ビビディ・バビディ・ブー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
君は魔法の存在を信じるかい?貧しく哀れな少女を一瞬にして誰もが息を呑む程の美しい姿に変身させたり、或いは悪を滅ぼし世界を平和にする為に旅をする中で敵を攻撃し又は味方を治癒する時に使われる力。小説や映画などのフィクション、主にファンタジーでは必要不可欠となる常套のあの魔法さ。人によっては魔術や妖術、奇術と呼び方も認識も異なり変わって来る。無論、僕はそんなものは信じてなどいない。つい最近まではね。おや、意外かい?僕がそんな非科学的なものを信じているだなんて。そうだね、僕自身も驚いたさ。しかし、考えてみたまえ。君は何を基準としてそれが魔法だと定義する?君が魔法を信じないと言うならばそれまでだけど先程も述べた通り個々によって認識は幾多にも既存し、その数だけ反映されているのだよ。僕達が生きる日常の中でもそれは存在する。例えば見ず知らずの人間に病気だと告げられて君はそれを愚直に鵜呑みにするかい?普通はしないだろうね。だが、それが白衣を身に纏った医者だとすればどうだろうか。何も疑いはせず君はその言葉を信じてしまうのではないかな?錯覚や幻覚、先入観による思い違いなど、それはある種の魔法と呼べるのではないかい?それから単純に一つの事に没頭し真髄をしゃぶり尽くした人間の人並み外れた秀でる才能や技術から生み出される作品は普通の人間から見れば魔法と比喩せざるを得ないではないだろうか。つまり、僕が何を言いたいのかと言うと人間、誰もが魔法を使えると言う事なのだよ。僕の言う事を信じられないかい?なら、今ここで僕が魔法の存在を証明してみせよう。僕は今から君に魔法をかける。その後、きっと君は僕を愛せずにはいられなくなっているだろう。つまり、どう言う事かと言うと僕は既に君の魔法にかかっているんだ。君が好きで好きで堪らないんだよ。好きだよ、名前。愛している。君を僕だけのものにしたい。だから、僕を好きになってくれないか。
朱い夕陽が差し込む放課後の教室。二人っきりの何処か感傷的に浸れる空間。たった今、恐らく私は告白された。同じクラスの竹中君に。顔良し頭良しの竹中君から告白された私は周りの女子から羨まれる事間違いなしだろう。告白と言うものは胸をどきどきさせるものであると私は思っている。確かに今の私は今までにないってくらいにどきどきしていた。しかし、それは思春期特有の高揚感ではなく甚だしく掛け離れたものである。
何故なら、何故だか知らないが、先程から竹中君の右手にはカッターナイフが握られているからだ。ご丁寧にもカッターからは数センチ程刃が出ていていつでも何かを切り付けられる状態だ。夕陽のせいで、カッターに血液が付着してる様に見えたが勿論、そんなものは付いていない。今は、まだ。一体何を切るのかは考えたくはない。美術の時間でもないのにどうして竹中君はそんなものを、況してや告白の瞬間に携えているのだろうか。凄く気になる。気になるのだが、「どうして竹中君はカッターを持っているの?」なんて聞く度胸を私は持ち合わせちゃいない。何よりもその理由を早計に聞いてはいけない気がする。聞いてしまっては何かもう後戻りが出来ない気がするのだ。本能的に。うん。怖いよ竹中君。今、凄く怖いよ私。今すぐにでも泣きそう。そんなカッター片手に目の前に立たれちゃあ、誰だって怖いよ。笑ったって無駄だよ、怖いものは怖いんだからさ。その笑顔が輪を掛けて恐ろしいよ。これまでに味わった事のない未曾有の恐怖だよ。気になるが本人に聞けない上にあまりにも怖いから自分なりに竹中君がカッターを装備する理由をあれこれ模索してみる。もしかしてうっかりと接着剤でくっついて離れないのかも。いや、それは違う。竹中君は素手の右手を徐にポケットに入れて後にカッターを出して来たのだから。そうだ、カッターを持ってると落ち着くとか。怖ッ!!!!何それ怖い!!駄目だ!!余計に怖い!!!!逆に怖い!!!!べらぼうに怖いわ!!!!刃物持って落ち着くとか料理人か殺人鬼くらいだよ!!!!ぱっと思い付くのがそのニ種類の人間位だよ!目の前にいる人は私からすればどちらかと言うと後者だよ!!!!お終いだよ!詰んだよ確実に!!!!あ、そうだ!今日の占いのラッキーアイテムがカッターなんだ!!!!そうだ、間違いない!!!!でもね、竹中君!刃は出さなくて良いんだよ!危ないよ!!!!色々と危ないよ!!!!カッターの刃を出す事によって自ら幸運を切り裂いてるよ!事に因っては私の竹中君に対する印象もそうなってしまうよ!
竹中君は私の返事を待っているのか何も言わず微笑むだけの非常に好ましくない膠着状態が続く。何か、考えて、ちゃんと言葉を選んで発言しなければ。もし選択を誤ってしまったなら、私の身の安全の保証はされない。しかし、正しい選択をしたとして、果たしてそこに私の意思はあるのだろうか。そしてそれは本当に幸せなのだろうか。生きる為の正しい選択と言えど、所詮はその場凌ぎのもの。兎に角、私も竹中君も時間が必要だと思う。特に竹中君には告白時にカッターが不必要な事を考えて頂く時間が。落ち着け、落ち着くんだ竹中君。ここぞとばかりに冷静になりたまえ。これも気休めと言われればそれまでなのだが、私は最善の返事を閃く。
「す、少し…考えさせてほしいんだけど。返事はまた後日って事で、い、良いかな?」
「駄目だ。返事は今すぐ聞かしてもらおう。」
おう、随分と容易く道を閉ざしてくれちゃったね竹中君。全身の毛穴と言う毛穴から流れる冷汗が尋常じゃないよ。既に窮地に立たされてる人間を更に追い詰めてくれるとは。そんな、あなた、駄目押しチェックメイトをされちゃあ、為す術がないよ私。もうお手上げだよ、お手上げ。返事なら直ぐに答えられたさ。君が右手に刃を剥き出しにしたカッターを手にしてなければね。何?刺すの?切るの?殺すのか?私を。そんな脅迫紛いのやり方で、この世の中、何でも罷り通るとでも思っているのか!?だから、お願いします。無言でカッターをカチカチさせないで下さい。笑いながらカッターの刃をカチカチ出し入れしないで下さい、お願いします。もう本当に駄目。そんな事したら。駄目、絶対!確か告白をする前は魔法についてファンタスティックな会話をしていたはずなのに。魔法と言う割には幻想的ではなく至って合理的ではないか。最早、魔法ではなく心理戦である。例え、魔法だったとしても脅迫の名の下の魔法だよ。そして、一方的な支配だ。しかし、これを魔法と呼ぶ人がこの世界には居るのだろう。確実に一人は居るけどね。目の前に。魔法が使えるならカッターとか要らないと思う私は魔法は存在しないと思う。存在すれば良いと思うけど私の中での魔法と言うものはやはりフィクションの中でしか存在出来ないものだ。それを眼前でカッターを持ちながら魔法は存在すると豪語する人間が皮肉にも証明してくれた。
「心配は要らないよ、名前。僕が君を必ず幸せにするよ。だから君の心と命を僕に捧げてくれないか。」
十二時の鐘の音で魔法が解けるのではなく、カチカチと軽快さとは裏腹に不気味な音によって、私は魔法にかかってしまった。
ビビディ・バビディ・ブー
(魔法とは必ず幸せにしてくれるものではない。)
MANA3*111218