虚構のような現実
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戦場へ歩もうとするあなたの手を後ろから掴んだ。
私は戦慄したのだ。自分の顔が見えなくても、表情が強張っているのがわかった。言いたい事があるのに、上手く言葉を紡げなかった。
そんな私を見てあなたは宥める様に優しく微笑みながら冷たい手を私の頬に滑らせた。
「大丈夫だから」
そう言ってあなたは私の手からするりと抜け出し、見たくもない背中を私に向けた。
掴んでいた手はそのまま固まって、あなたを求めて宙に浮いていた。
あなたを殺すのは、人でもなく、病でもなく、あなたが理想と掲げる夢そのものなのに。
それでも夢に向かって進むあなたの手を離してしまった事を後悔するかなんて、この時の私にはわからなかった。考えてなかった。
遠ざかっていくあなたの姿を見て、ただただ悲しかった。
その日を境に、あなたは忽然と消息を絶った。来る日も来る日も帰って来なかった。
死を囁く周りの人の声が私の耳に入ってきた。
私はあなたを想いながら帰りを待ち続けた。
ずっと。ずっと。ずっと。
だから降り頻る雨の中、ふらりと姿を現したあなたを見付けた時、一目散に駆け寄って抱き着いた。一番に「お帰りなさい」と言った。
強い雨音に消え入りそうな草臥れた声であなたが「ただいま」と言ったのを私は聞いた。
雨に紛れて今まで我慢していた涙を流す私が異変に気付いたのは、それから暫くしてだった。
「竹中半兵衛は死んだよ」
私は唖然とした。だってそうだろう。目の前に居る人物が自分は死んだと言うのだから。
全くこの人らしからぬ冗談に間を置いてから私は吹き出した。
「何言ってるんですか?」
「君だって気付いてる筈だ」
真剣な顔付きで憂いを感じさせる瞳が私から笑顔を消し、言葉を詰まらせる。私は何を言おうとしたのだろう。そう考えてる内に先に向こうが口を開く。
「最近の君は僕を名前で呼ぼうとはしない」
指摘されて今までを振り返ってみればそうかもしれないと思ってしまう。まさか、無意識の内に?いや、だからどうだって言うんだ。
「それは、半兵衛さんの気のせいじゃないですか?」
今、名前を呼んだのは態とらしかったかもしれない。でも別に可笑しくはないし、それに本当にこの人の気のせいかもしれない。
「じゃあ、どうして僕を避ける」
私は完全に沈黙した。言われた事が図星であり、無意識ではなく、意識していた行動だったからだ。理由を聞かれ答えられない。どう答えて良いのかわからない。急に芽生えた焦燥感に対処出来なかった。
「僕は君の知る竹中半兵衛であり、君の知る竹中半兵衛ではない。だが、決して似て非なる者とは言えない」
止めて。
「今の僕は君と立場が似ている。ただ違うのは、君はこの世界では異分子な存在だけれど、僕はこの時間で異分子な存在なんだ」
止めて。
「君が帰りを待っていた竹中半兵衛はもう居ない」
止めてっ。
「死んだんだ」
「止めてっ!!」
思わず私は感情的な声をだした。有り得ないと言いたいが、私がここに在る事が話された事実の可能性を否定させない。
自分で自分の首をじわじわと絞めている感覚だ。しかし所詮は錯覚。だけど、逸その事絞め殺してくれたならどんなに楽なのだろうか。
「すまない」
それは何に対しての謝罪なのか。今まで黙ってた事か、それとも取り敢えず謝っただけなのか。
「死んだ僕は君が好きだったよ」
「……何で、そんな事…わかるんですか……」
小さな呟き声は相手に届いた様で、寂しそうに微笑んだ。
「僕が君の事を好きだから」
心は満たされる事なく、虚しさだけが浸透していくのは、やはり自分は気付いていたからで。そんな自分を嘲笑った。
「…私だって、…好きなのに……」
崩れ落ちそうな私をあなたはあの時みたいに宥めてはくれなかった。
虚構のような現実
(話さなくても良かったかもしれない。けれど、君があまりにも辛そうだったから。)
(崩れ落ちそうな君を抱き締めたかった。)
(君が好きなのは僕じゃないから。)
MANA3*080707