空想サドンデス
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「とぅ、とぅきです先輩!つつ、つ付き合って、下さい!!!!」
放課後、誰も居ない静まり返った廊下では私の声はやけに大きく響き渡りそれが既に爆発寸前な鼓動を更に速める結果となってしまった。今まで秘めてきた気持ちが抑えられず玉砕覚悟で遂に思いを寄せていた竹中先輩に告白した。言った!言ってしまった!!言ってしまったぞ私!!そして噛んでしまったぞ私!!馬鹿か私!もう後戻りは出来ない!色々と後戻りが出来ない!ああ、恥ずかしい、物凄く恥ずかしい!!!!緊張のあまり一世一代の大事な告白は事もあろうに噛みまくりの吃りまくりのものとなろうとは!昨日、頑張ってイメージトレーニングやらどんな風に言おうかとか練習に練習を重ねたのに!その結果がこれだよ!やってしまった!やらかしてしまった!何だこれ!何だよとぅきですって!最早何語だよ!もうどうせなら舌噛んで死んでしまえば良かったのに!もうお終いだ!笑え!こんなピエロな私を笑うが良いさ!どうとでもなってしまえ!!さようなら、先輩…さようなら、私の初恋…!!
「嬉しいよ、名前君。僕も君の事が好きだよ。」
「…………へ?」
「僕で良かったら喜んで。」
暫くぽかんとした私だったがその意味を咀嚼すると感極まるあまり目頭が熱くなった。
「え!ほんと、本当ですか!?」
ま、まさか!!!!奇跡だ!奇跡としか言いようがない!逆転サヨナラホームランではないか!信じられない!夢、夢じゃないのか!何故か素直に信じられずあたふたとする私に竹中先輩がふわりと柔らかく微笑む。
「嘘だと思うのかい?」
「だって、その私、噛みましたよ!」
「うん。可愛かったよ。」
「かわっ!!!!」
「信じられないなら僕が信じさせてあげようか?」
竹中先輩の細く長い綺麗な指が私の顎をくいっと上へ持ち上げる。そして徐々に縮まっていく距離に私は落ち着いてなどはいられなかった。
「ちょっ!!!!ちょっと、ちょっと待って下さい先輩!それはまだ早いって言うか私の心の準備が出来ていないと言いますか何と言いますか!」
「くす、冗談だよ。」
「なっ!!!!」
「安心したまえ。さっき言った事は冗談ではなく本気だから。」
「まだ僕の事を信じられない?」と何処か楽し気に笑う先輩。この状況で信じられませんと言えるはずもなく、私は黙ってぶんぶんと首を横に振るのだった。先輩にはいつもいつも翻弄されてばかりである。全くもって、私はこの人に弱い。
「これから行きたい所があるんだけれど良かったら一緒に行かないかい?」
「え、これから一緒にですか?」
「そうさ。僕達はもう恋人同士なんだし。」
恋人同士。ああ、そうか。私は念願叶って晴れて先輩の彼女になれたのか。何だか今一、実感と言うものが湧かない。こう言うものなのなんだろうか。私には誰かに話せる程の恋愛経験なんてものはない。だからと言って引け目を感じたりはしなかったが。しかし、これは憧れの放課後制服デートやらではないのだろうか!?お茶したり、買い物したり、あれやこれやと目を燦然と輝かせながら想像を膨らます。大好きな憧れの竹中先輩からの憧れのデートの誘いを見す見す断る訳もなく。
「行きます!私で良ければ!」
「僕が誘うのは君だからだよ、名前君。」
エコーがかかり何度も繰り返され脳内再生される先輩の言葉。君だから。君だから。君だから!ああ、夢ではないのだろうか!夢なら覚めないでくれ!!!!そんな有頂天な私の手に指を絡ませる竹中先輩の手の感触と温もりがこれが現実である事を実感させてくれた。さっきとは違う意味で死ねる!勿論、死にたくはないが、もう死んでも良いと言ってしまえる程に今の私は浮足立っていたのだ。
果たしてこれはどう言う事なのであろうか。数十分前の時とは別の意味で私は酷く動揺していた。竹中先輩の手に引かれ連れて来られた場所。目の前には嫌でも目に付き異彩を放ち華やかに建ち並ぶ大人の城、所謂ブティックホテルが。ここがどう言った場所であるのか知らない程、私は純粋でもないし況してや馬鹿でもない。建物の異様な存在感と自分が思い描いていたものとはあまりにも異なる現実に平常心を保てない私とは裏腹に横目でちらりと覗いてみた竹中先輩の様子は至って極普通に眼前のいかがわしい建物を見据えていて、その上何だか普段と比べてもご機嫌麗しそうな表情をしているもんだから、それがより一層私の不安を仰ぐ。聞きたくないが、聞かねばなるまい。思い過ごしであってくれと願いながら私言い知れぬ恐怖に震える唇をゆっくりと開いた。
「あ、あの…竹中先輩…。」
「ああ、苗字はこう言った場所は初めてかい?安心したまえ。僕も訪れるのは君とが初めてだ。」
この人は一体全体私に何を安心しろと言うのだろうか。頭の中の警報機がけたたましく唸り声を上げるばかりですよ。今の言葉によって私は完全に萎縮してしまいましたよ。いや、これは先輩なりの渾身のギャグなのかもしれない。次に「何てね、冗談だよ。吃驚したかい?」と言ってくれるに違いない、そうに決まっている!と思っていたら先輩が徐に私の手を取る。
