埋葬ジャスティス
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「では、今から軍談を始める」
「はい、半兵衛さん」
「何だい、名前」
「何で私はここに居るんでしょうか」
「その理由は君がこれから生きていく上で見付けていけば良い」
「いや、違いますよ。そんな重い意味で言ったんじゃないんです。戦いとは無縁の私が何故、軍談に参加しなければいけないんでしょうか」
「君の鈍い頭から絞り出された常軌から逸脱した奇想天外な考えがもしかしたら今後の作戦に使えるものかもしれないからね。まぁ、正直に言うと期待はしていない」
「部屋に戻って良いですか」
「あぁ、構わないよ。命が惜しくなければね」
と言う訳で私は初めて軍談の場に居座る事になりました。強制的に。広い部屋の全体が見渡せる上座の位置に秀吉さんが鎮座する。その隣に半兵衛さん、更にその隣に私が並ぶ。武将の人達は左右に一列ずつ並んで座っている。
「先日、桶狭間での戦にて、今川義元は影武者を使う策を展開してきた」
半兵衛さんに言われて私は記憶に新しい今川軍との戦の時の事を思い出していた。
私を生と死の狭間に立たせる事を楽しんでいる半兵衛さんは嫌がる私をよく戦場に連れていく。その日も例外なく雨が降り頻る中、桶狭間へと私は連行されました。
そこには似た様な姿の人が彼方此方に居て、豊臣軍の人達も混乱していた。その様子を見て半兵衛さんが何か考えていた様だった。考えながら敵を斬っていました。
「あの時僕は考えようによっては使える、だが、やはりどう考えても無理だ、そう思った」
そりゃあ、そうでしょうね。確かに、あの時は私も異様な光景に頭が痛くはなりましたが、最終的に本物の今川さんを知らない私でもどれが本物の今川さんか判断出来ましたからね。
「しかし、僕は次の戦で敢えてこの作戦を起用しようと思う」
ええぇえ!?!?!?な、何故敢えて!!何故、敢えたんですか!!!!あの時、どう考えても無理だと思い立ったあなたは何処に行ったのですか!?
ふと、私の中である疑問が浮上する。気になった私は即座にその疑問を投げ掛ける。
「あの、因みに誰の身代わりをするつもりなんですか?」
「決まっているだろう。影武者には秀吉に成り済ましてもらう」
正気か!?無謀だ!無謀にも程がある!何を血迷ってしまわれたのか!常軌を逸脱しているのはあなただ!肺を患っている事を知っているが、それとは別に違う何かが半兵衛さんの頭を蝕んでいると言うのか!
非常に残念な事に戦国時代にはブラック・ジャックは居ない。戦国時代のブラック・ジャックと呼べる存在も居ない。半兵衛さんはもう助からない。
半兵衛さんの発言に室内には微妙な空気が漂う。皆、私と一緒の気持ちなのだろう。しかし、異議を申し立てる人は居ない。皆、命が惜しいからだ。
「ひ、秀吉さんはどう思いますか?」
私は唯一、半兵衛さんの暴走を止められる人物に微かな希望を託す。今までの経緯を腕を組みながら静かに聞いていた秀吉さんの口がゆっくりと開く。
「半兵衛」
「何だい、秀吉」
「存分にやれ」
「ああ、勿論だよ」
果たして、次の戦で豊臣軍は一体何人生き残れる事が出来るのでしょうか。今回ばかりは天才軍師の奇策に頼らず、気合いで立ち向かうしかない。俯く武将の方々の不安が拭えない表情を見ていると心底気の毒に思う。
「さて、僕からは以上だ。今の事以外で何か報告はないかな」
半兵衛さんは影武者作戦に有無を言わせない様に釘を刺した。
「あの、半兵衛様…」
声を上げたと思わしき武将の一人が此方の様子を窺う様に見ていた。それに半兵衛さんは返事をする事なく、顔だけをそちらへ向ける。
「近頃、手首と足首を縛って吊り上げて背中に石を載せ縄を捻って回転させり、水車に体を縛り付けて回転させる等と言った訓練は一体どう言う意味があるのでしょうか」
もう、それ訓練じゃないですよ!ただの拷問じゃないですか!拷問と言う名の拷問ですよ!何て事をさせてるんだこの人は!殺す気か!?自分の性癖で人を殺す気か!?
