着地不可能
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僕は気付いた。
僕が生きるこの世界は本当の世界ではないことに。そして、その世界で生きる僕も本当ではなかったことに。所詮、全ては正しさの中での虚構にしか過ぎなかった。
何もかもが音を立てて崩れていくのを感じた。見ること、聞くこと、触れること、考えること、過去も現在も未来も、息を吸うことさえ無意味。憤り、悲しんだりはしなかった。何故なら、そんな感情も意義のないものなのだから。
僕はただ、虚しさに絶望した。
「ねぇ、名前。一緒に死んでくれないか」
以前の僕からは考えられない発言。突然の心中願いを告げたにも関わらず、名前は驚いたりはしなかった。理由も聞かずに笑って答えてくれた。
「いいですよ」
愛する君と一緒に死ねるだなんてなんて虚飾であれ、僕は確かな幸せに満たされていた。その幸せもこの熱を持たない命と共に消えてなくなる。それでも僕は君とならば恐れなどなかった。
僕は名前の手をとって
堕ちた。
これでようやく、僕は虚しさから解放される。そう思った。
その時、名前の表情に影が落ちている事に気付く。
奇妙な感覚に襲われる。脳裏に過る映像。僕はこの光景を見たことがある。
「…名前?」
「恐くはないんです。痛くもないんです。ただ…―」
少し悲しいだけです。
あぁ、そうか。僕はなんて愚かなのだろうか。
本当の生が無いのに本当の死があるはずがないじゃないか。
僕はこの愚行をひたすら繰り返していたのだ。記憶は蓄積されない。しかし、名前は覚えている。名前は僕とは違う存在だから。幾度となく悲痛を味わっているのだ。
「名前、すまない。本当に…すまない…」
一体、何度目なのであろう空虚な言葉が名前に届いたのかは僕にはわからなかった。
きっと、僕はまた君の苦しみも忘れて繰り返すのだろう。
着地不可能
(存在しない。終焉の術さえも。)
MANA3*090710