ジレンマエスコート
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私が歩けば歩く。私が止まれば止まる。私がすたすたと歩調を速めれば、すたすたと歩調が速まる。私が止まればやはり止まる。私が全力で走ればカサカサと人間離れした音が聞こえて来る。何これ怖い。いや、原因はわかっている。今一度、私はその場で制止して後ろを振り返り、先程から一定の距離を保って後を付けて来る人物を見遣る。
「な、何で付いて来るんですか石田さん!」
「私の事は気にするな。」
「いや、気にしますよ!こんなにぴったりと執拗に付け回されたら気にするし怖いんですけど!私が何をしたと言うんですか!」
朝起きたら枕元に石田さんが目をかっとさせながら座っていらした。私は吃驚した。吃驚して逆に声が出ませんでした。恐怖体験アンビリーバボーである。本当に驚きのあまりもう一度寝てそのまま二度覚めぬ眠りに就くかと思いました。気が動転した私は他に言う事があっただろうに何故か石田さんに朝の挨拶をした。しかし、石田さんはそれを無視して部屋を出て行くもんだから私は地味に傷付いた。無視と言う行為が如何に他人を傷付けるものなのかを知らないらしい。その後、着替えて部屋を出たら石田さんが居て吃驚した。声が出なかった分、吃驚した。何この周到な二段構え。何となくもう一度挨拶をしたのだが顔を逸らされまた無視をされた。誰か私を救ってくれ。それから冒頭に至る訳なのだが、何て寝起きどっきりなんですか、これ。いや、もうただのどっきりなのかこれは。主催者は誰だ、最終鬼畜軍師竹中半兵衛か。まったく、あの人の明晰なる頭脳からは碌な発想が出ないな。そんな事に付き合わされて石田さんも可哀相に。一番可哀相なのは他でもない私ですけど。
石田さんとは然して仲良くはない。会話を交えた記憶も果たしてあるかは怪しい所。加えて、私は石田さんが苦手だ。人を見た目で判断するのはいけないのだが、目付きは悪いし、前髪は研ぎ澄まされていて突き刺さりそうだし、この前なんか味方の兵の方を素手で殴り倒したりしちゃっているではないか。その人達が一体何を仕出かしたのか知らないのだが、目撃した私には恐怖でしかなく、見た目通りの人なんだと言う印象が定着してしまった。石田さんは怖い人なんだと。半兵衛さんとは別の意味で怖い人だ。ニュータイプだ。
そんなニュータイプ石田さんに朝から付け纏われている。空気が気まずい事、この上ない。
「私は半兵衛様から貴様を護衛する様にと仰せ付かったまでだ。」
護衛?一体、あなたは何から私を守ってくれると言うんですか。正直、あなたが後ろに居られると身の危険しか感じないのですが。心が酷く休まらない。てか、首謀者はやはりあの人だったか。くそっ、自ら赴かずとはいつもとは違うパターンで来たな。知ってか知らずか選りにも選って私の苦手な石田さんを差し向けて来るとは。あの人の事だ。きっとわかった上でやっているに違いない。何て陰湿な。
「護衛なんていらないですよ。見ての通り私は無力な人間ですから。」
「貴様は半兵衛様からのご厚意を無下にするつもりか。」
「それは恐らく厚意ではなく悪意です。」
突然、石田さんの体からどす黒いオーラが放出され始めた。心做しか鋭い双眸から放たれる眼光が血の様に赤い。何だこの魑魅魍魎は。本当に同じ人間なのか。いや、目の前のこれが同じ人間であるはずがない。あってたまるか。魑魅魍魎は今にも佩刀した刀を抜きそうな勢いだ。恐怖のあまり、身が竦み、やはり声も出ない私の脳裏に過ぎるのは石田さんが味方の兵を殴り倒したあの日の光景。石田さん!あなたは私を守ってくれるのではなかったのですか!今の所、あなた、私の何一つ守れてなどいないですよ!寧ろ、今一番あなたが危険なんですけど!
