欲しいものは腕ずくで
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元親と毛利君が机を挟んで互いの手を握ってるもんだから奇跡的に二人が和睦したのかと思うと同時に、近く大きな災いがこの世界に降りかかろうとしているのではないかと胸がざわつく。止めてくれ私はまだ死にたくない。世界の均衡を保つ為にも死ぬまで啀み合っていろ。何て悍ましい光景なんだとわなわなと震撼しながら二人を見守っていたが何やら様子が可笑しい。どうもそんな和気藹々たる雰囲気ではないぞ。
「何してんの二人共。楽しい?」
「ッ…これが楽しそうに見えんのかよのわああっ!!!!」
「ふん。他愛ない。」
元親の右手の甲が毛利君の右手によって机についた、否、沈められた。痛そうだ。音が痛そうだ。メゴォって鳴ったよメゴォって。そんな音聞いた事ないよ。出そうと思って出せる音ではないよ。どうやら二人は腕相撲をしていた様だ。多分。それにしても腕相撲とか実は本当に仲良くなったとか思ったが「早く我の昼餉を買って来い。」と勝者の毛利君が敗者の元親に冷たく吐き捨てた。そんな訳がなかった。
「何、元親。腕相撲で負けたの?腕っ節だけが取り柄の君が力で負けたら何が残るの?」
「何それ。俺腕っ節以外に何も持ってないの?」
「持ってるの?」
「持ってるだろ!」
「え!」
「え!?!?」
元親が勝とうが負け様がパシられ様が私には関係のない事だ。知った事ではない。しかし、不思議なのはあの元親が、あの腕力なら誰にも引けは取らない男がだ。腕相撲で負けたのだ。しかも相手は毛利君だ。あの毛利君なのだ。どう見てもインテリジェンスのインドア文化系の眼鏡をかけている毛利君に喧嘩上等バリバリやんちゃな元親が腕相撲で敗北するなどと誰が思うだろう。
「それにしてもまさか元親が負けるなんて…。手加減でもしたの?でも、手加減して負けるとか格好悪いね。」
「んな事するか。言っとくけどな、名前―」
「何をしておる長曾我部。さっさと昼餉を買いに行け。我を待たせるな。」
座ったまま後ろから元親を蹴って昼食を買いに行かせるのを催促する毛利君。元親は少し呻いて毛利君を睨んだがそんなものが彼に効くはずもなく鼻であしらわれるのみ。それに恐らく腕相撲で負けた方がお昼ご飯を買ってくると言う勝負をしていたのだろう。約束は約束。大人しく昼食を求めて教室から旅立つ背中を見守った。とてもじゃないがあんなしょぼくれた背中、元親を兄貴と慕う人達にはお見せ出来ません。
ちらりと毛利君を見れば既に何もなかった様に本を読んでいた。確かにこの目で先程の出来事を目の当たりにした。しかし、やはりまさかこの人が、と俄かに信じ難く毛利君の華奢な腕をじっと見詰める。この細腕に如何なるポテンシャルが秘められているのか、そればかりが気になっていた。
「………ねぇ、毛利君。私と腕相撲しない?」
ただ純粋に毛利君の力量が気になった私がそう言うと相手は目を見開いてこちらを見た。唐突な提言だったかもしれないが、あのポーカーフェイスの毛利君が見るからに困惑している。何か考えているのか目を泳がせながら返答を渋っている。珍しい。うーん、やはり何のメリットもなしにはやりたくはないのだろうか。さっきもお昼ご飯を賭けてた様だし。ならばここは私も何かを賭けるべきか。
「ただ腕相撲をやるだけなのが不満なら元親と同じで何か賭けても良いよ。」
そう言うや否や忙しなく彷徨っていた毛利君の視線が私の方へと一点集中する。吃驚したッ。急にこちらにバッと軽く目を見開きながら顔を向けるからビクッとなった。露骨に食い付いて来たね毛利君。功利的なこった。
「………わかった。」
どうやらやる気になってくれた様で机の上に肘をつきながら右腕が差し出される。相手の気が変わらない内にと咄嗟に毛利君の右手を取り、元親が座っていた席に腰を落とすのはほぼ同時だった。あ、待て待て。先に賭けの内容を決めねば。
「ねぇ、毛利君。賭けの内容なんだけど、」
「この勝負で我が勝てばそなたは我と交際しろ。」
「はい?」
「始め。」
欲しいものは腕ずくで
メゴオオオッ
(どべぇ!!!!)
(我の勝ちだ。死ぬまで我に添い遂げるが良い。)
(ま、まだ話し合いもしてない、てかさっきと条件が変わってるし。そして手が痛いッ。)
(…すまなかった。我に取ってこの勝負は大一番だった故、図らずも本気を出してしまった。責任は取る。)
(せ、責任て。)
(兼ねてからそなたを懸想しておった。そなたが、好きだ。)
(で、でも、…―)
(ほう、先程の言葉は甘言だったと申すか。)
(そんな人聞きの悪い!)
(そなたが約束を果たさぬならば我は傷心のあまり食も喉を通さず病を患い、そのまま床に伏せてしまうであろうな。)
(そ、その台詞をそんなあくどい顔で言うものなのか!)
MANA3*120922