健康な心身を培う
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戦国のデストロイヤーでお馴染みの竹中半兵衛さんに「君のその弛んだ心と体を僕が矯正してあげよう。」と死刑宣告をされました。今日も今日とて、その字に偽りなく、私の平和を破壊してくれる様です。堪ったものではありません。弛んだ心は兎に角、体とはどう言う事だ。仮でなくとも女である私に堂々と体が弛んでるなどと発言する半兵衛さんは一度、人の心の痛みを学んで理解すべきだと思う。そして私に命の限り深くお詫び申し上げるべきだ。例え本当の事だとしても言って良い事と悪い事があるのだ。そんな悲痛なる心の訴訟は届くはずもなく、私は好意がなければ親切もない有難迷惑によって、何故か豊臣軍の訓練に参加を強いられた。
「……きゅ…きゅうひゃく…ろくじゅ……ななっ……はっ……きゅう、ひゃく……ろく…じゅぅ……は…はちぃぃ………っ。」
「ほら、もっときびきびとやりたまえ。あと少しだからと言って気を抜くんじゃない。」
私は暴君インストラクターによるマンツーマンの指導の下、上体起こしをさせられている。千回。千回ですよ千回。何ですか千回って。あなたが今まで犯して来た罪の数ですか。いや、それならもっと多いはずだ。数え切れるはずがない。兎に角、普段から運動をしない者にさせる回数ではない。初っ端からそんなにハードだったら鍛えるどころか逆に体のあちらこちらを痛めてしまうに決まっている。何を考えているんだこの人。他者を虐げる事しか頭にないのか。こんな事させて、これで弛んでいると馬鹿にした私のカチカチになった腹筋から編み出るボディプレスを喰らって夥しい量の血を吐けばいい。
「ってか、…何でぇ……甲冑…つ…け…て………やらないと…。」
「君が隙を見て逃げない様にさ。良い重しにもなるからね。それに何事も形から入るのは悪い事ではないと僕は思うのだよ。」
いや、悪いですよ。良い悪い例ですよ。寧ろ、例に挙げるまでもなく問題外ですよ。ただの悪ふざけである。それにこんなもん装備して逃げられるか。装備してなくてもあなたからは逃げられる気がしないわ。それ以前に足枷嵌められてどうやって逃げろと言うんですか。てか、何で足枷されてるんですか。何この厳重さ。私が何をしたと言うんだ。筋トレの正装が甲冑とか初耳なんですけど。だとしたら現代の学校での体育の時間などがスーパー戦国タイムになってしまうではないですか。何だその物々しい光景は。何だその御座る御座るは。何だその現代のラスト侍は。ラスト侍と言うよりは量産型侍ではないか。何よりもやり難い事山の如しなんですけど。冑着て上体起こししても甲冑が邪魔でちゃんと上体を起こせない時点で正装とか有り得ない。有り得ない。何が有り得ないって目の前でほくそ笑んでいる人物が有り得ない。それに周りの兵士の人は正装と言うより軽装じゃないか。私だけだよこんな重装備して筋トレしてるの。明らかに私のみが哀れですよ。
しかし、それも数回。後たった数回、体を起こせば終わるのだ。私はそう言い聞かせ自分で自分を奮い立たせ、残りの数を心の中で数える。
……後、五回、…
…四回、
…三回、
…二回、
その時だった。突如、ずしりと額に伸しかかる重圧により、一回と数えるには至らない中途半端な位置で私の上体はぴたりと動かなくなる。何が起こったなど追究するまでもない。私の視界は誰かの靴底でいっぱいになっていたからだ。その誰かと言うのも考えるまでもない。
「ど…どう言うつもり、ですか…半兵衛さんっ…。
「どうしたんだい、名前。後、一回なんだろう?ほら、最後まで頑張りたまえ。」
人の頭を足で踏ん付けておきながら、どの口が頑張れなどぼざくのか。ちょっと声が笑ってんじゃないですか。何が可笑しいと言うんだ!言ってみろ、この野郎!上体起こし千回と言う無理難題を今まさにその偉業を成し遂げ、カタルシスを味わうとする者に対しこの仕打ち、鬼畜の所業である。
「ああ、因みに出来なければ罰を与えるから。」
罰!?罰って何だ!?!?あなたの言う罰って一体何なんだ!今、正に罰を与えられているのですが!現状を凌駕する罰があるのか!何だそれは、死か!?!?死なのか!?!?死以外に何も思い付かない!酷く極端な事だがこの人に関して概ね悲観的な発想しか出来なくなってしまった自分が居る!だってそうじゃないか!こんな奈落の底に叩き落とされて一筋の希望の光を見た所を更に深淵へ落とされて、それでも絶望せずに大丈夫!何とかなるよ!と笑っていられる程、私強くないから!笑えないから!笑ってるのあなただけですから!
しかし、諦めたところでその先に待つの死のみだ。ここが正念場。今こそ私の内に秘めたるポテンシャルを発揮する時!世界中の皆!!!!私に力を分けてくれ!!!!
「名前、」
返事はしない。一瞬でも気を抜いた瞬間、死は免れないのだから。奴が何かを企んでいるのはわかっている。悪魔の囁きに耳を貸してはならない。無視だ無視。視界には自分の太股と私の頭を踏む足しか見えないのでその表情はわからないが半兵衛さんが柔らかく笑んだ気がした。
「今日も可愛いね。」
「なっ!?!?!?!?ぐべぇっ!!!!!!!!」
私の後頭部が地面に衝突し、その衝撃で一瞬息が出来なくなったと共に何だか懐かしい光景が見えた。
「はい、名前の負け。」
死んだ。二つの意味で死んだ。ああ、そうさ。私は人生においての敗者なのさ。何とでも笑うが良い。そして勝者であるあなたは未来永劫罪を背負って生きていけ。おめでとう。お前の事だけは許さない!絶対に許さない、絶対にだ!!
「……半兵衛さん…卑怯、ですよ…。」
「卑怯?一体何の事かな。」
そしてこの驚きの白々しさである。やる事なす事どす黒いくせしてこの驚きの白々しさ、甚だ遺憾である。誰か私の敵討ちにこの人を滅ぼして下さい。もう私には何の力も残っていません。さようなら。どうやら私はここまでの様です。
「さて、名前。約束通り君には罰を与えなければいけない。」
そんな約束した覚えないですし。与えなければならないって何でそんな恰も重要な使命を課せられた言い方するんですか、腹立たしい事この上ないわ。いつもより浮き立った声色で半兵衛さんは話す。ああ、もう好きにするが良い。どうせ私はここで朽ち果てる運命なのだから。
「君はなかなかに良く頑張ったよ。だから僕から罰ではなくご褒美をあげよう。」
意外な言葉に私は愕然とした。褒美だと?まさか?半兵衛さんが?体が動かない私は視線だけを動かすと半兵衛さんの口角を吊り上げてにやりと笑う口元に絶望した。
「さあ、僕の部屋に行こうか。」
健康な心身を培う
(不健康で不健全。)
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体育の日と言う事で。偶々なのですが。
MANA3*111010