保障された危険領域
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今日の放課後に数学の補習があった。前回のテストで、開いた口が塞がらない程の点数を採った私は勿論参加した訳で。しかも、先生の都合で予定より補習が始まる時間が遅れてしまった。つまり、終わる時間も遅くなる。
時刻は既に八時を過ぎていた。八時と言えば、色んなバラエティー番組がやってる時間だ。急いで帰ろうとした私なのですが、昇降口のドアにセクハラ教師が寄り掛かって立っていました。
一時停止した足と思考回路を再起動させ、下駄箱に脱いだ上履きを入れ、取り出した靴を履いた。極力、音を立てずに。セクハラ教師は外を見ていて私の存在に気付いていない様だ。
良し、このまま駆け足で鬼門を抜けようではないか。
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あ、こっち向いた。
「やぁ、補習は終わった様だね」
「はい、竹中先生さよーなら!」
永遠に、と願いながら、私はこの場を見つかってしまったが駆け足で強行突破しようとする。
ダンッ
「はい、ストップ」
先生は片手をドアに付き、私の進路を塞いだ。先生の腕が目と鼻の先にある。止まっていなければ今頃、顔面ラリアットを喰らっていた所だ。
「ちょっと何なんですか。私、帰りたいんですけど」
「うん。もう時間も遅いからね。送ってってあげようかと思って」
「大丈夫です。一人で帰れますから」
「最近この辺りには変質者が出るらしいよ」
「変質者なら結構前から私の近くにも居ますけどね」
竹中半兵衛と言う変質者がな、と私は心で毒づいた。この人以上の変質者は居ない。この人は変質者のカリスマだ。カリスマ変質者だ。
「そう遠慮しないで」
「じゃあ一緒に補習受けてた元親もお願いします」
「残念だけど、車の定員オーバーだ」
「すいません、私、閉所恐怖症なんで二人乗りの車なんてとてもじゃないけど乗れません。だから元親を送ってやって下さい」
「嘘はいけないね。それに彼なら大丈夫だよ。と言うか、先に帰った様だけど」
私は疑いの眼差しを先生に向ける。「嘘じゃないさ。彼の靴箱を見てみなよ」と言う先生をどこまでも信じられない私は元親の靴箱を開けに行った。中を見ると上履きも無く空っぽ。
元親は偶にバイクで通学する。勿論それは校則違反なので、その時は学校から少し離れた所にバイクを停める。停めた場所が正門から行くより裏門から行った方が早いので、帰りは上履きを鞄に突っ込んで奴は裏門へ向かう。先生の言う通り、元親は先に帰ったみたいだ。思わず舌打ちをしてしまう展開だ。
「隙あり」
「あっ、ちょっと!」
いつの間に背後に居たのか、先生は私の鞄を取り上げて脇目も振らず歩き出した。あの人は変質者な上にひったくり犯でもあったのか。
「ほら、早く行くよ」
鞄を取られた私はとっても不本意ではあるけど、先生の後ろを重い足取りで着いて行く。
学校の駐車場に着くと、先生は一台の車に向かってキーボタンを押す。なかなかお洒落な車だと思う。ただ一つ、私は疑問を抱く。
「先生の車、四人乗りじゃないですか」
「うん。そうだよ」
「さっき元親もって言ったら定員オーバーって言ったじゃないですか」
「さ、早く乗って」
何でこの人は平気で嘘を吐くんだろう。てか何でこの人が教師なんだろう。てか何でこの人は警察に捕まらないんだろう。いつか通報してあげようと思う。この人の為じゃない。世の為、私の為だ。
後部座席の方に座ろうと私は車のドアノブに手をかける。
ガシャン
ドアがロックされた。先生の方を見ると自分は直接、鍵を差し込み、運転席のドアを開け車に乗り込む。そして、助手席のドアを内から開けた。
「はい、どうぞ」
開け放たれた助手席のドアを力の限り閉め、車のボディをボコボコに蹴って、全ての窓ガラスをかち割ってやろうかと思ったが、このお洒落な車に罪はないので、渋々助手席に乗る。
「シートベルトしてね」
言われるまでもなく、安全の為にシートベルトはしたかったが、直ぐ隣に居るのはカリスマ変質者セクハラ竹中先生だ。もしもの為にシートベルトはしなかった。
エンジンが掛けられ、先生と私を乗せた車は、学校を後にする。車のデジタル時計を見ると、時間はもうすぐ八時半になる所だった。
