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朝、教室に入ると珍しい事に既に元親の姿がそこに在った。今日は槍でも降って来るのか。それ以上に珍しかったのが元親の話を毛利君が何やら熱心に耳を欹てながら聞いている光景だ。今日は核ミサイルでも飛来して来るのか。そんな冗談はさておき、気味が悪いながらも気になった私は二人に近付いていく。
「おはよう!何してんの?」
挨拶をする事によって初めて私の存在に気付いた二人。徐に俯いてた顔を上げた元親は私だとわかるといつも通りによおっと綻んだ笑顔で挨拶を返してくれた。毛利君は私が声を発したとほぼ同時ぐらいに勢いよく面を上げたかと思えばくわっと両の目をおっぴろげた形相で何も言わずこちらを見るので肩がびくんと跳ねるほど本当に驚きました。うおっ、何かごめんなさい。
「いやな、毛利の野郎が新しくスマフォってやつを買ったみてぇでな。ちょっくら操作方法を教えてやってたところよ。」
「へー毛利君、スマフォにしたんだ。」
「う、うむ。」
毛利君が買ったと言うスマートフォンは最近、CMで流れていたあまり見た事がない珍しい綺麗な緑色のカラーリングであった。今や携帯ショップで陳列されているものはほぼスマフォである。私が次に買い換える時も恐らくスマフォなのであろう。まだ暫くはその予定はないのだが少なからず興味はあった。
「そうだ、名前。毛利にカメラの説明するからちょっくら撮らせてくれよ。」
「え、何で?何で私?てかそこら辺の景色撮れば良いんじゃ。」
「顔認識とかあんだろ?それにほら、俺を撮るのもどうせこいつが嫌がんだろ。」
「ふん、わかっているではないか長曾我部。貴様の様な見るに耐えない醜悪な面ではこの機械も人の顔だと認識するまい。」
「するわ!認識するわ!スマフォじゃなくててめぇが認識してねぇじゃねぇか!それが教えてやってる人間に対する態度かよ!」
な!頼むから!と片合掌してお願いしてくる毛利君に人と認識してもらえない元親。でも、元親が嫌だからとかと言って私なら良いとそんな訳でもないだろう。と思って毛利君を見るとばちりと視線が合う。そして、無言のまま直ぐに逸らされてしまう。何で!
「毛利君が構わないなら私は良いけど…。」
「あー、良い良い!大丈夫大丈夫!」
「いや、元親に聞いてないし。」
私の言葉を無視して毛利君にカメラの説明をしながら元親は私にスマフォのレンズを私に向ける。え、あれ、私どうすれば良いんだろ。このまま棒立ちで良いの?何かポーズを撮るべきなの?こんな時どんな顔をすれば良いのかわからないのですが笑えば良いのですか?笑えばい良いとも?それ以前にカメラに写る被写体は私で良いのですか?と今一度毛利君に視線を送るが彼は既に元親の説明を聞く姿勢である。それで良いのか毛利君!
そうこう考えている間に元親が手にするスマフォからカシャカシャとシャッター音が鳴り響く。おま、急に撮るなよ!何か言えよ!事前に撮る合図なり何なりを私にお知らせしろよ!私、自分が思うよりも素の顔してたんじゃないか!恥ずかしい!
「ちょ、元親!撮る時何か言ってよ!」
「ああ、わりわり。餃子一日百万個。」
カシャ
「何今の!?今のが合図だったの!?何で王将なの!?何で食は万里を越えるなわけ!?わかりにくいわ!普通にはい、チーズとかあるでしょ!」
「はい、チーズ。」
カシャ
「早えよ!!もっと他人の気持ちを考えてゆとりを持って撮れよ!」
何だか知らないのが元親が乗り始めた。調子に乗り始めた。そんなに楽しそうにしてるの君だけだよ!そして、先程から君は何で何も言わないんだい毛利君!何で黙って事の経緯を黙って眺めているんだい!こんな状態になった元親がうざい事は君が何より一番思い知ってるじゃないか嫌と言う程に!何で止めてくれないんだよ!尚も写真を撮り続ける元親が何回目かのシャッターを切った時、ぶはっと吹き出したので嫌な予感しかしなかった。
「何!何!何で笑ってんの!?!?変な顔撮った!?!?」
「と、…撮ってねぇ、よ…ふふ。」
「そんな下向いて顔隠しながら肩震わせて言われても説得力0なんだよ!」
「撮ってねぇよ…は、半目で白目の瞬間なんか撮ってねぇから…ッぶは!!!!」
撮ってんじゃねぇかよ!徹底的な奇跡の瞬間を収めてんじゃねぇか!!!!私は私と同じ様に元親が白目を向くまで殴って万里ではない違う一線を越えさせてやりたい衝動に駆られたがそれよりも先にその写真を消すのが先決だ。もし、元親がその写真を毛利君から送ってもらって暫くネタにされる事が危惧されるからだ。奴ならやり兼ねん。
「ちょっと元親それ貸して!」
「ッならぬ!!!!」
元親からスマフォを奪う前に発せられた大きな制止の声により私の手は動くのを止めた。毛利君だ。試しに私を撮るのも元親が悪乗りしていても何も言わなかった毛利君が私がスマフォに触れようとした途端、声を張り上げた。しかも、結構必死な形相だ。あのポーカーフェイスで知られる毛利君がだ。思わず、私も元親も唖然呆然とする。さっきとは打って変わってどことなく気まずい空気が私達を包んだ。そんなに私にスマフォを触られたくないのだろうか。さっき、挨拶した時も普通じゃない反応されたし。もしかして私、嫌われてる?