その歪んだ性癖を訓練と称して取り入れる理由について一体、どうお答えになられるのか。半兵衛さんの表情は平然としていた。
「あれは精神面を鍛える為の重要な訓練の一つだ。ただ、体だけを鍛えただけでは何の意味もない。真理とは苦痛を乗り越えたその先にあるのだよ」
嘘を吐け、この鬼軍師が。そんなので納得出来る筈ないじゃないですか。
「な、成る程…」
納 得 し ち ゃ っ た よ 。
いや、納得せざるを得ないと言うべきでしょうか。
不意に巧みな話術と静かなる威圧で武将の方を黙らせた半兵衛さんと目が合う。途端、無表情だった顔が眼を細めて、口角を釣り上げる妖しいものへと変わる。
「心配しなくても良い。いつか、君にもやってあげるつもりだから」
要らないですよ!何も心配してなかったのに今の発言で心配させられましたよ!大いに心配しますよ!今、「所詮、彼等のは試験的なものにしか過ぎないからね」って呟きが横から聞こえたんですけど!に、逃げて!未来の私、逃げて!さもなくば、嬲り殺された挙げ句、死んでも尚凌辱されるから!
「他に何かあるかな」
「あ、ちょっと良いですか」
控え目に手を上げたのは私だ。軍談に持ち出す事ではないかもしれないがこの場を借りて近頃、私の周りに起こる怪奇現象について話す。
「最近、起きたら部屋で寝ていたはずなのに布団ごと廊下に放り出されている事があるんですよ」
「そうか。君の寝相が最悪なのは良く解ったよ」
「違いますよ!寝相じゃないですよ!それに布団ごと縄で縛られる事があるんですけど、寝相でそんな事有り得ないでしょう!?どんだけ器用なんですか私!」
「その器用さが他の事で役に立てば良いものの」
「だから、違うって言ってるじゃないですか!何でそんな哀れむ様な眼で私を見るんですか!」
「それよりも君の聞くに耐えない破廉恥な寝言をどうにかした方が良いと思うよ」
「え!?わわわわた私、何を言ってたんですか!?!?」
「ふふふ、言っても良いのかい?この場で言っても困るのは名前、君だと思うけど?」
「うっ、それは…。ん?て言うか、何で私の寝言の事知ってるんですか?」
「本日の軍談はこれで終わりだ。各自、速やかに作業に戻りたまえ」
「お 前 だ な」
薄々、勘付いていたが、やはりこの人だったか!何て嫌がらせをしてくれるんだ!日に日に部屋から遠ざかって日に日に城の入り口に近付いてましたからね!どういうつもりだ!
「何か証拠でもあるのかい?」
「いや、あなた、さっき自分で口を滑らせてたじゃないですか!」
「それだけで僕を犯人呼ばわりだなんて。とんだ迷推理だね」
なんて往生際が悪い人なんだ!どうすれば、この人に罪の意識を感じさせる事が出来るんですか!誰かこの人を裁く事が出来る人は居ませんか。いや、きっと居ないだろう。恐らく、神さえもこの人を裁く事は無理であろう。
「あ!そうだ、聞いて下さいよ秀吉さん!今日、この人、命の限りの暴行で私を起こしに来たんですよ!」
「君が寝坊しているから態々、僕が起こしてあげたんじゃないか。有り難く思いたまえ」
「そうですね。半兵衛さんが布団叩きを持って怒りを込めてで起こさず、普通に起こして頂ければとても有り難かったです」
「何だい?布団叩きじゃなくて関節剣で起こせば良かったかな?」
「ほら、秀吉さん、この人こんな事言うんですよ。死ねって言ってるんですよ」
「……半兵衛」
「ああ、解ったよ。次からは関節剣で起こすとしよう」
違う。解ってない。私が殺される。
半兵衛さんの常に抜刀している言葉の関節剣に今日も私の心はズタズタです。何故、私が裁かれている感じになっているのか解りません。それとも、間違っているのは私なのか。いや、違う。私は間違ってない。巧みな話術と怒濤の暴力によって相手に不当なのは自分だと錯覚させるのがあの人の十八番なのだ。
やはり、悪魔に裁きを与える事自体、断然、無茶な話なのか。非常に残念ながら戦国時代にはエクソシストは居ない。半兵衛さんは助からない。つまり、私も助からない。
あの軍談から数日後。
いよいよ、影武者作戦、基、難易度が恐ろしく低いなんちゃってウォーリーを探せ豊臣軍バージョンが実行される日がやって来ました。