「さあ、行こうか苗字。」
「ノオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
先輩の手を勢いよく振り払った後に思う。しまったと。それは拒絶を示す行為。嫌われてしまうかもしれない恐怖と焦燥に私は直ぐにそんなつもりではなかったと弁明を唱えようとする。
「先輩、ごめんなさい。私―――」
「そうか。もしかして君は僕の家が良かったりするかな?それとも君の家、まさか学校が良かったのかい?君は何て大胆なんだ。流石は苗字。僕が惚れた女の子なだけはあるね。」
「違います、止めて下さい。何て大胆な勘違いをしてくれちゃってるんですか。それに流石って何ですか流石って。先輩の中での私の人物像どうなってるんですか。一体今までどんな目で私を見て来たのですか。」
「教えてあげようか?」
「いえ、答えなくて結構です。」
「安心したまえ。どんな君であろうとも僕は苗字を愛する自信があるから。」
「ありがとうございます。告白しておいてすみませんが私に考える猶予を下さい。」
この人は本当に私の好きになった先輩なのだろうか。いつの間にか私の呼び方が苗字から下の名前を呼び捨てされているし。同じ姿をしているが実は生き別れた双子か変装が得意な他国のスパイか世界を侵略せんとする宇宙人か或はドッペルゲンガーか、将又狸かもしれない。どれもこれもドラマティックでファンタスティックな匂いがするが生憎だがこちとら、そんなものを求めちゃいない。あえてその中から選ぶとするならば、私は狸を選ぼう。狸可愛いじゃないですか。でも、飽くまであえてなので狸も嫌だ。狸は山へと帰るんだ。人間の所へは来てはならない。ここは危険だ。そうか!これは夢なんだ!そうだそうに違いない!そもそも先輩が私の告白なんぞOKしてくれるはずがないんだ。夢の中でなら私の願望が叶ったとしてもそれは頷けよう。あれ、と言う事は私は多少なりとも先輩といかがわしい事をしたいと思っていたのだろうか!?!?思っていたのか!?!?いやいや、そんなはずは!そんなはずは決してぇ、決してえ!!!!!!
「何を躊躇っているんだい?」
「躊躇いますよ!普通に戸惑いますし、普通は躊躇いますよ!逆に聞きますが何で躊躇わないんですか!?」
「君を愛すと言う事に僕は何の躊躇いもないよ。」
この状況において、今の台詞に胸がキュンとした私は果たして可笑しいのであろうか。しかし、誰だって好きな人からそんな風に言われたら嬉しい決まっている。その幸せに満ち溢れているはずの状況を竹中先輩の背後に聳え立つ大人の城が皮肉な事にも現実へと引き戻す。やはり、どう足掻こうとも現実は変えられない。そう、これが現実だ!
「そ、そういうのには順序と言うものがあるじゃないですか!そもそも私達が入って良いような場所じゃないですよ!」
「苗字。一体君が何に対して不安がっているんだい?僕にはわからないよ。」
「いや、あなたのせいだよ!!!!あなた以外に何があるって言うんですか!何でそんなに泰然自若としていられるんですか!?何でそんな恐れるものは何もと言わんばかりに威風堂々としていられるんですか!?!?」
「苗字―」
名前を呼ばれながらがしりと先輩に両肩を捕まれ、驚いて体を強張らせる。私を見詰める先輩の真摯な表情と瞳。こんなに至近距離で先輩の顔を見た事がない。いや、それ以前にあまりにも整ったその目鼻立ちを直視する事態、今の私には慣れておらずとても困難である。改めて先輩が眉目秀麗であるのを思い知ると同時に私は何だか生きているのが恥ずかしくなった。今更ながらこんな同じ人間とは思えない程に魅惑のルックスである先輩と交際する以前に告白するなどと何て大それた愚行を犯してしまったのだろうか。若気の至りだ。若いとは恥ずかしいものだ。逃げ出したい。羞恥のあまり脇目も振らずこの場からエスケープしたい。しかし、それを先輩の手が、瞳が許そうとはしなかった。どきどきと喧騒な心臓を掌握され逃げる事も出来ない。
「僕がこの日をどんなに待ち続けて来たかわかるかい?君と想いを重ね、無遠慮にありのままで愛せるこの日を。今まで共に過ごせる時間に陶酔すると並行して君の前ではただの先輩で居なければならなかったもどかしさと苛立ちを知らないだろう。やっと手に入れたんだ。索漠はもう十分だ。今はただ苗字、君を愛したい。」
「竹中、先輩…。」
肩を掴んでいた片手が私の頬に触れる。そして、竹中先輩は優しく柔らかに微笑む。そう、私の好きな笑顔。私の好きな―――――
「ああ!夢にまで見た、苗字が僕の手によって快楽に耽溺する表情を見られると思うとぞくぞくするよ!きっと想像よりもそれは遥かに厭らしく扇情的な光景なんだろう!考えただけでもこの胸が高ぶって来たよ!さあ!苗字!!早く僕の前で愛くるしい君がベッドの中ではどんな風に乱れるのかを見せてくれ!!」
「せいやああああああああああ!!!!!!!!」
相手の腕を掴み勢い良く背負い投げをして乱雑に積み上げられた塵袋の山へ好きだった人を沈めた私は現実から走って逃げ出した。
空想サドンデス
(愛してるよ苗字!)
(寄るなこの変態!)
MANA3*120301