汚れなきフリーク
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私は訪問清掃業を生業にしている。清掃の仕事と言えば体力も根気も必要となってくる力仕事である。女である私は男の人と比べて、埋め様がない生まれながらのハンディがある。だが、そんな事を言い訳にしたくなどなかった。それに一緒に働く清掃員の人達も優しい人ばかりで楽しく和気藹々たる雰囲気の御蔭で辛いと思ったりめげる事もなく、他の人の足を引っ張るまい、いや、同じ様に働ける為にも私は仕事に励みここまで頑張って来れる事が出来たのだ。
そんな私が最近、漸く一人での清掃を任せてもらえる事になった。つまりそれは私のこれまでの努力が認められたと言う事。信頼されているのだ。その事実を素直に嬉しく思い、これからもより一層頑張ろうと私は自分自身を鼓舞した。
そして、訪れた私一人だけの初めての清掃の日。連絡があった見るからに高級感しか漂わないマンションの最上階の一室の前に私は立つ。まさか記念すべき一人での清掃がこんな所とは。僅かに緊張しながらもこんな事で怖じ気づいてはいられないと意を決してインターホンを押すと程なくして住人からの声が返って来た。
「こんにちは!○○サービスの者です!」
間もなくして、カチャリと鍵を回す音が聞こえた後開かれたドアから姿を現したのは白色が印象的な美形の男の人だった。吃驚して口から変な声が出そうになるのを何とか悟られない様にしながらも飲み込む。うひゃー、凄い美人な人!おっと、いけないいけない。仕事仕事。
「どうも!本日は当サービスをご利用頂き誠にありがとうございます!」
「やあ、いらっしゃい。早速だけどお願い出来るかい?」
「はい!」
家に入り、先導する男の人の背中を追いながら、すべすべとした平滑なフローリングの廊下を進んでく。まだ玄関と廊下しか拝見していないが綺麗に掃除が行き渡っている。男の人も見るからに清潔感溢れる綺麗好きそうな印象を持つ。清掃業者を呼ぶまでもないと思うのだが、まあ、それは些細な疑問に過ぎない。私はただ頼まれた仕事を全うするのみ。案内されるがまま廊下を真っ直ぐ歩くと予想をするからしてリビングに通じるであろうドアに突き当たる。
「じゃあ、この部屋の掃除を頼むよ。」
男の人の白い手が把手を握りドアを開ける。ドアを開けたままの状態で待機してる男の人の何気ない気遣いに軽く会釈しながら私はその部屋に足を踏み入れた。
「はい!任せて下さ―」
溌剌と意気揚々に返した言葉は途中で詰まり、私はその場で息を飲みぴしりと硬直した。踏み込んだ部屋は予想した通りリビングだった。しかし、予想外にもそのリビングの壁や床や家具に至るあちらこちらに赤い、まるで血の様なものが盛大に飛び散っていた。
さ 、 殺 人 現 場 … !
白い壁を蹂躙するかの如く真っ赤に染まったリビングは宛ら誰かを拷問し、惨たらしく殺したかの様な有様であった。これ、私が掃除する前に色んな意味で何か掃除したんじゃないですか!?やったのか!?まさかこの人が!?やっちまったのか!?!?誰かやった後始末を業者に頼むか普通!いや、だからこそ、これは殺人現場ではないんだ。きっとこれは、あれだ、突発的にトマト祭りを開催したくなってこの部屋は祭りの成れの果てとも言うべきなのだろう。何か血生臭いフレーバーが漂ってますが勢い良くトマトが顔面にヒットして鼻血やら吐血やら流血したからですよね!そうだ、そうに決まっている!楽しそうですもんねトマト祭り!
「思いの外に汚してしまってね。中々、掃除が捗らなくて困っていたのだよ。」
背後で然も平然と至って穏やかに話す男に対し、「もしかして誰かやっちゃったんですか?」なんて事を軽々しくは聞かないし聞けるはずもなく、振り返る事もなくはははと渇いた笑いを漏らす。確証もないのに見ず知らずの他人を疑いたくはないのだが、胸に出来た痼りを気にしたままでは仕事もままならない。さっさと掃除に取り掛かって仕事を終わらせてしまおう。
背後でカチャっと音が聞こえ反射的に振り返ってしまう。するとさっきの男の人とは違う目付きが悪く鋭い前髪が印象的な男の人が現れた。誰ですかあなたは!メシアか!?共犯者か!?!?共犯者なのか!?!?
「半兵衛様、これの処分は如何致しましょう。」
目付きの悪い男の人が言うこれと言うのは恐らく手にした黒い塵袋の事だろう。中に何か詰まっているのであろう肥えた塵袋は透明ではない為に袋越しからでは中身が何なのかわからない。しかし、縛った袋の入口から人の手の様な、いや、確かに人の手が飛び出ているのを肉眼で確認。信じ難い事だが驚きのあまりぎょっと開いた目で見れば見る程、それは赤い血に塗れた人の手に相違なかった。
め 、 メ シ ア に あ ら ず ! ! ! ! ! !
