僕が思い描く終盤を
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朝のホームルームで、春休みについて書かれた紙が配られました。もうすぐ春休みです。
僕が思い描く終盤を
「良しっ…出来た…」
次の授業は移動教室だ。今のこの僅かな十分間休憩で移動するついでに二年生の教室に寄ろうと教科書とノート、筆箱そして先程に仕上げた『 肩叩き券 有効期限3月14日まで 』と手書きで書かれた安っぽさが滲み出る小さい紙をポケットに入れて席を立ち教室を足早に出た。
ニ年生の廊下に着いた私は我が校の次期生徒会長が居るであろう教室のドアを徐に開けた。休憩時間なので教室内はガヤガヤと騒がしい。
教室には入らず、覗かせた顔を右往左往とさせる私は何て挙動不審なんだろう。人に尋ねれば早いだろうが、知らない人、しかも、先輩の人に声をかけたくはなかったけれど時間が経つにつれ、益々、挙動不審者になるだけの私は仕方なく近くに居た見知らぬ先輩の人に声をかけようとした。
「よ、名前じゃねぇか。何してんだよ」
突然、背後から声をかけられ驚いて後ろを振り返った。そこには先輩ではあるが良く知っている人が立っていた。
「長曽我部先輩!」
「だから元親で良いっつってるじゃねぇか」
「いやいや、そんな滅相もない」
「ってか何してんだよ、教室のドアの所で。怪しいぞ」
「毛利先輩に用があるんですけどニ年生と言う雰囲気に恐れ戦いてしまって…」
「何だよそれ。まぁ良いか、俺が呼んでやるよ」
「本当ですか?助かります!」
何て良い人なんだろう長曽我部先輩!いつもは毛利先輩に弄られ詰られヘタレの先輩だが、いざとなれば頼りになる人だ。
だが、残念ながらヘタレの肩書きは消える事はない。非常に残念な人だ。是非とも残念賞を贈りたい。
「おい、毛利!名前が来てるぜ!」
ギャ!まさかそんな大声で呼ぶとは!
止めて!大声は止めて!そして私の名前をこのクラスに知らしめないで!
ほら、このクラスの皆様方がこっちを見ていらっしゃるじゃないですか!何ですかこれ!公開処刑ですか!?
クラス中の視線を浴びても平然としている長曽我部先輩の横で慌てふためく私だったが、窓側の前から二番目の席に座って読書をしていたであろう毛利先輩と目が合った。
先輩はここまで来いと言う意味なのか、私の方を見ながら指で自分の机を二回叩くと再び読書を始めた。
どうやら自分から動く気はないらしい。
「何だよ、あいつ。ほら、名前。行って来いよ」
「ご同行願えますか?」
「何でだよ!」
「ニ年生と言う雰囲気が!」
「ああ゛~もうわかったからよ!早く行くぜ!」
嗚呼!何て優しいんだ長曽我部先輩!もう私、先輩とヘタレ同盟を結びますよ、えぇ。ヘタレ万歳。
ズンズンと毛利先輩の方へ進む長曽我部先輩に後ろから私は着いて行く。クラスの皆様は既に私達からは視線を外し自分達のやる事や話に戻っていた。
「毛利先輩」
毛利先輩の席に着くと本を読んで俯いてた先輩は顔を上げた。そして、直ぐにその端正な御顔をしかめられた。
「………何故、ここまで長曽我部が一緒に居る」
「私達がヘタレ同盟であるからです」
「おい、名前。【私達】って何だ【私達】って。何で複数形なんだよ」
「ははっはー」
時間がないので私は笑って誤魔化した。散々、迷惑をかけたくせに我ながら酷い奴である。
「お誕生日おめでとうございます、毛利先輩」
「え、毛利お前今日誕生日だったのか?」
「煩い黙れ、長曽我部」
長曽我部先輩は黙ってしまった。そして下を向いてしまった。あなたは何も間違ってない筈ですよ、多分。だから負けないで!強く生きて下さい!強く生きてほしい!
