躊躇いのない親指
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「没収」
放課後、背後に立つ教師の僕の存在に気付かず、一人教室に残って居た生徒から弄っていた携帯を取り上げる。
「うぁ、あ!ごめんなさい、ごめんなさい!許して下さい!」
「学校に携帯を持って来るのは校則違反だ。わかっているよね?」
「はい!わかってました!本当にごめんなさい!つ次、次からは気を付けます!だから、今回は、今回だけは見逃して下さい!」
「駄目だよ」
そんなに携帯が大事なのか、彼女は必死に返して欲しいと懇願する。
校則違反だとわかっていても持って来る。それほどまでに最近の子は、携帯に依存している。だからこそ、教師でありながら、僕が密かに好意を寄せる生徒の名前から、こうやって携帯を没収出来る機会に遭遇した訳だが。
他の生徒なら、大事な携帯を取り上げようものならば、自分のした事は棚に上げて、逆に腹を立てる所だろうけど、名前は違う。
彼女は素直で聞き分けの良い子だ。突然携帯を没収した時の狼狽え様は面白かったけど。今は諦めた様で大人しくなり、小さな呻き声を出している。
「明日の放課後、職員室に来るんだよ」
「は~い…」
人気の無い放課後の校内。足音が大きく響く廊下を二人で歩く。僕の問いに、名前は、気の抜けた返事をする。
「なんだい?彼氏と連絡が取れないのがそんなに辛いかい?」
「あれ!?何で知ってるんですか?!」
僕は答えずに、無言で笑ってみせる。それを見て鎌にかけられた事に気付いた名前に「信じられないです!」と叫びながらバシバシと背中を叩かれる僕は「ごめん、ごめん」と笑いながら平謝りし続ける。
「彼氏とは上手く行ってるのかい?」
教師が聞く様な事ではない。だけど僕は敢えて聞く。きっと彼女なら答えてくれると思ったから。
「ん~そうですね。普通ですね」
「何だい普通って」
「って言うか性格とか顔とか全部、普通なんです。先生の方が格好良いですよ!」
じゃあ何で付き合ってるんだ、と思う。でも、口に出したりなんかはしなかった。
「何なら、僕と付き合う?」
「ん~そうですね。私に彼氏が居なかったら付き合ってたかも知れないですね」
冗談だと思っているのだろう。でも僕は本気だ。本気で名前を愛しているのだから。
「じゃあ、こうしよう。僕は君の次の恋人候補、って事で」
「あはは。あーじゃあ、はい、そうゆう事で」
飽く迄、教師の戯言、冗談だと思っている名前。
でも僕は
ちゃんと聞いたからね?
職員室の前に着く。昇降口に向かう名前とはここでお別れだ。
「それじゃあ先生さよーなら!」
「あぁ。明日、忘れるんじゃないよ」
「忘れる訳ないじゃないですか!」
名前は後ろを向き、手を降りながら去って行く。ほらほら、前を見ないと危ないよ。
角を曲がり、姿が見えなくなるまで名前を見送った僕は職員室に入る。
無人の室内。誰かがそのまま放置して行ったと思われるコピー機の音だけが聞こえる。気にせず僕は自分の席に座る。
「さてと…」
ポケットから携帯を取り出した。僕のではない。名前のだ。落としてあった電源を入れ、光るディスプレイに『ロックNo.?』の文字が出た。他人に、プライバシーその物と言っても過言ではない携帯を預けるのだ。用心するに越した事はない。
でも、残念。僕は知っている。
以前、ロックナンバーを自分の誕生日にしていると言う会話を聞いたから。そして、彼女を愛する僕が、彼女の誕生日を知ってるか、何て愚問だ。
表示された『ロックを解除しました』の文字を見て、口角を釣り上げる。僕は運が良い。会話を聞いたからとは言え、今も誕生日がロックナンバーとは限らなかったのだから。
振り分けられたメールボックスから、直ぐに目当ての人物を見付ける。その人物にメールを作成する。用件のみの短文を。
『他に好きな人が出来た。別れたい。』
職員室に誰も居なくて良かった。メール送信中、ディスプレイを見詰める僕の顔は、さぞかし楽しそうに笑っているのだろう。送信完了したのを確認して、たった今送ったメールを削除してから、携帯の電源を落とす。面白い程に事が運んだ。込み上げてくる笑いを僕は抑えきれなかった。
さぁ、見物ではないか。今の名前の恋人が、どれ程彼女を信じ、どれ程彼女を愛しているか。
躊躇いのない親指
(彼女は僕のものだ。)
MANA3*080422