論考して結論に至る
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皆、大好き日曜日。締め切りが差し迫るレポートを未だに完成させてない私は一日をのんびりと過ごしたりなどせず、今もパソコンと対面して一生懸命作業に取り組んでいる。私に日曜日と言う開放感を満喫するゆとりなどありはしない。そんな猫の手もレンタルしたい程に忙しい私の家に勝手に侵入して来た知人は私と同じ課題を出されたはずなのだが、疾っくの昔に終わらせている様で私の部屋で本を読んで、まるで自分の部屋の様に寛いでいる。因みにレポートを手伝ってくれる優しさは一切ないらしい。帰れよ。何しに来たし。しかし、私には誰かの相手をしている余裕は本当にないので放置しておく。それに濫りに関わって手伝うどころか邪魔をされては敵わない。地に平伏し涙を流す惨めな自分の姿が容易に想像出来る。触らぬ神に祟りなし。相手は神だなんてそんな崇高な存在ではないのだけれども。例え神だとしても人類に厄災を齎す邪神に違いない。なのに、だ。
「ちょ、く、苦しっ…!」
何故私は何の脈絡もなくスリーパーホールドされてるんだ。何故この人は何の脈絡もなくスリーパーホールドして来たんだ。スリーパーホールドは締め切り間近なレポートを日曜日に死に物狂いにやってる女の子にかける技じゃないから。ただの女の子にやれば苦悶必至である。私はギブアップと首に絡まる腕にタップする。
「半兵衛さんっ、ギブ、ギブギブ!」
「ごめんなさいは?」
「…は?」
「ごめんなさいは?」
ごめんなさいだと?あなたなら兎も角として、何故私が犯してもいない過ちを詫びねばならない。何に対して謝罪しろと言うんだ。私が何をした。遠回しに私の存在が既に罪だとでも言いたいのか。べらぼうに理不尽この上ないが心にもなくとも今謝らなければ私は訳もわからず死んでしまう。心做しか首に巻かれた腕に力が込められた気がした。 殺 さ れ て し ま う 。
「ご、ごめん…ごめんな、さいッ!」
未曾有の息苦しさに生命の危機を感じ、ただ生きたいと願う思いにプライドもへったくれもなく心にもない謝罪を口にした。その瞬間、首に纏まりついた圧迫感は消え去り私は苦悶から解き放たれた。だ、誰か通報を…!この殺人未遂犯を野放しにしてはならない!
「ぜえ、ぜえ…半兵衛さん、何を…。」
「何を?わからないのかい?やれやれ、それだからレポートの一つや二つ終わらないのだよ。」
「終わらないレポートと生死を境を彷徨わらせられた因果関係が全くわからない!てかレポート絶対、関係ないですよね!」
「君の首を絞める事に理由がいるのかい?」
「いりますよ!何を然も平然と!例えどんな理由があったとしても人の首を絞めてはいけません!」
何なんだこの人は!サイコパスか!どんな神経してんだ!何でうっすら笑ってんだ!何でちょっと楽しそうなんだ!人の家に勝手に上がり込んでレポートを作る作業をスリーパーホールドによって妨害して薄ら笑いを浮かべるその神経を疑うわ!
「兎に角!私、レポートやりますんでスリーパーホールドかけたりしないで下さい!」
「逆に捉えれば、スリーパーホールド以外なら良いんだね?」
「何ですかその柔軟且つ残忍な発想は!良かないですよ!何で逆に捉えちゃうんですか!?何でそれなら良いって思ったんですか!」
「そもそも、君がレポートを終わらせないから悪いんじゃないのかい、名前?」
「え!結局、そこに辿り着く!?!?あなたにとってレポートを終わらせてない事がそんなに大罪ですか!?!?」
やたらと半兵衛さんがレポートとスリーパーホールドのありもしない因縁関係を主張して来る。私はそんなものは認めない。断じて認めない。そもそも、締め切りを守ってないならさておき、まだ期限は過ぎてはいないのだ。締め切りが過ぎたとてスリーパーホールドをかけて良いとは思わないが、それなら勿論、まだ締め切りを守ろうとしている私にスリーパーホールドなど以っての外である。議論するまでもなく、私にスリーパーホールドをかける半兵衛さんの方が大罪である。大罪そのものだ。
兎に角、レポートを終わらせたいから何もして来ないで下さい!と釘を刺してから改めてパソコンに向き直る。後ろも前も憂鬱しかないが、気持ちを切り替えて作業を再開しようとした。しようとしたのだが視界に映ったパソコンの画面が一瞬にして流れて部屋の天井へと変わった。何が起こったのか把握する前に、再び私に苦悶が襲い掛かって来たのだ。
「ちょ、半兵衛、さ、ッ痛い痛い痛ッ!!!!」
