐ。
「あー」
「何て言うか…お疲れ」
「……あぁ……」
「用事出来たとか言って抜け出せば全てから解き放たれるかもよ?」
「何、一緒に帰ってくれんの?」
「ううん」
「じゃあ、帰んねー」
天井からこちらに移された疲労感溢れる表情は再び天井へと戻った。原因が原因だが、元親の横顔が何とも切ない。
「………あー、やっぱ辛ぇかも」
「泣きそう?」
「泣かねーよ!…なぁ、ちょっと肩かしてくんね?」
言うや否や、肩に寄り掛かろうとした元親だったが、それは突然、誰かに勢いよく手を引っ張られ、私が立ち上がった事によって、元親は私の肩に接触する事なくソファーに倒れた。
「おーっと!お取り込み中のところ悪いけど、俺様達の番だよ名前ちゃん!」
私の手を引っぱったやたら笑顔の佐助から両手を握り締められながらマイク渡される。私は倒れ方がいけなかったのか首を抑えながらもがく元親を尻目に曲のイントロが流れ始めたので佐助と共にスタンバイした。
♪チャ~チャ~チャ~チャ~チャ~~
「「♪UFO」」
「古っ!」
「お前ら歳いくつだよ!?」
佐助が私に一緒に歌おうと言ってきたのはピンクレディーだった。歳が幾つだと言う政宗の問いには君達と同い年だと心の中で答えた。
「歌える上に踊れるって、てめぇら一体何者だよ!」
「Hey!Foolish monkey!!そもそも何でお前が名前とduetしてんだよ!おい、聞いてんのか猿!」
完全に政宗を無視して歌と踊りに没頭する佐助。活力溢れる友人の姿を見て彼の日常で溜まりに溜まったストレスや鬱憤が窺える。本当に佐助を見てるとちゃんと家の手伝いをしようと思う。
「「♪背番号1のすごい奴が相手」」
「medley!?」「メドレー!?」
ちらりと隣を見ると目が合って、いつもとは違う感じで佐助が笑った。それはまるで、テレビの向こう側に存在するアイドルの様にも見えた。一瞬、佐助が物凄く格好良く見えた。しかし、歌っているのはピンクレディーだった。
ピンクレディーメドレーが歌い終わった瞬間に佐助は政宗と元親と就さんの三人から懲らしめられていた。理由は解らない。
喉を潤そうと私はグラスを手にしてストローを吸う。一人分の間隔を空けた隣には四人が部屋の隅で争ってる事に全く無関心でつまらなそうに携帯を弄ってる人物がいる。就さんと同じくこの場に居る事が意外であるその人は、本当は本が読みたいであろうが、部屋が薄暗い為にそれが出来ずに仕方なく携帯を弄ってるかと思われる。
「半兵衛さん、歌わないんですか?」
「歌わない」
携帯から目線を離さずに即答。何でカラオケに来たんだろうか。
「折角、来たんですから何か歌いましょうよ」
「遠慮しておく」
「…………」
「…………」
「もしかして、音痴なんですか?」
途端、半兵衛さんは手にしていた携帯をパチンと閉じて、机に置かれていた本を手にして頁をパラパラと捲り始める。
「良いよ。歌ってあげるよ」
「本当ですか!?」
黙って携帯を閉じられた時、てっきり物理的制裁を受けるかと思っていたので私は安堵していた。それにまさか半兵衛さんの歌声が聞けるとは。
目当ての曲が見付かったのかリモコンを手に取り、素早くボタンを押して装置に向かって送信する。
「ああ、君が歌ったらね」
「へ!?」
唖然として状況が理解出来ずにいる私の耳に無情にも曲のイントロが入ってくる。何故、半兵衛さんが歌うのに有無を言わさずに私が歌わなければならないのか。て言うか、私、今さっき歌ったばかりなんですけど。あー!解らない!何一つ解らない!