一つの疑惑が一つの確信へと変化し、その事実を目の当たりにしてしまった私の体はぶるぶると震え出す。如何致しましょうってあなたが如何したんだよ!そんな私を余所に犯人達は「君に任せるよ。山に埋めるなり、海に捨てるなり適当に上手い事処理しておいてくれたまえ。」「承知致しました。」と何やら不穏なやり取りをまるで日常会話をするかの如く行っていた。何て物騒な話をしてんだあんた達!何、承知してんだよ!何で恭順の意を示してんだよ!そのアブノーマルな忠誠心は一体何処から沸いて来るんだ!
何なんだこれは。ここは日本なのか。寧ろ地球なのか。もしや亜空間なのか。あまりにも血生臭い、くらくらと眩暈を起こす様な非日常な現状。清掃業をしていればこんな事は決して珍しくはないのだろうか。こんな時の対処法を先輩であり私の教育係だった柳沼さんは教えてくれなかったぞ!どう言う事ですか柳沼さん!!!!教えて下さい!!!!この様な事態に陥った時の対処法を教えて下さい!!!!願わくば私に救いの手を差し延べてほしい!!!!ここは警察に電話すべきか、若しくは柳沼さんに電話すべきか。それよりも一旦この日常から勢いよく逸脱した世界から早々に退散すべきであろう。自分の身の安全を確保してから警察or柳沼さんのライフライン、テレフォンを発動させる。
「あの、すみません。少し会社の方に連絡を取るので一旦、外に出ますね。」
動揺を隠し、恰も私、何も見てないですよー、通常運転ですよー、と平常心を装う。商売道具を持って行くのは明白に怪しいから置いていく。必ず迎えに来るから!待ってて!アイルビーバック!男の人の横を擦り抜け非常口の玄関へと向かう。しかし、男がリビングから廊下に繋がるドアを閉めた為にそれは敵わなかった。
ドアを閉じられた意味がわからず、閉めた張本人である男を恐る恐る見上げればそれはそれは優しい微笑みを浮かべていた。まあ、何て素敵な笑顔なんでしょう。オプションで影がなければですけどね!どんなに笑っていても影が出来てたらもう怖いとしか思えないですから凄いですよね!いやあ、凄い!たまげるわー!
「あ、あの…何か?」
「僕がそう易々と君を逃がすと思ったかい?」
え、私逃げられないの?駄目なの?あら、そう。てか逃げる事がお見通しだったのか。何てこったい。混乱し過ぎて逆に冷静になっちゃったりしてますが、全身から垂れ流れる冷や汗が尋常じゃないですよ、これ。びっちゃびちゃだよびっちゃびちゃ。冷や汗の量が私の今の心境を嘘偽りなく物語っていらっしゃる。
「え、ちょっと、どう言う事かわかんないんですけど。」
微かなか細い糸の望みに縋り、尚も平然を取り繕うとする私。だが、その言葉は取り繕う意味でもあり、私の本心に相違なかった。男は目を細め、シニカルな笑みで言葉を紡ぐ。
「さっきの袋の中にはね、塵屑同然の人間の死体が入っているのだよ。まあ、今となっては塵そのものとなってしまったけれどね。元々、人間だった男は君を執拗に付き纏っといたストーカーだったんだよ。君に何か遭ってしまってからでは遅いからね。そうなる前に僕が先手を打っておいたと言う事さ。出る杭は早目に打たなければ。それに僕としても彼の存在は非常に目障りだったのでね、丁度、良かったよ。これで君は安心出来るし、僕にとっての邪魔者は消え去って一石二鳥だ。名前、君を愛するのは僕一人で十分だよね。」
あ な た の お っ し ゃ る 先 手 の 打 ち 方
いや、確かにストーカーは駄目ですよ!ストーカーは駄目だ!うん!でもあなたの所業はもっと駄目ですよ!!!!この世で最も犯してはならない大罪ですよ!もっと穏便に済まなかったのですか、今の私に様に警察や柳沼さんに連絡しようとするとかね!それで私がどうして安心出来ると思ったんだよ!どうして今眼前に存在する脅威に恐れ戦かないと思った!それでスーパーヒーローになれると本当に信じていたのか!!!!なれんよ!なれんからね!そんな血生臭いヒーローなんて願い下げよ!どう考えたってあなたラスボスだから!それにそう言うあなたももしかしてストーカーの類なのではないのですか!どうなんですか!
男の打ち明けてほしくもなかった衝撃の真実、逃げ場を失った私は身動き出来ず立ち往生をしていると男の冷たい手が私の両頬にそっと添えられる。ひえ!この手か!この手がやっちまったのか!そんな血で汚れた手で触らないで下さい!男の恍惚とした瞳は怯えた私の姿を映す。
「この部屋の掃除を頼んだけれども、それは立前であって、何より君をあの男の血で汚すのは腹に据えかねる。でも、僕があの男を掃除した報酬を君から貰い受けたいのだけれども、」
勿論、君で良いよね名前と男は耳元で囁く。誰がいつそんな事を頼んだ。兎に角、この部屋よりも死んだ男よりも何よりも目の前の男の心をクリーニングするべきだと思う。柳沼さん助けて下さい。
汚れなきフリーク
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ジャッカスネタ。初見は何も思わなかったですが改めて観たらめっちゃ面白かったです。
MANA3*120923