懇ろへの報復
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高校一年生の時、近所の幼稚園に体験実習をしに行って幼稚園の良い子の子供達と遊んだりした記憶がある。和気藹々たる雰囲気で明るく元気な可愛い子供達と過ごす中、教室の片隅でぽつんと座り込んで絵本を読む一人の子供の後ろ姿が私の目に映った。気になって話し掛けたその子の名前は確か、…そうだ、確か三成君だったはずだ。三成君に話し掛けた私だったが、ちらりと向けられた子供ながらに冷たく鋭い視線は直ぐに逸らされてしまった。因みに鋭いのは目付きだけではなく、前髪も鋭かった。これは手強いぞと思った私は何とか三成君の気を引こうと折り紙で狐を折ってみた。ちゃんと尻尾も前足も後ろ足もある狐だ。何で狐かと言うと三成君が何となく狐っぽく見えたからである。本人には言わなかったけれども。作った狐を三成君に見せるとあの鋭く冷淡だった目を嘘の様にきらきらと輝かせながら狐を眺める彼にあげると言えば一度私を窺う様に見てから無言で狐を受け取ってくれた。受け取った後も狐を食い入る様に見続ける三成君の表情が若干ではあるが和らいで見えて私は満足した。その後、体験実習が終わるまで私はずっと三成君と遊んだ。最初と比べても心を開いてくれた様で私も嬉しかった。
別れの時が来て三成君が私にくれたのは折り紙で作った指輪で、彼は他人と接する事が不得手らしく、それと同じくどうやら手先の方もあまり器用ではないみたいで指輪は少し歪な形をしていて大きさもぶかぶかで親指にしか入らなかったがそれでも私は凄く嬉しかったのだ。ありがとうと一言お礼を言って頭を撫でてあげれば彼は照れていたのか顔を隠す様に俯いた。そしてぼそぼそと何かを呟いているのが聞こえて良く聞こえなかった私はもう一度言ってくれないかなとお願いすると三成君は「おおきくなったらけっこんしてほしい。だからそれまでまってていてくれ。」とませた事を言うもんだから随分と懐かれてしまったものだと驚いた私だったが詰まる所は子供が言う可愛い約束事。この子も成長して大きくなって色んな事を学んで色んな事を経験して恋だってするだろう。私と遊んだ事など忘れてしまっているか、覚えていたとしても頭の片隅で辛うじて朧気に残っている程度であろう。もし、私がここで断ると三成君は悲しむだろうか。きっと、悲しむ。三成君のそんな表情は見たくはない。彼が喜んでくれるならと私は「いいよ。」と言った。私がそう言えば三成君は過ごした時間は短いものであったがその中で一番の綻んだ優しい表情を見せてくれた。約束と指切りげんまんまでさせられて、「他の子とも仲良くね。」と私は幼稚園を後にした。
思い返した記憶はもう今は昔、十年以上前の出来事。どうやら三成君ではなく、私の方があの時の事を忘れていた様でとある切っ掛けによりついさっき思い出したのだ。三成君はと言うと当時の私の予想を大きく裏切り、その頃の思い出を鮮明に悉に覚えていた。もう彼此、十年以上、正確には十三年の歳月が経過しているのだが、その間に三成君と逢ってもいない私が何故そんな事がわかるのかと言うと、十三年の間ではなく、今日、現在、たった今、この瞬間、リアルタイムで、三成君と思いもよらぬ再会を果たしてしまったからだ。
「名前。」
私の名前を呼ぶ彼はあの頃の彼と比べて声も愛らしいものから低く落ち着いたものになっていて、私を見下ろす程に背も高くなり、小さかったあの手も男の人の逞しい手になっていて三成君はイケメン男子へと変貌を遂げていた。きつい目付きは更に鋭さを増していたがあの前髪だけは今でも健在の様だ。家に帰ろうと一人で居る所を誰かに呼ばれたかと思い、振り返れば恐ろしい剣幕と陸上選手も顔負けな凄まじい速さでこちらに接近して来る人影に驚愕し、恐れ戦いた私は腰が引けてその場から動くのもままならず棒立ちでいるとそのまま強く抱き締められた。それはそれは逃がすまいと言わんばかりに強く。私を抱擁するその人間こそが三成君だった訳なのだが。
「名前、長い間待たせてすまなかった。」
「え、ええ、いや、うん、そんな事ないよ。」
待たされたなんてこれっぽっちも感じていない。だって私はその約束を忘れてしまったのだから。だからと言ってとてもじゃないがその事実を告げられる雰囲気ではないし、言う勇気が私にはない。
「……相変わらず貴様は優しいのだな。」
「そ、そうかな、あはは。三成君はあの頃と比べて変わったね!見違えたよ!いやあ、大きくなったもんだ!」
「当然だ。いつまでもあの頃の私のままだと思うな。今の私ならば貴様を守ってやる事も養ってやる事も出来る。」
ん?養う?今、この子、養うとか言いましたか?養うとはなんぞや。いや、何となく、こう言ってしまっては三成君には悪いのだが嫌な予感がするのだ。困惑する私を余所に三成君は私の手を取り甲にそっと唇を寄せる。ひょげえええ!!!!何してんじゃ君!君、君そんな子だったっけ!?ませてはいたけどそんな子じゃなかったよね!?!?どうしたの!十三年の間に何かあったのか!?!?十三年間の内にもう折り返し地点があったのか!?!?体の温度が熱暴走を起こしそうな程に勢い良く上昇していく。それは私を更に困惑する要素となった。あたふたとする私の様子が面白かったのか三成君がフッと少しだけ笑ったかに見えた。あ、格好良いな。…じゃなくて!
「良いか。一度しか言わんから良く聞け。」
言うや否や三成君はポケットをごそごそと探り何かを取り出す。その取り出した何かを手に取ったままの私の左手の薬指に嵌めた。それはシンプルながらも綺麗な銀色に輝く指輪で一瞬、思わず見蕩れていたが私の中の理性が直ぐに意識を現実へと戻す。あれ、何これ。何なのこれ。ねえ、三成君。意味わかってる?わかってるの?ねえ?何でこれサイズぴったりなの?怖いんだけど。いやいや、そんなまさかまさか。十三年前だよ?しかもお互いまだ未成年ですよ?子供ですよ子供。そんな前の約束を誰が律儀に忘れず覚えていて果たそうと言うのか。そんなもん時効ですよ時効。時効になっても致し方ない約束を、しかも結婚だなんてそんな大層な内容を未だに覚えていて約束だからと言ってその通り結婚しちゃう純真無垢な人間がこの世に居る訳が―――――
「あの時の紛い物ではなく本物の指輪だ。好きだ、名前。十三年前のあの時からずっと私は貴様だけを想い続け生きて来た。私と結婚しろ。私のものとなれ。拒否は認めない。」
懇ろへの報復
(純粋な君の瞳の何たる憎らしいこと。)
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先週の探偵ナイトスクープを観て。実際はこんな内容ではないのですが。
MANA3*120920