一寸先はパラノイア
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「そ、そなたの事が、……す、す好きだ!!!!我と付き合え!!!!」
ぽかんと口を開け唖然とする今の私の表情はただただ間の抜けたものなのであろう。昼休み、唐突にしてクラスメイトの毛利君に呼び出された。毛利君とは単なるクラスメイトであってそれ以上でもそれ以下でもなく、話をした事など恐らくない。美形ではあるが果てしなく無愛想でその雰囲気と他人を捨て駒としか思っていない事、同級生の長曾我部君を階段から蹴り落としたり、塵箱や焼却炉に足で押し込めてたり、グラウンドのど真ん中に上半身から埋められたりと、数々のサスペンスを目撃して来た為に私にとって毛利君と言う人間は恐怖の代名詞、いや恐怖そのものであった。そんな毛利君に屋上に呼び出され、何もした覚えはないのに正直私は終わった、殺されると思った。屋上と言う処刑場までの道程で手の平を発火しそうな勢いで擦り、南無阿弥陀仏と唱え、手を組んで神様に祈りを捧げ、胸の前で十字を何回も切りながら重い足を進めていた。それがどうだろうか。現実は予想斜め上のもので、顔を真っ赤にした毛利君が私を好きだと告白してきた。当面する予想外の事に私は酷く当惑した。
「え、……えっとぉ……。」
何て言えば良い。何て言えば私は殺されずに済むんだ!頼む、誰か教えてくれ!長曾我部君が都合良く現れて、そっちに毛利君の気が逸れて、日常と化しているサスペンスに突入してくれたら良いのに。長曾我部君が犠牲になった所で済む様な問題ではなさそうだが。
「わ、私、…毛利君の事を良く知らないって言うか……。」
「我が名は毛利元就。そなたの級友であり、今年度からこの学園の生徒会会長に着任し、」
「あ、いや、知ってる。うん。知ってる知ってる。そう言う事じゃなくてね。」
「我はそなたの事を良く知っておる。」
何を?とは怖くて聞けなかった。怖い。何それ怖いよ毛利君。最早、あなたが言うとその言葉は私の耳には脅迫にしか聞こえない。私さえ知らない私の秘密を握っているから大人しく言う事を聞け、と。
「我はそなたが好きだ。」
何で二回言った。聞いたよ。さっき聞きましたよ。
「え、うん。あ、ありがとう。」
「!?それは、肯定と受け取っても良いのか!」
「え、それは違っ……。」
急にテンションが高くなったかと思えば私の一言で今度はしゅんとする毛利君。そんな顔するとか反則だろ!何でそんな顔をするんだよ!何だ私か!?私が全て悪いのか!?私が一体何をしたと言うんだ!!止めろ!止めて下さい!!
「その、何て言うか。私、毛利君の事良く知らないし、すぐに付き合うとかは…出来ないけど……友達からって事じゃ、駄目、でしょうか?」
「……友達、だと?」
あ、やばい。非常にやばい。今度こそ私は殺されるかもしれない。来い!長曾我部君来い!さあ、来るんだ!今こそ君の出番だ!!!!ここで来なくていつ来ると言うんだ!君が今何処に居るかなんて知らんが君が今居るべき場所はそこではない!屋上だ!私の為に犠牲となってくれ!
「……良かろう。」
「へ?」
「そなたがそう言うのであれば、我はそれを了承しよう。」
二度目の唖然。毛利君が、あの毛利君が私の意見を聞き入れてくれるとは!私は助かったのか!戦争が、長く熾烈な戦争がようやく終わろうとしている!私はこの戦いに一滴も血を流さずに生き延びてみせたぞ!明けない夜などないんだ!ありがとうみんな!ありがとう!!私は生きているよ!!!!生きているって素晴らしい!!!!だって、またみんなに会えるから!みんなの笑顔もドラマの再放送も見られるから!でも、自分で言っておきながら疑問なのだが、「お友達から始めましょう。」って付き合う前提の意味なのだろうか。果たして終着駅は何処なのだろうか。そして私は毛利君とお友達になってしまうのか。毛利君にとって友達のカテゴライズには長曾我部君が当て嵌まるのだろうか。もし、そうだったらどうしよう。え、どうしようか。そうだ!退学しよう!だって明けない夜などないんだから!でもそれは嫌なのでどうか毛利君にとって長曾我部君は捨て駒オブ捨て駒であります様に。
「だが、こちらも条件がある。」
「…条、件?」
「ああ、これぞ。」
そう言って毛利君がとある物を私に差し出して来たのと同時に昼休み終了、及び予鈴のチャイムが響く。それに逆らう事なく教室に戻り、自分の席に着いた私は毛利君から渡されたそれをまじまじと見詰めながら、五時間の授業を迎えていた。毛利君から受け取った物、それは、テレレレッテレー♪交換日記ー、と某猫型ロボット風に心の中で高らかに言ってみる。交換日記だなんて秘密道具でも何でもない代物なのだが、あの毛利君が、あの毛利君がだ、交換日記テレレレッテレーなんですよ!ある意味では22世紀で開発された秘密道具より凄くて価値がある。お互いの事を知り、親睦を深める為にと渡されたこの交換日記。それが毛利君の提示して来た条件だ。第二の長曾我部君になれと命じられてしまうんじゃないかと冷や汗を掻くも、嬉しい裏切りにほっとしたのも束の間、果たして毛利君相手に何を綴れば良いのやら。てか、今時交換日記ってどうなのよ毛利君!常日頃はスリルとショックとサスペンスなくせにとんだプラトニックだな毛利君!交換日記とか小学生以来だよ!懐かしくてあの日の記憶がありありと蘇るわ!交換日記をする事自体は嫌でもないんだけどね。その相手が毛利君となると、ね。漫画の事とかテレビの事とか今日の晩御飯は好きな食べ物でしたとか今日も今日とて長曾我部君が波瀾万丈な一日をエンジョイしてました、長曾我部君に幸あれとか、毛利君と私の嗜好が合致しているとも思えないので、毛利君にとっては鼻であしらう様な内容しか書けないのだがそれで良いのだろうか。日記は鍵付きの上等な物で、そんな物に私の平凡な日常を書き綴るのも申し訳ない。鍵をかけなければいけない程の内容のある人生を私は過ごしてはいない。もう先に毛利君が日記を書いている様なので、どんな事を書くのか把握しておけるのは少し気が楽になる。授業は私が苦手な科目で先生が呪文を唱えて既に意味が解らないのでこの時間に日記を読んでおこう。毛利君何を書いてるんだろう、気になる。きっと凄い真面目に日記らしい事を書いているんだろうなあ。私はゆっくりと日記を開けた。
○月×日(△)晴れ
名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。名前が好きだ。
ひ い い い い い い い い い い い い え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え え ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !
日 記 じ ゃ ね え え え え え え え え え え え え え え え え え え え ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !
一寸先はパラノイア
(真っ青な顔で毛利君の席を見遣ると目がばっちりと合ってしまった。)
(毛利君は赤く染まった顔を隠す様に慌てて前を向いた。)
MANA3*120222