世界も何もかも超越して
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「き、気持ちは嬉しいですけど…」
さっきから、はっきりしない態度に、苛立ちは募るばかりだった。
「あれですよ、あああれ!私何かとじゃ、半兵衛さんと釣り合わないんですよ!」
壁際まで追い込まれ、更に僕の両腕で完全に逃げ場を失った名前の言葉は吃りまくる。目も絶対に僕と合わそうとせず、右往左往と忙しそうに泳いでる。何をそんなに必死になっているのかわからない。本当に苛々する。
「僕が君が良いと言ってるんだ。何が不満なんだ」
「いやいや、不満なんてそんな事ないですよ、えぇ。ははは、もう何を仰いますやら」
口調が可笑しくなっている事に気付いているのだろうか。問答が繰り返す都度、彼女の流れ出る汗の量は増える一方だった。
「じゃあ別に良いんだろう?」
「いや!良くはない!あ、良くないって訳じゃなくて、良くないんです!」
何だ、この子は。何を喋ってるんだ。
暫く黙って様子を見ていると、出るのは「あの~」「その~」と先がない言葉ばかり。
遂には、大声を出して頭を掻き毟る。その行動に女性らしさなど微塵もない。追い詰められた人間はこうなってしまうのか。自分はこうならないように気を付けようと心で思った。
落ち着いたのか、名前は一息つくと「突然すいません」と謝って、その後は黙りだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「!?ちょっ、なっ何で顔を近付けて来るんですか?!」
「おや、聞くのかい?それを」
「いやいやいや、だって…」
「だって?」
「き、キス…」
「きす?」
「あ、あの、……くち、口付けるかと……」
「へぇー。厭らしいんだね、名前は」
「ち違っ、だって、半兵衛さんが―!」
「ま、間違ってはいないけどね」
「ぬええええ!?!?」
隙を見計らって再度、顔を近付けようとすると、危機を察知したのか、名前は下から押さえるように僕の顎を持ち上げた。
「っ名前」
「ひぃ!ごめんなさい!でも、あれです、あれなんです!私とその、キスすると、」
「すると?」
「ば、爆発します!」
「…………」
「…………」
「はっ」
「は、鼻で笑いますか!?」
鼻で笑いもするさ。爆発?君は自分が人間じゃないとでも?国の最終兵器だとでも言いたいのか?
焦らしに焦らされて、行動に出た僕を理解出来ない事を言ってまで、名前の拒む理由がわからない。
「…名前は僕の事が嫌いなのかい?」
「きき嫌いでは、嫌いではないです。…はい」
「じゃあ…」
どうして?
耳元で極力優しく囁く。名前から、呻き声のようなものが聞こえた。
「…………」
「…………」
「名前」
「……せ、世界が、違い…ますから…」
「はっ」
「また?!しかもさっきより早い!」
あまりにも下らない理由を聞いて、僕は再度鼻で笑ってやった。そして、名前を解放して、少し離れた場所で止まる。
「随時と焦らすと思えば…そんな事か」
「そんな事って!」
「僕が知りたいのはただ、一つ」
概念に縛り付けられ、自分を抑制する名前の目の前に手を差し出した。
「君がこの手を掴むか否か。それだけだ」
二者択一。それに名前は口をつぐむ。だが、答えが出るのに時間はかからなかった。
「私は…―」
世界も何もかも超越して
この手を掴む以外の答えなんて許さない。
‐‐‐
MANA3*080413