心のエールを長曽我部先輩に送った私はポケットから例の物を取り出し机に置いた。
「はい、プレゼントです」
「何だこれは」
「『肩叩き券』です、見ての通り」
いつの間にか立ち直った長曽我部先輩が「おまっ、誕生日プレゼントに肩叩き券て…」と小さく呟いていたのが聞こえたが気にしない。気にしてはいけない。
私は毛利先輩のリアクションを待っていたが、微動だにしない。
実は最初から自分でも「肩叩き券はまずいだろ」と思っていたので反応がない分、不安は更に積もっていった。
休憩時間のタイムリミットと毛利先輩のまさかのロングノーリアクションのジレンマに私の心は混沌が渦巻いている所だろうが、逆に何故かお祭り騒ぎだ。
もう要らないなら要らないと仰ってくれれば、どんなに助かる事であろうか。
兎も角、早く解放されたいと思ったその時。ノーリアクションだった毛利先輩が肩叩き券に手を伸ばした。
グシャッ
そして見事にグシャグシャに丸められた肩叩き券は塵となって数メートル離れたごみ箱に見事にシュートされた。
おぉ…凄い…じゃなくて!
「ああああああ!酷い!!」
「ふざけるな。我は貴様の父親か」
「毛利、お前、肩叩きは酷いが、流石にごみ箱に棄てるなんて―」
「煩い黙れ、長曽我部。貴様もごみ箱に入れてやろうか」
な、なんて事を!!案の定、長曽我部先輩は黙って下を向いてしまわれた。思わず目の前で肩叩き券をグシャグシャにされ、ごみ箱にシュートされてしまった私なんてまだマシだなんて思ってしまった。
「負けないで!」なんて容易く言える感じではなかった。だが、慰めようにも私もそれなりに心に深手を負ってしまった為、慰める事なんて出来なかった。
「名前。貴様、昨日から猶予を与えてやったにも関わらず、結果これか。しかも今日配られた春休みについて書かれた藁半紙を使用したと言うのはどういう事だ」
「すすすすすすすすみません!!他に手頃な紙がなかったもので、すみません!!ででも、その分、私が持ってる限りの色ペンでカラフルにさせていただきました!」
「カラフルにしてどうにかなるとでも思ったのか?それでどうなのだ?藁半紙は金券にでも変わったか?」
「いいえ…藁半紙は肩叩き券になってゴミになりました……本当に何て言ったら良いやら…申し訳ないです……」
物凄い形相で怒気を放つ毛利先輩。それだけで私は首を絞められてもないのにとっても息苦しい。肩叩き券でここまで咎め立てられようとは誰が予想したであろう。誰も予想出来なかったから今のこの悲劇が生まれたのだが。
悪いのは私なのだが、救ってくれるなら誰でも良いからこの悲劇から救ってほしい。そんな勇者が居るわけないが。
「もう良いじゃねぇか。名前も悪気があってやったんじゃねぇんだからよ」
良いんです先輩!もう私を庇わないで!気持ちだけで十分です!そしてあなたは勇者にはなれません!
「煩い黙れ、長曽我部。貴様の生まれた日に藁半紙で作った字がカラフルな肩叩き券を贈って、無駄に固い何かで貴様の肩を叩き潰してやろうか?」
「すんませんした」
そりゃ謝りますよ!謝ってしまいますよ、悪くもないのに!無駄に固い何かって何だ!てか、わざわざ私の肩叩き券の事を言わないで下さい!何か自分が凄く恥ずかしい!
肩叩き券が危うく血生臭い状況を生み出してしまうと同時に極楽に浸れると言う概念を覆してしまう所であった。
そしてやはり勇者になれなかった長曽我部先輩の方から啜り泣く声が聞こえたが気がしたが、万が一、泣いてたとしてもそんな姿を見たくはなかったので横を見ないようにした。
キーンコーンカーン―…
最早、誰にも私は救われないと絶望的だったその時。十分休憩終了のチャイムが私を救った。
「…名前、放課後まで待ってやる。それまでにその肩叩き券と言う結論に達した脳味噌で他の物を考えて来い」
「は…はい」
私は先輩に一礼すると駆け足でその場から立ち去った。
「お前も素直じゃねぇーな、毛利」
「…ふん」
「どーしましょーか、どうしましょうか先輩」
「知らねぇよ。とりあえず肩叩き券以外の物なのは確かだな」
「こんな事なら朝、コンビニに寄ってケーキを買えば良かったです」
「まったくな」
「てか放課後までって、もうどうしろと言うのでしょう」
「さぁな」
「先輩、他人事だからって冷たい」
お昼休み。屋上に長曽我部先輩を呼び出し、昼食を食べながらプレゼントについて相談しようと思ったのですが、先程からもう関わりたくないと言わんばかりの返答しかしてくれない。
あの時、勇者になろうとしてた先輩はどこに行ってしまったんですか!
