理論は空論へと変わる
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嗚呼、煩累だ。実に面倒だ。
僅かに開いた瞼の隙間からは見慣れた臥所の天井が見えた。平素と違わずその室内で自分の体は床に臥せていた。心做しか体が重苦しく言い知れぬ倦怠感が包み込む。現在に至るまでの経緯を把握する為に記憶を遡ろうと朦朧とする頭を使おうとすれば傍らからぐすぐすと女の啜り泣きが耳へと入る。
「…名前。」
すぐ傍らには赤く腫らした目から止め処なく溢れる涙のせいで見るに堪えない程に顔が崩れた名前が正座していた。その脆く弱々しい姿を見て全てを理解した。
「…ごめ、ごめんなさい…っ私の…せいで…ごめんなさいっ。」
そう言って名前はまた涙を流す。何故この女は泣くのか。その様な顔を拝みたくて貴様を庇った訳ではないと言うのに。負った傷も致命的ではない。確かに名前の存在は実に煩わしかった。この女のせいでこの様な不慮の事態が生じたのだから。高々一人の女を庇護するなど以前の自分なら万に一つも有り得ぬ事だ。この女が居なければ手負いになる事もなかっただろう。それにこの様な枷でしかない煩労する思いも抱かずに済んだのだ。今も尚、傍らで泣き濡らす行為が敵から受けた傷痍よりも厄介なのだとこの女は気付かない。
「名前。」
「…ぐす…ごめんな、さいっ…。」
「…泣くな。」
「……ぐす…うっ…うぅぅ…。」
「泣くな、名前。」
泣くなと言ったにも関わらず名前は更に泣き出してしまう。女の無事の姿を見て安堵したのも束の間だった。こうも泣かれてしまっては一体何の為に身を呈してまで守ったのか。どうすれば泣き止む?その濡れそぼつ頬に手を這わせて慰めの言葉の一つでもかけてやれば笑ってくれるのか?頼む、頼むから泣かないでくれ。黙れと叱咤を浴びせれば或いは泣きやんでくれるやもしれないが、どうにも何故かそれは出来なかった。
嗚呼、煩累だ。実に面倒だ。
理論は空論へと変わる
(英邁な頭脳で考えても、きっとその答えは見付からないだろう。)
MANA3*111003