愛すべきアウトサイダー
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「お前達二人は本当の兄妹ではないんだ。」
いつもと変わらない一家団欒の夕食後。話があると両親から私と兄に突拍子もなくそれは告げられた。兄はどうかは知らないが私は長い時を経て今知らされたその真実に呆然とした。と言ってもそれは今まで兄と慕っていた人物が実は赤の他人だった事にショックを受けているからではない。確かにちっとも吃驚しなかったかと言えば嘘になるのだが、それよりも私は両親が何故このタイミングにそんな重大な事を明かしたかの方が驚きである。今日が月曜日だとわかって言っているのかこの人。明日、平日だぞ。私、普通に登校せないかんのだぞ。もう少し気遣いとかはないのか。親しき中にも礼儀ありだぞ。近々何かあるのか。それとも、お父さんが病院に行ってレントゲンで黒い影でも見付かったのか。しかし、理由を尋ねれば本当曰く特に深刻な状態に陥っていると言う訳でもなく私達が大きくなったら時期を見計らって言うつもりだったらしい。うん、だからね、明日学校なんだよ私。全然全くと言う程見計らえてないよお父さん。戦況を見誤ってるよ。戦争なら間違いなく国の為に死んでたよ。何より私が度胆を抜かれているのは「どうだ吃驚しただろ!」とドヤ顔をかまして来る父にだ。何この父親、腹立つ。だが「こんな事で落ち込んだりするお前達じゃないってわかっているからな。」と父の言う通り多少吃驚しただけで今一、実感が湧かないせいか特別、動揺はしていない。この親にしてこの子あり。血は争えないと言う訳か。何て皮肉な事だ。確かに私と兄は兄妹と言う割には見た目、性格、どれにおいても面白い程、似てはいなかった。兄は格好良いし、頭も良いし、優しいし、こんな人が私のお兄ちゃんな訳がないと思う事は屡々あったがまさか本当だったとは。通りで似てないと思ったわこの野郎。だが、兄妹ではなかった所で何も変わる事はないし、今までと同じくこれからも兄妹として仲睦まじく接するだけだ。兄もそう考えていると、私はそう思っていた。
「好きだ。」
つい先程、両親から唯一無二の兄だと思っていた人とは実は血の繋がりがないと告白されても狼狽えなかった私は今、酷く困惑している。兄の腕の中に閉じ込められるこの現状に。重要な話が軽く終わってしまった後、リビングから出た所で突然兄に手を引かれて訳がわからず自室まで連れられてどうしてこうなってしまったのか。何も言わずただ私を抱き締めるものだから、どこか具合が悪いのではないかと不安になる。心配になって声を掛けようとした時だった。耳元で切なく熱を込められ囁かれた言葉。
「好きだ。好きだ名前。愛してる。」
「え、うん。え、何、どうしたの突然。」
兄の様子がただならぬものであるのは察していた。血は繋がっていなかったとしても長い時間を一緒に過ごして来た私のたった一人の兄なのだから。それぐらいはわかる。だからこそ私を抱き締めるこの人が何だかいつもと違った雰囲気を纏ったせいからか私の知らない兄の様で少し怖い。言い知れぬ違和感に胸がざわめく。いや、そんなはずはない。それはないだろう。兄が言う好意は極々有り触れた美しい家族愛であって断じて男女間に生まれる、所謂、恋愛感情などではないんだ。
「ずっと前から君の事が好きだった。妹としてではなく、一人の女性として。止め処なく溢れ出す感情を胸の内に秘め続けていた事がどれだけ切なく辛酸であったか。僕にとって兄妹と言う関係がどれだけ残酷だったか。しかし、今はもう僕を縛り苦しめるものは何もない。だからもう隠す必要なんてないんだ。僕は君を愛してる。名前、君を愛しているんだ。」
ジーザス。マジかよ、神様。そしてマジかよ、兄さん。何なんだ今日は、カミングアウトの日なのか、懺悔の日なのか。律儀にそんな記念日に便乗しなくて良いよ。だが、既にぶち撒けられてしまったらもう遅い。何このぶち撒けたもん勝ちみたいな状態。狡い、狡いわー。そんなの狡いわー。何この老獪な親子の巧妙なコンビネーション。全く、ぐるだと疑いたくなる程だよ。逆に思わず天晴れと言わざるを得なくなるわい。しかし、何と言われようとも目の前に居る人は義理でも私の兄でしかなく、私も妹でしかないのだ。きっと、兄は父のカミングアウトで頭が混乱しているだけなのだ。
「で、でででも、そんな事、急に言われても私達は兄妹だし…。」
「違う。僕達は兄妹ではない。だから、恋人にだってなれるし、結婚も出来るし、夫婦にだってなれる。キスも、それ以上の行為に及んでも誰も法も僕達を咎められない。そうだろう?」
僕達の間を遮る壁なんてものは最初からなかったのだから、と兄は明らかにいつもとは違う目で私を見る。え、私の意思は?と言う言葉は唇ごと飲み込まれた。
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9月6日は妹の日らしいですよ。就サンでも凶王でも良かったのですがやはり半兵衛サンで。
MANA3*120906