そして、私は闇に堕ちた
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欲しいものがあるんだ。
どんな手段を使ってでも、
どれだけの犠牲を払っても、
どれだけこの手を穢そうとも、
僕はどうしても手に入れたい。
そう、どうしても欲しいんだ。
何の脈絡もなく半兵衛さんはそう言った。仰ぎ見るその視線の先には取り分けいつもと変わりない天井があった。部屋には半兵衛さんと私しか居らず、独り言にしては少し大きい呟きは、もしかしてもしかしなくとも私に話しかけたのだろうかと、戸惑う私に気付いているのか、否か、半兵衛さんは続ける。
「到底、比喩出来ない想いをこの世の使い古された陳腐な言葉を囁けば、或はそんなものは無用だと言葉を飲み込んでしまって無言に閉ざした口を噛み付くように重ねるべきか、尊厳も何もかも蔑ろに踏み躙って、本能の赴くままに肉体を蹂躙すれば、鎖で繋ぎ止めれば、何処へも行けないように閉じ込めれば、容易くか弱いその命を奪えば、目の前で醜悪で惨たらしい脳裏から消し去れないような最期を遂げれば、僕のものにすることが出来るだろうか。」
全く以て解せないその言葉は私には哲学染みても聞こえたが、同時に形容し難い蟠りは恐怖を煽り、心はざわざわとさざめく。天井へ向けられていた視線はいつしかこちらに向けられていた。ゆらりと虚ろに鈍く光るその瞳の奥に潜み、蔓延するものを私は汲み取れない。知ってはいけない気がした。そんな私に見え隠れする漠然とした何かを寧ろ知ってほしいと教示するように半兵衛さんはゆっくりと口を開けた。
「どうすれば、君を手に入れることが出来るのだろうか。」
何の惜し気もなく現れる実態。姿こそ同じであれど、そこには皮を剥ぎ取った全くの別の人物が存在する。茫然自失する私を突如、首に走る冷たさが現実へと引き戻す。
「名前。どうすれば僕のものになってくれるんだい。」
なぞるようにして軽く首筋に触れて愛撫するも、ねっとりと絡み付くような感覚と錯誤するその指先に孕むのは果たして慈愛なのか、殺意なのか。それはまるで、駄々を捏ねる子供であって、本能のままに生きる獣のようだった。何にせよ、とても悍ましい。逃げ出したい。今すぐにこの異常な状況から逃げ出したい。そうしたいのは山々だが、純粋に濁った菖蒲色の瞳に捉えられている私の言動一つによって私自身がどうなってしまうのか、皆目見当がつかないからして最悪の場合、次の瞬間には死んでしまうかもしれない。どうにも諦めや妥協なんて微塵もなさそうな相手に、最早私が諦めた方が良いのかなんて一瞬、浅はかなことを思ってしまったが、だからと言って誰が私の身の保障をしてくれるのだろうか。何も出来ずにいる私を狂気がじわじわと容赦なく侵蝕していく。艶めかしい唇から垣間見える白い歯が今にも私の喉元に噛み付きそうだった。生暖かい吐息が首にかかる。それが何故だか扇情的でとても甘美なものに思えた。
そして、私は闇に堕ちた
MANA3*110524