勇者になれなかった先輩は今やただの村人Aに変わり果ててしまった。
「もう私をあげますみたいなんで良いんじゃね?」
「………先輩がそんな事言う人だったなんて…」
「ちょっそんな目で…そんな目で見ないで下さい!」
村人Aから吃驚爆弾発言が飛び出し、私は思わず冷ややかな目で見てしまう。これが勇者になれなかった者の成れの果てだと言うのか。そう思うと哀れで仕方ない。
「それなら肩叩き券の方がまだマシですよ」
「あぁ~そんな事ねぇと思うけどな~…」
何回目かわからない「どうしよう」を呟き空を見上げる。今日もお空は青かった。春だな~と呑気な事を考えてしまった。
横の校舎を見ると既にお昼を食べ終えたのか、席に座って一人で読書をしている毛利先輩が見えた。
まさか、あの時からずっと読書をしていたのであろうか?いや、それはないだろう。多分。
瞬間、先輩と目が合う。吃驚したが私はどうもと頭を下げた。無視されると思ったが意外にも片手を上げて応えてくださった。
「何だ?おっ毛利じゃねぇーか。こっからあいつの教室見えんだな」
長曽我部先輩が顔を出して覗き込むようにして毛利先輩の教室を見た。それで長曽我部先輩の存在に気付いた毛利先輩の顔が歪んだように見えた。
と、何やらゴソゴソとポケットの中を探り始めて出した物は―…
「……携帯電話?先輩、携帯持ってたんですね」
「まぁ、一応な」
メールでも打つのかと思いきや携帯を耳にあててる所からして電話をするみたいだ。目線はこっちを向いたままで。
ピリリリリリ―…
突然、響いた着信音。発信源はどうやら長曽我部先輩の携帯のようだ。先輩は「おわっ、びっくりした!」と言って、ポケットを探る。どこまでヘタレなんですか、私が吃驚です。
携帯を取り出し、相手が誰か確認してから電話に出た。
「何だよ………いや何でっつっても………」
タイミングからして毛利先輩からだろうか?毛利先輩の方を見ると未だにこっちを見て電話をしている。
「はぁ?今からか?……チッ…わったよ………ハイ、スミマセン」
今ので相手が誰か確信がついた。
「もしかして毛利先輩ですか?」
「おう、今から教室に来いだとよ」
「えぇー!私を一人残して行ってしまうんですか!?」
「大丈夫だよ、すぐに帰って来てやっからよ」
冗談混じりで言ったつもりだったが、まともに返事をされ横を通り過ぎる際に頭をわしゃわしゃと撫でられた。その予想外の行動に不覚にも村人Aにときめいてしまう私。
屋上の重い扉が閉まるガタンと言う音が虚しく響き渡って、屋上に一人取り残される。
お昼休みが終わるまで、まだ時間がある。その間にプレゼントを考えないといけない。でもどうしても違う事を考えて現実逃避をしてしまう。早く考えないとと頭でわかっていながらどこかで、なるようになると考える私がいる。
先輩が出て行って何分経っただろう。携帯を取り出して今の時間を確認した。ついでに暇を持て余して携帯を弄り始める。
ガタン
五時間目は何の授業だったかと携帯を弄りながらぼんやりしてたら屋上の扉独特の開閉の音がした。
「あっ、お帰りな、さ……」
てっきり長曽我部先輩が無事に帰還されたのかと扉の方を見たらそこには何故か毛利先輩が立っていた。
何のドッキリだこれは!てか長曽我部先輩は?!死んだ!?死んでしまったのかもしかして!
「な、あれ?何で?」
「長曽我部ならもう帰って来ぬ」
やはり死んだ!還らぬ人となってしまった長曽我部先輩!嘘つき!すぐに帰って来てくれるって言ったじゃないですか!
心の中はパニック状態の私の方へ先輩は近寄って来た。そして、フェンスに凭れて座っていた私の隣へ…何故か私の隣に腰を下ろした。
「…………」
「…………」
先輩が隣に座ってから流れる長い沈黙。実際、そんなに時間は経過してないかもしれないが、私にとっては長く感じられて仕方がない。先輩も何か用があって来て何か喋るかと思ったが全く喋らないし喋る気配もない。
チャイムよ!お昼休み終了を告げるチャイムよ!あの時みたいに私を救っておくれ!この状況に終止符を!…でも鳴ったら鳴ったでどうする?「失礼します」と一目散に逃げるのか?でも次の授業があるししょうがないよね、うん。いやでも―
「貴様は」
「はははい!!」
急に喋った先輩。驚いた私の返事は吃ってしまった。
「よく長曽我部の奴と居るな」
「へ?いや、たまたまですよ。まぁ仲は良い方とは思いますが…」
「…………」
また黙る!何故黙る!私何か変な事言ったでしょうか!?長曽我部先輩、何で死んじゃったんですか?!馬鹿野郎!
