それを神は嘆くか嗤うのか
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その光景を異様なものだと考えるのは、私は至って普通の人間であって、狂信的な偶像崇拝などしてないし、その行為に対して理解する柔軟な頭脳を全く持ち合わせていないからだ。
嫌でも耳に入ってくる変な歌のせいか頭痛がしてきた。目眩もする。はっきり言って―
「帰りたい」
「何か言ったかい?」
「いえ、何も」
ここは肥前にあるザビー城と言う所、らしい。城の名前にもなっているザビーって人が自分が開いた宗教を布教させようとしているみたいだ。秀吉さんが言うには海外から来た侵略軍とのこと。そのザビーについて色々探ろうと半兵衛さんは自分の足で直々に偵察に来た。嫌がる私を引き連れて。帰りたい。帰って寝たい。一日中、眠っていたい。
「偵察なのに入信してどうするんですか。もしかして既に洗脳された訳じゃないですよね」
「入信した振りをした方が動き易いし、情報も楽に入手出来るだろう?」
「あー、なるほど」
「名前は頭が悪いね」
「帰りたい」
「何か言ったかい?」
「いえ、何も」
「オーウ!あなたタチが、入信希望の人デスネー。ザビー教へヨウコソ!ワタシがザビーね!薔薇色パラダイスネー!」
決して流暢ではない日本語で私達を歓迎してくれた人物。どうやらこの人が噂の教祖様の様だ。秀吉さんも相当凄いが、この人もなかなかの巨漢だった。その体と砕けた日本語のギャップに私は唖然とした。
「早速、アナタたちにーザビーからステキな洗礼名を授けマショーウ」
「アナタ!」叫びながら半兵衛さんを指差す。
「アナタは今日から、『ヤッターマン竹中』デース!」
ヤッターマン竹中。
私は隣に立つ半兵衛さんを見る。意味がわからない天才軍師様は怪訝そうな顔もしなければ、喜ぶ顔もせず、眉一つ微動だにさせなかった。流石、知らぬ顔の半兵衛と言われるだけの事はあるのか。その腹の内で一体、今何を考えているのだろう。
ヤッターマン竹中…。
「……ぶふぅっ!」
「何を笑っているんだい」
思わず吹き出し笑いをした事が気に食わなかったのか、ヤッターマン竹中さんは私の足の指先を踵で圧迫し、そのまま踏みにじる実に陰湿な嫌がらせをして来た。
「痛ッ!痛い地味に痛い!」
「ヤッターマン!憎んじゃダメ!愛するの!」
教祖様の制止によって半兵衛さんは私の足を解放した。ってかヤッターマンってもう違う人になってる。半兵衛さんじゃなくなって、ヤッターマンになってる。解放されても未だ私の足の指先はじんじんと痛む。この人はたった一人の友を敬愛する以外の愛なんて知らない。
「ツギはアナタ!」
私か。何か変にドキドキしまう。まぁ、至って普通の名前だろう。
「アナタにはー『チャレンジャー名前』の名を捧げマショーウ!」
あれ。思ってたより普通じゃなかったぞ。何だチャレンジャーって。何に挑ませようとしているんだ。あなたは私の何を知ってその名前を付けてくれたんですか。その名前に私と言う人間の面影がどこにも見当たらない。この名前は私には相応しくない。何か他に無かったんですか、ノーマル名前とか。
「ホントは、『ワイルド名前』も捨てガタイところデース」
他にもあったけど、やっぱり私と言う人間の面影がない!誰の名前ですか!?本当に私の名前なんですか!?ワイルドって!何が!?外面的にか!?それとも内面的になのか!?いや、私はワイルドな人間では決してない!もう、うん、良いっすよ、チャレンジャーで。チャレンジャー名前で。心の中とは言え、我が儘を言ってすみませんでした。
「捨てる必要などないだろう。二つの名前を一つにまとめれば良いじゃないか」
おおおおおおおおおい!!!!余計な事を!沈黙の半兵衛と呼ばれているくせに余計な事を!この口出しの半兵衛め!!