「秀吉様と半兵衛様を侮辱するな。斬滅するぞ。」
「その、何か、…すみませんでした。」
私を護衛してくれるはずの人に危うく斬滅されかけるこの現状。無茶苦茶である。こんな世の中どうかしている。てか、私、半兵衛さんの悪口を言ったかもしれませんが、秀吉さんの悪口なんて一切合切言ってないんですけど。名前すら口に出してないんですけど。どうにもこの人は護衛の意味を理解していないのか、もしくは根本的に思想や理念と言ったものが私と相容れないものであるらしい。チェンジで。この世のありとあらゆる不条理から私を守護してくれる常識人にチェンジで。
「おや、随分と珍しい組み合わせだね。」
全ての元凶がのこのこと現れやがった。さあ、石田さん護衛としての初仕事ですよ。この絶対悪から須らく私を守護して下さい。寧ろ滅ぼして下さっても構わないですよ。あ、いや、待て。滅ぼす前にこの人には聞いておきたい事がある。
「半兵衛さん!何で石田さんに私の護衛なんか頼んだんですか!」
「僕が三成君に君の様な救い様のない愚か者を護衛しろと?」
「そうです!いや、今何て言った、おい!」
「僕はそんな事頼んだ覚えはないよ。」
暫しの沈黙。あれ、どう言う事だ。石田さんは半兵衛さんから命令されて私を護衛しているが、半兵衛さんは私を護衛しろとは命令していない。何故、こんな矛盾が生まれたのか。石田さんの方を見ると私なんかより心底驚き狼狽した様子だった。
「そ、そんな…私は確かに刑部から聞いてっ…。」
刑部?聞いた事のない名前だった。誰だその人は。もしかしてその人が今回の黒幕なのか。逢った事はないと思うのだが刑部さんに対して少なからず沸々と憎悪が沸いて来る。
「くそっ、刑部め!まさか私を謀ったのか?半兵衛様の命であり、名前と話す良い機会だと言うから引き受けたと言うのに…!」
再びこの場に沈黙が流れる。先程とは比べものにならないくらいに重い沈黙が。私は兎も角、あの半兵衛さんさえもが鳩が豆鉄砲を食った様な表情で石田さんを見ていた。私達の視線に気付いたのか、はっとする石田さんの顔が見る見る内に真っ赤になっていく。同時にあたふたと挙動不審になる石田さん。この人ってこんな人だったのか。
「三成君、君は―」
「ち、違うのです半兵衛様!!!!私は秀吉様に仕る身であって、それが私の生きる意味であり、意志であり、あの方とあなた様以外など土塊同然の有象無象なのです!故にそこに居る女に興味があるなどと、そんな疚しい事など決してッ…決して!!!!ええい、斬滅しろおおおおおおお!!!!!!!!」
「ぶばらあっ!!!!!!何で!!!!!!」
何の脈絡もなく私を殴り倒した石田さんは「おのれ、家康うぅうぅぅぅぅうううううぅううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」と叫びながら走り去って行った。一体、家康さんと私が何をしたし。とりあえず、刑部さんとやらに逢う事があったらぶっ飛ばそうと思いました。「大丈夫かい?」と言いながらも倒れ伏す私の頭を踏み躙る半兵衛さん。言ってる事とやってる事が違うではないか。誰か私を守って下さい。
ジレンマエスコート
(全てを守るなんて出来ません。)
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短編では初の石田サン。主人公が気になる石田サンの為に半兵衛サンの命令だと嘘を吐いて護衛させた刑部サン。この後、石田サンがやって来て「何故あんな嘘を吐いた!私を裏切る気か!」とか言われるんでしょうけど「これも義の為の主の為。」とか言って笑っているに違いない。そして何だかんだで石田サンは上手く丸め込まれてしまうに違いない。豊臣軍は今日も平和です。因みに有象無象は中の人繋がりで。
MANA3*120417
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