響く赤い音
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振り返りはしない。
後ろには絶望しかないから。
立ち止まる事も出来ない。
先が見えなくても、君と一緒ならば
僕は前へ進み続ける。
狭く、薄暗い路地裏に入り込み、壁に凭れて息を切らしながら崩れ落ちる。空気が悪い。肺が汚染される事を気にしていられず、僕は大きく呼吸した。今まで、こんなに必死になって走った事があっただろうか。咳が出る口を手で押さえる。草臥れた体が手加減なしで軋んだ。
「…だ…だいじょう…ぶ…?…」
咳が止まり、頭上から聞こえた声に上目遣う。目が合った瞬間、名前は肩をびくつかせた。あぁ、怖がらせるつもりはなかったのに。今の僕はそんなに恐ろしい顔をしているのか。こんな事になって怖がらせるつもりはない、なんて虚言もいいところか。
「……そう言う君は大丈夫なのかい?」
「わ、私は…なんとも……」
「…そう…」
良かった。この呟きが果たして名前には聞こえたのか。
考える事が多過ぎる。しかし、疲労が思考を鈍くする。それでも何とか頭を回転させた。雑音が酷く耳障りだ。煩い。消えてしまえば良い。そうだ、何もかも消えてしまえば良いんだ。僕と名前以外のもの全て。そうすれば、考えなくても済む。第一、こんな事にはならなかった。
名前は未だに不安そうに僕を見下ろしていた。徐に脱力していた手を伸ばす。
「……名前……君は…」
今、幸せかい?
不意に名前に触れようとして伸ばした手が赤く汚れている事に気付いた。瞬間、手を伸ばす動きを止める。
汚れきっている。身も心も。僕が触れれば、名前まで汚れてしまう。
逃げるなら今だよ、口から出かけた台詞は臆してしまったせいで音となり発する事はなかった。矛盾している。哀れなほどに。
宙に浮いたままだった手に温かい感触が伝わる。
僕の赤い手に名前が手を添え、頬を寄せて微笑んでいた。
「私は、今凄く幸せ」
僕は何も言わず、名前を引き寄せてきつく抱き締めた。もう、どうでもいい。君さえ居ればそれで。今この瞬間、世界には僕と名前だけ。そんな錯覚を起こした。
その時、疎ましくも、幸せを噛み締める僕の耳に唸る騒音が入ってきた。自然と腕に込める力が強まる。幾つもの騒音がドップラー現象を生み出し遠ざかっていった。
響く赤い音
(それは外からも内からも鳴り響く。)
MANA3*090629