右手に夢を、左手に愛を
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「人に手と腕が二つあるのは、多分、複数のものを掴む為ではなく、一つのものをしっかりと掴んで離さない為だと私は思うんです。」
いつだったか、何の脈絡もなく名前はそう言った。それだけでは彼女の真意は汲み取れなかった。
「だから、あなたはあなたの夢を叶えて下さい。」
その純真な笑みで口に出された言葉は彼女の思いとは裏腹に僕の心を抉った。他に対して顧慮された考えは僕にとっては無情でしかなかった。
嗚呼、時として無垢とは何て残酷なものだろうか。そして、それは罪咎と同然である。きっと、彼女はそのことにも気付きはしないのだろう。僕のこの想いと一緒に。
君は知らないんだ。知らなさ過ぎるんだ。
君が思っているほど人は純粋ではない。
君が思っているほど人は優しくはない。
君が思っているほど人は強かではないし聡明でもない。
人間というのは僕も含めて醜悪な生き物なんだよ。
「君は本当に酷い人だね。僕がどれだけ君のことを大切にしてきたのか。君は知っていたはずだろう。」
返事は返って来ない。そのまま僕は続けた。
「ほら、名前。こうすれば、君も夢も両方を手に入れることが出来る。」
下には無口な彼女が寝そべる。動かない体をゆっくりと抱き起こし、顔にかかる髪をそっと払う。赤みを帯びていた頬は見る見るうちに冷たく青褪めていく。それでも彼女の可憐さは失われることはなかった。
「僕はね、醜くて貪欲なんだよ。夢は叶える。けれど、その為に君を手放すなんて元より考えてなどいない。」
やはり、名前は口を閉ざしたままである。二度とあの時のように笑ってもくれない。それでも僕は構わなかった。彼女が永遠に僕の側に居てくれるのなら。
僕はこの両腕に愛しい彼女をしっかりと抱きしめた。
右手に夢を、左手に愛を
(その腕の中には何もないことにも気付かずに。)
MANA3*100727