「えっと…何か、その…ごめんね毛利君。」
「!違う!そうでは、ない…ッ。」
何が違うのかそのまま毛利君は何か伝えたそうにも見えたがもごもごしながら口を濁した為に理解出来ない。唯一理解出来る事はその様子を何故かニヤニヤとしながら傍観している眼帯野郎が私の神経を逆撫でしている事だ。何笑ってんだお前!こんな状況で良く笑えるな!誰のせいだと思ってんだ誰の!最低だよお前ってやつは!これはスマフォに顔認識されなくても仕方ないな。庇い切れないわ。知らん。もうお前の様な眼帯は知らん。残った片目にも眼帯して光を失ってしまえ。すると、元親がちょいちょいと手招くので隙を突いてサミングしてやりたいのを耐えて顔を寄せる。
「心配すんなって。別に毛利の野郎がお前を嫌ってるとかそんなんじゃねぇから。」
「元親にそれを言われても気休めにもならない。」
「名前にこのスマフォ弄られたら都合が悪いんだよ、毛利にとってな。」
「それやっぱり嫌ってるんじゃ。」
「それはねぇな。有り得ねぇ。」
「何でそこまで断言出来んの。」
「あいつのスマフォのデータフォルダどうなってんのか知らねぇだろ?今さっき撮ったのとは別で前の携帯から引き継いだドン引きする程のお前の写―」
「長ぉ曾我部ええええええええええええッ!!!!!!!!!!!!!!」
元親が何かを言おうとしたのを毛利君が武力行使によって遮った。毛利君の繰り出した華麗なるバックスピンキックが綺麗に決まり、元親を完全に沈黙させた。テクニカルノックアウトさせられた元親の肢体は苦痛の悲鳴を上げる事もなく無言で床に沈む。強ッ!あの元親を一発でのしてしまった毛利君強ッ!!!!今まで絵に描いた文化系な人だと思ったら何そのポテンシャル!!!!裏番長か君は!!!!何がドン引きかはわからんかったが今この有様に確実にドン引きしてますよ私!
完全にアサシンの目をした毛利君がこちらを見たかと思えば、ずいっと詰め寄り私との間合いをなくす。あ、暗殺されてしまう!
「…何を聞いた。」
「………へ?」
「長曾我部の奴から何を聞いたのか申せ。」
「え、えーっ…と……毛利君は別に私の事は嫌ってはいないとか…。」
「当然であろう!!!!」
うへー!!!!当然だったのですかすみません知らなかったですすみません殺さないで下さい!!!!怯える私に毛利君は追い打ちの如く問い詰める。
「他には何を聞いた。」
「他?他は、えー…私がスマフォを弄ったら毛利君の都合が悪いとか、データフォルダがドン引きするとかどうとか言ってたけど良くわからなかった…。それ以外は何も。」
だから殺さないで下さいどうかお慈悲をと心臓をばくばくさせながら祈る私を突き刺す様な視線で見てくる毛利君。その視線だけで私、死んでしまうかもしれません。はい。すると毛利君は疲労からなのか安堵からなのか大きく溜息を吐く。溜息を吐きたいのは私の方なのだが。
「長曾我部の言った事は気に留めるな。忘れるが良い。」
「……は、はい…。」
「…ただ、…もう一度言うが我は…我はそなたが嫌いではない…我は、…我は……。」
我はどうしたんだ。我は一体どうしたんだと言うんだね毛利君。又もや毛利君が何かを言おうとしながらも言葉を濁す。何だろうか、直接言い難い事なのだろうか。ならば…いや、これはあまりにも烏滸がましいかもしれない。でも、まあ、言うだけなら。そう、言ってみるだけなら。それに嫌なら毛利君はきっぱり嫌と言うだろう。
「毛利君。私とメアド交換しない?」
私の一言に毛利君は瞠目して一拍置いてから大きく二度頷いた。
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MANA3*120919