夢に没した幸せ
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幸せとは何かを犠牲に成り立っている。
夢を成し遂げる為にもまた犠牲は付き物だ。
何て惨い条理、歪な世界なのだろう。しかし、そんな事で心が悲嘆の叫びを上げて痛感する事はなかった。
何故なら、理解しているからだ。
それが至極当然であるのだと。
近々、豊臣は、天下取りの戦いに乗り出す。僕の計画通り事が進むなら、夢は確かに現実のものとなる。何も問題はない。何も。
「本当に、戦いに行くんですか?」
心配そうに尋ねる名前に僕は背を向ける。
「愚問だね。僕は戦う。全ては秀吉の為、僕の夢の為だ」
「でも、もしも」
「例外はない。僕が思い描く理想に欠落など有り得ない事だ」
有無を言わさず、僕は僕の事を気遣ってくれている名前に厳しく言い付ける。
「…そう、ですね…」
それでも、振り向いて見た名前の顔は笑ってはいたが、不安そうだった。それに僕は肩を透かした。
「君が心配する必要は何もない。いつもみたいにへらへらと笑っていれば良い」
「へ、へらへらって…そんな事」
「あるね。全く。君みたいな単純そうな奴は嫌だね」
「私は好きですけどね」
「…誰を?」
「え、半兵衛さんを」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…ごめんなさい」
「何故、謝る?」
「いや…何となくです」
この場に再び静寂が訪れる前に名前が「じゃあ、頑張って下さいね」とだけ言い残し去って行った。
拍子抜けた僕は去って行く小さな背中を黙って見ていた。
城の一室。秀吉と僕は戦に備え、作戦を確認していた。僕が練った策だ。当然、死角などはない。
「先に言った通りだ。これで異存はないだろう?」
「うむ」
「じゃあ僕は部屋に戻るよ」
「半兵衛」
腰を上げ、部屋を出ようとした所を秀吉が呼び止める。僕の体はピタリと止まり、そのままの状態で話を聞く。
「どうするつもりだ」
「何の事だい?」
親友の言いたい事が解らない訳ではなかったが、僕は態とらしく聞き返す。しかし、返って来たのは何となく予想してたそれで。
「名前だ」
嗚呼、やっぱりね。でも出来る事なら今その話はしたくはなかったのかもしれない。だから、僕は知らない素振りを見せたのだ。
「どうするも何も、彼女はこの城に残すよ」
「我の言いたい事が解らぬお前ではないだろう」
友の、心を見透かす発言。僕は息を漏らし笑った。彼には敵わない。改めて、秀吉と正面から向き合う。厭わしい行いをした事を心中で謝罪して。
「あぁ、解っている」
「名前はお前の弱さだ」
「………あぁ…」
認めよう。その事実を。
「しかし、お前がどうしようと我は何も言わぬ。咎めるなど愚かな事もせぬ」
「…………」
「この混乱した俗世にも失わずとも良いものはあるだからな」
あぁ、解ってる。
解ってるさ…。
明日、計画通りに豊臣は夢への一歩を踏み出す。戦いを前にして僕は彼女を外に呼び出した。
「明日、なんですね」
「あぁ」
「私、応援してますから」
やはり、不安そうな表情を隠し切れずに不器用に名前は笑う。それでも以前よりは曇ってた顔も少しは晴れていた気がした。
「僕は君に嘘を吐いた」
「…半兵衛さん?」
「名前、この前の返事をしよう」
僕は名前の目の前に凛刀を翳した。
「これが僕の答えだ」
目を見開いて驚く名前。僕は少しだけ目を伏せる。
「君の良いと思う方に捉えてくれて構わない」
失望しても良い
拒んでも良い
蔑めば良い
それでも、僕の気持ちは変わらないから。
唖然としていた、名前はゆっくりと手を広げた。
「夢、叶うと良いですね」
恐れなんて微塵もなく、名前は心から笑った。
「あぁ」
久々の名前の笑顔に僕は悲しくも力なく笑った。
夢に没した幸せ
(すまない、愛してるよ)
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MANA3*0413