正直、消え去れこのド鬼畜がと言いたい所をレポートの作業をしたいからとオブラートにやんわりと宣告したのにも関わらず、あろう事か竹中半兵衛と言う人間は私に四の字固めを繰り出して来やがったのだ。こ、こいつ!人の言葉が、いや、人の心が理解出来ないと言うのか!?!?人間の底辺をマッハで突き抜けたとでも言うのか!?!?足が痛い!!!!痛みに悶絶し、床をバンバンとタップしても相手は技を解いてはくれない。さっきは後ろから奇襲をされたからわからなかったが、半兵衛さんの顔が物凄く嬉しそうだ。嬉しそうで楽しそうだ。因みに言うまでもないが私は全く楽しくない。地獄でしかない。
「半兵衛さん!!!!ギブギブギブ!!!!キブアーーーーーップ!!!!」
「ネバーギブアップだよ、名前。」
「私本人がギブアップっつってんでしょうが!!!!」
「ごめんなさいは?」
「また!何で私が謝らないといけないんですか!?!?何に謝罪しろと言うんですか!!!!私にどうしろと言うんですか!!!!」
「ごめんなさいは?」
「いだだだだだだごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいいいいいいいいい!!!!」
これぞ身に覚えのない、事実無根の何かに対して二度目の謝罪をしてから漸く私は解放された。神様。レポートを切羽詰まったコンディションでやるのはそんなにも悪い行いなのですか。何だかんだで夏休みの宿題は学校が始まる三日前位から焦って後悔しながらやるものではないんですか。時が経ち、それがあの頃は懐かしいと思い出話に花を咲かす事となるんじゃないんですか。果たして疑わしきは、この世界の秩序なのか今までの私なのか。でも確実に言えるのは半兵衛さんは人間を止めていると言う事だ。
目に涙を浮かべながら睨む私に反して、やはり半兵衛さんは至極、悦に浸ったご様子である。憎たらしい。
「…楽しそうですね。」
皮肉を込めて言ったつもりだ。しかし、言った後に自分の今の態度にまた何かされるのではないかと内心焦り、自然と体を強張らせて身構える。
「そうだね。楽しいよ。」
それは予想に反したものであった。ここで黒い笑みを浮かべていたのであればいつも通りなのであるが、半兵衛さんは柔らかく朗らかに微笑むものだから、それはそれで吃驚した。
「君と居るのは楽しいよ、名前。そうでなければ貴重な休日をこんな風に過ごしたりなどしない。」
脚の痛みも忘れる程に呆気にとられる。まさか、その様な表情でその様な言葉を半兵衛さんの口から聞けるとは思ってもみなかったからだ。素直に嬉しい反面、それは私に情け容赦なくスリーパーホールドや四の字固めをかける残虐極まりない事だと思えば複雑な気持ちになる。何だろうこの気持ちは。この感情を何て呼べば良いのだろうか。悶々とする私にそんな事もわからないからレポートがいつまでも終わらないのだよ、と是が非でもレポートについて執拗な追い撃ちをして来る半兵衛さん。今、わかった。人はこの感情を殺意と呼ぶのだろう。レポートがいつまでも終わらない原因はあなたにもあるでしょうが。
半兵衛さんが立ち上がり、こちらへ近付いて来るので私で楽しむつもりなのかとまた警戒態勢をとったが半兵衛さんは私の隣へゆっくりと腰を下ろしただけであった。それでも尚、油断せず警戒を解かずにいるといつもの人を食った様な視線を浴びせて来た。
「何をぼんやりしてるんだい。レポートをやるんだろう。」
「え!手伝ってくれるんですか!?」
「君が自力で終わるのを待っていたら日が暮れるどころか永遠に終わらなさそうだからね。」
「果てしなく見くびられている!どこまで私を馬鹿にするんですか!」
「おや、では僕の手伝いは要らない、そう言う事なんだね?」
「すみませんでした!手伝って下さい、お願いします!」
「うん、素直で宜しい。」
そう言って私の頭を半兵衛さんは優しく撫でながら終わったらお昼をご馳走してくれると言うのでやる気が出る。半兵衛さんのこう言う人の扱いが巧みなのは流石だなと恐れ入る。痛いのは嫌だが何だかんだで割りと楽しいかもしれないと少しだけ思うのであった。
論考して結論に至る
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何もしてないのに彼氏サンがプロレス技やらを彼女サンにかけて謝らせると言うナイトスクープネタ。因みにナイトスクープでは彼女サンがそんな彼氏サンに復讐して御免なさいと言わせたいと言う依頼でした。涎を垂らされてました。
(MANA3*130126)