「オー!ワイルドチャレンジャー名前!ステキ!」
どおおおおおおおお!!!!素敵じゃない!勇ましい、何か勇まし過ぎる!一体何のアクション映画のタイトルだ!いつ公開する!?名前に負けてますよ!私、名前負けしてますよ!
「半兵衛さん!横文字なんだから意味もわからないのに、余計な事言わないで下さい!」
「野生的な挑戦者と言う意味だろう?そして命を落とす」
「何故、知ってる!?いや、違いますよ!あってるけど違う!何で最後に死を後付けさせたんですか!」
「良かったじゃないか。豪華な名前で」
「煩いですよ!ヤッターマン竹中さん!!」
「何だって?」
半兵衛さんも決して洗礼名を気に入ってはいないらしく、私が洗礼名で呼んだら再び踵で足の指先を踏んで来た。怒りを込めて。
「痛い!何するんです、かっ!!」
「おっと」
反撃しようとしたが、あっさりと避けられてしまい、体勢を崩した所に半兵衛さんのまさかの膝蹴りが腹部にめり込み、無情にも床に倒れる私に止めと言わんばかりに足で踏みにじって来た。
ここまでされる理由が見付からない。ただ、ワイルドチャレンジャー名前の名が泣いているのだけはわかった。
「ヤッターマン!ノー!ソレ愛じゃないデース!ドメスティックバイオレンス!」
「愛は感じる事は出来ても見える事は出来ない、とても不確かなものだ。故に言葉にして伝える事は非常に難しい。だから、僕はこうして全身で愛を伝える方法を使っている。これも一つの愛なんだよ」
「オォ!!ナールホドー!ソレも愛!」
あー、駄目だ。この人に口で勝てる訳がない。もう嫌だ。
今だけ…今だけで良いから、ワイルドチャレンジャー名前の名に恥じぬ様な人間になりたい、心身共に。
「ミナサーン!愛ニ導かれ、愛ニ目覚め、ザビー教ニ入信したフタリを祝福しマショウ!」
「「「イエス、ザビー!」」」
実に宗教的な祝福を私と半兵衛さんは受ける。因みに私は半兵衛さんに踏まれ床に倒れたままだ。帰りたい。
「「「イエス、ザビー!」」」
「Yes,秀吉!」
「おおぉい!言っちゃ駄目でしょう!どさくさに紛れて言っちゃ駄目でしょう!ってか何、その素晴らしい発音!どういう事ですか!?」
「教養の違いじゃないかな」
「遠回しに馬鹿にされた!ってか、そろそろ踏むの止めてくれませんか!」
半兵衛さんと背中に重傷を負った私は城内を歩いていた。やっとこれから情報を探ると言う本来の目的を実行する。だが、私は帰りたい。もしかしたら背骨が折れてるかもしれない。良くても背骨にひびが入ってるかもしれない。見た目より、私の負った傷は深刻なものだ。
「やれやれ。予想外に時間を浪費してしまったよ」
「そう言う割りに、ちょっと楽しんでたじゃないですか、秀吉さんの名前を叫んで」
「そんな事はないよ、ワイルドチャレンジャー名前」
「その名前で呼ばないで下さい!」
「そこの二人。待つのだ」
半兵衛さんと私を呼び止めたのは全体的に緑の人だった。ここに居るって事はこの人も信者なのだろうか。もしかして、私達が偵察に来たのがバレてしまったのか…!?
