残存エンプティー
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彼女は、名前は、変わった人間だった。今まで見て来た中には居なかった、類い稀なる種類の人間だった。そう考察するのはこの世界とは異なる世界から訪れたからではない。規格外の、正に絵空事の様な存在ではあるが、然りとて力がある訳でも知性に長けている訳でもない。彼女は実に非力な人間だった。この時代、乱世ではとてもじゃないが生きいく事は先ず不可能だろう。彼女とは思想も、生き方も、立つ場所も、進むべき道も隔たりがある。僕の夢、理想には名前は不要でしかなかったのは歴然たる事実だ。だが、別の世界、しかも今より遥か未来の世界から来た彼女の存在は稀少であり、利用出来る貴重なものだと睨んでいた。結果としてそれは見当違いも甚だしいものだったのだが。僕は長い間、名前を監視し続け、同じ時間を共有して来たが全ては時間の無駄でしかなく期待していた様な利益は何も生み出さなかった。長い時間を共に過ごし、知れば知る程、名前はやはり非力で加えて折り紙付きの馬鹿な人間でしかなかった。当時、僕が立ち眩む程の酷い頭痛を引き起こしたのは言うまでもない。彼女は愚直で呆れる程に慈悲深い性格だ。その点から見れば彼女の人格は稀有なるものだった。
「君のご立派なその清廉な優しさはいつか君自身を殺す事になるよ。」
どうしてそんな事を言ったのかわからない。単なる気紛れであったからか、度し難い程に浅はかで能天気な為体が癪に障ったからか。故にその純粋さに罰を下したかったのかもしれない。けれど、名前は、
「それでも構わない。」
と屈託のないふやけた笑いをしてみせた。結局の所、彼女は馬鹿だった。放っておいても何れ彼女に鉄槌が下るのは自明。そう、名前は誰かが守ってやらないと生きていけない位に脆弱で瑣末な人間。その彼女がこの世界を生き永らえる事が出来たのは他の誰でもない僕の幇助あっての事だった。気紛れと片付けるには流石に浅慮で軽率な行動である。どう考えても英明とは言えない判断。いつしか彼女を守る事が自分に課せられた義務とまで意識し出したのだから相当の重症だ。何故と問われれば正直、僕にもわからなかった。僕にも理解し得ない不測の事態であった。彼女の存在と同じ様に。しかし、その理解不能な行動は僕の本心なのだと思う。決して同情や哀れみなどではなく。これは理屈ではなかった。僕とは違う、相容れる事のない彼女に未曾有の興味を注がれた。同じ興味と言えどそれは出逢った時とはまた別の感覚であった。その心理、不透明な感情の名称を僕は知らない。未然として。不思議と煩わしいと感受せず、余す所なく享受した。あの名前のへらへらとした笑いからさえもどこか僕に多幸感を抱かせていたのだから。重症だ。本当に。何て不条理な事だろうか。どうしようもない。どうしようもなく彼女に執心する僕が居る。滑稽過ぎて笑えて来る。彼女なら、名前なら、僕の知らない事、僕の知りたい答えを知っているのだろうか。不意に近頃、彼女の姿を見掛けない事に気付く。程なくして無情な現実が頭を過ぎる。半ば開かれた唇から嗚呼、と情が篭らない水気を含まない嗄れた声を漏らし、呟いた。
「そうか…名前は、もう居ないのか…。」
残存エンプティー
(虚ろになった瞳に彼女の姿は映らない。)
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自分の気持ちに気付かないまま主人公が消えて若干廃人気味の半兵衛サン。主人公は死んだか元の世界に帰ったか。どっちか。
MANA3*111105