オーバープロテクション
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「毛利君!私、バイクの免許取ろうと思うんだ!」
休み時間。机に両手をつき、その机の主に向かって女は瞳を燦然と輝かせてそう言った。それとは対称的に己は目を見開いて、読んでいた本をぱたりと倒してしまう。暫し、絶句していた口を開き、平然を装って我は女に問うた。
「…そなた、先日まで自転車は最強のエコカーだと力説しておったではないか。」
「いや、でも、バイクがあったら楽だし、それに格好良いし!」
名前は自転車は最強のエコカーだと語っていたあの時と同じ様に力を込めて主張する。当時の我ならいじらしく微笑ましいものだと済ましていたが、此度に至ってはそうはいかない。
「…駄目だ。その話、我は賛成出来ぬ。」
「えぇ!?何で!?!?免許を取っても何も問題はないはずだし!」
当然ながら、名前は異議を申し立てて来る。確かに、名前が二輪の免許を取っても何ら支障はない。それを親でもない人間である者が異論するなどと筋違いも甚だしいことは百も承知である。我は不都合を排しようと頭を機敏に回転させた。
「そなたは知らないのだ。あの乗り物の危険性を。あれは、…あれは、そうだ、乗ったら爆発する。」
「いや、しないよ!何、爆発って!乗っただけではバイクは爆発しないから!そうだとしたら、バイク乗ってる人皆、爆死したことになっちゃうじゃん!」
「ガソリンに引火すれば爆発する。」
「そりゃするよ!ガソリンに引火したら大抵のものは爆発するよ!てか、そうなったらもうバイクに乗るとか乗らないとか以前の問題になってくるし!もうそんなこと言い出しちゃうと今までのように笑って生活出来なくなっちゃうじゃん!バイク発明した人、とんだ咎人だよ!」
己自身でも理解し難いことを口走っていると思い苛る。問題なのは白を黒にすることではなく、相手が名前であること。他の者ならさておき、この者を前にするとどうにも調子を乱されてしまう。何か妙案はないものかと思考を巡らしながら、心中で逢ったことも見たこともない二輪車を発明した者に対し、ついても仕様がない悪態をつく。真にとんだ咎人だ。
「大体、元親だってバイク乗ってるよ!それなのに何で私は駄目なの?」
不意に名前の口から発せられた一人の人物の名前に自然と眉間に皺が寄った。
「そなた、よもや彼奴から何か唆されたのではあるまいな。」
「あー…、唆されたと言うわけではないんだけど…。実を言うと昨日、元親にバイクの後ろに乗せてもらってさ。それが結構楽しかったんだよねぇ。切っ掛けはそれかな、うん。」
やはり彼奴か。長曾我部元親。選りにも選って、名前を毒する真似をするとは。余程、死にたいらしい。実に気に食わない。存在は疎か、名前に下の名で呼ばれていることが気に食わない。奴こそ爆発すべき真の咎人だ。下劣な奴の呼称など、阿呆、屑、滓、塵、半裸、裸族、乳首で十分だ。それに納得出来ないのなら消えろ。納得したとて消えろ。
しかし、今はあの不届き裸体主義眼帯の処罰をどうするかの前にだ。今、先手を打たねばならぬは目の前の局面。平常に働かない思考からは未だに打開策は見出だせぬまま。腹の内を惜し気もなく曝け出せば楽になれると、そんなことが出来るのなら疾うの昔にやっている。
異常なほどに発熱する体。今にも音を立てて蒸発しそうな頭。思考の回路は短絡寸前だった。いや、何かがぷつりと切れ、同時に弾けるように短絡した。
「……我が…。」
「は?」
「我が免許を取る。」
「毛利君、意味がわからないよ。あ!毛利君も一緒に免許取りに行く?」
「否、我が免許を取得する。故にそなたは免許を取るな。」
「毛利君、更に意味がわからないよ。更に倍で意味がわからないよ。」
「我が免許を取った暁にはそなたが望む場所に我が連れて行ってやる。つまり、そなたが免許などを取る必要はないのだ。」
「謎は深まるばかりだよ、毛利君。謎と謎が手を取り合って踊ってるよ、毛利君。え、だってもし、二輪を取るとしたら二人乗りするには免許取ってから一年以上だし、それに何より免許は取れるけどそんなことして毛利君に一体何のメリットが…。」
「っ!口答えはするな!兎も角そなたは免許は取らなくてよい!良いな!?」
「は、はははいぃ!(ひぃ!意味がわからない上に怖い!)」
息を荒げ、冷静を欠いた我は無策ながらも威圧的に己の考えを押し通してその場を凌いだ。だが、後になって平静を取り戻した我は先程の発言を想起し、冷静を失っていたとは言えど、甚だしい大胆不敵な言動に後悔し、人知れず、赤やら青に変色する顔を隠すように頭を抱え込んだ。これもすべてあの男のせいだと強い殺意を抱きながら。
オーバープロテクション
(あれ、どうしたの元親、その怪我。)
(何か知らねぇけど、毛利の野郎にいきなり「転倒して怪我をすればどうしてくれる!」ってぶっとい本で殴られた。俺が怪我したんですけど。)
(あー、それは君が悪いよ、うん。)
(何でだよ!)
(どうせ、元親が毛利君に何かしたからでしょ。)
(何もしてねぇから俺!)
MANA3*110524