そして、予想外の事が起きました。予想外の事が起きてます。
「どう言う事か説明して下さい」
「何の事かな?」
「惚けないで下さい!今、あなたの眼に私はどう写ってますか!?」
「うん。何だかいつもより勇ましく見えるよ」
「でしょうね!何故か私まで秀吉さんの格好をさせられてるんですから!」
半兵衛さんを除く、豊臣軍全員と私は秀吉さんの格好をしている。私はまたしても哀れな被害者となったのだ。て言うか、何で、この人だけいつも通りなんだ。
「私が秀吉さんになれる訳ないじゃないですか!」
「君が秀吉の様な素晴らしい人間になれないのは解っているさ」
「そう言う意味じゃないですよ!それ以前に私も作戦の内に入ってただなんて聞いてませんよ!」
「それはそうさ。言ってないんだからね」
「じゃあ―」
「でも、作戦の内に入れないとも言ってない」
鬼軍師の言う屁理屈に体がわなわなと震え出す。そんな私の肩に大きな手がのし掛かった。振り向くと私を見下ろす秀吉さんが居た。
「良く似合ってるぞ、名前」
「秀吉さん…」
正直、そんな事言われても嬉しくありません。
「どうだい、秀吉。この光景を眼にした敵は必ずや混乱するに違いないよ」
「うむ。これはどれが本物か判らぬな」
あなたですよ。本物はあなたですよ。そこは自信を持って下さい。それにこの作戦が成功するとは到底、思えない。何故ならそれは、ウォーリーとなる人物が群れの中から飛び抜けてるからだ。
こんくらいの秀吉さんとこーんくらいの秀吉さんが大勢とこーんなに大きい秀吉さんが居ると言うトトロみたいな事になっていますが、そんなファンタジーなものではありません。ひたすらに異様で物々しい光景だ。
その時、前方から敵がぞろぞろとやって来た。
「ぬぉ!なんと面妖な!」
「豊臣秀吉が大勢いるぞ!」
「くそっ!!どれが本物だ!」
えぇ!?!?ちょっとおおお!!!!皆さん、本気ですか!?!?あれですよ!あれ!あの一番大きいあれですよ!乱視!?乱視なんですか!?皆さん、視力が悪いんですか!?敵だと解っていても答えを教えてあげたくなりますよ!
まさかのなんちゃってウォーリーを探せ作戦に混乱している敵に混乱していたら、敵の視線が私に集中している事に気付く。
「おい、あの小さい奴。怪しくないか」
「ああ。確か豊臣秀吉は筋骨隆々の大男と聞いていたが、それとは真逆のあいつは逆に怪しいな」
「そうだな、逆に怪しい」
「ああ、何か逆に怪しいぞ!」
なんか逆に怪しまれているんですけど!
「あいつだ!!あの逆に怪しい奴が豊臣秀吉だ!!」
「逆に怪しい豊臣秀吉、覚悟!!」
「どぉええええええ!?!?!?!?!?ちょ、ちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょ!!!!!!!!!!違います、違いますよ!!!!あの人!あの人あの人!!もうこの際、言っちゃいますけどあの人が本物ですよ!!!!」
「追い詰められてその態度。逆に益々、怪しいな!」
もう何を言っても無駄なんですか!?!?
逆に怪しまれてしまった私は命を懸けた逆鬼ごっこを強いたげられています。背後から迫る殺気を放つ大勢の人々から一人逃げ回っています。
何故、こうなったかと考えると頭にはやはりあの鬼軍師の姿が浮かび上がる。
「ははは。人気者だね、名前」
「何、笑ってんだよおお!!!!元はと言えば半兵衛さんが―」
「ほら、もっと必死になって逃げないと追い付かれちゃうよ」
「だあああああああ゛!!!!!!何で助けてくれないですかあああ!!!!!!」
「豊臣軍全兵に告ぐ。突撃せよ!この機に乗じて一気に攻め落とす!名前の尊い犠牲を無駄にするな!」
「お、おま!勝手に私を殉職させるな!尊い犠牲を出す前に助けろよ!!」
事実とは奇妙なもので、なんちゃってウォーリーを探せ作戦は成功し、豊臣軍は勝利した。私も決して無事ではないですが生き延びました。そんな命辛々の私は半兵衛さんから「次もよろしく」なんて恐ろしい労りのお言葉を耳にしたのは幻聴だと信じたい。
埋葬ジャスティス
(正しさが何処にも見当たらない。)
MANA3*090624