「ほら、始まるよ」
「え!?は!?でええ!?!?」
急かされた私は結局、訳の解らないままにマイクを握り、半兵衛さんが選曲した歌を歌わされるはめとなった。
「♪洗い立ての黒い髪が馨って」
今まで、興味なさそうにしていた半兵衛さんなのだが、今は私の歌う姿をニヤニヤと厭らしい表情で見ている。何ですか、これ。何ていう羞恥プレイなんですか、これ。いつの間にか無益な争いをしていた四人もソファーに座り、黙って私の歌う姿を凝視していた。何故だ!あー!何か一気に恥ずかしくなってきた!そんなに見られると気にしてなかった歌詞が凄く気になり始めるんですが!
私に現在進行形で羞恥プレイを施した半兵衛さんを見ると、その手にはリモコンが握られている。次に自分が歌う曲でも入れているのだろう。そう、考えてる内に歌が終わった。数分間のはずが誰かのせいで数分間ではなく非常に長いものに感じた歌と言う名の羞恥プレイが終わった。あの人に掛かれば何でも他人を加虐するものへと変わるんだ。
「はい、次が始まるよ」
「ええええ!?!?」
さっきのは自分の曲じゃなかったのか!まだ、この羞恥プレイを続けさせるつもりなのか!異議を唱える隙もなく、曲はまたしても無情にも始まった。
「♪約束は要らないわ 果たされないことなど大嫌いなの」
「Ah-…that's awesome(やべぇ)…」
「…あぁ……」
「竹中の旦那、涼しい顔してやってくれるよね」
「邪計だな」
「おや、そんな事を言われるなんて心外だよ、元就君」
ちょっと、半兵衛さん!あなたの手に握られているリモコンが三度、装置に向けられてるのは何故ですか!今度こそ自分が歌う歌って思って良いんですか!?ぎゃ!画面の端にこっそり表示された曲名がまたしても際疾い曲なんですけど!これも私が歌うんですか!?歌うんですね!そうですね、畜生!
この後も、羞恥プレイワンマンショーは続いた。続けさせられた。歌わされた全ての曲が色々と際疾いもので煽る様なものだった。何故、そんな曲をあの人はあんなにも知っているのだろうか。お陰で私の心と喉は枯渇しました。歌は世界に平和をもたらしません。そして私にも。
「…あ゛…あ゛な゛だという゛人は……」
「どうしたんだい、名前、その声は。まるで人目を憚って生息する化け物の様だね」
あ、あなたと言う人は本当に…!誰のせいで私の声が嗄れて人目を憚って生息する化け物の様になってしまったと思ってるんだ!お前だ!お前のせいだ!お前ただ一人のせいだ!お前の心に巣食う本当の化け物のせいで私は化け物みたいになってしまったんだ!
水分を補給しようとグラスに手を伸ばしたら半兵衛さんがグラスを遠ざけた。このモンスターめ!でも、就さんがグラスを取ってくれて私は何とか渇いた喉に水分を流す事が出来た。ありがとう、就さん。
「最高にcharmingだったぜ、名前?」
「私は最高に不愉快だったよ」
「いや、でも、良かったぜ」
「元親君。君なら私の気持ちを解ってくれると思ったのに、この裏切り者め」
「いやぁー、名前ちゃんが歌ってる間、俺様ずっと動悸が止まらなかったよ!」
「どうしたの?病気?」
「………艶麗ではあった」
「就さん…!」
「「「納得いかん!!!!」」」
「半兵衛さん、約束なんですから何か歌って下さいよ」
「はいはい。わかっているよ、モンスター」
「モ、モンスターって言うな!もう、モンスターではない!」
人の皮を被った悪魔が今度こそ本当に自分が歌う歌を入れたのであろう姿を視界に捉えた時、しっとりとしながらも独特のリズムのイントロが流れ出す。
マイクを握り、息を吸う。
輝かしき青春の日々よ
(((((悪魔から聖なる歌声が…!)))))
MANA3*090710