装飾は邪魔なだけ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その終わりが見えない不毛な諍いはいつまでも繰り返される。諍いと言うには些か大袈裟かもしれないがお互いがお互いに主張を譲らず水掛け論となり、私も半ば自棄になりかけてはいるがここで引く訳には行かず懸命に食い下がる。
「お願いしますよ!何か一つくらいあるでしょう!」
「そう言われてもね。本当に気を使わなくても良いんだよ。君のその気持ちだけで僕は十分だから。」
「そんな綺麗事もう聞きたくないわ!半兵衛さんが十分でも私は嫌なんです!」
「やれやれ、困ったものだね。」
私だって人を困らせたくなんかない。しかし、今日が誕生日だと知らされて何もしない訳にはいかない。意地になっている私の言動は最早、自己満足だと言われても仕方がないだろう。でも、前以て知っていたのであればリサーチしてちゃんとプレゼントも用意していたはずなのだ。それに折角の誕生日なら祝って喜ばせてあげたいと純粋に思う。それが敵わず、直接本人に欲しい物を尋ねる辺りもう形振りなんて構ってられないのだ。
「そうだ!以前、欲しい本があるとか言ってませんでしたか?」
「ああ、あれは先日買ったよ。面白かったよ。良ければ貸してあげようか?」
「本当ですか!わっほーい!って違う!!」
危ない危ない!危うく話をはぐらかせ様とする半兵衛さんの詭計にまんまとすっぽり嵌まる所であった。話術で言葉巧みに人の心を操るのはこの人の専売特許だからな。その恐ろしさは私も重々知っている。半兵衛さんのペースに持って行かれれば全てお終いだ。気を付けねば。
「おや、引っ掛からなかったね。」
「当たり前です!」
「名前ならと思ったのにな。」
「馬鹿にされてる!」
「しかし、中々の乗り突っ込みだったよ。以前よりも上達したんじゃないかい。」
「え、そうですか。いやあ、そう言われれば悪い気もしなくはないって、おい!そんな事はどうでも良いんだ!心底、どうでも良いんだよ!」
まさかのダブルトラップ!!!!私はこの人の本当の恐ろしさを何もわかっちゃあいなかったよ!この畳み掛ける様な周到な二段構え!これまで私が見てきた半兵衛さんの力はほんの片鱗でしかなかったとでも言うのか!実に恐ろしい!これが、これが竹中半兵衛なのか。遊ばれている。蒙昧な凡愚で矮小な人間である私は半兵衛さんの手の内で容易く転がされて遊ばれている。この人、その力を以てしてこの世界を掌握するつもりなのか。末恐ろしい、何て末恐ろしい!半兵衛さんは眉を八の字に垂らして残念だと言いたげに笑う。馬鹿にするのも大概にしなさいよ!
「何かないんですか!この際、消しゴムでも構いませんから!」
「消しゴムは、ちょっと…。」
消しゴムさえも要らないと言うのか!あなたは無欲の化身か!それとも仙人か菩薩かその様な尊い類の存在なのか!うん、いや、まあ、私も消しゴムはなかったか。消しゴムなんぞを貰ったって今時の小学生でも喜ばないのは私もわかっています。これには流石の無欲の化身も苦笑いの表情である。この件については全面的に謝ろう。
「僕だって人間だからね。欲しいものくらいはあるよ。」
おいおいあるのかよ!何だよ、あなたも何だかんだで結局、菩薩の皮を被ったただ人間だったんじゃないですか!全く驚かせないで下さいよ!今まで散々勿体振りやがってこの野郎め!本当に人の心をまるでお手玉の様に弄ぶプロフェッショナルですねあなたって人は!その特技を活かして将来、心理カウンセラーかネゴシエイターになって世間に貢献すれば言いと思いますよ。漸く相手が折れてくれそうな素振りを見せて来たので今の私は気分はまるで難攻不落の要塞の攻略目前な兵士であった。
「何だ。じゃあ、最初から言って下さいよ。」
「名前がそこまで言うのなら仕方ないね。」
前方から伸びて来た二本の腕に私の体はあっという間に搦め捕られる。何が起こったのかわからないまま体重を掛けられ自然と体は私達の座っていたソファへと倒れる。ここは半兵衛さんの家なのだが私の様な家とは比べるまでもなく大きくて綺麗な家でソファなんかも座り心地が良く悲しい事に私の部屋のベッドよりもふかふかでゆったりのびのびと寛げるカウチソファなのだがその心地好さを背中で改めて思い知る。ソファに静かに沈んだ私はただ呆然としていてその間にも半兵衛さんは耳から頬、首筋へと唇を這わせていく。こそばゆい。何だか私の頭ではこの状況を全く理解出来ないのだが。あれ、何でこうなってしまったのか。さっきまで誕生日プレゼントがどうとか乗り突っ込みが上達したとかこうとか話していたはずなのだが。
「…あ、あの、半兵衛さん…。」
「ん?何だい?」
「えーっと…これは一体、どう言う事なのでしょうか。」
困惑する私とは裏腹に私の頭を撫でながら半兵衛さんは優しく微笑む。優しく微笑んでいるはずなのだが果たして菩薩の微笑みと言うものはこんなに怖いものであっただろうか。
「折角の誕生日なんだ。君を貰っても構わないだろう?」
装飾は邪魔なだけ
―――――
別題:菩薩ネゴシエイターの策略。半兵衛サン命の限り御誕生日御目出度う御座います!!!!!!
MANA3*120927