親切には違いないのです
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目が覚めてから体がふらふらする。全身が熱い。頭も何だかふわふわする。体が鉛の様に重く、怠い。この様子だとどうやら私は風邪を引いてしまったらしい。何て事だ。しかし、そんな状態なのに、そんな状態だからなのか正常に頭が働かない様で私はいつも通りに制服に着替え、学校へ登校しようとしていた。今日はあれだ、何だ、確か大切な約束をしていた気がする。誰とだ。もう誰でも良いや。学校へ行こう。だが、この学生の鑑とも称されても可笑しくはない健気な姿は傍から見て何とも心許ないのだろう。学校へ行く所か家から出られるかも怪しくなって来た。覚束ない足取りで玄関へと向かう。そこで私の視界と意識はぶつりと遮断された。
次に意識を取り戻した時、私の体は玄関の固い冷たさではなく、柔らかい感触に包まれていた。ここは何処だろうか。確か私は学校に行こうとして、玄関に行って、それで、そこからの記憶が曖昧だ。もしかして、私は倒れて気を失ってしまったのであろうか。それとも今まで見ていたものは夢だったのかもしれない。夢か現か定まらない朧気な意識。だが、この苦痛でしかない全身を纏う熱りが現実だと訴えかける。そこへ冷たい何かが頭を撫でる感覚。閉じていた瞼をゆっくりと開けるとそこは私の部屋であり、私はベッドの中で寝ていた。
「目が覚めた様だね。おはよう、名前さん。」
「……竹中、君…。」
ベッドの横で私の頭を撫でていたのはどうしてこんな所に居るのか、同じクラスで学級委員をしている竹中君だった。何故、と疑問だけが浮かび上がってくるが、生憎、この状態では考える事も言葉にする事もままならない。今は一体、何時だろうかと時計を見るがぼやけてはっきりしない視界では遠くの時計の針がどの数字を指しているのかわからない。
「今は一時を過ぎた頃だよ。君が居なくて先生に尋ねた所、連絡も何もないとの事だったから心配になってね。居ても立ってもいられずに学校を抜け出して来たよ。途中で買い物に行く君のお母さんに逢って、鍵を貰って、無礼を承知で部屋に入らせてもらった。すまない。」
おいおい、母さんよ。勘弁してくれよ母さん。こちとら思春期真っ盛りの女の子なんだよ。それにしても、よくお母さんが鍵を渡したなあ、と思っていたら「お母さんにはいくつか嘘を吐いてしまったけどね。」と困った笑顔をみせた。おいおい、母さんやい!勘弁してくれよ母さん!何、騙されてんだよ母さん!いや、結果的に助かっちゃた訳だけども!所詮それは結果論なのよ!一体どんな嘘を。聞きたい事、言いたい事が山程あるのだが熱に蝕まれ枯れた喉では辛く、上手く言葉を紡げない。
「家に入ったら玄関で倒れていたのを見付けた時は心臓が止まるかと思ったよ。君の事だろうから、その状態で学校へ行こうとしたんだろう。頼むからあまり無茶はしないでくれ。君の身に何かあったら僕は。」
まるで自分の事の様に私の手を両手で握り締め辛そうな表情で眼を伏せる竹中君。察するに無謀にも学校へ行こうとして玄関で倒れていた所を竹中君がベッドまで運んでくれたのか。どうやら随分と心配と迷惑と労力をかけてしまった様だ。心の底から申し訳ないです。すみません。だけど、何で竹中君はこんなに私を心配してくれるのだろうか。その厚意は非常に嬉しいのだが学級委員の役割にしてはこう言っちゃなんだが度が過ぎている気がする。所詮、私達はクラスメイトでしかないのだから。しかし、それ以上に竹中君の気持ちは素直に嬉しい。人とは誰しも弱っている時にこうも優しくされればそう思ってしまうのではないか。少なくとも私はそうだ。
「でも、思ったよりは大丈夫そうで安心したよ。」
片手は私の手を握ったままで、もう片方の手で熱によって赤いであろう頬をさらりと撫でる。熱った肌に竹中君の冷たい手が凄く気持ち良い。冷えピタなんかより断然気持ちが良い。
「薬は飲んでいないのかい?」
頬や額、頭をそっと優しく撫でながら尋ねる竹中君。喋るのは辛く、こちらの方が意思の疎通が早いとこくりと首を縦に振る。
「その前に何か食べないといけないね。何か食べれるかい?お粥で良ければ僕が作るけど。」
竹中君の親切を無下に出来るはずもなくお粥くらいならと再度私はこくりと頷く。しおらしい私に竹中君は微笑む。天使が居る。竹中君、私には見えるよ。君の背中に生えた真っ白な翼が。
「いい子だ。」
すると竹中君は私の額に口付けるとかそんな気障ったらしい事をさらりとやってのけるもんだから沸騰する勢いで益々体温が上昇した。想定外の行動に吃驚し過ぎて逆に声も出ない。名残惜しげに離れていく手に寂しさを覚えた私は気付けば竹中君の服の裾を掴んでいた。何をやってるんだ私。ほら、案の定、竹中君も驚いているではないか。ああ、そうだ言わないと。これだけは言わなければ。
「…ありが、と…。」
伝えたい事を伝えれば、竹中君はふっと笑って私の頭をもう一度撫でてから部屋が出ていく。これから私の為にお粥を作ってくれるのだろう。何て献身的な事だろうか。高がクラスメイトでしかない私に。体調が回復したら何かお礼をしなければ。竹中君が部屋から出ていった途端、謎の緊張感が解けてどっと疲れが押し寄せて来た。そのせいか先程までぐっすりと寝ていたはずなのにうとうと睡魔が訪れる。やばい。このままでは寝てしまう。しばし、眠気と葛藤していた私が諦めた様に瞼を閉ざす。
ふと、私は思い出す。その一瞬、眠気も熱も何処かへと吹き飛んだ。
あれ、お母さんって確か、昨日から旅行に行ってたはずなのに。
親切には違いないのです
(例え屈折した想いだったとしても。)
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半兵衛サンストーカーストーリー。家で盗撮のカメラから主人公を監視していたら主人公が倒れたもんだから慌てたか、何この美味しい展開!と主人公の家に行きました。鍵は勿論、合い鍵なんて常識。でも、予想外の展開に上手い口実など考えていなかったので嘘がばれてしまう。
MANA3*120415