独り狂言メドレー
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気が付けば、視界にはいつも黒い影が揺らいでいた。
何をするでもなく、静かに佇み、じっとこちらを見ているだけだった。
影に表情などない。しかし、わかるのだ。それは厭らしく笑っている。
己の存在を主張するかのごとく、影は黒を深め、濃くなっていった。
そして今、目の前にそれは居る。
「目障りだ。早々に消え失せろ」
声に怒気を含ませて射殺すつもりで睨み付けるのに対し、影は嘲笑いながら言った。
「奇妙な事を。影はいつ、なんどき、死しても、人の足下に存在すると言うのに」
「可笑しいのは貴様の方だ。影ならば影らしく、黙って地に這っていろ」
「確かに、影が言葉を紡ぐのは実に可笑しな事だ。だが、その影と言葉を交わす事もまた可笑しな事だ」
影は一向に去る様子を見せず、ただ煽る様に笑い続けるだけで、それがどうしようもなく不快で仕方なかった。
「影を消したいならば、一切の光が届かぬ闇へ身を投じれば良い。そうすれば影は消える。それが出来ればの話だがな」
「…………貴様、何が言いたい」
影はまるでその言葉を待ち望んでいたと言わんばかりに、より一層、歪んだ笑みを浮かべた。
「名前だ」
出てきた名前に微かに動揺する。影は心の内を見透かしているのか、表面では平然を装う様を見ながら話を続ける。
「このままで良いと思っているのか?欲しいのだろう、名前が」
「煩い、黙れ」
「また失うぞ」
取り繕えなかった表面。目を見開き、驚愕した。
しかし、表情は沸き上がる憎悪と怒りで一瞬にして豹変する。その様子を見てもやはり影は笑っていた。
「そんな顔をするな。ただ、真実を言ったまでの事。それに気遣ってやっているのだ」
「…巫山戯るな」
「巫山戯けてなどいない。既に承知しているのだろう?名前を狙う輩が少なくないと。あの長曾我部もそうだ。奴の眼を見たであろう?他の奴等もだ。あれは、飢えた獣の眼をしている」
そうだ。邪な感情で名前に近付く人間は大勢居る。我から名前を奪い去ろうとする愚劣な輩の存在を疎ましく思っていた。奴等が来る度に、殺してやろうと思っていた。
だが、出来なかった。そんな事をすれば名前が悲しむからだ。
「考える必要などない。簡単な事だ。枷を着け、奴等の手の届かぬ場所へ閉じ込めれば良いのだ」
「…っ……その様な事をすれば、名前は…」
「奴等から名前を守る為だ。それに愛しているのだろう?名前を」
愛している。そうだ、我は名前を愛している。誰にも奪われたくはない。奪わせはしない。名前は我だけのものだ。
名前を失いたくはない。
影は初めとは比べ物にはならない程に禍々しく、黒くなっていた。まるで影は闇その物の様だった。
「貴様は、誰だ」
影は、闇は不気味に笑った。
「我は貴様だ」
「元就さん!元就さん!?」
己の名前を呼ぶ声に意識が明確になる。視界には影ではなく、覗き込む様にして我の顔を見る名前の姿が写っていた。
「……我は…眠っていたのか」
「ちょっと、しっかりして下さいよ!今日は長曾我部さんと逢う約束があったんじゃないんですか?」
「…………」
「…元就さん、本当に大丈夫ですか?目が明後日の方向ですよ?」
「……あぁ、大丈夫だ。…それより名前、」
「…何ですか?」
独り狂言メドレー
(我は禍々しく黒い笑みを浮かべているのだろう。)
MANA3*080920