車内にゆったりと流れるラジオの音楽。車は問題無くスイスイと私の家へ向かっている。
だが、それが問題なのだ。
「先生」
「なんだい、名前君」
「私、先生に家の場所教えてませんけど」
「うん」
「…………」
「…………」
「いや、「うん」じゃないですよ。何でこんなスムーズに私の家に迎えるんですか」
「僕が君の家の場所を知ってるからだよ」
「そうですか。じゃあ何で担任でもないあなたが私の家の場所を知ってるんですか?」
「名前君には好きな芸能人とか歌手とかは居るのかな?」
「……まぁ、居ますけど…」
「その人について、詳細が知りたかったらパソコンや携帯で調べたりするだろう?」
「…そう、ですね」
「うん。それと同じだよ」
「そうですか、成る程。一緒にしないで下さい」
その考えだと皆、ストーカーだ。目に写る全ての人がストーカーだ。好きならばなんでもして良いと思っているのか。愛だとほざけばなんでも許されると思っているのか。そんなロマンチック思考は捨てて頂きたい。後、教員免許も棄てて頂きたい。
車が建築途中の場所を過った。数ヶ月前から作業は行われているのだが、ここに何が出来るかは未だに知らない。私は窓越しに過ぎ行く建築現場を見詰めた。
「聞いた話だと、あそこにはショッピングセンターが出来るらしいよ」
「へー、そうなんですか」
建築現場を見詰めていた私に先生がそう教えてくれた。
アミューズメントみたいなものを希望していたのだが、近所にショッピングセンターが出来るのは悪くはない。
「後、暫く真っ直ぐに進むと、ホテルが建ち並んでいるよ」
「へー、そうなんですか。あ、そこを左に曲がって二つ目の信号を右に曲がって下さい。交番がありますんで」
慌てず騒がず、セクハラ教師のセクハラ発言に冷静に対処する私に対し、先生は若干スピードを上げて交番への道をスルーした。タイミング良くパトカーが通って捕まれば良いと思う。その時に私の最後の優しさで今までされてきた事を洗いざらい警察の人に言ってあげるのに。しかし、住宅街付近の為かパトカー所か他の車すらあまり走っていない。
もうすぐ私の家に着く。完璧に先生は私の家の場所を把握している事を理解した私は悲しい気分になると同時にようやく解放される事に喜んだ。
突然の事だった。
一方通行である道から車が飛び出てきたのは。
耳に痛い程に響くブレーキ音と共に車は急停車する。シートベルトをし忘れた私の体は勢い良く前へ傾く。
「だから言っただろう。シートベルトしてねって」
危うく頭を打ち付ける所であったが、先生の左腕が庇う様に体を支えてくれたお陰で私は助かった。
「大丈夫かい?」
「は…はい」
だけど、心臓は騒がしいままで、頭の中も真っ白になっていた。
飛び出して来た車は逃げる様に去って行くのが見えたが、今の私は怒る事も考えられなかった。
「あ、ありがとうございました…」
「いいえ。次からはシートベルトを締める事だね。わかったかい?」
「…はい」
「まぁ、何が遭っても僕は君を守るつもりだけどね」
再び車を走らせる先生の発言に不覚にもときめいてしまった私。先生は顔は良いのでそんな事言われたら誰だってときめいてしまう。しまうに決まっているじゃないか。
恥ずかしくなった私は、照れてるのを隠す様に少し汗ばんだ首筋を軽く掻いた。
「それはそうと、さっき見えたんだけど名前君はスカートの下にハーフパンツを履いてるんだね。個人的にはスカートの意味がなくなるから履いて欲しくはないんだけど。残念だ」
ほら、これですよ。台無し。台無しですよ、全部。
残念なのは先生の頭だ。スカートの意味ってなんだ。あなたにとってスカートって何なんだ。って言うか、どさくさに紛れてどこ見てんだ。信じられない。
助手席に座り、シートベルトをしっかりと締めた私は、隣の運転席で笑うセクハラ教師に軽蔑の眼差しを注いだ。
保障された危険領域
(おい、名前。お前昨日一人で帰ったのか?送ってってやったのによ)
(元親先に帰ったじゃん)
(帰ってねぇよ。お前の下駄箱見たら上履き入ってたし)
(え、でも竹中先生が帰ったって…)
(だから、お前より先には帰ってねぇから。てか俺の靴、なんか盗られててよ。上履きで帰ったし)
(うわっ格好悪ッ!)
(るっせぇ!)
(えっ…てか何で?どうゆう事?)
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