「さ、さっきまで先輩のプレゼントどうしようとか話してたんですけどね、良いのが思い付かなくて…先輩何が欲しいんですか?」
沈黙に耐えられず私は勇気を出して自分から話を切り出した。だが今はタブーだったプレゼントの話をしてしまう。馬鹿か私。長曽我部先輩の次に私は馬鹿野郎だ。自分から寿命を縮めるなんて。
「もう良い」
「はい?」
「物は要らぬ」
「………そ…ですか」
「名前が我の側に居るだけで良い」
「………はい?」
プレゼントはもう要らないと言われ、この呪縛から解放されたと喜ぶ所だが私は罪悪感みたいなものが一気に押し寄せて来て一気に気落ちしたが、先輩の一言でそれ所じゃなかった。
先輩の方を見ようと顔を上げた時、私の顔のすぐ横でカシャンと音がする。それは先輩の手がフェンスを掴みまるで私を逃げられないようにするみたいな体勢だった。私は身動き一つ取れず、ただ、吃驚しすぎて、なんの反応も出来なかった。
「ただ側に居るだけで良い。容易いだろう?」
「え、いや、そのあの、ちょっせせせせ先輩!?!?」
何で、段々接近してくるんですか?!わわわ!近いですって!心臓が心臓が心臓が心臓が!!!!
先輩は私の心臓が派手に脈打ってるのを知ってか知らずか近寄ってくる。多分、私の心臓を破裂させるのが狙いだろう。心臓破裂の刑だ。なんとグロテスク。
と言うかこの展開はあれかあれなのか?キスなのか?そう勘違いも甚だしいが状況が状況なのでそう思っても無理はない………と思う。その前に目の前にある先輩の顔を直視出来ず私の目は既に固く閉じられている。
「……フッ…」
わ、笑われた?!笑われた!笑われてしまった!そんなに今の私は可笑しいのか!?そんなに愚かしいのか?!
「口付ける……とでも思うたか?」
「なへっ!?」
耳元で囁かれ恥ずかしさ満開でもう心臓は破裂寸前で。キスされると思ってたのを言い当てられ私は目を開ける。
「!?!?っつぇ!!!!!!なななななな!!!!!!」
「何をそんなに驚く」
「だだだだだって!!!!きききききキス!!キス!」
目を開けた途端、口の端であったがキスされた。ある意味、何かこっちの方が恥ずかしい。てか未遂に終わったと思ったのにフェイントだ。
「口にはしておらぬ」
「いやだからってそんな先輩!!」
「…喧しい、次は口にするぞ」
その台詞にギャアギャアと喚いていた私は口をつぐむ。それに先輩の顔があまりにも怪しくニヤリと笑うものだから。怖くて怖くて。けれど、とてもその怪しい笑いが似合っていてかっこいいとこんな時に思ってしまう。
そんな私の目の前に先輩は何やらグシャグシャの紙を出す。そんなグシャグシャの紙に私は見覚えがあり過ぎた。
「…………肩叩き券」
「あの後、考えたがこれは有効に使わせてもらう事にした」
「てか、ごみ箱漁ったんですか?」
「その為に長曽我部の阿呆を呼んだのだ」
それだけの為に!それだけの為にあなた!最後に何を言ったか知らないが、長曽我部先輩、謝ってましたけど!?
「え、じゃあ…叩きましょうか…お肩…」
「有効期限は今日までなのだろう?」
「あ………はい…まぁ」
確かにグシャグシャの肩叩き券には『有効期限3月14日まで』と書かれてある。私の中で軽く肩叩き券は過去の産物になりかけていたが、私が書いたのだから間違いはない。またこいつと再会出来ようとは。
「では今日は我の家に泊まりだな」
「何故っ?!」
「『3月14日まで』…なのであろう?」
「…………」
ああ~そう言う事か、そう言う事ですか。やってしまったな私。何故『1回限り』と書かなかった私。あ、結局、ギリギリまで取っておくと同じ事か。やってしまったな私。
ただ、やけに上機嫌な毛利先輩を見て、まぁ誕生日なんだからと、半ば諦め気味だが何だかんだでちょっと楽しみにしている私がいた。
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MANA3*080320