眠れる愛を携える
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それはほんの細やかな好奇心だった。今、流行りのスマフォと言う物がどんな物なのか純粋に気になっただけなのだ。間違っても、メールの内容を見ようとかデータフォルダを覗いてやろうなんて悪意は断じてなかった。他人のプライベートを侵害しようなんて自分がやられて嫌な事はやるべきではない。本当の本当に少しタッチパネルでそいそーいと遊びたかっただけなのだ。それを信じる、信じまいとそんな話ではなくなってしまったのだが。まさかこんな事になろうとは微塵にも思っていなかった。私でなくとも誰がこんな事態を想定出来ようか。教室には酷く狼狽する私と息を切らして必死な形相でスマフォを握り締めながら私を睨みつける半兵衛さん。こんなに取り乱す半兵衛さんを私は未だ嘗て見た事がない。もっと違う場面なら指を指して笑えていたかもしれないがこれは流石に笑えなかった。
「…………見たのかい?」
「…え、あ…その…。」
見た事もない半兵衛さんの物凄い剣幕に言葉が詰まる。正直、見たか見てないと言えば見てしまいました。だが、今の半兵衛さんを前にして素直に見てしまいましたと言えやしない。そもそも、私が態々言わなくてもその答えは恐らく本人が一番わかっていると思うのだが。最早、私はイエスノーどちらを答えるべきかと言うより正確にはどうすればこの不測の事態を収束出来るかを懸命に考えた。答えが出るまで半兵衛さんが待ってくれるとは思えないが。
私がした事は半兵衛さんの机の上にスマフォがあって、ボタンを押して、画面を指でなぞって、ロックを解除しただけでそれ以外は何もしていない。ただ、それだけで半兵衛さんにとっては十二分に不都合であったのだろう。スマフォのロックを解除して、そんな単純な事におお!と一人感動した次の瞬間、それはそれはたまげる羽目となってしまう。暫く、画面を呆けて眺めていると背後から伸びた手にスマフォを取られた。突然、現れた手にも驚いたが、その手がスマフォの持ち主だったもんだから重ね重ね驚いた。確かに私が勝手に他人の物を触ったのは悪い。半兵衛さんは被害者で私は加害者の立場にある。それと同時に半兵衛さんが加害者で私が被害者でもあった。私は勝手に半兵衛さんのスマフォを触ってしまったし、何でか全くわからんが半兵衛さんもいつ撮ったのか知らんが私の寝顔を待ち受けにしてるし、いつもみたいに「君があまりにも間抜け面で面白かったから。」なんて私を馬鹿にして笑ってくれれば、むかつくけど、今だけは助かると言うのに何でそんな余裕なんて欠片もない焦った顔で私を睨んでるんだこの人。ほら笑えよ!私を嘲笑いなさいよ!そしたら私も「何で勝手に人の寝顔盗撮してんのよこのボケが!」って言えるんですよ!言えないですけどね!言ったら私が泣き叫ぶまで関節技をぎっちぎちに固めて来るから言わないですけどね!もうどっちも悪いって事で良いんじゃないでしょうか!それが簡単に言えたら楽じゃないんですけどね!このタイミングで政宗と元親の阿呆眼帯二人が教室に入って来ないだろうか。駄目だ、あいつらカラオケに行くとか何とか言ってたな。くそっ、役に立たない眼帯共め!あいつらが使ってるマイクが何の脈絡もなく爆発しろ。
「…ご、ごめんなさ、い。」
兎に角、私は半兵衛さんのスマフォを勝手に弄った事を謝った。でもその謝罪は半兵衛さんには見てしまいましたと肯定の意味で解釈されるのだろうが構いはしない。これ以上張り詰められた膠着状態が長続きするのは心臓に悪過ぎる。半兵衛さんは一度目を閉じて次に開いた時には吹っ切れたかの様にいつもの顔付きに戻っていた。
「…そうか。なら仕方ないね。」
てっきり怒鳴られるなり暴力を振るわれるなり関節技をかけられるなり、どう足掻いても私が阿鼻叫喚させられると予想したのだが実際は思ったよりも随分と穏やかな反応で私は拍子抜けした。全部私の杞憂で実は大した事ではなかったのだろうか。何であんな顔して睨まれたのか全くわからないけども。
「でも、責任は取ってもらうよ。」
「責任?」
「こう言う事だよ。」
半兵衛さんが言う責任の意味が良くわからずにいると、半兵衛さんは座っていた私の手を強引に引いて立ち上がらせて顎を掴んで上を向かせる。目の前には半兵衛さんの顔があって、近過ぎるにも程があって、これはつもり、え、どう言う事なのだろうか。
「Hey!Honey!」
「おう、探したぜ!今からカラオケに…。」
こ の タ イ ミ ン グ じ ゃ ね ぇ よ ! ! ! !
何ある意味絶妙なタイミングで突入しに来てんだよ!来るならもう少し早く来いよ!遅れてやって来た眼帯共に心の中で毒突きながらも突如、現れた二人に気を取られた半兵衛さんの隙を突いて手を振り払い私は逃げ出した。途中で眼帯二人に名前を呼ばれた気もするが、私は振り返らずに全力で走った。あの二人が何か勘違いしてしまったかもしれないが弁明をする暇もゆとりもなく私は居ても立っても居られなかった。こんなのもう嫌だ!私は家に帰らせてもらう!半兵衛さんはあんなに顔を近付けて一体何をしようとしたのか。まさか、キスしようとしたとでも言うのか。それが責任を取ると言う意味だったのだろうか。意味がわからないんですけど!あれではまるで半兵衛さんが私を、そんなのは盛大な勘違いかもしれないのだが、そう一度、意識してしまったからには中々熱りが冷めない。明日、誰かにやいのやいのと言われるかもがしれないが知ったこっちゃない。何はともあれ今はお願いだから私を一人にしてくれ。
眠れる愛を携える
MANA3*121009