緑の人は足早に接近して来た。しかも何故か私の方へ。それに恐怖を抱いた私は一歩後ろに身を引く。
「そなた、名をワイルドチャレンジャー名前と申したな」
「申してません。いや、そうかも知れないですけど。てか、もう私の名前そっちなんですね」
「我の名はサンデー毛利」
サンデー毛利。えぇー何か凄く御洒落な名前だなぁ、私の野蛮な名前と違って。
そう思っていると、突然、サンデー毛利さんは私の両手を握るものだから吃驚した。
「ワイルドチャレンジャー名前」
「え!?あ、はい!」
「これから我と愛について語り合わぬか?」
「え!?あ、えぇ!?!?」
サンデー毛利さんが真面目な顔で訳のわからない事を言うものだから、心臓がドキリとした。でも、自分の顔が赤いのが何となくわかる。
どうすれば良いのか、目の前の綺麗な顔を直視出来なくなり、赤くなった顔を隠す様に俯いた瞬間、横から出てきた手刀により握られていた手は離れ、手刀を放った人物は私の肩を掴んで体を抱き寄せた。
「残念だけど元就君。いや、サンデー毛利君。この子は僕のものだ」
正直、困っていたので助けて下さったのは有難いです。でも私はあなたのものではないです。例えあなたのものでも踏んだり蹴ったりしてはいけない。
「ヤッターマン竹中。ザビー様の愛を理解した事は誉めてやろう。だが、嫉妬とは醜きものよ」
「君は何か誤解をしている。僕は嫉んでなどいない。君こそ、人のものに手を出そうだなんて随分と不粋な真似をするのだね」
「我は愛に忠実であり、故に愛する。それだけの事よ」
「愛する?君の行為は混乱を招く、野蛮なものとしか思えないけど?」
頭の良い人達の棘のある会話が飛び交う中、会話に全く着いていけない私はどうすれば良いのかわからなかった。この隙に帰れば良いのだが、未だ、半兵衛さんの手がガッチリと肩を掴んでいる為に動けない。
「ならば問おう。ヤッターマン竹中。愛とは何だ?」
二人の愛を御題とした激しい論争は半兵衛さんの沈黙によって途切れる。
愛とは何か?はっきり言って、この質問に定まった模範的な答えなど存在しない。それに竹中半兵衛と言う人間にこの質問が答えられる筈がない。この人にとって愛、そしてこの質問自体が無意味だ。私が知る竹中半兵衛とはそう言う人間だ。
半兵衛さんの顔を恐る恐る窺うと顎に手を添えた半兵衛さんと目があった。
そして、何を思ったのか、半兵衛さんはニヤリと笑みを浮かべた。
「僕にとって愛とは名前の事だ」
再び、流れる沈黙が重い。そして痛い。この場から私の存在だけ消してほしい。
「ふっ、天才ともあろう者が。それが答えか。愚かなり」
「愛とは愚かなものなのだよ、サンデー毛利君」
「それは、私が愚かだと言いたいんですか、ヤッターマン竹中さん」
「我が愛の名の下に、貴様を滅ぼしてくれようぞ!ヤッターマン竹中!」
「ふぅ…結局はこうなるのか。良いだろう。君をこの城ごと始末してあげよう」
ちょっと!ちょっと!ちょっと!私、平和主義者なんで、そう言う展開はちょっと!最初の会話を無駄にするつもりですか!もう少しだけ話し合ってみましょうよ!?穏便に済ませましょうよ!
「案ずるな、ワイルドチャレンジャー名前。この愚か者を葬った後に我と愛を語り合おうぞ」
「いや、人が葬られた後にそれはちょっと…」
「安心したまえ、ワイルドチャレンジャー名前。これが終わったら僕が愛を語ってあげるよ」
「あなたが愛を語ると言う事は暴力に結び付くので拒否します」
この後、ヤッターマン竹中さんは関節剣を抜刀し、サンデー毛利さんは殺傷力の高そうなフラフープを取り出し、激しい戦いが始まった。もうこうなっては私に止める事など出来ない。二人の戦いに決着は着かなかったが城は破壊され、ザビー教は壊滅した。
愛が愛を絶やす悲しい現実を私はこの目で見た。
それを神は嘆くか嗤うのか
(愛は平和を生む。愛は破滅を生む。)
MANA3*080725