尋常トリッキー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―――――パリン
畳の上だというのに不幸にも割れる茶碗の音が頭の中でけたたましく木霊する。同時に私の体は私の意志とは反して、青々とした藺草の上に倒れ伏せた。
視界が霞む。
体を思う通りに動かせない。
思考が上手く働かない。
意識が朦朧とする。
体温が上昇する。
呼吸が苦しい。
苦しい。
苦しい。
何が起きたのか理解出来ずにいると上から降ってくる楽し気な笑い声。揺らぐ瞳に写ったのは見慣れた鮮やかな紫。
「…っ…は…んべ…ぇ…さ……っ。」
未だに視界がぼやけるものの拙く発せられた名前の人物は至極、愉悦の表情を浮かべているのははっきりとわかった。
「やっと、効いたみたいだね。」
「……っはぁ…っぁ……。」
私を見下げていた人物はゆっくりと膝を曲げてしゃがんだ。先程よりも、鮮明に写る紫色に私は少なからず、恐怖心を抱いていた。
「名前。君が欲しいんだ。だから、僕のものになって。」
至って、平然と言われる台詞。でも、違う。これは正常の沙汰ではない。
「………狂っ…て…る……。」
絞り出した一言は余りに弱々しく嗄れつつも明晰な否定を表明するものの、それを物ともせずに私を陥れたその人は、より笑みを深めるばかりであった。
「君は何と比較してそう思うんだい?存在する人間、その大多数の言うことが普通だと思っているのかい?僕からすればその考えこそ理解仕兼ねるね。君が自分は普通だと思うように、僕も自分は普通なのだと思っているんだよ。」
言葉が鎖のように私を戒める。そっと撫でられた頬が激しく焼けるように熱い。常識、善悪、感情、五感、どちらが上か下なのか、どちらが右か左なのか、私の全ては泥々に焦爛していく。
不意に頬を撫でていた指先が離れる。
「ほら、どうして欲しいのか言ってごらん?」
僅かな理性に縋るが、その理性すら溶けていく。逃れたい。そう願っても、この狂気から逃げ切れる術が見付からない。逃れる気もしない。もしかして、受け入れてしまえば楽なのだろうか。一層、狂ってしまえば。そう思った瞬間、掴んでいた手がずるりと滑り落ちる。
「 」
欲していた言葉にあの人は若気た。
尋常トリッキー
(それはただ他人と違うだけ。)
MANA3*091006